#444 これは尋問では?
天気が悪いと捗らない( ‘ᾥ’ )
「それでぇ? セレナ大佐との逢瀬はどうだったんだぁい?」
「どうもこうもないって。模擬戦でストレス解消に付き合った後、少し話をしただけだ」
「ほんとにぃ……?」
セレナ大佐との模擬戦を終えた俺はブラックロータスへと戻ってきたのだが、そこで運悪く食堂で酒盛りをしているショーコ先生とエルマに絡まれてしまった。シミュレーターと模擬戦で頭も身体も疲れているから少し休みたかったんだが、絡まれてしまったからには仕方がない。どうせ抵抗しても無駄なので。
「会話の内容まで気になるってんならかいつまんで話すけど、別に聞いて面白いような内容でもないぞ」
「それは聞いてから判断させてもらおうかなぁ」
「酔っ払ってんなぁ……」
俺の肩に手を回してニヤニヤしながらショーコ先生が酒臭い息を吹きかけてくる。そしてエルマはエルマで逆サイドから寄りかかってきた。ああ、左側の感触は幸せなのに右側ときたら……痛い痛い。太ももを抓るな。
「俺の素性というか秘密というか、出自? そういうのを聞かせろって駄々こねられてな。皆には話してることだけど。どうしても知りたい、拒否するなら子供のように泣き叫んで醜態を晒すことも辞さないと脅されたんだ」
「なりふり構わなさがすぎないかい?」
「そこまでやるのはドン引きだわ……」
ほら大佐、酔っぱらいが素面に戻るくらい引いてるぞ。
「大佐なら何を話しても言いふらすってことはないだろうし、別に良いかと思って話したんだけどな。そうしたら私のものになりませんかって直球でプロポーズされて」
ガタッ! と椅子を蹴倒す勢いで少し離れたテーブルでクギと話していたミミが立ち上がった。クギも俺にじっと視線を向けてきている。頭の上の狐耳もピクピクと動いてこちらに向いている気がする。
「いや断ったからな? 互いに今の生活を捨てられないわけだし。それに俺には皆がいるし。まぁ、俺だって大佐のことは嫌いじゃないし、尊敬はしてるけど」
プライベートではポンコツなところがあるのも可愛いと思う。でもなぁ。
「とにかくそういう感じで色っぽい展開とかは特になかったし、あったとしても乗る気はゼロだから安心してくれ」
「……まぁ、今更ヒロがセレナ大佐に靡くとは思ってないけど」
「ヒロくんの女としてはこう、嫉妬心を煽られるというか、危機感を抱いてしまうというか、落ち着かない気持ちになる話だったよねぇ?」
「君達が話せって言うから包み隠さず話したんだぞ……俺だってつまらない嘘は吐きたくないし」
ゴロゴロと喉を鳴らしそうな勢いで俺の肩に頬を擦りつけてくるショーコ先生に溜息を吐きながらされるがままにしておく。エルマはエルマで俺の右腕に自分の左腕を絡ませて酒を飲み始めてるし。
「くわしく、おはなしを、きかせてください」
「ちょ、ミミ、うちのお酒ぇ!?」
「それは強いからこっちにしてね」
「ありがとうございます、ウィスカさん」
少し離れた席に座っていたミミとクギがテーブルを挟んで対面に座っていたティーナとウィスカを横に退かし、真正面に座ってくる。ミミ、ティーナが飲んでたのは多分かなり度数が高いやつなんだけど……一気は良くないと思うぞ。危険が危ないぞ。その点クギにアルコール控えめのお酒をそっと渡す辺り、ウィスカはそつがないよな。
「これ以上詳しく話しようがないんだけど……身の上話をした後に私のものになりませんか? って言われたからノータイムでなりませんって言って断っただけだし」
「あー、身の上話なぁ。どこまで話したん?」
「俺が突然ターメーン星系に現れたことは皇帝陛下にも知られているから、ほとんどまるっと全部だな。その際にマザークリスタルの件についても話をすることになってな。もしかしたらこの世界でまだ知られていない重要な情報をもっているんじゃないか、って意味でも興味を持たれたみたいだ」
「ああ、ヒロのゲーム知識とやらね。頼りになるようで頼りにならない、でもたまにとんでもない情報だったりするやつ」
「酷い言われようだ」
食堂のソファに身を預けながら思わず苦笑いする。俺がチェックしていた情報は主に戦闘関連だったからなぁ。テクノロジーとか商売とかアーティファクト関連とかにはあまり興味がなかったから、存外役に立ちそうな情報って少ないんだよ。宇宙怪獣の類とはそこそこやりあったから、そっち関連の情報はいくらか持ってるけど。あと、あのゲーム内で紛争を行っていた宇宙帝国関連ならかなりの情報を持ってたんだが、この世界だと役に立たないんだよな。肝心の宇宙帝国が見当たらないから。
「あとはそうだな……ああ、ミミと結婚していることを言ったら驚愕してたな。そういや言ってなかった……あれ? 言ってなかったっけ? 帝都で色々やってる時に言ったような言ってないような……いや言ってないか」
多分言ってない。俺が知ったのもずっと後だった筈だし。
「とにかくそれで驚愕して、でもあんまり夫婦らしいことはしてないというか、うちの事情はアレだからって話をしたらそれはそれでどうなんだって言われたよ。よくよく考えると俺もどうかとは思わなくもないんだけど」
「そのあたりはちゃんとはなしあっていますから大丈夫ですよ、ヒロさま」
「そうそう、兄さんは気にせんといてええで」
物凄い勢いで俺の気遣いは丁重に断られた。まぁそうね。俺が下手に気を回すよりも皆で話し合ってもらって納得の上で俺をシェアしてもらったほうが良いよね。その辺りはお任せします、はい。
「あー……何を話してたっけ? とりあえずセレナ大佐とはそういう感じで――」
と話を纏めようとしたところで俺の小型情報端末から電子音が鳴り、そのセレナ大佐からメッセージが入ってきたことを伝えてきた。
「例のパーティーとやらの開催が決定したらしい。明日だそうだ」
「無理に強行するようなことでもないと思うのですが……?」
クギが不思議そうに首を傾げる。確かにタイミングとしては不自然な気がするが、このタイミングでないと俺達とセレナ大佐達がクリーオン星系の物資集積基地に滞在してないだろうからな。クギが言うほど不自然ではないとは思うんだが。
「大丈夫だと思いたいが、宙賊とも繋がりがある可能性が高い不良貴族って話だからな。警戒はしておこう。分断されるのが一番怖いから、メイはブラックロータスに残っていざという時に動けるようにしておいてくれ」
『はい、ご主人様』
食堂のスピーカーからメイの返事が聞こえてくる。はてさて、何が起こるのか。それとも何も起こらないのか。何が飛び出してきても対応できるよう、油断だけはしないように気をつけておこう。




