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#442 グイグイ来る人

おくれました!^q^(ナイトシティで刀を振り回すのが楽しすぎて寝坊した

『くそっ! 逃げるなぁ!』

「いや、逃げるが」


 後方から放たれるレーザー砲撃を急加速で掠める程度にやり過ごし、小惑星を盾にして敵艦の追跡を振り切る――と見せかけて航行アシストを切りながら姿勢制御スラスターを使って反転。こちらを追って小惑星の影から顔を出した敵艦の鼻っ面に四門の重レーザー砲と二門の散弾砲の一斉射撃をお見舞いしてやる。


『なっ――ッ!?』

「はい撃墜。次」


 急いで追ってきたせいか大回りで小惑星を回り込んできた敵艦は無防備な腹――船底をこちらに晒す状態だった。航宙艦というのは所謂『腹』側の装甲が意外と薄かったりするので、シールドを抜いた上で腹側に砲撃を貰うとバイタルパート直撃判定となって『撃沈』になりやすい。腹側の他にはスラスターが集中していることが多いケツも装甲が薄い判定なんだよな。


『舐めやがって! 野郎ぶっ殺してやる!』

「三人くらいまとめてかかってきても良いぞ?」

『タイマンで十分だオラァ!』


 威勢が良いが、熱くなっても良いことはあんまりないぞ。ほら、勝負を焦って飛び出してくる。クロスレンジでやり合う場合は速度が乗ってればそれが大正義ってわけじゃないんだぜ。

 新たに出現した敵艦とのヘッドオンでの撃ち合いをやり過ごし、低速度のままくるりと反転し、速度が乗っているせいで旋回が遅い敵艦の横っ腹に重レーザー砲を命中させていく。流石に軍用装備のシールドと装甲を使っている設定なだけあって宙賊艦と比べれば格段に固いが、それでもクリシュナの火力にそう長く耐えられる筈もない。哀れにもこちらを再び射撃範囲に捉える間に敵艦が爆散する。


「次、本当にタイマンで良いのか?」

『上等だ! やってやらぁ!』


 血の気が多いなぁ……と内心呆れつつ、新たに出撃した敵艦を撃破しにかかる。どうせ暇だし、疲れるまでは相手をしてやるか。


 ☆★☆


「やったぜ」

「やったぜじゃないんですが」


 シミュレーションルームのテーブルの上に積み上がったエネルチップの山を前にしてドヤ顔で宣言してやると、セレナ大佐が青筋を浮かべたまま笑顔で文句を言ってきた。


「俺は訓練を手伝ってエネルをゲットした。帝国航宙軍のパイロット達は対価を払って天下のプラチナランカーとの貴重な戦闘体験を得られた。これこそまさにwin-winというやつでは?」

「天下のプラチナランカーがケチな小銭稼ぎをしないでください」

「どうせなら賭けをしたほうが楽しいだろ。俺が」


 だって勝てるからな。勝てるとわかっている賭けほど楽しいものはないぞ、大佐。

 ちなみにこのエネルチップだが、基本的には少額のエネルを他人と安全にやり取りするためのプリペイドカードのようなものである。相手の小型情報端末と直接やりとりをしたくない場合や小型情報端末を保たない相手との取引に使われたりする。S○icaみたいなものである。


「だいたい一戦たったの10エネルだぞ? プラチナランカーと安全なシミュレーターでやり合って経験を積めると考えれば破格の安さだろう」

「だとしてもです。艦隊内で賭け勝負が蔓延したら規律が乱れるでしょうが。今後うちのパイロットを巻き込んだ賭け勝負は禁止です。良いですね?」

「へーい」


 返事を返しつつ、積み上がったエネルチップをジャケットのポケットに突っ込んでおく。今回俺が毟り取った分を返却しろと言わないのは対宙賊独立艦隊を含めた帝国航宙軍パイロットへのお仕置きなのだろう。


「貴方達には後で上官からありがたいお話があるでしょうから、そのつもりで」

「「「イエス! マム!」」」


 セレナ大佐に整列させれていたパイロット達が一斉にセレナ大佐に敬礼する。こうして見るとセレナ大佐もちゃんと高級軍人やってんだなって思うわ。というか、何故かパイロット達から尊敬の眼差しを向けられている気がする。何故だ。


「元気が有り余っているようなら私にも付き合ってもらいましょうか」

「え、嫌だが」


 腰元の剣の柄にポンと手を置いて笑顔を浮かべるセレナ大佐に即答する。身体強化の副産物なのか、この人本当に体力も尋常じゃないんだよ。割とデカくて重い剣をぶん回すくせに、連戦しても疲れる素振りを見せない。こっちは五戦もすれば疲れるってのに。


「彼らには時間を割けるのに私には割けないと?」

「だって大佐面倒くさいし、疲れるし」

「喧嘩を売ってますか? 売ってますね? 100%オフですね?」


 笑顔のままピキピキと青筋を浮かべるのやめよう。ほら、整列してるパイロットの皆様とか震え上がってるし。遠巻きに野次馬していた軍人の皆さんもそそくさと逃げ始めてるじゃん。


「オーケーオーケー、わかったよ。少しだけだぞ? 貸しだからな?」

「そうですね、私を怒らせた件に関しては不問にしてあげましょう」

「割に合わないんだが……?」


 踵を返してスタスタと歩き始めるセレナ大佐の後を追って俺も席から立って彼女の後を追うことにする。


「んじゃそういうことで。また機会があったらやろうぜ」

「「「サー! イエッサー!」」」


 パイロット達が何故か俺に尊敬の眼差しを向けながら敬礼してきた。なんだ、そのまるで勇者か何かを見るような目は。もしかして、俺がセレナ大佐にタメ口で気安く接していたのを見ての反応か? 別に違うからな? あの人とは何もないからな?


 ☆★☆


「で、現状はどうなんです? 戦況は?」


 ビュオン! ととんでもない風切り音を鳴らしながら迫ってくるセレナ大佐の模擬剣を半歩後ろに避け、駆け上がってくる雷光のように跳ね上がってくる切り返しを右手の長剣で受け流してセレナ大佐の大勢を崩そうと試みる――が、彼女はどんな体幹をしているのか、びくともせずに手元で柄の握りを変えて強烈な突きを放ってきた。本当に人間か? なんか特殊合金製の人工筋肉繊維とかで強化してたりしない? いやまぁ、生命工学的なアプローチで身体強化処置を受けているらしいから、近いものはあるのかもしれんが。


「余裕、です、ねっ!」

「最近勘がすごく冴えててな」


 今の俺にはビュンビュンと恐ろしい音を立てて迫る模擬剣をいなしながら周りを見る余裕すらある。ここはセレナ大佐に連れてこられたレスタリアスの訓練室で、訓練室の中には俺とセレナ大佐の二人しかいない。彼女が人払いをしたのだ。


「くっ……このっ!」


 何故俺が彼女を圧倒できているのか? それはセレナ大佐が次にどのように剣を振るおうとしてきているのかが俺には『理解る』からだ。これもクギからサイオニック能力の訓練を受けている成果の一つなのだが、対峙している相手が次にどこを狙ってきているのかが最近手に取るようにわかるようになってきた。

 クギの得意分野はヴェルザルス神聖帝国では第二法力とよばれている分野の力で、早い話がテレパシーなどの精神関連の能力全般である。そんな彼女からサイオニック能力の手ほどきを受けている俺も、それなりに第二法力――テレパシー関連に関しては熟練度が上がってきたわけだな。

 攻撃的な精神波――つまり殺気だの悪意だのといったものに対する感度が格段に上がったのである。テクノロジーで例えるとパッシブセンサーの強化と言ったところだろうか。宇宙世紀の新人類が身につけるアレみたいなものである。ぴきゅいーんって効果音が鳴るやつ。そういや遠い銀河のフォースを操る騎士とかもこの手の能力に長けているんだったか? ますます人外じみてきたな、俺も。

 まぁ、この能力はメイには一切効かないので、未だにメイにはボコられるわけだが。


「何か! イカサマを! してませんかっ!?」

「そうだとしても手の内を明かす必要性は感じないなぁ」

「ひゃんっ!?」


 一瞬の隙を突いてセレナ大佐の尻の辺りを模擬剣でぺちりと叩いてやる。これで何戦目だったか? そろそろ終わりにしたいんだが。


「ズルくないですか? どうして身体強化もしていない上に剣を手に取って然程長くもないのに私が圧倒されるんです? おかしくないですか? おかしいですよね!?」

「俺に聞かれても困る。気がついたらこうなっていたとしか……」


 肩で息をしながら詰め寄ってくるセレナ大佐に苦笑いを返す。自分のぶっ飛び具合は俺自身がよく知っているので、そこを詰められると困るんだよな。あまり言いふらしたいような内容でもないし。


「何か隠してますね? 私には言えないんですか? 貴方のクルー達は当然知ってるんでしょう?」

「そりゃねぇ……」


 言葉を濁しながら頬を掻く。剣を振って昂っているのか、グイグイ来るな。でも、適当にやって負けたりしたらセレナ大佐は絶対に激怒するだろうしなぁ。さて、話すか話さざるか……どうしたものか。

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― 新着の感想 ―
まぁヒロはジェ◯イというよりシ◯、◯スというよりは(本編未登場な)ダーク・ジェ◯イな印象( ー`дー´)
[一言] >旋回速度 旋回時に船体にかかるGが許容範囲内かどうかの問題があるんじゃないかな? ヒロみたいに「進行方向そのままで機体を180度回して後ろを向く」のならまぁねぇ・・・
[気になる点] スピードが乗ってるからって真空中の宇宙船の旋回速度が遅くなることはないし 低速だから旋回が速いこともないはず クリシュナの旋回速度が他の宇宙船より速い設定なだけなのでは? (速いけど…
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