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#441 待機任務

歯痛と頭痛で捗らなかった( ‘ᾥ’ )

 今の状況、切迫しているのかいないのか? という話をすればどちらかと言えば切迫している状況なのだが、それが結晶戦役の時と比べるとどうか? という話をするとそこまでではないというのが正直なところである。

 結晶戦役の時にはそもそもの防衛戦力が乏しく、周辺からかき集めた戦力を全て防衛に差し向けなければ結晶生命体どもに防衛線が食い破られかねないという状況だったのに対し、現在のクリーオン星系周辺の紛争宙域に関しては最初から敵の攻勢に備えた相応の戦力が集められていた。

 なので、攻勢が始まったとしても、本来は員数外の戦力である対宙賊独立艦隊の出る幕は無い。

 とは言え急事に戦力を遊ばせておく余裕があるわけではないので、対宙賊独立艦隊をクリーオン星系物資集積基地の警備に使い、本来の防衛戦力をいつでも増援として動かせるようにしたというわけだな。イクサーマル伯爵家の連中は。


「まぁ、俺らからしてみれば黙ってぼけーっとしてるだけで金が湧いてくるようなもんだよな」

「固定報酬は一定期間の雇用費で、それを過ぎると日当が出ますからね」

「そ、それで良いのでしょうか……?」


 休憩スペースでのんびりしている俺とミミを見たクギが苦笑いを浮かべる。クギは真面目だなぁ。


「というか『独立艦隊』だなんて言っても有事の際には結局軍令に縛られるんだなって感じだよ」

『平時に独自の裁量で艦隊を運用できるから独立艦隊なんですよ。有事の際には当然軍令に従う義務があります。我々は皇帝陛下の剣なのですから』


 ホロディスプレイの向こうでセレナ大佐が憮然とした表情を見せる。いやお前暇なのかよって話なんだが、実際暇らしい。部下に効率よく仕事を振った結果、彼女のところまで上がってくる仕事というのは大変に些少なものとなり、しかも彼女はバチバチに身体能力強化をしている侯爵令嬢様だ。その強化項目は身体能力だけではなく脳の処理能力強化などにも及んでおり、実際に本気を出すと常人が五時間かけて行うような作業を一時間足らずで軽く終わらせてしまえるらしい。


『とはいえ今回の件も実際にはあくまでも要請であって、命令ではないんですよ。こちらに正当な理由があれば要請を突っぱねて行動することもできるのですが、そもそも今回の後方を脅かす宙賊の排除もイクサーマル伯爵家の要請を受けた上からの指示ですからね。直接ではないにせよ大本の要請がイクサーマル伯爵家からのものというところもありますから』

「つまり軍上層部から特別な命令がない限りは自由に行動できるのが対宙賊独立艦隊が独立艦隊の名を冠する謂れというわけか」

『そういうことです。流石に軍に所属していながらにして傭兵のように自由に動けるというわけではありませんよ。運用方法や指揮系統の構築には参考にしている部分もあるようですが』

「なるほどねぇ……で、例の件は?」

『特には何も。近々我々を招待したいそうですよ。晩餐会に』

「なんだそれ……」


 俺達を目の敵というか目の上のたんこぶみたいに思ってたんじゃないんかい。そんな俺達を晩餐会に招待したいとかどういう風の吹き回しだ?


「仲が良くない相手でも有事となれば手を取り合わないといけないこともあるわ。何にせよ今だけは蟠りを捨てて手を組みましょうっていうポーズよね。まぁ、貴族らしい行動だわ」


 セレナ大佐に映像を送っている光学センサーの範囲外で酒を飲みながらダラダラしているエルマがつまらなそうにそう言って肩を竦める。あの女、予備戦力としての待機任務という実質的な休暇を全力で満喫中である。

 酔っ払った状態で待機とかナメてんのかって? 医療ポッドに入ればすぐ抜けるからなぁ、アルコール。規律の乱れだぞと言われるとそれはそうなのだが、俺達は軍人じゃなく傭兵だし。エルマもへべれけになるほど酔わないようにはセーブしているようなので、俺からは特に注意するつもりもないんだ、これが。


「しかし晩餐会ねぇ……油断させて『騙して悪いが』みたいな展開を狙ってるんじゃないのか?」

『そうすることによってイクサーマル伯爵家に何か得があるのであれば可能性はなくもないですが、まずそんなことは起きないでしょう。仮に私と側近数名、そして貴方達全員を騙し討ちで捕縛なりなんなりしたとしても、うちの艦隊のクルー達がすぐに救出に動きます』

「それもそうか」


 俺ももし晩餐会に呼ばれたら最低でもメイは船に残していくだろうし、もし俺達に何かがあればメイが戦闘ボット達を引き連れて行動を起こすことになるだろう。どうあっても大騒動になるだろうし、メイならその様子を各方面に流すなりなんなりして周りを巻き込んだりするんじゃないかね。そうすれば事態はより大事になって、イクサーマル伯爵家でも制御不能に陥る可能性が高い。

 俺が考えつくことをお貴族様が考えつかないわけもないので、何らかの対策が為される可能性もあるが、果たしてその手間に見合うような利益が向こうにあるかどうか。


「まーたヒロの悪い癖が出てるわねぇ」

「たまに心配性になりますよね、ヒロ様は」

「我が君はご自身の引き寄せる数奇な運命を警戒してらっしゃるのだと思います。此の身としては妥当な警戒心かと思いますが」


 流石にセレナ大佐の前で運命操作能力云々には触れなかったようだが、クギは俺の抱くイクサーマル伯爵家への警戒心を妥当だと評価しているらしい。エルマとミミはいつもの警戒し過ぎだと思っているようだけど。確かに心配し過ぎな気はするんだが、どうも引っかかるんだよな。

 この状況で帝国航宙軍に負け筋があるとすれば、ゲートウェイが使用不能になって増援が来なくなり、そこにベレベレム連邦軍が一気呵成に攻め立ててくるってパターンくらいか。


「心配し過ぎて何も無ければそれはそれで笑い話になるだけだし、俺は引き続き警戒することにしとく。その晩餐会とやらに俺達も呼ばれるのかどうかは知らんが、そのときは連絡をくれ」

『その時はそうします』


 そう言うセレナ大佐の表情はあまり芳しくない。まぁ、不本意なんだろうな。警備のためにクリーオン星系で待機してるのは。招集がなければ今頃は宙賊を追い詰めていたのだろうし。

 まぁ、お貴族様の都合で色々と左右される状況ってのはある意味慣れっこだ。精々鋭気を養わせてもらいつつ、その時に備えるとしますかね。

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― 新着の感想 ―
これは120%裏切りますねぇ
[気になる点] エルマが同じ部屋内のホロのセンサー範囲外にいるのなら、 あの女よりも、この女の方がいいかもです
[気になる点] >この状況で帝国航宙軍に負け筋があるとすれば、ゲートウェイが使用不能になって増援が来なくなり、そこにベレベレム連邦軍が一気呵成に攻め立ててくるってパターンくらいか。 つまりこれは次回…
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