#439 変事
本日9/22はコミックス7巻の発売日!
買ってね!!!_(:3」∠)_(直球懇願
『なんで超光速ドライブが起動しねぇんだ!? や、やめっ……』
「悪いな。宙賊にかける慈悲は売り切れだ」
そもそも最初から入荷もしてないがな。
ケツを振って逃げようとする宙賊艦に重レーザー砲を撃ち込み、トドメを刺す。
おや? スラスターが完全に破損しただけで爆発四散は免れたか。運の良い宙賊だな。スラスターには大量のエネルギーが供給される関係上、完全に破損すると宙賊の船は八割方船ごと爆発四散するんだが。
「やっぱりちゃんとした船は安全措置がしっかりしてるよな」
「そうですね。ただ、その分手間も増えますけど」
「ミミも言うようになったねぇ……ま、ブラックロータスが到着次第戦闘ボットを送り込むか」
ミミの言う『面倒』とは恐らく生き残っているであろう宙賊の処理についてである。生きてピンピンしている宙賊を乗せたまま鹵獲してブラックロータスに収容すると、ティーナとウィスカが危ないからな。まずはその宙賊を制圧して船を掌握する必要がある。船が爆発四散していればそんな手間をかける必要はないので、ミミの言う通り面倒といえば面倒なんだよな。その分実入りは大きいけど。
「あの、我が君。捕虜を取ったりは……?」
「普段はしない。普段はな」
「今回は取れるなら取る必要がありますよね」
普段なら宙賊なんぞ見敵必殺である。捕虜などは取らずに処すのである……が、今はセレナ大佐の指示で取れる捕虜は取ってセレナ大佐に引き渡すことになっている。頭から情報を引っこ抜くつもりなんだろうな。
「とりあえず戦闘ボットに降伏勧告と可能な限り非殺傷での制圧を試みるように指示はしている。それで生き残ったらショーコ先生に治療させて鎮静剤なり麻酔なりで無力化の上拘束かな」
「え、ええと……我が君? 生き残らなかったら?」
「運が無かったね。来世でのご活躍をお祈り申し上げます」
そう言って俺が肩を竦めてみせると、ミミがうんうんと同意するように頷いた。ミミも本当にたくましくなったな。俺としては大変に感慨深い。案ずるな。頭の上の狐耳をへにょらせているクギもそのうちこちら側に染まる。
「それにしても今回は平和ですね、ヒロ様」
「ミミ、あなた疲れているのよ……今しがた宇宙空間でドンパチして物騒な話をしたばかりだぞ」
「い、いや、そうなんですけどっ……! なんというかこう、決定的なピンチというか、トラブルには巻き込まれていないじゃないですか」
「皇帝陛下の勅令を受けた帝国航宙軍に最前線近くまで呼び出された上に、セレナ大佐とブッキングして、更にセレナ大佐の指揮下に入って宙賊のような何かを狩ってるのってもう十分トラブル満載だと思うんだ。トラブルに慣れきってしまって感覚が麻痺してるのと違うか?」
「うっ……でもでも! いつもならもう一波乱くらいはあるじゃないですか!」
「ミミ、あなた疲れているのよ……」
「ヒロ様、それで誤魔化そうとしてませんか?」
「ソンナコトナイヨ?」
オペレーターシートから身を乗り出してジト目を向けてくるミミから目を逸らす。今のところは問題ないんだから良いじゃない。もしもに備えるのは必要なことだが、必要以上に訪れるかもしれない何かを警戒しすぎるのも良くないと思うよ、俺は。
高度な柔軟性を維持しつつ臨機応変にって銀河で英雄なアレに出てきた偉い人もそう言ってたじゃないか。いや、あの人は完全無欠のダメな奴だったような気がするけど。
そんな話をしながら周囲を警戒していると、轟音と共に見慣れた艦影がワープアウトしてきた。ブラックロータスだ。
『お待たせしました、ご主人様』
「待ってたぞ。残骸の回収と無力化した艦の制圧を始めてくれ。タグは打ってある」
『承知致しました。戦闘ボットを射出します』
中型艦とか大型艦相手なら専用の移乗攻撃用突撃ポッドを使って戦闘ボットを送り込むのだが、小型艦となるとそうもいかない。なので、直接戦闘ボットを送り込んで内部に侵入させる。宇宙空間をふよふよと飛んでいって、宇宙船のハッチに取りついてそこを破って侵入していくのである。侵入される側にしてみれば恐怖だろうな。
『ヒロ、私達の担当エリアに逃げ込んできた連中がいるわ』
「忙しないなぁ……俺らも手伝うか?」
『いえ、このままキルゾーンに追い込むみたい』
「なら手は出さなくて良いか。一応追跡だけはしといてくれ」
『了解』
エルマから入っていた通信が切れる。エルマのアントリオンにはグラビティ・ジャマーの他にも高品質でクリシュナより大型の各種センサー類や電子戦装備を積んでいるから、そっち方面の性能はクリシュナよりもずっと上なんだよな。だから超光速ドライブを起動して逃げている宙賊艦や、それを追っている対宙賊独立艦隊のコルベット分隊をセンサーで追跡し続けるのもお手の物だ。
ブラックロータスの方がデカくて高性能なセンサー積んでるんじゃないかって? それはそう。だけどブラックロータスは足が遅いからな。足がそこそこに早くて視野が広いアントリオンはすでに俺達の『狩り』に無くてはならない存在になりつつある。というかもうなってる。いい買い物をしたよな、本当に。
『ご主人様、確保しました』
「了解。安全第一で無力化しておいてくれ。完全に無力化して拘束するまで戦闘ボットを貼り付けるか、メイが対応してくれ」
『承知致しました。ブラックロータスに護送次第、完全無力化まで私が監視致します』
「頼んだ」
恒星系封鎖とローラー作戦による相当はレッドフラッグ討伐戦で一度やった流れなので、セレナ大佐麾下の対宙賊独立艦隊の面々も対応が早いし正確だ。この分だとそう苦労せずに仕事を終えられそうだな。
などと考えた瞬間、クリシュナのメインスクリーンに通信の接続要請が入ってきた。うん? これはセレナ大佐のレスタリアスからか? 軍用の秘匿回線を使った通信……嫌な予感がするな。
「はいどうも、従順で優秀な傭兵のヒロです」
『何をふざけているんですか。いや、与太話をしている場合では無いんですよ』
「それはそれは……通信を切っても良いですかね? ちょっと急用を思い出したと言うか、お腹が痛くなってきたんで」
『駄目です。ベレベレム連邦の攻勢が強まりました。我々は宙賊への対処を一時取りやめてクリーオン星系の物資集積基地で集結し、物資集積基地の警備をしつつ予備戦力として待機します』
「おお、もう……ミミぃ」
「わ、私は悪くありません……よ?」
俺が視線を向けると、ミミが誤魔化すような笑みを浮かべる。いやまぁ、ミミのせいではないけどさぁ……苦労せずに仕事を終わらせられそうと考えた瞬間にこの事態とか、やはり呪われてるのではなかろうか。これも俺の運命操作能力とやらのせいなのだろうか。本気で制御できるようにならないと身が保たんぞ。
「そんなに危ない状況なのか? 俺達の仕事をまっとうしたほうが良いんじゃないのか?」
『私もそう思いますが、防衛司令官からの要請となると無下にはできません』
セレナ大佐も大変に不服そうなお顔である。折角宙賊を名乗って蠢動している連中の尻尾を掴もうと思っていたところなのに、完全に邪魔をされた形だからな。
『情報の精査にも時間がかかりますから、とりあえずはここまでに集めた情報の精査と分析に当てる時間を確保したと考えるとします。配備されている戦力やゲートウェイを使って駆けつけてくる増援も考えれば帝国の負けはまず無いとは思いますが、万が一ということもあります。あなた達も気を抜きすぎないように。合流座標を送信しておきますので、可能な限り急いで向かってください』
「アイアイマム」
俺の返事に満足したのか、セレナ大佐が頷いて通信を切断する。嫌なタイミングでの攻勢だな……妙なことにならなければ良いが、望みは薄いか。何が起きても良いようにせいぜい警戒しておくとしよう。




