#435 傭兵ギルドボークス星系支部
ちょっと朝方までスターフィールドやっててぇ……起きれなくってぇ……( ˘ω˘ )(許して
『犬も歩けば棒に当たると言いますが……』
「ワン」
ホロディスプレイの向こうでドン引きした様子のセレナ大佐に犬らしく一声鳴いてやる。
『本来はフラフラ動いていると災難に遭うからじっとしていろという意味の言葉なのですが……いえ、動けと言ったのは私ですけれど。それにしても貴方は持ってますね』
「俺のトラブルエンカウント率に関しては犬も歩けば棒に当たるというか犬自体が謎の引力を発揮して棒以外も飛んでくる感じだけどな。自慢じゃないが」
『本当に自慢になりませんね、それは。とりあえず鹵獲した艦のレストアに関しては後回しにして、ボークスセカンダスコロニーに係留しておいて下さい。合流次第内部を検めます』
「了解。サルベージしたデータストレージの類は引き渡せるようにまとめておく。ああ、メイに分析させても良いが、どうする?」
『引き渡してくれれば問題有りませんが、分析を進められるならば進められるだけ進めておいていただけると助かりますね』
「アイアイマム、そのように指示しておく」
『お願いしますね。できるだけ早く再編成を終えてそちらに向かいますので。それでは、通信終了』
ホロディスプレイ越しに敬礼をしてきたセレナ大佐に敬礼を返しつつ、通信を終了する。
「話は聞いていたな? すまんがティーナとウィスカに今セレナ大佐と話した内容を伝えてくれ」
「わかりました! メイさんにも連絡しておきますね」
「すまん、頼む。俺はエルマと……そうだな、クギも一緒に来てもらうか。傭兵ギルドに顔出しだ」
「はい、我が君。お供致します」
ショーコ先生は趣味の研究で研究室にこもりきりだろうが、一応声をかけておくか。行き先が傭兵ギルドとなると彼女の知的好奇心を満たせるようなものはないだろうから、多分ついてこないと思うが。
☆★☆
「ここがあの傭兵ギルドか! いやぁ、遊園地に来たみたいでテンション上がるねぇ!」
「……」
「ごめんて」
傭兵ギルドの扉を潜るなりテンションを爆上げするショーコ先生を見たエルマが俺にジト目を向けてくる。いや、ショーコ先生がこんなにテンション上げてはしゃぐとは思わないじゃん……俺にだってわからないことくらいあるよ。
「おほん。ショーコ先生?」
「ん? ああ、失敬失敬。私みたいな研究職だと傭兵ギルドに足を運ぶ機会なんて無くてね。セキュリティ部門や外商部門なら関わることもあったのかもしれないけど。まぁ、君の艦に乗ることになったのもそもそもは傭兵稼業への憧れみたいなものが原因だっただろう? それまではホロムービーやホロ小説で憧れの気持ちだけを高めていたわけでね? ついに自分の足でこの場所に来たと思うとついね?」
「めっちゃ喋るじゃん……理由はわかったから、あんまりはしゃがないでくれると嬉しい」
「うんうん、わかったよ」
そう言ってショーコ先生がにっこりと無邪気な笑みを浮かべて見せる。普段はニンマリニヤニヤといった感じの笑顔を浮かべることが多い彼女にしてはかなり珍しい表情だ。しかしそれはそれとしてはしゃぐのはやめてほしい。今、この辺りの星系では普段は見ないような高性能の装備を手にした宙賊のような何かが跋扈している。ということはだ。
「チッ、女連れで……お気楽極楽かよ」
「見ねぇ顔だな。つうことはあの可愛い子ちゃん達も遠からず死ぬか宙賊どものおもちゃか。勿体ねぇ」
事務カウンターから遠い入口付近にはラウンジのようになっていた。
こういうスペースが設置されているかどうかはギルド支部にもよるのだが、このギルド支部にはそういったスペースが設置されていたのだ。流石にファンタジーものの小説とかに出てくる冒険者ギルドみたいに酒場まで併設されていることはないが。戦闘艦の飲酒運転ダメ、絶対。
で、そこにたむろしていた傭兵連中が俺達を見てなにやらぶつくさ言っているというわけだ。
「ヒロくん、彼らは――」
「はいお口チャックしましょうねー。どうもどうも、ちょっと通りますよ」
ショーコ先生がマズそうなことを口走りそうな気配を感じた俺は彼女の口を手で塞ぎ、羽交い締めにしてずるずるとカウンターへと引っ張っていくことにした。面倒事はノーサンキューである。
「アンタも慣れてきたわよね。トラブルの対処に」
「こんなことに慣れとうなかった……ショーコ先生、何を言おうとしたのかはわからんけど、強力な装備の宙賊のような何かが跋扈しているこのタイミングで仕事をしないでグダグダしてる連中は手酷くやられて船を修理しているだとか、メンバーに欠員が出てどうにか補充しないと仕事に出られないとか、身を謹んで嵐が過ぎ去るのを待っているだとか、そんな感じの連中だ。鬱憤も溜まってる。下手なことを言ってキレさせると絶対に面倒なことになるからな」
「ああ、なるほど。傭兵っぽいのになんでこんな場所で管を巻いているのかと聞こうとしたんだよ」
「着火の天才かな?」
ただでさえ鬱憤の溜まっているところに三人も綺麗どころを連れた新顔が現れて、その綺麗どころの一人が「ねぇねぇなんであの人達仕事も行かないで座ってるの?」なんて言った日には暴発必至である。ムカ着火ファイヤー(死語)である。
「ナイス判断だったわね……」
「悪いが二人とも、頼むぞ? 俺も頑張るけど頼むぞ?」
「あのねぇ、ヒロくん。私だって子供じゃないんだから、事情を察すれば気を遣うことくらいはできるよ」
冷や汗を垂らすエルマと、ニコニコしながら尻尾をフリフリしているクギに本気で頼み込んでいる俺を見たショーコ先生が頬を膨らませてプリプリと怒る。いや、最初にやらかすところだったじゃないですか。そういうのはやらかす素振りも見せない人にだけ許される反応だよ。
そういうわけで傭兵ギルドに入るなり落ち目の傭兵どもに絡まれるというハプニングのイベントフラグを華麗に叩き折った俺達は、大変に暇そうなギルド職員達がいるカウンターへと向かった。
「あら、華やかで良いですね。傭兵ギルドボークス星系支部へようこそ。ご依頼……では無いですよね?」
カウンターで俺達を出迎えたギルド職員のお姉さんがそう言って首を傾げる。剣を腰に差して女連れで傭兵ギルドに来るということは、護衛でも頼みに来た貴族のボンボンだろう……と最初は思ったが、どうも連れている女のうち少なくとも一人は傭兵のように見えるし、その女達を引き連れている男もよくよく見れば傭兵風の格好で、剣だけでなくレーザーガンも装備している。ということは傭兵だろうか? といったところだろうな。
「依頼ではないな。顔出しと、情報収集だよ。上からの依頼でこの辺の掃除をすることになっててな」
「上から? 傭兵ギルドの方では何も……そういえば軍でそんな動きが――」
カウンターを指先でトントンと叩いて音を立て、口走ってはいけないことを口走りかけたギルド職員の口を止めてからそのまま自分の唇の前に指を立てる。こういったジェスチャーは違う世界でも共通だというのは少し面白いよな。
「まぁそういうわけでな。この星系と周辺星系で起こった襲撃の座標と、行方不明になっている船の予想航路なんかのデータが欲しいわけだ」
「事情はわかりましたが、そういったデータはそうやすやすと渡して良いものでは……」
「依頼自体はちゃんとギルドを通ってる。俺のIDで調べれば従事している依頼の情報も出るだろう? 知っての通り普通の状況じゃない。慎重に事を運びたいんだ」
「これは……? っ!? ちょ、ちょっと上の者と話してきますから、少々お時間を下さい」
俺のIDを確認したギルド職員のお姉さんが慌てた様子でカウンターの奥に引っ込んでいく。俺の名前もそこそこ売れてるからな。ただでさえプラチナランカーは少ないみたいだし、彼女が驚くのも無理はない。
「我が君、どうしてわざわざ足を運んだのですか? そういったデータなら通信越しにでも請求できるのではないしょうか?」
「通信でのやり取りはどうしても傍受の危険性があるからな。宙賊連中ってのはそもそもそういうやり口が得意だし、今回のきな臭さを考えるとそういったやり方は漏れる危険性が高い。直接顔を合わせてデータをやり取りするアナログな方式の方が安全なのさ」
「流石に傭兵ギルド内で盗聴だのなんだのは無理だろうしね」
「そうなのかい? 職員も人間なんだから、魔が差す人もいるんじゃないのかなぁ?」
「ギルド職員に限ってはそれはないと思うわよ。背任なんてやらかした日には宇宙の果てまで追手がかかるって話だし」
「それは怖いねぇ」
帝国法との兼ね合いがどうなっているのかは知らないが、たまに背任行為をやらかしたギルド職員に生死不問で賞金がかけられているのを見ることがある。俺から見てもかなりの高額で、当然ながらそんな高額の賞金をちらつかせられた傭兵達は元ギルド職員を血眼になって追いかけ回す。ギルド職員は普通の人であることが多いので、まず逃げられない。
「そういうわけでギルド職員の裏切りは警戒しなくて大丈夫。お、戻ってきたみたいだ」
先程のギルド職員のお姉さんが上司らしき女性を連れて戻ってきた。さて、何が聞けるかな。




