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#429 その上つったらもう紛れもなく奴じゃん

奇しくも戦場送りになるご一行なのであった( ˘ω˘ )

 結論から言うと、リンダの教育環境を整える調整についてはスムーズに完了した。


「俺がこんな大金の管理をするのは胃が痛くなりそうなんですが……他ならぬ兄貴の頼みとあればお任せください。上手くやってみせます」


 どうもハインツはリンダの件についてハルトムートよりもハインツを頼ったことが嬉しかったようで、リンダに渡す報酬分配金の管理について快く引き受けてくれた。なんだかんだでコロニー内には色々と伝手があるので、リンダの要望を聞きながら面倒を見てくれるという。


「ハルトムートにも気にかけてもらうように言ってあるから、変な意地の張り合いとかするんじゃないぞ」


 彼は彼でリンダが望むなら高等教育を受けられるよう手配をすると快く請け負ってくれた。サイコロの転がりようによっては、もしかしたら三年後のリンダはとんでもない淑女になっているかもしれんな。


「わかってます、兄貴。いずれ兄貴の女になるってことですし、変な虫がつかないようにも気を配っておきます」

「そうと決まったわけじゃないからな……? その辺はリンダの好きにさせてやってくれ」


 これからの三年間でリンダに恋人ができて、俺の船に乗るのをやめてこのコロニーで暮らしていくっていうならそれはそれで構わない。リンダの人生はリンダのものなんだから、俺に縛られる必要なんてこれっぽっちもない。三年経っても気持ちが変わらないなら連れて行くってだけの話だからな。今のリンダは幼すぎるが、十五歳ならミミがクリシュナに乗ったのと同じ年齢だ。グラッカン帝国では十五歳で成人だし、自分の道を自分で決めても良いだろう。

 というか、三年後の俺がどうなっているかなんてわかったもんじゃないしな。死んでいなければ傭兵稼業は続けていると思うけど。


「そうですか……わかりました。ところで、そろそろですか?」

「ああ、明日には出る。自由気ままな根無し草生活が性に合ってるんでな」


 今回は特にこれといった目的地もない。現状、喫緊の課題もないからな。俺のクリシュナとエルマのアントリオン、それにメイのブラックロータス。この三隻での宙賊狩りに関してはまだ完全に連携が取れているわけでもない。暫くは金を稼ぎつつ練度を向上させるのが当面の目標となるだろう。

 まぁ、本当の意味で無目的かつ適当にほっつき歩くわけにも行かないから、今晩は皆で集まって行き先を決めるミーティングを行うことになるだろうな。


 ☆★☆


 皆でミーティングをすることになるだろうと言ったな? あれは嘘だ。いや、嘘ではないか。


「えー……ということで、全く気は進まないが俺達の次の目的地はクリーオン星系ということに決まりました。はい、拍手ー」


 あまり状況を理解できていないクギだけがパチパチと拍手をしてくれる。クギは可愛いなぁ、ハハハ。


「ヒロが決めたなら従うけどね……まさか最前線送りじゃないでしょうね?」

「それこそまさかだ。後方の兵站を狙う『宙賊』の討伐が依頼内容だよ」

「ものは言いいようよねぇ……上は?」

「いつものあの人になるそうだ」

「セレナ大佐も大概貧乏くじを引かされますよね……あはは」


 ミミが彼女には珍しく感情の薄い表情で乾いた笑いを漏らす。ティーナは難しげな表情をしており、ウィスカは不安げな表情を見せ、ショーコ先生はニヤニヤと面白そうに笑っていた。メイはいつもの無表情だ。

 俺達がこのようなやり取りをしている理由を語るには少々時間を遡る必要がある。

 そう、あれはハインツにリンダのことを頼んで――当然タダではなくいくらか金を握らせておいた――ブラックロータスへと足を向けた直後のことだった。俺の小型情報端末が着信音を鳴らした。

 今思えばあの時……いや、無駄か。どっちにしろ詰んでたな。今後一切傭兵ギルドと連絡を取らずに生きていくことなんて傭兵の俺達にはできないわけだし。


 ☆★☆


「ヒロだ」

『こちらは傭兵ギルド、リーメイ星系支部のデイビットと申します。そちらはキャプテン・ヒロ殿で間違いありませんね?』

「ああ、間違いない」


 傭兵ギルドから直接音声通話を飛ばしてくるのは珍しい。あちらから俺達のような傭兵に通達事項がある場合は殆どの場合専用のアプリを介したメッセージを送ってくるのだ。


「音声通話とは珍しいな。用件は?」

『キャプテン・ヒロ殿宛に最高優先度の指名依頼が入っております。早急に確認していただけるようご連絡をさせていただきました』

「最高優先度の指名依頼……? 本当に信用できるクライアントなんだろうな?」


 高額報酬の指名依頼でのこのこと待ち合わせ場所に行ったら『騙して悪いが』みたいなのは御免だぞ。俺は基本的に宙賊をメインターゲットにしているから、傭兵ギルドに依頼を――それも指名依頼を出せるような依頼人に恨みを買っている可能性は低い筈だが。


『それはもう……帝国内ではこれ以上なく信用できるクライアントですとも』


 依頼人が指名依頼を出すにはそれなりの信用というものが必要となる。信用とは何か? というとそれはもう傭兵ギルドとの取引実績……つまり依頼完了時の確実な支払いだとか、依頼内容の妥当性――例えば無茶な依頼で傭兵を磨り潰していないか――だとか、依頼人の社会的認知度だとか、そういった多岐にわたる判断材料を元にして傭兵ギルドが判断したものだ。


「帝国航宙軍か?」


 傭兵ギルドが帝国内でこれ以上ない信用を置くクライアントとなると、真っ先に挙がるのは帝国航宙軍だろう。そもそも宙賊への懸賞金を払ってくれるのも帝国航宙軍だし、宙賊のアジトを制圧する時などは大口の依頼を出してくれる。半ば癒着しているのでは? と思ってしまうほどつーかーといかズブズブの関係であるはずだ。


『半分正解です』

「おい、俺は謎掛けをしているわけじゃ――」

『その上です』

「F◯ck」

『聞かなかったことにしておきます』


 その上? その上だって? その上って言ったらファッキンエンペラーしかいねぇじゃん! あの野郎、俺をどんな面白おかしい場所に放り込むつもりだ!?


『合流地点はクリーオン星系です。ベレベレム連邦との最前線にほど近い星系で、そこに設置されている帝国航宙軍の補給物資集積所で先方が手配した帝国航宙軍の艦隊と合流し、協働で帝国の兵站を脅かす『宙賊』を排除するのが依頼内容となります』


 小型情報端末から投影されるホログラムに目を走らせて内心溜息を吐く。案の定というかなんというか、合流する艦隊というのはセレナ大佐の対宙賊独立艦隊であった。相手が『宙賊』という時点で予想はついていたが、なんともはや。もはや腐れ縁だな。


「まだ受けるって言ってないが???」

『何か今すぐに動けない特別な事情があるのであれば考慮しますが、そうでないなら受けて頂きますよ。破格の条件の高報酬依頼です。キャプテン・ヒロ殿にとっても悪い話では無いと思いますが?』

「それはそうなんだけどなぁ……」


 提示されている条件を見て心が揺らぐ。弾薬費や補給は全部向こう持ち。その上で1000万エネルの固定報酬に敵艦の撃破報酬付き、鹵獲やサルベージも基本自由で、向こうが欲しいものは向こうに渡す必要があるけどその分はエネルで埋め合わせをしてくれる。拘束日数が三十日を超えた場合には一日当たり30万エネルの報酬が上乗せされる。任務内容も基本的には兵站を狙う『宙賊』への対処となるから、基本的には最前線ではない。状況次第では最前線の鉄火場に巻き込まれる可能性はあるが、これは紛争宙域で活動するなら当然のリスクだ。


「はぁ……とりあえず、受ける方向で話を進めてくれ。どちらにしても明日にはここを出る予定だったんだ。でも、覚えておけよ。俺は何よりも自由気ままな傭兵生活ってものを愛しているんだ。今回は折れるが、あまりに強権を振るわれると嫌になって逃げ出すかもしれないからな」

『ありがとうございます。先方にも可能な限りお伝えしておきます』


 そう言ってギルド職員のデイビットは通信を切断した。

 帝国内で活動する以上、文字通り帝国の最高権力者である皇帝陛下からの依頼を蹴るのはリスクが高い。これで傭兵ギルドが敵に回るというようなことは無いだろうが、クソでかい借りを作ることになるのは確実だ。それもまたあまりにリスクが高い。つまり、あのファッキンエンペラーが出張ってきている時点でほぼ詰んでいるのである。

 まぁ、思うところがない訳では無いが、別に俺は反権力の無政府主義者ってわけでもない。むしろ、長いものには巻かれる主義である。どうせ今回の依頼を蹴って逃げ出したところで別の厄介事に巻き込まれるに違いないのだ。それならば少しでも得があってリスクが低く、貸しを作れる方が良いだろう。


「次は最前線の自称『宙賊』狩りか……泣けるぜ」


 リーメイプライムコロニーの天井を見上げて思わず嘆く。きっとその宙賊はベレベレム連邦かその友好国の戦闘艦を使っていて、軍用装備満載で、練度も異常に高いんだろうな。鹵獲すれば良い金になりそうだなぁ、はっはっはっ……はぁ。

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― 新着の感想 ―
指名依頼を説明しましょう。…皇帝陛下との繋がりを強くする好機です。そちらにとっても、悪い話ではないと思いますが? …どっかのコ◯マ世界の企業仲介人が前世かな?
[一言] ヘイト侯爵令嬢2章振りの登場。 出てこないから、ヘイト分散していたw 婆さん、ドワーフ、俺っ娘 DEBAN村開拓完了。
[一言] 作品タイトルは「将来的」な目標 「自由気ままな根無し草生活が性に合ってる」ってのは「今」の心境 いくら負け無しでもいつかは傭兵を引退する事になるワケだからね。 「自由気ままな根無し草生活」…
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