#421 違うんです。信じて下さい。
次巻の原稿を書く時期が近づいてきた……!( ‘ᾥ’ )
「では勝利を祝して乾杯」
「乾杯っす!」
「かんぱいー!」
ブラディーズのアジトへの襲撃を終え、データストレージなどをハルトムートの部下達に引き渡してから凡そ一時間後。俺はハインツとジークを連れて施設へと戻り、子供達の面倒を見ていたアイリアとその子供達を交えてちょっと慰労のパーティー……というか食事会を執り行っていた。
「うまっ!? え、美味くないっすかこれ?」
「おいしー!」
食事会に並べられている食べ物はブラックロータスから運んできたもので、いずれもテツジンが作ったものである。施設には自動調理器が無く、今までは電子レンジ的な加熱調理機で温めるだけで食べられるレトルト食品を主に食べていたらしい。高性能な自動調理器であるテツジン・フィフスによって作られた料理の数々は子供達だけでなくジーク達にも驚きを齎したようだ。
「喜んでもらえたならわざわざブラックロータスから食い物を運んでもらった甲斐があったな」
「そんなことに軍用の戦闘ボットを使うのは兄貴くらいだと思いますけどね」
この料理を運んできたのはアジトへの襲撃に参加していた軍用戦闘ボット達であった。彼らはメイと一緒に一度ブラックロータスに帰還した後、背部のプラズマグレネードランチャーパックをカーゴパックに換装してこの施設まで食い物を届けてくれたのである。
アジトへの襲撃後、この食事会を思いついた俺はすぐにメイに連絡をして料理や装備換装の手配をしておいてもらったのだ。メイならブラックロータスを離れていてもテツジンや戦闘ボットの整備・換装システムにアクセスできるし、船に残ったクルーへの連絡も安心して任せられるからな。
「ヒロさん、ありがとうございます。子供達もとても喜んでいて……最近はずっと窮屈な思いをさせていたので」
「ええんやで。まぁついでだよ、ついで」
これは実際にそうで、最初に思いついた時点ではハインツとジークを連れてちょっと高級なお店に案内させて奢ってやろうと思っていたのだ。しかしそこでどうせなら施設の子供達にも美味いものを食わせてやったほうが良いのでは? と思い直し、こうして施設で食事会を行うことを決めたのである。
「ふふ……そういう言い方、本当にあの子にそっくりです」
「別に意識してるわけじゃないんだけどな」
ティーナとは馬が合うというか、一緒に過ごしてて楽だなと思うことが多いのはそういうお互いに似た部分があるからかもしれんな。偶に突飛もない行動を取ることもあるが、まぁそれは俺も同じことだし。うん、自覚はしているんだ。ただ、そういえばそうだったなと思うのは後から指摘されたり、自分の行動を思い返したりしている時なんだけど。
「とりあえずここを襲った連中に関してはメインのアジトと思われるところを潰して、その人員の大半を戦闘不能にした上でしょっ引かせたから暫くは安全だと思うが、一応気をつけてな」
「はい、ありがとうございます」
「あと、勝手に話を進めて悪いんだが、ここの面倒を新しい代官に見てもらえるよう頼んでる」
「えっ」
アイリアの目が点になった。うん、そうだよね。そう言えば勝手に話を進めるばかりで肝心のアイリアに全然、何も、一切この施設に対する保護工作の話をしてなかったわ。
「ここの後援をしていた組織は力を失ってしまったって話だし、そもそもなんというか裏稼業な連中だろう? 今回のパンデミックによる混乱を利用して新しい代官はこのコロニーのちょっとアレな部分を一掃する予定だし、そうなるとそもそもパンデミックが落ち着いてもここは後ろ盾を失うことになる。だから、勝手だとは思うがこっちで話を進めさせてもらった」
「えぇ……あの、大丈夫なんですか? この施設の権利者も後援をしていただいている組織の一つなんですけれど……」
「ハルトムートにはここの面倒を見ることの対価として色々と利益を供与しておいたから、心配はいらない。建物の権利に関しても必要なら分捕って正式に統治機構の預かりにするなり、アイリアのものにするなり良い感じに便宜を図ってくれる筈だ」
突然の俺の発言というか宣言にアイリアが滅茶苦茶焦っている。すまない、今思えば当事者を蚊帳の外にして殆ど決まりって段階まで話を進めてたわ。ままええやろ! 悪いことにはならんし!
「あ、あの、代官様って貴族の方……ですよね?」
「ああ、そうだな。なかなかのイケメンだったぞ」
一応俺もそうだが、今そんなことを言ってもアイリアの混乱が加速するだけなので賢く謙虚な俺は黙っておく。そもそも賢かったらアイリアを混乱させるような状況に陥らせることはないのでは? という突っ込みはノーセンキューだ。
「ほ、本当に大丈夫ですか? なにかの気まぐれでやっぱ支援するのやめただとか、気に入らないから全員斬り捨てるとか言いません?」
「アイリアの中の貴族ってのは一体どんだけ理不尽な存在なんだ……? ハルトムートは誠実そうな好青年だったから心配要らないと思うぞ。そんなに心配なら俺との約束を破ってアイリア達を酷く扱ったら俺がとんでもない復讐をすると匂わせておくから」
「そ、そんなことをして大丈夫なんですか……?」
「大丈夫だ、問題ない。何せ俺はプラチナランカー様だからな。プラチナランクの傭兵、というか傭兵ギルドを敵に回すような真似は大概の貴族は避けるし、何より俺を敵に回すのは良くないと今回の件で十分にわかってもらえていると思うから」
だが、もし万が一にも約束を反故にするようならこちらにも考えがある。傭兵ギルドや知己の貴族、最悪は王族を使ってハルトムートは信用ならない奴だと社会的に攻撃を仕掛けても良いし、なんならもっと直接的に貴族同士での決闘を申し込んでも良い。航宙戦に引き込むことができればまず負けないし、なんなら剣で決着をつけても良い。どちらにせよナメられたら殺すの精神だ。
「そうですか……でも、こんなに良くしてもらっても私に返せるものが何もなくって……」
そう言ってアイリアが俯く。ふむ、返すものね。アイリアは美人だし、体つきも……うん、良いね。とても魅力的だ。なので、それなら一晩とか思わなくもない。アイリアはちゃんとした大人の女性だし、分別もあるだろうからきっと後腐れなく楽しめるだろう。
ただまぁ、そんなことをした日にはうちの可愛いクルー達から白眼視されるのは確定的に明らかだ。もしかしたらハインツやジークにも悪い印象を与えるかもしれないし、そもそもどちらかと既に良い仲だったりするのかもしれない。やっぱり良くないよね、そういうのは。良くないと思っていても考えてしまうのもまた男の性というものなので許して欲しい。
「大丈夫だ、ティーナに沢山返してもらうから」
「ティーナに……あの、ええと……その、ヒロさんとティーナは……そういう?」
「どういう関係かと言われると、そういう関係だよ。いわゆる男女の親密な?」
「ティーナと……あの、もしかしてそういう趣味の……? リンダを連れて行ったのも……?」
こころなしかアイリアが俺の視界から子供達を守るような位置にすり足で移動しているような気がする。オーケーオーケー。まずは話し合おう。冷静に。
「違うから。ティーナと、あと妹のウィスカともそういう関係にはなってるけど俺はロリコンじゃないから。あの二人に手を出すのを決心するのにかなり時間かかったからね? 俺は正常だからね? 好き合った相手がたまたまそういう体型だっただけで。あと俺は誓ってリンダをそういう目で見てないから」
「そういえば、ヒロさん以外のクルーって皆さん女性の方でしたよね」
「……」
「……」
こころなしか、アイリアの俺を見る目が親切な傭兵さんからとんでもない女好きにランクダウンしたような気がする。事実だけど、事実だけども釈然としねぇ。
「何を言ってもダメそうだからこの話はやめよう。はい、やめやめ」
「……そうですね」
同意しつつも、アイリアの俺に対するジトッとした目つきは変わらない。しょんぼりである。ああ、そうだ。ティーナの連絡先を教えれば色々と誤解――誤解ではないかもしれない――を解いてもらえるのではないだろうか。後でティーナに連絡を取って、アイリアにティーナの連絡先を教えて良いか聞いてみよう。




