#420 フォースプッシュ!
デパルソ!_(:3」∠)_(違う
「どこのどいつか知らねぇが、うちにカチコミかけるたぁいい度胸だ! 生きたままバラして身体のパーツが欠けていくのを見せつけてやる!」
顔を真赤にした上に青筋もビキビキと立てた不健康そうな細マッチョ――いや、ガリマッチョ?――体脂肪率ゼロでひょろっとしてるけど、筋肉だけはついているという微妙に不自然な体型の男が唾を飛ばす勢いで捲し立てつつ、何やらバチバチと不穏な音を立てている棍棒のようなものを手に走り寄ってくる。
「ヒヤアァァァァッ! 貰ったああァァ!」
息を止め、時間を延ばす。世界のすべてが遅くなり、間延びしていく。そんな中で、生身の人体が出すにしてはそこそこの速度でガリマッチョが飛びかかってきている。
バチィッ! という耳を劈くスパーク音が鳴り響いた。その発生源は俺が手に持っているテスラガンである。青白い電光に胸を打たれたガリマッチョはもんどり打って倒れ――ない。
「おぉ?」
「くはっ……! この程度ぉ!」
「電撃対策でもしてんのか?」
ダメージがないわけではないようなので、二発、三発とテスラガンを打ち込む。
「ぎぇっ!? ちょっ! 待っ!?」
「いや待たんが」
結局五発打ち込んだところでガリマッチョはダウンした。全身から湯気が上がってこんがり焼けているように見えるんだが、生きているのだろうか? まぁ死んでたら死んでたでも構わないが。とはいえ、ザコってわけでもないようなので用心はしておくか。
「おい、さっき手錠みたいなのを拾ってたろ? かけとけ」
「うっす」
ジークがバッグの中からサイバーチックな形状の手錠を取り出して湯気を上げながら痙攣しているガリマッチョを拘束していく。あれ生きてるのか? 生命力が黒いアイツ並だな。
「今のがここのアタマかね?」
「どうでしょう。奴らの組織に関しては幹部やリーダーについてあまりよくわかっていないんですよ。ただ、今のやつは何度か顔を見たことがあるので、おそらくは幹部格だとは思いますが」
「そうか。頭の中身が無事なら良いんだがな」
テスラガンを五発も打ち込んだので、脳味噌の中身がトンだり熱が通り過ぎていたりしなければ良いんだが。まぁその時はその時か。
「ハインツはデータストレージの類を漁ってくれ」
「はい、兄貴……兄貴は?」
「俺はそういう仕事は苦手なんだ。なんというか戦闘全振りなんでな」
「なるほど……」
そういうのは概ねミミかメイに任せているからなぁ。日常生活レベルで機械を使うのに不便はしないが、ハッキング――というかクラッキングとか、繊細なデータ処理だとかは俺の手に余る。
「と、お客さんだな」
俺達が今いるのは構造体二階の奥にある袋小路の大部屋だ。退路は入ってきた扉しか無いのだが、そこへ敵味方識別信号がない複数の足音が近づいてきている。
「三……四人か。四人はちょっと困ったな。仕方ない」
テスラガンはあまり連射が効く武器ではないので、四人まとめて来られると一人無力化している間に他に撃たれかねない。それでも相手がふたりくらいならカバーを取って対処することもできるが、四人相手だとちょっと面倒だ。
「隠れてろ」
「うっす!」
「援護射撃くらいなら」
「要らん」
レーザーガンやレーザーライフルを手に部屋に飛び込んできた四人の賊相手にとりあえず一発テスラガンを撃ち込み、すかさず左手を突き出す。
「吹っ飛べ」
ほんの一瞬だけ賊どもの目の前の空間が歪み、その直後ドンッ! と何かが爆発したような音と共に衝撃波が発生した。目の前でその衝撃波をモロに浴びた賊どもがそのまま部屋の外へと吹っ飛んでいく。
そして、俺はそんな賊どもを追いかけて部屋の入口まで走り、まとめて吹っ飛ばされて団子になっている賊どもに対して容赦なくテスラガンを撃ち込む。ぎえぇとかぐえぇとか汚い悲鳴が聞こえてくるが、念入りに一人に一発撃ち込んでおいた。
「兄貴、今のは……?」
「パワーアーマーについてる指向性エネルギー兵器の試作品だ。カッコイイだろ?」
「凄かったっすね」
実はそんなものは真っ赤な嘘で、これはクギ監修のサイオニック訓練の成果の賜物なのだが。いわゆるフォースプッシュ的なアレである。ますますジ◯ダイの騎士っぽくなってきてしまったが、実際にそういうものなのだから仕方がない。
クギ曰く、俺の力の性質や規模を考えると鼻息レベルの些細な力の行使であるそうだが、実用レベルで使えるので俺的には十分である。ちなみに、こいつはジェ◯イの騎士のアレとは違い、ものを掴んだり引き寄せたりできるような便利な能力ではない。少なくとも、今のところは。
今俺ができる力の行使というのは指定地点に強力な『押し退ける力』を発生させることだけである。どちらかと言うと竜の血脈の主人公が最初に覚えるアレに近い。そのうち力の扱いが上手くなったら掴んだり引き寄せたりもできるようになるかもしれないが。
「兄貴、集めたデータはさっきの連中に渡せば良いですかね?」
「そうしてくれ。ロック解除して分析してってのは手に余るだろ?」
「できる伝手はありますが、カネも手間もかかるんで任せられるならその方が良いですね」
「ならそうしよう」
「兄貴ー、こんなもんがありましたよ」
そう言ってジークが部屋の隅の方から何かがパンパンに詰め込まれたバッグを持ってきた。中にはピンク色の粉が入った薬包のようなものが沢山入っている。
「なんだそりゃ?」
「アレっすよ、こいつらがばら撒いてるクスリっす」
「ああ、これが例の……分析用に一袋だけ持っていくかな」
「一袋で良いんすか?」
「お前これ使うのはやめとけよ? 重篤な感染症に罹っても次は助けんぞ」
「え、どういうことっすか」
「うちのドクターの話だと、原料のキノコの精製が甘いとこいつが新たな感染源になるそうだ。ああ、こいつの材料は十中八九今このコロニーを騒がせている感染源のキノコで、こいつの原料になってるキノコは流行病で死んだ人間の死体を苗床にしたやつだぞ」
「マジっすか……」
ジークがクスリの入ったバッグをテーブルの上において後退る。ついでにポケットから薬包をいくつか取り出してポイポイと口の開いたバッグの上に放り投げる。俺が言わなかったらこいつクスリキメてハッピーになるところだったな。
持ち帰っても今更有意義なデータを得られるとは思えんが、まぁ何かの足しにはなるかもしれんから持ち帰っておこう。ショーコ先生なら無害化してただハッピーになれるだけの安全なキノコにしてくれるかもしれん。してくれたところで扱いに困るが。
「マジだよ。今度は味方だ……制圧は終わりかな?」
味方の識別信号を出している人員がこちらへと向かってきていることをニンジャアーマーのセンサーが拾っている。あとは電撃で伸びてる連中を連行してもらって、データが入っていると思しき機器類を引き渡せばとりあえず襲撃は完了だな。
しかしテスラガンで撃たれてもピンピンしてたあのびっくり人間はなんだったんだろうな。薬物で興奮状態の人間は拳銃で撃たれてもナイフを持って向かってくることがある、なんてことを元の世界で聞くことはあったが、テスラガンの威力は元の世界で使われていたバネで飛ばした針を通して電撃を流す武器よりも強力な武器である。
そもそも、人体というのは強力な電流を流されてもピンピンしていられるようにできていない。痛みを根性で堪えるだとか、そういう次元の話ではないのだ。そりゃちょっと豊満過ぎて通りが悪いみたいなことはあり得るが、流石にあのガリマッチョがそうだとは思えん。何かしらの強化手術だとか、対策装備だとか、何かあったのではなかろうか。
もしかしたら電撃に強い特殊体質だったとか、普段から電撃で気持ちよくなっちゃう何かが趣味の人で頻繁にビリビリしてたとかかもしれんが。そういやなんか電撃棍棒みたいなものを武器にしてたな。暇な時にバチバチして遊んでたのかもしれん。しらんけど。
「撤収ですかね」
「そうなるだろうな。ブツの引き渡しの準備をしといてくれ」
「はい、兄貴」
何にせよまずは情報を引っこ抜くところからだな。データを引っこ抜くか、アタマから引っこ抜くかだが、すぐに終わるものでもあるまい。今日のところはここまでだな。




