#405 寂れた港
X4のDLCが来ましたね……( ˘ω˘ )(特に関連のない情報
『ご主人様、間もなくリーメイプライムコロニーに到着致します』
「はいよ。とにかく事故を起こさないように。ご安全に、だな」
『はい、ご主人様。安全に細心の注意を払います』
クリシュナのコックピットでメイとやりとりし、パイロットシートのシートベルトを解除する。ここまで来たら流石に緊急発進をすることはまずありえないからな。
実は、意外とコロニー周辺というのは危険区域なのである。それはそうだろう、大小様々な船がコロニー周辺にひしめき合うのだから。中にはレスタリアスのように全長1kmを超える大型船もいるし、ブラックロータスだってさほど小さい船というわけでもない。これでも400mはゆうに超える船なのだ。400m超と言えば地球の原子力空母よりデカいのである。
まぁ、そんな船を俺達みたいな少人数で運用できてしまうこの世界の艦船制御システムがどれだけ優れているのかという話なのだが。尤も、うちの場合はメイがその辺りを差配してくれているからという理由もある。彼女はとても有能なので。
「まずはいつも通りドッキングリクエストですね」
遅れてクリシュナへと乗り込んできていたミミがオペレーターシートでホログラムのインターフェースを起動し、ドッキングリクエストの準備を始める。
「特記事項にアレイン星系より医薬品を輸送、って書いておけば多分優先的にドッキングさせてくれると思うぞ」
「あ、そうですね。そうしておきます」
ホログラムで投影されているキーボードをミミの指が軽やかに叩いていく。技術が進んでも人が何かを入力する際のインターフェースとしてキーボードが使われているというのは感慨深いものがあるよな。まぁ、キーボードが物理的に存在するわけでなく、ホログラムになっているという点は技術が進歩している証なのであろうが。
「コロニーがどんな状況なのか、心配ですね。我が君」
「ソウダネー」
返事をしつつも、実は俺はあまり心配していない。件の病は治療されなかった場合は高い致死率を発揮するようだが、治療さえされればさほど恐れるようなものではないようだからな。コロニーの住人が十分に医療措置を受けられる体制が確立されているなら危機的状況には陥らないだろうし、グラッカン帝国のコロニーがそんなにお粗末な運営をしているはずが……いや、ミミが住んでいたターメーンプライムコロニーにもスラム街めいた区画があったな? 今まで見てきた限り、そういうコロニーは少なくなかったように思う。そう考えると意外と危ないのだろうか。
「生返事してる場合じゃないな。本当に意外と危ないのかもしれん」
考えてみれば、進んだ医療技術があってなおパンデミックの噂が流れ、実際にそうなっているのだ。俺達が二の轍を踏まないように対策はしっかりとしているものの、あまり楽観できる状況ではないのかもしれない。
「運んだ医療物資が役に立つと良いですね」
「そうだな」
どこの間抜けが最初に病を持ち込んだのかはわからんが、巻き込まれて苦しんでいる病人に罪は無いからな。俺達が運び込んだ医療物資が助けになれば良いというのは確かにその通りだ。
『ヒロ、まずは情報収集ね?』
「そうだな。そのためにまずは傭兵ギルドを当たるか。ミミとクギはメイと協力して他の情報源を当たってくれ」
「わかりました!」
「はい、我が君」
さて、動こうか。
☆★☆
ズドォン! と轟音が鳴り響き、スクリーン越しに外の様子を見ていなくてもブラックロータスが超光速ドライブ状態を解除したことが自ずと知れる。どうやら問題なくリーメイプライムコロニーへと辿り着いたようだ。
「ドッキングリクエストを送ってくれ。俺はエルマのアントリオンから傭兵ギルドに連絡をつける」
『わかりました!』
俺は、というとブラックロータスの艦内を経由してブラックロータスの外部ハッチにドッキング中のアントリオンへと向かっているところである。中型艦に分類されるアントリオンはブラックロータスのハンガーには入らないので、今回みたいな長距離移動の際には艦隊下方の外部ハッチにドッキングして行動しているのだ。
「へーい、ノックしてもしもーし」
『今開けるわ』
外部ハッチに辿り着いた俺はハッチからアクセス要請を出してアントリオンの中へと入る。傭兵ギルドと連絡を取るだけなら別にブラックロータスの休憩スペースでも構わないと言えば構わないんだが、初対面のギルド職員相手に広くて豪華に見える休憩スペースからこんにちは、というのも若干体面が悪い。なので、アントリオンのコックピットから通信をすることにしたのだ。クリシュナのコックピットはミミとクギに使ってもらうことにしたからな。
あっちはあっちで民間のニュースだとかコロニーの広報だとか、コロニー内のフォーラムサイトだとかから情報を収集してもらう予定だ。
「お疲れ様」
「そっちもな。とりあえず何事もなくコロニーに到着できて何よりだ」
アントリオンのコックピットに入ると、エルマが出迎えてくれた。まぁ、出迎えてくれたと言ってもメインパイロットシートを回転させてコックピットの入口側に向けていただけだが。
「見て、船の数がかなり少ないわ」
「パンデミックを起こしているコロニーにわざわざ寄り付こうって船はそりゃそう多くはないだろうしな」
下手をすればパンデミックの元となっている病原体を艦内に招き入れることになりかねない。そんなリスクを取るくらいなら他の安全なコロニーに向かう方が良いと考えるのが普通である。コックピットのメインスクリーンに映されている光景はその考えを証明するかの如き有様であった。
「スッカスカだな」
「ドッキングしている船は多いみたいだけどね。これは一回ドッキングするとなかなか離れられなくなるんじゃない?」
「可能性はあるなぁ。病原体を外に持ち出さないために安全認証を受けなきゃならないけど、その認証をするための人手が足りなくて安全認証を得られず出港できないとか」
「意図的だったりするかもね」
「船が止まっている限り停泊費用だの水、空気、食料だのとカネがコロニーに落ち続けるからな。流石にそんな阿漕な真似をしているとは思いたくないが……まぁ、そうなったらプラチナランカーの権限でも名誉子爵の特権でもなんでも使って出港するけど」
力というのはそういう時のためにあるのだ。必要とあらば使うことを躊躇するつもりはない。
「じゃあ予定通りドッキングする?」
「そうしないと結局医療物資を売りつけることもできないからな。何にせよまずは傭兵ギルドと連絡を取ろう」
エルマの隣、サブパイロットシートに腰を落ち着けつつ、サブパイロットシートのインターフェースを操作してリーメイプライムコロニーの傭兵ギルドに通信を行う。すると、程なくして通信が確立された。
『こちら傭兵ギルドリーメイ支部』
ホロディスプレイに怜悧な顔立ちの女性職員が投影される。やっぱり受付とかの外部対応職員は組織の顔になるからか、美人さんが多いよな。うちのクルー達には負けるが。
「どうも、キャプテン・ヒロだ。IDを照会してくれ」
「エルマよ、こっちも照会して」
俺とエルマはそれぞれの小型情報端末を使って身分証明の情報を送信した。何にせよ身分を明かして証明しないことには話が始まらないからな、こういうのは。
『確認致します……ようこそ、キャプテン・ヒロ様。それにエルマ様。プラチナランカーとその優秀なクルーをお迎え出来て光栄です』
そう言いつつ、女性職員の表情は全く動かない。表情の動かなさに関してはメイ並みだな、この人。
「アレイン星系から高度な医療物資を山ほど積んできた。ここで下ろすから仲介してくれ。依頼、出てるんじゃないか?」
『流石はプラチナランカー。ご慧眼ですね。有象無象はやれ宙賊狩りだ、賞金稼ぎだ、商人の護衛だ戦争の陣借りだと戦うことばかりに目を向けるというのに』
「結果としてエネルが稼げて助かる人が居るならそれで良いのにな。傭兵らしく戦って稼ごうが、商人紛いのことをして稼ごうが、エネルに色がつくわけじゃあるまいし」
『至言ですね。どう稼いでもエネルはエネルで、傭兵の本懐はエネルを稼ぐことですから。積み荷の目録を頂いても?』
「オーケー、今送る」
手元でインターフェースを操作し、積み荷の目録を送信する。
『……これはかなりの量ですね。ただ、積んでいる物資が少々問題では?』
「うちにはライセンス持ちの船医が居るんだ。今そっちにライセンスの情報を送らせる」
積んできた物資は専用のライセンスが無ければ取り扱いが違法になるものもあった。ひと目でそれを看破する辺り、この人はなかなか優秀だな。ショーコ先生にも通信に参加してもらい、ライセンスを確認してもらったところで商談に移る。
『現在調達を依頼されている物資に関しては全て賄えますね。それでもまだ余りますが、残りの物資についてもこちらで捌きますか?』
「とりあえず今は良い。領主とも話をする予定だから、そちらで使うかもしれないからな。それでも余った場合に頼めるか?」
『承知致しました。依頼分を納品できるだけでギルドとしては十分に顔が立ちますので。ありがとうございます』
「ああ。仕事の話が終わったところで情報を貰いたいんだが、良いかな?」
『はい。ギルドで掴んでいる情報ならばなんなりと』
よし、これで傭兵ギルドとの話はスムーズに進むだろう。




