#366 名状し難き三角錐
ぐえー、進まなかったンゴ_(:3」∠)_(でも更新したのでユルシテ
『映像を』
マテリアルプロジェクターによって生成され、シールドで守られた簡易指揮所の中でセレナ大佐が頭痛を堪えるような声を漏らす。オーダーメイドのパワーアーマーを着ていなかったらこめかみか眉間あたりを押さえていたかもしれんな、あれは。
『ハッ、映像送ります』
前線指揮官らしき男性の声とほぼ同時に簡易指揮所に設置されていたホロディスプレイに彼の視界と思しき映像が投影される。これが音声通信だけしか使えないような状況であれば正体不明とはなんだ報告は正確にしろ! とセレナ大佐がキレ散らかすところだったのだろうが、帝国航宙軍の技術レベルはこんなこともいとも容易くやってのける。
「……こりゃ確かに正体不明と言わざるをえんわな」
思わずポツリと呟く。
それは名状し難き物体であった。言うなればそれは三角錐である。鈍色に光る足だか手だかよくわからんものを動かして歩き、屹立する鉛色の三角錐だ。目のように見える紋様が表面に見られるが、それが事実感覚器としての目であるのかどうかは定かではない。
『……あのタマのお仲間でしょうかね』
「お父さんかお母さんか、あるいはお兄ちゃんかお姉ちゃんかもしれませんな、大佐殿」
『頭がどうにかなりそうです。とにかく例の機材でコンタクトを』
『了解』
対宙賊独立艦隊の海兵達がパラボラアンテナのようなものがついた一抱えほどの大きさの機材を用意し、アンテナ部分を三角錐に向ける。あの機械こそがショーコ先生達科学者と、うちの整備士姉妹が多言語翻訳インプラントのデータベースを応用して作った精神波を使った対話装置である。
残念ながらタマとの会話はあちら側に完全に拒否されたので成立しなかったが、連中が相互通信に使っている精神波の解読にはある程度成功し、クギとの精神波通信は完全に成功した。
電波などを用いた既存の科学技術による通信ではなく、精神波を用いた帝国史上初の通信装置なのだ――とウェルズ氏が息巻いていたが、それが凄いものなのかどうなのか俺には判断できん。クギの故郷である神聖帝国にはもっと凄いものがありそうに思えるしな。
『スクリーチ・オウルズの面々はアレを初めて見たそうです』
「あんなもんひと目見たら忘れられそうもないわな」
つまり、今まで一言もあの三角錐に関しての情報があちらから出なかったということは、今回俺達の訪問を受けてあちら側が何かしらの特殊なアクションを起こしたということなのだろう。
「つまり、アレは状況をある程度正確に把握し、それに対して何かしらスペシャルなアクションを起こせる程度の知性を持つ物体、ないしそういった存在の手先なり行動ユニットなりということですな、大佐殿」
『……胃が痛くなってきました』
純白の騎士鎧めいたパアーアーマーがガッキンゴリゴリと音を立てながら自分の腹部を撫でる様は、なんというかコメディを感じるな。折角の純白の装甲に傷が付きますぞ。
『大佐、目標に動きが』
帝国海兵標準のパワーアーマーを装着したロビットソン大尉の言葉でホロディスプレイに視線を戻すと、三角錐の一部が分離して宙に浮いていた。もしかしたらアレは小さな三角錐の群体めいた存在なのかもしれない。
まぁ、今はそんな生態観察に思いを馳せるよりも、その行動が何を意味するのかを警戒したほうが良さそうな状況ではある。友好的なアクションだと良いんだけど、どうにもそう思えないんだよなぁ。
『シールドを展開せよ。最大出力』
『アイアイマム、シールド展開します』
海兵達が陣地防御用の可搬型シールドジェネレーターを起動した瞬間、衝撃が襲いかかってきた。
【控えよ】という思念と共に。
『ガ――ッ!?』
『ぐぅ――ッ!?』
ホロディスプレイに映る映像が激しく動いて地面を映し、簡易指揮所内に居たセレナ大佐達も頭を押さえて跪く。前衛であの三角錐と対峙していた兵達は倒れ、軽く3km以上は離れた場所にある簡易指揮所の人々も衝撃で膝をついたというわけだ。
俺以外。
「……大丈夫ですか?」
『……どうして貴方は無事なんですか?』
「体質のようなもので」
事実そうなのでそうとしか言いようがない。『目』とやらが開いた結果、俺は垂れ流しであったサイオニックパワーを身体に留めることができるようになり、今までにも増してサイオニック系の『攻撃』に対する耐性が大きく上がった――らしい。今始めて実感したが。
『何なのですか、今のは』
「皆目検討も。控えよ、と聞こえたんで大出力のテレパシーとかですかね」
ホロディスプレイが据え付けられたテーブルに手を付きながら立ち上がるセレナ大佐にそう言って肩を竦めてみせる。パワーアーマーを着たままこんな動作ができてしまう辺り、流石はオーダーメイドといったところだろうか。
『控えよ? なんと尊大な……というか、貴方はあのノイズらしきものを理解できたのですか?』
「ノイズ? いや、普通に言葉だったと……あぁ」
そういえば俺の頭は多言語翻訳インプラントが入っていないのに大抵の言葉を理解することができるという特別製なのだった。これが異世界転移だか転生だかのお約束なのだかどうかは分からないが、少なくとも多言語翻訳インプラントは先程の強大な精神波に対しては仕事をしなかったらしい。
「俺のは特別製なんで」
そう言って自分のパワーアーマーのヘルメット部分を指先でコンコンと突くと、セレナ大佐は呆れたような声を上げた。
『体質もインプラントも特別製で、未強化で帝国貴族に匹敵する剣士で、なおかつ凄腕の戦闘艦パイロットですか。ご職業はコミックヒーローで? まぁ、今はそれどころではありませんね』
「ご尤もで」
冗談を言い合っている暇があれば前線の様子を見るべきである。しかし悲しいことに前線の兵達は揃って気絶してしまったようで、誰も彼もが通信に応答しなかった。パワーアーマー越しに観測されるバイタルサインは落ち着いているので、命に別条はないらしい。
『ディスプレイサー作動。兵の意識を覚醒させなさい』
『ディスプレイサー作動完了。パワーアーマーのメディカルデバイスによる意識の覚醒……失敗、バイタルサインに異常はありませんが昏睡状態です』
『厄介な……神聖帝国の精鋭兵は超能力で敵の意識を破壊すると聞きますが、それと似た状態ですか』
意識を破壊? なにそれ怖……精神を崩壊させてくるってことか? 凶悪過ぎんか?
『仕方がありません……キャプテン・ヒロ』
「聞きたくないですが、なんでしょうか?」
『この場でアレと対峙できそうなのは貴方だけであるようです。前線に移動してアレとの対話を試みて下さい』
「……戦闘ボットは健在なのだから、もうぶっ飛ばしてしまえば良いのでは?」
ホロディスプレイに映る光景は前線の兵士のものから随伴していた戦闘ボットのものに切り替わっている。戦闘ボットに関しては何の問題もなく動作し、制御も掌握できているようなので、あの三角錐氏におかれましては超合金ロボの暴威によって現世から退場して頂けば良いのではなかろうか?
『アレに知性がある可能性を示唆したのは貴方でしょう。アレが未知の知性体なのであれば、グラッカン帝国としては平和裏なコンタクトを試みざるを得ません。残念ながら』
「だからといって傭兵の俺がそれを担当するのは筋が違うのでは?」
『貴方はグラッカン帝国航宙軍の軍人ではありませんが、今この瞬間はグラッカン帝国航宙軍に報酬で雇われている傭兵です。クライアントの命には従ってもらいます』
純白の鎧を纏った騎士様がそう断言する。
畜生め。やっぱり惑星降下なんて断固として断ればよかった。




