#317 貴族御用達のアーマー店
久々にPC前でガッツリ寝落ちして朝を迎えました( ‘ᾥ’ )
かくしてエルンスト義兄さんに紹介された店へと足を運んだのだが。
「いらっしゃいませ」
俺達を出迎えたのは執事のような格好をした初老の男性であった。店内の雰囲気はパワーアーマーショップというよりは高級な仕立て屋のような印象だ。床には落ち着いた色のカーペットが敷かれ、そのカーペットの上にはチリ一つ落ちていない。店内には木製か、少なくともそう見える調度が多く見られ、こういった店内にはありがちな大量のホロディスプレイなども見当たらない。
まぁ、ありがちとは言っても俺が足を踏み入れたことのあるこの手の店というのはガンショップくらいしかないのだが。俺が入ったことのあるガンショップは大量のホロディスプレイに様々なメーカーの様々な商品が目まぐるしく展示されている、という店だったので、この店の視覚的に落ち着いた情景というのは逆に落ち着かない感じがする。
「失礼ですが、初めてのお客様ですね?」
「ああ、紹介状がある」
そう言って俺は小型情報端末を操作してエルンスト義兄さんから貰った紹介状のデータを送信した。データを受け取った店員と思しき男性はそのデータをタブレット型の端末で受け取り、仔細を確認する。
「なるほど、ウィルローズ子爵家の」
そう言って店員――いや、店主だろうか? 彼はチラリとエルマに視線を向けた。視線を向けられたエルマは小さく肩を竦めてみせる。
「貴方様のことは存じ上げております、キャプテン・ヒロ」
「ふむ?」
「このウィンダス星系でもリアルタイムで御前試合は中継されていたので。御前試合には私どもを重用して下さるお客様も出場していたのですよ」
「なるほど、それなら悪いことをしたかな?」
結局あの御前試合では全ての種目で俺が優勝した。つまり、その重陽して下さるお客様も俺の手にかかるか、あるいは他のトーナメント出場者の手にかかるかして敗北した筈なのだ。
「正々堂々とした勝負の結果ですから、含むところなど勿論ございませんとも。それよりも敬服の念を抱くばかりです」
「そうか。まぁ、挨拶はこれくらいにして本題に入ろうか。知っての通り俺は粗野な傭兵なんでね。お上品な世間話は苦手なんだよ」
「承知致しました。お嬢様方もどうぞこちらへ」
そう言って彼は少し奥まった場所にある商談スペースへと案内された。流石に帝城と比べれば数段落ちるが、それでも中々に高級な作りの商談スペースである。シップヤードのラウンジも豪華と言える作りだったが、こちらはちょっと方向性が違うな。あちらは最新、快適をテーマにしているが、こちらは高級、アンティークをテーマにしている感じだ。
「私どもの店にご来店いただいたということは、取り扱っている商品についての説明は必要ありませんかな?」
中々に座り心地の良いソファに俺達が腰を落ち着けたのを見届けた彼は自らも対面の椅子に座り、そう問いかけてきた。俺は彼の問いに首を横に振る。
「いいや、俺が知っているパワーアーマーってのは通常の歩兵用のものだけだからな。貴族用のパワーアーマーってのがどんなものなのかは全然知らないんで、説明もしてくれるとありがたいね」
「承知致しました」
彼はそう言って頷き、指先で自分のタブレットを操作した。すると、木製にしか見えないアンティーク調のテーブルの上にホロディスプレイが立ち上がる。ただの木製テーブルに見えるが、実のところそういう見た目なだけのホロディスプレイ内蔵テーブルであるらしい。
「私どもが扱っているのはオーダーメイドのパワーアーマーです。発注されるお客様の体格や要望など完璧に沿った唯一無二の一品をお届けするのが私どもの仕事であると自負しております」
「なるほど。でも、お高いんでしょう?」
冗談のつもりでそう言ったのだが、彼は真面目な表情で頷いた。
「当然、お値段は張ります。最低でも20万エネルはくだりますまい」
「ほーん……まぁそれくらいなら大した金額でもないな」
警戒して損をした。これで200万エネルからとか言われたら流石にぎょっとするところだったが、20万エネルからということであればどんなに欲しい機能や性能を盛りに盛ってもその十倍にはなるまい。そんな俺の発言に店主らしき初老の男性は目を丸くした。
「これでも儲けてる方なんでね。それに、いくら高いって言っても船に比べればな?」
「まぁ、そうね。最低クラスの船でもフル改造しようと思えばその十倍の金額は軽く吹き飛ぶわけだし」
「なんともはや……」
俺とエルマの発言に男性は驚きを禁じえないようである。市販のパワーアーマーだと最高クラスのものでも10万エネルも出せば手が届くものな。型落ちの中古品とかだと下手すりゃ1万エネルもしない。そんなパワーアーマー市場の事情を考えれば、最低でも20万エネルというのは確かに高額なのだろう。それだけ出せば最新の高性能パワーアーマーが二着買えるし、スタンダードな品質のものなら四着か五着は買える。品質に目を瞑れば一個小隊とまでは行かないだろうが、十着以上のパワーアーマーを揃えることも可能だろう。
「というわけで資金面の心配はいらない。だから一番良い装備を頼むぞ?」
「承知致しました。これは思わぬ大商いになりそうですな」
そう言って彼はニンマリと実に嬉しそうな笑みを浮かべてみせた。
「基本的な機能としては通常のパワーアーマーと変わりません。つまり強靭とは言えない生身の体を守るための装甲を獲得し、その装甲を纏った上でも十全に動き回るためのパワーも獲得する。場合によってはジャンプユニットや光学迷彩機能、固定武装による火力の獲得などを選択する場合もあります」
彼がタブレットを操作すると、テーブルの上に展開されたホロディスプレイに様々なデザインのパワーアーマーが表示された。どのパワーアーマーも市販のパワーアーマーよりかなりスリムな作りに見える。
「市販品と比べるとかなりスリムだな」
「装着者様の身体に合わせて作られておりますからな。市販品のパワーアーマーはある程度体格に違いがあっても問題なく装着できるようになっておりますが、こうしたオーダーメイドパワーアーマーはそうはいきません。完全にその方の専用機というわけですな」
「なるほど。体型が大きく変わってしまうと装着が難しくなりそうだな」
一番ありそうなのは太ってしまった場合とかだな。まぁ、今まで通りしっかり運動していれば俺にその心配は無いと思うが。成長期だってとっくに終わってるから背が伸びるようなことも無いだろうし。
「貴族はあまり理想的な体型から変わることがないから、そういう心配はいらないのよね」
「強化処置の恩恵か……」
「……ヒロ様、私ちょっと強化処置を受けたくなってきました」
ミミがエルマのスリムなお腹周りを見て呟く。ミミはこれでかなり運動を頑張っている。最初は五回腕立て伏せするのも難しいような非力具合だったが、今は軽く二十回はこなしているしな。全体の運動強度も最初とは比べ物にならないほどになっている筈だ。ミミ的にはもっと痩せたいらしいが、俺は今のままで良いと思う。寧ろもう少し肉付きが良くても……いや、今はミミの体型の話は置いておこう。
「貴族用ってことは、勿論剣を使った戦闘を想定しているんだよな?」
「はい。各関節の動きを阻害しないよう、最新の技術を使って着心地の改善に取り組んでおります。やはり剣を使いますか」
「それが目的だからな。戦闘用のパワーアーマーはあるんだが、どうしても剣を扱うのには向かなくてな。主に精密動作性の関係で」
「確かに、パワー重視の市販のアーマーでは繊細な動作を必要とする剣技は扱えませんな。私どもが作るアーマーはその点においてもきっとご満足頂けるかと思います」
かなり自信がある口ぶりだな。これで大金をかけて使い物にならなかったらどうしてくれようか。
「注文の流れはどんな形になるんだ?」
「まずは大まかな仕様を決めて、それから採寸と計測ですな」
「採寸はともかく、計測?」
「はい。お客様の戦闘時の動きを予めトレースしておき、その補助をできるようアーマーにモーションデータを入れておくのです。そうすることによってアーマーのアシスト効率が上がります」
「なるほど」
わかるようなわからないような。まぁそれでアーマーがより使えるものになるのであれば計測でもなんでもしようじゃないか。何にせよ、まずは仕様を決めるところからだな。




