#309 外野がうるさい
遅れました( ˘ω˘ )(とうとう居直るクズ
「ありがとうございます。それでは速やかに納品できるよう全力を尽くしますので」
「はいよ。俺としては速さよりも良い仕事を期待するよ」
「承知致しました。不備などがないように徹底するように言っておきます」
そう言ってオータム氏はホクホク顔でブースへと戻っていった。今回、エルマの船――アントリオンの購入にかかった金額は総額で凡そ1300万エネルだ。中型艦なので流石にブラックロータスよりもかなり安い。標準的な中型艦を一隻仕上げる費用としてはほどほどといったところか? いや、軍用装備で全身を固めてこの値段ならかなりお得だな。
内訳としては本体価格が500万、ハイグレードの軍用装甲への換装費用が400万、軍用高出力スラスターへの換装費用が100万、軍用高出力レーザービームエミッター他、武装に150万、その他生命維持装置や医療ポッド、内装の変更などに100万といったところだ。
あとはついでとばかりにブラックロータスの武装やジェネレーターも通常流通品から軍用の高出力品に換装することにした。こちらは換装する数が多いのと、高額なジェネレーターの換装ということもあって凡そ1200万とエルマのアントリオン並みの金額が吹き飛ぶことになった。
アントリオンはジェネレーターが最初から専用の高出力品なのと、グラヴィティ・ジャマーや大容量キャパシターの金額は本体価格に含まれていたからかなり安く済んだな。その代わりに運用データをイデアル・スターウェイ社に提出することになったが、それはメイがやってくれるということなので面倒もない。その分メイには今度何か埋め合わせをしなくちゃな。
「なんだかトントン拍子に決まっちゃいましたけど、他社製品を検討しなくても良かったんですか?」
「そりゃそうなんだが、見たことも聞いたこともないユニークな装備を見せられるとなぁ」
「最悪、使えなかったら売り払って他の船を買い直せば良いからね」
「えっ……良いんですか? それ」
エルマの身も蓋もない発言にミミが困惑する。
「ここでおおっぴらに私達に売りつけてくるってことは、恐らく同業他社にもある程度知れ渡ってる装備なんだろうと思うぞ。一般に流通していないのは恐らく間違いないし、性質から考えて一般に流通するかどうかはかなり怪しい装備だけどな」
「恐らく特殊な用途の軍用装備……非正規戦部隊用かしら?」
「対象を逃さないようにして確実に仕留めるための装備だからなぁ。案外セレナ中佐の対宙賊独立艦隊向けとか、あるいはセレナ中佐の対宙賊独立艦隊の成功を受けて帝国航宙軍で専用の部署を作るのかもな」
「その新部署向けの特殊装備ってこと? まぁ、あり得なくもないかしらね」
セレナ中佐の耐宙賊独立部隊が帝国航宙軍の内部でどのように評価されているのかはわからないが、俺達が知る限りは連戦連勝かつ一定以上の成果を挙げているように思える。同じコンセプトで動く複数の艦隊を編成して、それらをまとめる一つの部署というか艦隊? 軍団? を立ち上げるのかもしれない。グラヴィティ・ジャマーがそういった部隊向けの装備って可能性は十分にありえる。
そして、運用データを効率的に手に入れるために宙賊をメインターゲットにしている傭兵に大して装備を供給するというのも理に適っているように思う。イデアル・スターウェイ社とその背後にいる帝国航宙軍にどのような思惑があるのかは推し量ることしかできないが、まぁ当たらずとも遠からずといったところではないかな。
「とにかく、ある程度知れ渡っている装備なら別に売り払っても問題ないだろう。何ならイデアルが買い上げてくれるんじゃないかな」
「他社に渡すくらいならうちで回収しますってことになるかもしれないわね。まぁ、どう考えても有用な装備だから、船の性能自体には多少目を瞑っても良いと思うわ」
そう言ってエルマが肩を竦める。実際のところ、アントリオンの性能はグラヴィティ・ジャマーと大容量キャパシターが特別なだけで、中型戦闘艦としては凡庸と表現しても差し支えない。もっと火力の高い船も、もっと足の速い船も、もっと防御の暑い船も、もっと拡張性に富む船もいくらでもある。しかし何にも代え難いグラヴィティ・ジャマーというアドバンテージは大きいし、船の性能自体も文句を言うほどのものではない。そこそこに火力があり、そこそこに足が早く、そこそこに防御力もある。
拡張性が低い固定装備があるために拡張性には乏しいが、そこは特殊な装備とトレードオフの関係と考えれば欠点とは言えない。
「実際のところはアントリオンで決まりだと思うけどな。正直俺達に都合が良すぎるというか、求めるものに合致し過ぎていて気味が悪いが」
「同感ね」
「まぁ、そこは兄さんの悪運っちゅうか運命力の為せる業やない?」
「いつもトラブルに巻き込まれる分、こういう利点もあるってことですかね?」
「割に合わん気がするのは俺の気のせいだろうか……?」
整備士姉妹のある種スピリチュアルな発言に思わず眉を顰める。それは逆に言えば、こういった幸運を拾った後に揺り戻しが来るということでは? こんなに都合の良い出来事が起こった後とか何が起こるのか怖すぎるんだが。クリシュナかブラックロータスに籠もって物忌みでもするか?
いや、閉じこもっていたら物忌みどころじゃねぇな。肉欲は断てないわ。
「船の方は目処がついたし、次はヒロの軽量型パワーアーマーでも探す?」
「それでも良いが、ブラックロータスも改修のために預けることになるから滞在の準備をした方が良いんじゃないか?」
「はい、それが宜しいかと」
「それじゃあ荷造りとホテルの手配ですね! ホテルの手配は任せてください!」
俺の言葉にメイが頷き、ホテルの手配と聞いてミミが自分の仕事ができたと勢いづく。
「あ、できればなんやけどうちの会社への出勤が楽なとこでお願いしてええかな?」
「お姉ちゃん、図々しいよ……」
「任せてください!」
ミミとティーナがキャッキャしながらホテル選びを始め、ウィスカも若干呆れながら一緒になってタブレット端末を覗き込み始める。メイは相変わらず澄ました顔で佇んでおり、エルマはというとなんだか難しげな表情をしていた。
「どうした?」
「いえ、なんていうか……改めて考えると高い買い物よねって」
「それはそうだな」
否定するようなことでもないので素直に頷いておく。1300万エネルという価格はエルマの言う通り高い買い物だ。正直に言えば値段相応の稼ぎを出すまでにどれだけの時間がかかるかもわからない。ランニングコストも考えれば相当な時間がかかることだろう。それでもクリシュナとブラックロータスの二隻で戦うより安全性は上がるはずだし、稼ぎも増えるはずだ。一度に動かせる船が三隻になれば単に宙賊を狩るだけでなく、何らかの依頼を受けて稼ぐということもやりやすくなるだろう。高い買い物ではあったが、俺は今回の買い物を無駄な買い物だとは思わない。
「お金を出したのはヒロだけど、私の船……よね」
「そうだな」
「なんて言ったら良いのかわからないけど……どうやって返したら良いのかしら」
「返す? 何を? 船を? なんで?」
エルマの訳のわからない物言いに頭の中が疑問符でいっぱいになる。お前は一体何を言っているんだ?
「いや、船じゃなくて……恩というかなんというか? ほら、私って結局ヒロに助けられっぱなしで、お金も返してないし……」
そう言ってエルマが難しい顔をしながらやり場のない感情を表すかのように手をわきわきとさせる。何それは。気でも練ってるの?
「うーん……まぁ確かに金は返して貰ってないと言うか、今更そんなものはどうでもいいんだが」
「どうでもいいってあのね……」
「俺の望みはエルマと一緒にいて……なんというか、今まで通りに面白おかしく? 傭兵生活を続けることなんだよな。それだけで俺は満足だから。だから金がどうとか、恩を返すとかはどうでもいいというか、十分に満たされているわけで」
お互いに顔を見合わせて唸る。多分、俺もエルマも同じような表情をしていると思う。
「なにあの。高度なイチャつきはなに?」
「高度、かなぁ?」
「ここはステイ。見守るところ……」
外野がなんかうるさいな。そしてミミは何故精神統一でもするかのように目を瞑っているのかね?
「とにかくそこはあまり深く気にしないでいつもどおりに」
「いつもどおりね」
「いや少し優しくしてくれるとかむしろ甘えてくれるとかはウェルカムだが」
「ぷっ……気が向いたらね」
そう言ってエルマは笑い、顔を寄せて俺の頬にキスをしてきた。後ろが煩いが、とにかくなんとなく俺の気持ちは伝わったようなのでヨシ! あとは気が向いてくれることを祈るばかりだな。エルマさんは気分屋だから。




