#302 新天地へ
気付いたら夜勤から帰ってきた友人と朝方まで遊んでいるこの生活を改めたい( ‘ᾥ’ )
だだっ広い休憩スペースに設置された大きなソファーに座り、俺の膝の上に頭を乗せてゴロゴロしているエルマの頭を撫でながら小型情報端末で情報収集を行う。ゲートウェイを使ってどの星系に行くかは決めているが、その星系でどういう風に行動するかまではまだ決めていなかったのだ。
「何見てるの」
「んー? ウィンダス星系に社屋を置いてるハイテク企業の一覧」
そうしていると、ジトッとした目でエルマが俺の顔を見上げてきたので、小型情報端末の画面を見せてやった――のだが、エルマは俺の腕を横に退けてじっとりと俺を睨みつけてきた。
「私を膝に乗せているのに、私じゃなくて小型情報端末にうつつを抜かすのはどうなのかしら」
「うわぁめんどくさいかわいい」
「ちょっとめんどくさいってなによー」
唇を尖らせるエルマの頭を撫でながら小型情報端末を横に放り投げる。今日はとことん甘えモードらしいので付き合ってやるとしよう。
「まぁ実際エルマはずっと気を張っててくれたしな。今日はとことんサービス致しましょう」
「そうそう、それでいいのよそれで」
一転して満足げな表情になるエルマ可愛いな。さてどうしてやろうか。まぁ時間はいくらでもあるのだし、特にあれをやろうこれをやろうとあくせくすることも無いか。
小型情報端末をちょいちょいと弄り、休憩スペースの証明を少し薄暗くしてホロディスプレイを立ち上げて森の風景と環境音を記録したホロ動画を再生する。
「……なんかジジババくさいチョイスね。苔でも生えてきそう」
「よーしそれじゃあミミオススメのデスメタルでも流すか」
「やめなさい」
ちなみにミミは音楽の趣味が多彩なだけでメタルやロックばかり聴いているわけではない。俺からすると変な音楽が多いように思うのだが、まぁミミの感性は割と独特だからこんなもんかとも思っている。
「別にジジババくさくてものんびりできるなら良いだろ。こうして特に何かすることもなくただぼーっと過ごすのは最高に贅沢な時間の使い方だ」
「そうかもね」
それから暫くエルマと軽くイチャイチャしながら過ごした。こうして甘えてくるエルマは実に可愛いなぁ。
☆★☆
数日待機し、ようやく目的地であるウィンダス星系へと移動できることになった。
え? この数日はどう過ごしてたかって? そりゃやることがあるわけでもなし、ブラックロータスの船内で皆と楽しく過ごしていたよ。ここのところずっと気を張っていたしな。久々のリラックスタイムで羽根を伸ばしてたってわけだ。
まぁその話は横に置いといて、ウィンダス星系は割と帝都に近い位置にある星系で、超大型の造船工廠が存在する帝国最大の造船基地星系だ。帝国航宙軍の作戦司令部などもウィンダス星系に置かれており、軍事、経済両面におけるグラッカン帝国の副都星系の一つである。
地理的――宇宙だが――な条件として、まずこの星系は豊富な鉱物資源を算出する小惑星帯や資源惑星が多く、更にハイパレーンで繋がっている周辺星系にも鉱物資源や各種触媒となるレアメタルなどを産出する星系が多い上、居住可能惑星まで複数存在するという好立地なのだ。比較的帝都から近いということもあり、開発が進んできたという経緯があるらしい。
「うーん、軍の作戦司令部かぁ……」
休憩スペースのホロディスプレイに大映しになっている目的地の星系情報を眺めながら呟く。
「また会いますかね?」
「タイミング的に居てもおかしくはないわね」
俺の座っているのと同じソファに座ったり、寝転んだりしながら同じ映像を見ているミミとエルマもそれぞれ苦笑いしたり、肩を竦めたりして見せた。
俺達が何のことを話しているのかと言うと、それはもう当然セレナ大佐のことである。彼女とは本当に何かと縁があるんだよな。先日も赤い旗宙賊団掃討作戦の指揮を彼女が執っており、その作戦が終わってから数週間。軍司令部に出頭して報告書を提出したり、艦隊の整備や補給を行なっていてもおかしくはない時期である。
「まぁ今から心配しても仕方がないな。会ったら会ったでまたかぁ……と思うだけの話だし」
「そうね。絶対に会うことになると思うけど」
「予感がしますよね」
「このやり取りも何回目だろうな」
本当にこの広い宇宙で何故俺達とセレナ大佐は何度も顔を合わせるのやら。ここまで来ると本当に運命的なものを感じるな。まぁ、今回もまた出会うと決まっているわけでもないけど。
「それで、ある意味今回の主役さん。手に入れる船の目星は付けてあるのか?」
「んー、いくつかはね。でも、最終的にはヒロの判断よね?」
「ああ、まぁそれはそうだな。俺もある程度の方針は決めてるけど、現地に行かないとわかんないことも多いからなぁ」
「たしかにそれはそうね。今はティーナとウィスカも居るし、整備方面の意見も聞きたいところではあるわよね」
「なるほど。私も勉強はしてるんですけど、正直まだまださっぱりなんですよね」
「船に関してはスペックだけが全てじゃないからなぁ。機体の重量バランスとか重心の位置、スラスターの配置なんかでも使い勝手が変わるから。まぁミミはシミュレーターで色々な船のシミュレーションをするのも大事だけど、ある程度慣れたら実機も飛ばしていかないとな」
今回ウィンダス星系を訪れた理由はいくつもあるのだが、その中でもメインとも言える目的はエルマ用の新しい船を見繕うことである。
後々のことを考えればいずれミミにも船を用意したいが、この船のハンガーは小型艦二隻までしか収容できないからなぁ。もし将来的にミミにも船を駆ってもらうということになると、母艦の買い替えも検討しなきゃならないかもしれん。まぁ、それも今すぐの話じゃないけども。
「でも、今回調達するのは船だけじゃないでしょ?」
「軽量級のパワーアーマーもだなぁ。正直、もうあんなのは二度とゴメンなんだが……今後も無いとは限らんからな」
テラフォーミング中の惑星に降下して酷い環境の中、生身で生物兵器の化け物共と切り結んだ記憶が蘇ってくる。相手が貴族だから剣でないと白兵戦で仕留めるのが難しい。だがあの状況下で降下して斬り結べそうなのが俺とセレナ中佐(当時)だけ。だから酷い環境の上に生物兵器も跋扈してるけど、剣を使えなくなるパワーアーマーは着ないで生身で来てね! とかマジで正気の沙汰じゃないからな。もう二度とやらん。
そう固く誓いたいのだが、また何かの拍子に同じ事態に陥る可能性はゼロじゃないからな。カネもパワーアーマーを保管するスペースもあるのだし、そういう事態に備えて着たままでも剣を使えるパワーアーマーを手に入れてしまおうというわけだ。
ただ、実際に俺の要望に合致したパワーアーマーがあるのかというとこれがちょっとわからない。基本的に白刃主義者と呼ばれる貴族達は高度なバイオテクノロジーやサイバネティクスで自分自身の身体を強化しているので、わざわざ身体の動きを制限するパワーアーマーを装備する人はそういないのだという。何ならパワーアーマーの装甲では貴族が使う剣――単分子の刃を持つモノソードの攻撃を防げないからな。
「良いものがあれば良いんだが、どうかな」
「下手にパワーアーマーを着るよりも生身のほうが強かったりしてね」
「ヒロ様なら有りえますよね」
「俺はそんなびっくり人間じゃ……いや否定できんな」
呼吸を止めると時の流れが鈍化するというか、俺の時間だけ加速するというような謎の能力を発揮する自分のことをびっくり人間の類ではないというのはかなり無理がある気がしてきた。最近は嫌な予感や危険を本能レベルで察するようになってきている気もするしな。
なんだろう、レベルでも上がってるのかね? ステータスオープンとか言ってみれば良い?
『ご主人様、まもなくゲートウェイによる移動を開始します』
「了解。操艦は任せる」
『はい、お任せ下さい』
ウィンダス星系の情報を表示していたホロディスプレイの画面が切り替わり、巨大なゲートウェイの画像が映し出された。うーん、相変わらずスケール感がおかしくなりそうなデカさだな。デカさだけなら前に討伐したマザー・クリスタルに匹敵する。いや、もっとデカイか? よくわからんな。とにかくデカい。
『突入を開始します』
一対の巨大構造物であるゲートウェイの間に光が集まり、空間の歪みのようなものが発生する。あれは人工的に作られ、制御された一種のワームホールのようなものであるらしい。細かい理論は全く理解できなかったが、とりあえずあの空間の歪みを通れば何千光年も離れた場所に一瞬で移動ができるというわけだ。なんだかわからんが使えるからとにかくヨシ!
一緒にウィンダス星系へと移動する他の艦船と共にブラックロータスがゲートウェイが作り出した人工ワームホールへと突入する。
さぁ、新天地だ。




