#295 策の成果
Q.遅かったですね?
A.ヘンダーソン氏の福音をが発売したから読んでました……_(:3」∠)_(責任をなすりつけるスタイル
クリシュナごとブラックロータスに乗り込み、そのままリーフィルⅣから宇宙に上がった俺達は真っ直ぐにリーフィルプライムコロニーへと向かった。
「着いてきてるか?」
「ごく小さいですけど、ブラックロータスの亜空間センサーには反応がありますね。ここです」
「ああ。着いてきてるわね、これ」
亜空間センサーは超光速航行中に超光速航行中の他の船の反応を捉えることができるセンサーだ。そのセンサーが俺達の後を追うように追随してきている小型航宙艦の反応を検知している。残念だったな、ブラックロータスを組む際にスペース・ドウェルグ社には「一番良い装備を頼む」と言ってあるんだ。いくら小型偵察艦と言ってもその反応を完全に隠して追尾することはできんよ。
「やっぱり粘着されてんなぁ。自分でもちょっと神経質になり過ぎたかと思っていた部分もあったんだが、やっぱどうにも予感が当たっている気がしてならんな」
「そうね。私もそう思ってたけど、この粘着っぷりを見るとちょっと笑えないわね」
「たまたまってことも無さそうですしね……」
亜空間センサーで捉えた情報によると、ブラックロータスを追尾している船の所属は傭兵ギルドで、船籍IDはシータ降下時に星系軍に協力していた偵察艦である。つまり、クリムゾン・ランス所属の偵察艦だな。
ちなみに、俺達は再びのクリシュナ内待機である。笑わば笑え。相手がこちらを殺し得るだけの能力を持っていることがわかっているのに油断するのはただの間抜けだ。
「でも、こうなると流石に胃が痛くなりそうですね。この先ずっとこの調子ですか?」
「いいや、ゲートウェイさえ超えてしまえばそれまでだな。今後クリムゾン・ランスの船をセンサーでキャッチした際にアラートを鳴らすようにしておけば問題はないさ。というか、今までだって後を尾けてくるような船には注意してただろ?」
「それはそうですね」
これは俺がSOLをプレイしていた時からの習慣のようなものだ。当然ながら、SOLはオンラインゲームであったので様々なプレイヤーがいた。俺のように緩く友人と繋がりつつソロでも楽しめるコンテンツで遊んでいた人もいれば、チームを組んで深宇宙探査や辺境探査、未探査惑星の調査をしていた人達もいる。
無論、中にはチームを組んで宙賊プレイをしていた人達もいる。そういう連中の常套手段は一見無実かつ無害に見える『戦闘能力は低いが足が早い偵察艦』などをコロニーの近くに置いて獲物を選び、対象の行動パターンを複数人で調査して襲撃ポイントを設定、実行する時には最大火力をもって短時間で獲物を撃破し、めぼしいものを漁って星系軍などが駆けつけて来る前に姿を眩ませるという方法だった。
今俺達の後ろにピッタリと張り付いてきている偵察艦の動きを見るに、やはりクリムゾン・ランスの連中に獲物として見られているとしか思えない。やはり手を打っておいて正解だったな。
『ご主人様、間もなくリーフィルプライムコロニーに到着します』
「了解。それじゃあ俺達の騎兵隊と合流するとしますかね」
☆★☆
「アイアン三人、ブロンズ四人、シルバー二人の計九人ね。まぁ上々じゃないか?」
「アイアンとブロンズは賑やかし程度にしか期待できないけどね」
「それでも宙賊に比べればずっと強いですよね?」
「そりゃそうだ。でも今回想定される相手はクリムゾン・ランスの連中だからな。まぁ、最悪俺達以外の誰かが逃走に成功するか、或いは俺達が逃げるための盾になってくれれば良いわけだし」
我ながらゲスいことを言っている自覚はあるが、そもそも有事の際はそう扱われるのが傭兵の仕事だしな。無論、そうならないように立ち回るつもりではあるが、それが必要となればそうすることを躊躇うつもりはない。
ちなみに、今回の依頼費用としてアイアンランクの傭兵は一日あたり3万エネル、ブロンズランクの傭兵は一日あたり5万エネル、シルバーランクの傭兵は一日あたり8万エネルを提示している。
出発時間は今からちょうど四時間後で、拘束日数はハイパーレーン内の航行時間を含めて丸二日――四十八時間を予定している。何もなければ二十四時間もあれば到着する筈だが、その場合でも二日分の報酬を支払う契約としてある。更に宙賊などを撃破した場合には賞金も戦利品も撃破者が総取り。自分の船に積めない分は可能な限りブラックロータスがスペースを提供するという良条件の依頼だ。
ゲートウェイがある目的星系はハイパーレーンで五星系先というさして遠くもない星系だし、リーフィル星系のように自然豊かな居住惑星がある星系に商船が来る理由といえば、ほぼ間違いなく居住惑星上で作られた作物や自然工芸品などの取引であるわけで、基本的にそういった商品のやりとりには短くとも一週間から二週間程度の時間がかかる。その間も傭兵を雇い続ける商人などいないので、このリーフィル星系まで民間商船を護衛してきた傭兵連中というのはこの星系から離れる依頼を求めている事が多いわけだ。その需要を見込んだ依頼を俺は傭兵ギルドに流したわけだな。
目的地であるゲートウェイがある星系というのは基本的に商取引が盛んな星系であることが殆どだし、帝国航宙軍も戦力を展開しているので治安も大変によろしい。治安が良くて商取引が多いということは民間商船の行き来も活発ということで、アイアンランカーやブロンズランカーにとってはメシの種が多い星系ということでもある。難易度低めの護衛依頼が多いからな。
シルバーランカーにとっても治安の良いゲートウェイ周辺星系から治安のあまりよろしくない辺境星系への護衛依頼が転がっている場所でもあるので、やはりメシの種には困りづらい星系である。実際、SOLでもゲートウェイ周辺の星系は栄えていたし、その辺りを根城にしているプレイヤーは大変に多かった。宙賊狩りをするにはちょっと平和すぎて都合が悪いから、最初の頃はともかくある程度慣れてからは俺はあまり近寄ることがなかったんだけどな。
「盾扱いは流石に酷いんじゃ……?」
「護衛依頼ってのはそういうもんよ。最低でも依頼主の船を逃がすのが傭兵の仕事だからね。上手く行けば襲われなくてもただ随行してるだけで万単位の報酬を得られるんだし。襲われた時だって時間さえ稼いでいれば星系軍が駆けつけてくるわけだしね」
「……なるほど」
「星系軍がすぐに駆けつけてこないような星系で宙賊に襲われて、それを返り討ちにできるようになったらブロンズランカー卒業ってところだな」
「……そう考えると、今回の依頼ってかなりブラックじゃないですか?」
おっと、気付いてしまったか。そう、今回俺が出した依頼は下手をすれば宙賊どころかゴールドランク傭兵団が襲いかかってくるかもしれない滅茶苦茶に危ない依頼である。しかし確実に襲ってくると確信しているわけではないのでその旨を依頼内容に記すことはできない。実際に奴らが襲ってくるかどうかは未知数だからな。そもそも俺達――というか俺の自意識過剰である可能性すらある。
「ミミ、世の中は不平等に出来ているものさ」
「美味しい話には裏があるってことね」
「それで良いんですか……?」
「俺達は正義のヒーローじゃなくて生き汚い傭兵だからな。まぁ、心配しなくてもこれだけ頭数を揃えれば仕掛けてくること自体無いと思うぞ」
そもそも、襲撃されるようならアイアンランカーの連中にはとっとと逃げて星系軍なり帝国航宙軍なりを呼んでもらうつもりだしな。俺達をただ殺すだけじゃなくて、捕らえて見せしめにしようってんならいきなり対艦反応魚雷とか反応弾頭ミサイルとかを湯水のようにぶち込んでくるような手は打たないはずだ。ならこっちはアイアンランカー達が逃げて応援を呼ぶ間だけ耐え忍べば良い。他にもその場で打てる手はいくつかあるしな。
結局のところ、星系軍や帝国航宙軍が異常を察知して駆けつけてくれればそれで良いんだ。何も星系軍を呼び寄せる方法は通信だけじゃないんだから、なんとでもなるし、してやるさ。




