#283 祭りの後
更新再開!( ˘ω˘ )
大規模宙賊団、赤い旗に大打撃を与え、深宇宙へと撤退させたことによってセレナ中佐が主導した赤い旗撃滅作戦はとりあえず終了することになった。
赤い旗宙賊団に大打撃を与えはしたものの首領を始めとした幹部連中は取り逃しており、また後半は赤い旗の連中がケツをまくって逃げ出してしまったために若干尻切れトンボ感のある結末となってしまった。しかし広範囲に影響力を及ぼしていた大規模宙賊団を大した被害もなく撃退したこと自体は快挙である。
『私としては不満の残る内容だったのですけどね』
と、セレナ中佐は別れ際にそう言っていたが、軍部や世論の評価はそう悪いものではないらしく、このまま行けば昇進もあるかもしれないという。もしかしたら次に会うときにはセレナ・ホールズ中佐ではなく大佐になっているかもしれないな。
「まぁ、表向きにはこんな感じだよな」
ブラックロータスの食堂のテーブルに頬杖を突きながらタブレット端末に表示されている記事を眺め、呟く。
「あはは……」
「あんま滅多なことを外に漏らしたりすんじゃないわよ?」
「当たり前だろ。そんな恐ろしいこと誰がするか」
記事に書かれていることはごく表面的な事柄と、作戦を主導した若き指揮官に対する賛辞のようなものばかりだ。まぁ、セレナ中佐はわかりやすい英雄、或いはアイドルとして上手い具合に帝国航宙軍に祭り上げられたわけだな。実際彼女には能力があるし、実家も太い。ただのお飾りになることもあるまいし、帝国航宙軍の方策は悪くないんじゃないかな。何より彼女は不正や腐敗を嫌う性質だし、今後の帝国航宙軍に欠かせない人材になっていくんじゃないだろうか。
「実際のところどうなのかね。今までの俺達の経験からすると、帝国航宙軍も若干きな臭い所あるよな?」
「そりゃ巨大な組織なんだから一枚岩とは行かないでしょ。人間三人集まれば派閥ができるって言うし」
「帝国臣民の私としては複雑な気分ですね」
生粋の貴族の令嬢で、なおかつ傭兵としての人生経験も豊富なエルマは当然という顔をしているが、少し前まで一般的かつ模範的な帝国臣民であったミミとしては帝国航宙軍の内部事情を垣間見てかなり複雑な気持ちを抱いてしまっているようだ。帝国臣民にとって国土と民の命を他国からの侵略や宙賊、宇宙怪獣から守ってくれる帝国航宙軍は正義のヒーローみたいな存在である。
そんな帝国航宙軍の内部に宙賊と繋がっている連中や利敵行為をしている連中が存在するようである、と推測できるモノを俺達は色々と見てきているからな。
クリスの親父さんとお袋さんを謀殺してダレインワルド家当主の座を奪おうとした――なんだっけ? 名前は忘れたけどクリスの叔父さんも帝国航宙軍の機密兵器をいくつか入手していたし、その後にも貴族関連の事件には大概帝国航宙軍の腐敗の痕跡が臭う。今回の撃滅作戦だって後半は異様に赤い旗の連中の動きが早かったから、もしかしたら軍内部から情報をリークしてた奴がいたのかもしれん。あの奇襲部隊の練度も軍隊並みだったしな。
「あの奇襲部隊については帝国航宙軍じゃなくてお隣のベレベレム連邦関係かもしれないけどな」
「それはそうね。まぁ、だとしたらベレベレム連邦の工作部隊が帝国領の奥深くまで浸透して破壊活動を行っていたってことになるわけだけど」
「それはそれで大変なことですね……外には漏らせませんね、これ」
「だから口止め料も込みで報酬が上乗せされているんだろうな」
今回の作戦で帝国航宙軍から支払われた報酬はなかなかの金額であった。とは言ってもフルカスタムのブラックロータスがもう一隻買えるような金額では全然ないけれども。それでも今までの貯金も合わせれば小型艦ならフルカスタムで購入して十分に余裕がある。
「例の船の調査結果は教えてくれないんですかね?」
「教えてくれないだろうし、知りたくないな。余計なことを知っても良いことなんて何もないぞ」
「そうよ。変なことに首を突っ込みすぎて軍関係の後ろ暗い仕事をやらされるのなんて嫌だからね、私は」
「君、もしくは君のクルーが捕えられ、あるいは殺されても、当局は一切関知しない。なお、このホロデータは自動的に消滅する、みたいな」
「それは嫌ですね……というかなんだかそのセリフ、どこかで聞き覚えがあるような」
「レトロムービーか何かじゃないの? ヒロのことだし」
正解です。コロニーに降りるとたまにレトロムービーのホロデータとかがデータチップに入って売ってるんだよな、安値で。小型情報端末やタブレット端末で見られるので、最近はレトロムービー入のデータチップを集めるのが密かな趣味になってきている。たまにわけのわからんクソムービーもあるが、まぁそれはそれで。
ミミやエルマ達とも結構一緒に見たりしている。ハイパーレーンを移動している間とか結構暇だしな。あとは休憩スペースとか部屋でゆっくりする時とか。別に自由時間だからって暇があれば励むってわけじゃないからね、俺も。一緒にゆっくりと過ごす時間も良いものだよ。
『ご主人様、間もなくリーフィル星系へと突入致します』
ブラックロータスでハイパーレーンを移動している間は流石にやることがなかったのでこうして食堂で駄弁っていたのだが、それもそろそろお開きの時間らしい。俺達がこうして寛いでいる間も艦を制御してくれるメイには本当に頭が上がらないな。リーフィル星系に着いたら時間を作って是非甘やかしてあげようと思う。
甘やかしているつもりで甘やかされていることが多いような気がするが、まぁそこには目を瞑っておこう。ちなみに、整備士姉妹はあーだこーだと話し合いながら例の船を修理中である。複数隻分の残骸を元に一隻の船を組み上げようとしているところだな。今の所上手く行きそうではあるらしい。
「クリシュナで待機するぞ。いつでも緊急発進できるようにな」
「はい。でも、随分と警戒してますね?」
席を立って歩き始める俺の後を着いてきながらミミが首を傾げる。
「念の為の用心よ。今回、レッドフラッグの連中を痛めつけたでしょう? その際に私達はそこそこに目立ってるからね」
実際、セレナ中佐ほどの扱いではないが俺達の活躍も記事に載っていたりする。御前試合で全戦勝利を収めたプラチナランカーの傭兵、キャプテン・ヒロも作戦に従事して活躍したとかちょっと書かれた程度だけど。
ただ、俺達は乾坤一擲の奇襲部隊を迎撃して敗走させているからな。逃げ延びた奇襲部隊の生き残りはまず間違いなく赤い旗の上層部に俺達のことを報告しているだろう。報告を受けた上層部は俺達の情報を集めたりもしたかもしれない。
「もしかして、復讐の対象になるってことですか?」
顔を青くしてそう聞いてくるミミに俺は肩を竦めてみせた。
「その可能性は否定できないな。赤い旗宙賊団の全戦力をもってしても帝国航宙軍に勝つことはできないが、プラチナランカーとはいえいち傭兵程度なら袋叩きにして見せしめにすることもできなくはない……と考えている可能性は十分にある」
「話題性も抜群だしね。私達、というかヒロは帝国全土に中継された御前試合で全勝したわけだし」
「そんな俺達を袋叩きにして捕らえて見せしめにすれば赤い旗宙賊団ここにあり、と力を示せるってわけだ」
「た、大変じゃないですか!? というか、だからここに移動してくるまで厳戒態勢だったんですね!?」
「そういうこと。ま、いつも通り何も変わらないわよ」
エルマはあっけらかんと言っているが、撃破されて機体ごと爆発四散したならともかく、船を拿捕されたり脱出ポッドを捕らえられたりしたら俺を含めてクルーの末路は想像もしたくないような状況になるのは間違いない。だからこそ最大限に警戒するわけだが。
「二人とも、間もなくリーフィル星系に着くからそのつもりでな」
「あーい」
「わかりました」
格納庫で作業をしている整備士姉妹に軽く声をかけてクリシュナに乗り込む。万が一があるとあの二人もタダでは済まないだろうからな、絶対に下手を踏むわけには行かない。
緊張した様子のミミがいつもの手順でセンサー系や通信系チェックをするのを横目に見ながら、エルマと一緒に機体のチェックを行う。機体の整備はティーナとウィスカがしっかりとやってくれているから調子は万全だ。
「……そう言えば、リーフィル星系って一番最初に宙賊を掃討済みですよね?」
「そうだな」
「それじゃあ、襲撃の可能性って殆ど無いんじゃないですか?」
「そうね。でも可能性は0%ではないわ」
「だから警戒するんだ」
クリシュナのコンソールを操作し、ブラックロータスのメインスクリーンの映像をクリシュナのメインスクリーンに投影する。ブラックロータスはまだハイパースペース内を航行中であるため、メインスクリーンには後方へと流れ去る極彩色のトンネル――ハイパーレーン内部の映像が投影された。
「相変わらずの景色だな。メイ、ハイパーレーン脱出次第全周囲警戒、いつでも武装を起動できるようにしておけ。格納庫ハッチの開放と電磁カタパルトによる射出もスタンバイだ」
『アイアイサー』
メイの返事を聞きながら、クリシュナのメインジェネレーターを起動し、即座に出撃できるように備えておく。ハイパーレーン脱出まで、5、4、3、2、1――。
『ハイパーレーン脱出完了。周囲に敵対的な艦船の反応なし』
「了解。警戒態勢を維持したままリーフィルプライムコロニーに向かってくれ」
『アイアイサー。超光速ドライブ、起動します』
あからさまな安堵の表情を浮かべながら深く息を吐くミミを横目に見ながら、俺も軽く息を吐く。暫くは気が抜けんな、これは。
Q.どうして当初の予定より一ヶ月以上も時間がかかったんですか?
A.予期せぬ原稿のブッキングが起きて精神的に死んでいました_(:3」∠)_(ユルシテ
Q.前回の更新を考えるとこっちじゃなくてあっちの更新では?
A.今気づいた( ‘ᾥ’ )(手遅れである




