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#277 もぬけの殻

ちょっと長め( ˘ω˘ )(遅れたのはゆるして

 移動命令発令後、艦隊は星系封鎖部隊と攻撃部隊に分けられてそのまま行動開始。リーフィル星系の隣に位置するシノスキア星系に到着後、俺達は攻撃部隊と共に宙賊の拠点へと真っ直ぐに向かった。


「今回はどうですかね?」

「どうかな。多分大した抵抗は無いと思うが」

「そうですか? リーフィル星系の様子はなんだかんだ伝わってそうですし、手ぐすね引いて待ち構えているんじゃ?」

「俺は多分殆どもぬけの殻なんじゃないかと思うけどな。エルマはどう思う?」


 首を傾げるミミにそう言ってエルマに話題を振ると、エルマは「そうね」と言って少し考えてから口を開いた。


「完全にもぬけの殻ってことは無いと思うけど、抵抗は少ないんじゃないかしら」

「エルマさんもヒロ様と同じように考えているんですね」

「いくら赤い旗の連中が宙賊としては大勢力だとは言っても、数を揃えた軍隊とまともにぶつかりあえるほどじゃあないからな。攻めてくるのがわかっているなら引き上げるべき物資を大急ぎで引き上げて逃げ出すさ」

「なるほど。それじゃあ今回も楽勝ってことですかね?」

「それはまた別の話だな。俺が宙賊なら嫌がらせを仕掛けていく」

「嫌がらせですか?」

「基地に軍が突入してきたら自爆するようにしておくとか、軍が布陣しそうな場所に機雷を仕掛けておくとかな。まぁ、それは隣か、もう一つ隣の星系じゃないかと思うけど」

「そうね。いきなりそんなことやろうって言っても人手も資材も準備が要るしね。多分すぐに使える嫌がらせの手段を実行しておくくらいでしょ」

「すぐに使える嫌がらせですか?」

「ミミ、宙賊基地には違法な品がいくらでもあるのよ。ヤバいものがたんまりとね」

「あ、嫌な予感がしてきました」

「歌う水晶は激レアアイテムだからそう手に入らんと思うが、何が出てくるかわからんのがなぁ……」


 突入部隊には同情する。通常のBC兵器なら可愛いものだが、この中にはもっとヤバいもんがいくらでもあるからなぁ。俺がSOL内で知った知識の範囲内でも枚挙に暇が無いし、この世界にはもっと危ないものが存在する可能性がある。

 具体的にどんなヤバい物があるのかと言うと、人間やその他の一定以上の知能がある生命体の死体に寄生して身体をグロテスクに改造してどんどん増えていくエネルギー生命体とか。死体に寄生して身体を改造、その身体で他の生命体を殺して更に増えるっていう映画のゾンビも真っ青のやべぇ生命体なんだよね、アレ。多分SOLでも某有名ゲームのオマージュとして登場させたんだろうが、あまりのクソ難易度にプレイヤー達は最終的に白兵戦で制圧することを諦め、イベントの舞台となった大型採掘船を丸ごと消し飛ばすことで決着とした。

 他にもやたらと殺傷能力の高い宇宙クモとか、体液が航宙艦の船体と装甲を溶かすほど強い分解能力を持っている殺人エイリアンとか色々あったな……ああ、ゾンビもあったなそういや。流石にレーザー兵器とパワーアーマーの物理的・生物化学防御能力の前に為す術もなく掃討されてたけど。


「普通に生物兵器の類とかはありそうよね。あと最悪なのは被害者がブービートラップにされてる場合かしら」

「被害者が?」

「あいつらの『商品』にされた人達に爆弾だの毒ガスだのもっと危ないものだのを仕掛けて、救助後にボンッ、とかね」


 そう言いながらエルマが手をパッと開いてみせる。


「えげつねぇなぁ……でも宙賊だしなぁ」


 あいつらときたら何でもアリだからな。奴らに凡そ理性とか倫理観といったものを期待してはいけない。


「兵隊さん達は大変ですね」

「それな。俺はセレナ中佐に何を言われても今回は絶対白兵戦はやらん」


 宙賊艦ならともかく、宙賊の拠点なんて何か飛び出してくるかわかったもんじゃないからな。何があっても突入はしたくないね。まぁ大概はちょっとした生物兵器が出てくるくらいで済むことが多いんだけどさ。


 およそ二時間後。


「汚え花火だなぁ……」

「案の定というかなんというか」

「うわぁ」


 コックピットのメインスクリーンには凄まじい砲火でガンガン消し飛ばされていく宙賊基地の映像が映っていた。

 うん、バッチリ俺達の予想通りだったんだ。

 今回の宙賊基地攻略戦は航宙戦闘に関してはすぐに完了した。宙賊艦は殆ど引き上げていて、宙賊拠点に設置されているタレットくらいしかまともに反撃してくるものがなかったからな。小型艦や中型艦の出る幕も無く、大型艦の砲撃だけでほとんど片がついた。

 問題は海兵部隊の突入した後で、奴ら『商品』に生物を理性のない化け物に変異させる薬剤というかウィルスのようなものを投与していったらしい。

 宙賊基地に突入した帝国航宙軍の海兵部隊は早々に人間やその他の種族が変異した生物兵器らしきものに遭遇。分析のために一時間ほど突入地点で防戦を行い、最終判断としてセレナ中佐は海兵部隊の即時撤退と遠距離砲撃による基地破壊という選択肢を選んだ。特に得るものが無さそうな突入作戦で、いたずらに兵力を損耗させるわけにはいかないという判断であったようだ。

 まぁそんなものをブービートラップとして用意していくくらいの余裕があったなら、データを保管している機器とかは念入りに破壊したか、データを引き上げるかをしていったことだろう。セレナ中佐の判断は妥当だと思う。

 で、その結果として開催されているのが目の前の静止目標射撃訓練である。小惑星を改造した宙賊基地が大口径レーザー砲の照射を受けて眩い光を放ちながらバンバン爆発していく光景はなかなかに圧巻だ。


「おっ、派手に爆発したぞ。酸素か燃料か弾薬にでも誘爆したのかねぇ」

「あんなに派手にやって大丈夫なんですか? 中で繁殖してたのがそこら中に飛び散るんじゃ」

「レーザー砲撃に晒された上に宇宙空間に飛び散ってまだ感染能力を有してるような生物兵器ってあるのかしらね?」

「さぁ? あったとしてもシールドに阻まれて船体に取り付くのは不可能だろうな。巡航出力のシールドに接触した時点で消し飛ぶんじゃね?」

「そう言われればそうですね」


 寄港中や地上に降下した際に張るセキュリティ出力のシールドに接触しても精々痺れたり火傷したりする程度だが、宇宙空間を往く際の航宙艦用シールドに生身で接触したら殆どの生体は無事ではいられない。例外は結晶生命体とかの一部の宇宙航行生物くらいだろう。ああ、メイならワンチャンあるかもしれん。多分服と外装――メイを人間らしい外見にしている人工皮膚の類は全部剥がれることになると思うが。


「しかし今回は美味しいとこなしだな」

「宙賊艦も殆ど出てきませんでしたから、賞金も鹵獲品も稼げてないですね」

「拘束されてる分の給料は入ってくるけどね。まぁ良いじゃない、楽してお金が転がり込んでくると思えば悪いことじゃないでしょ?」

「それはそうなんだけどなぁ……」

「何か心配事が?」

「今回楽ってことは、次の星系が心配でな。宙賊だって馬鹿じゃない。何かしらの手は打ってくるだろう。やられっぱなしの舐められっぱなしってわけにはあっちもいかないだろうしな」

「なるほど。それはそうですね」


 問題は、宙賊がどんな手を使ってくるかだな。正規軍同士の戦争じゃ絶対にやらないような手を使ってきても何もおかしくない。


「ヒロ様が宙賊ならどうやって対処しますか?」

「俺なら逃げの一手だが、それだけじゃ宙賊仲間にビビって逃げたと思われるだろうな。それが最適解だとしても、大規模宙賊団という立ち位置がそれを不可能にすることだってある。せめて何か軍に一泡吹かせてやる必要があるわけだが……」


 とは言っても赤い旗が航宙戦で正規軍と真っ向からやりあっても勝ち目はない。そうなると当然搦手で来るだろうが、さて。


「俺なら前にベレベレム連邦軍にやったみたいに歌う水晶とかを使って強大な第三勢力を呼び込むが、都合よくそんなものを持っているとは限らないしな」

「それもそうだけど、あの手の危険物は敵集団のど真ん中で使わないと意味が無いわ。ヒロみたいに単艦で帝国航宙軍の布陣の中枢まで飛び込めるようなパイロットと機体が揃わないと難しいと思うわよ」

「確かに。そうなるとヒロ様が言っていた機雷とかですかね?」

「反応弾頭を使った機雷を山程散布してたりする可能性はあるな。或いは反応弾頭を積んだシーカーミサイルで飽和攻撃とか仕掛けてくるかもしれん」


 反応弾頭そのものは所謂枯れた技術というやつらしいからな。とっくにその製造方法やら何やらは広まっているし、ちょっとした工作機械――この世界の技術基準のもので――があれば、製造そのものは容易いと聞く。

 反応弾頭の材料となる素材は表では販売規制があってそう簡単に手に入るものではないらしいが、宙賊なら取引そのものが違法となるような素材も入手は難しくないだろう。やろうと思えば地球の紛争地帯で蔓延っていた世界一製造されたアサルトライフル並みに生産することが可能だと思う。

 それでも宙賊が反応弾頭を用いたミサイルや魚雷の類を使わないのは、威力が強すぎて戦利品ごと獲物を吹っ飛ばしてしまうからである。俺が宙賊艦相手に反応弾頭魚雷を滅多に使わないのと同じ理由だ。

 だが、宙賊も強大な敵――例えば帝国航宙軍などの正規軍に追い詰められたらその使用を躊躇わなくなる可能性は十分にある。そうなると安価なシーカーミサイルが超強力な飽和攻撃兵器と化すわけだ。こんなに恐ろしいことはなかなかない。


「まぁ、反応弾頭搭載のシーカーミサイルなんて大っぴらに大量運用したら帝国航宙軍も黙っちゃいないだろうからな。そこまではやらんと思うが」


 無論、そんな禁じ手を使えば帝国航宙軍も本腰を入れて赤い旗宙賊団を殲滅することになるだろう。セレナ中佐が率いる対宙賊独立艦隊を中核とした寄せ集め軍団などではなく、正規の軍団を派遣してくるはずだ。そうなったら赤い旗宙賊団に生き残る目は無い。見せしめとして全構成員の首が柱に吊るされる事となるだろう。比喩表現的な意味で。いや、実際に吊るされもするかもしれんが。


「とにかく今回はこれで終わりしても、次の星系では注意が必要だろうな。帝国が本気を出さない程度にセレナ中佐にい一杯食わせる。そういう微妙なラインを狙って何か手は打ってくるだろ」

「そうね。宙賊だって馬鹿ばかりってわけじゃないし」

「普段はなんかもうヒャッハーって感じのパッパラパー集団にしか見えないんですけど」

「パッパラパーというかラリパッパというか……でもまぁ、大規模宙賊団ともなれば悪知恵の働く連中もそれなりにいるわよ。じゃないと大規模な宙賊組織なんて運営できないしね」

「そういうものですか」

「そういうものです。とにかく、油断しないように気をつけていこうな」


 ゲームのSOLと違って、この世界の宙賊はれっきとした知性を持つ……多分持っている人間だからな。何か狡猾な罠を仕掛けてくるかもしれんから、警戒を強めておこう。少なくとも俺達が引っかかって即死だけはしないようにな。

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― 新着の感想 ―
中佐にい一杯食わせる い ??
まあ宙族は半グレみたいなもんで基本的には刹那主義の脳足りんばっかだけどその中にはバカはバカなりに悪知恵を働かす鬱陶しいのも居るって考えれば割と納得がいく 現実にもありがちな話だし
[一言] ( 圭)…
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