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#266 赤い旗を燃やせ

新章の出だしということで大幅に遅れましたゆるして( ˘ω˘ )

 アラームの電子音で目が覚めた。

 照明を落とした室内は薄暗い筈なのだが、部屋の中は神秘的な青白い光によって照らされている。


「はいはい、おはようさん」


 俺の言葉に反応するかのようにベッドの脇に立て掛けてあった螺旋状の槍のような物体がピカピカと明滅した。ここ最近俺を苦しめているトラブルメーカーそのいち、御神木の種くんのエントリーだ。畜生め。


「あー……朝が来てしまった」


 溜息を吐きながら片手で目元を覆う。朝が来た、ということは起きなければならず、起きるということは今日の活動を開始しなければならないということである。既に今日のスケジュールは決まっており、その内容はとても気の進まないものだ。できることならずっと寝ていたかった。


「今からでも体調不良ってことでなんとかならないだろうか」


 ならない。じゃあ簡易医療ポッドに入ってメディカルケアしてから来てくださいね。五分か十分もあれば十分ですよね? と言われておしまいである。体調不良を訴えても五分か十分くらいの時間稼ぎにしかならないとか夢も希望もない。


「はぁ……起きるか」


 なんか御神木の種こと特級厄物がまるで慰めるかのように穏やかに明滅しているが、お前も俺の心労の原因だからな? ぼくはきみのみかただよ! みたいな雰囲気出しても騙されんぞ。


 ☆★☆


「おはよう」

「おはようございます、ヒロ様」

「おはよ」

「おはよーさん」

「おはようございます」


 パパっとシャワーを浴びて食堂に行くと、既にクルーが集まっていた。どうやらミミと整備士姉妹は既に朝食を終えたようで、エルマは朝っぱらからボリューミーなモーニングステーキを食っている。朝からよく食うよね、ほんとに。


「おはようございます、ご主人様」

「おはよう、メイ」


 席に着いたところでメイがタイミングよく俺の朝食を持ってきてくれた。今日のメニューは焼き鮭っぽい定食のような何かであるようだ。色がちょっとおかしい以外は概ね焼き鮭定食なのであまり気にしないで食べることにする。今日もテツジン・フィフスが出力するご飯は美味しい。


「ものっそい不景気な顔してんなぁ」

「セレナ中佐に会いに行くのがそんなに嫌なんですか?」


 そう言ってウィスカが首を傾げる。

 セレナ・ホールズ。帝国航宙軍中佐。金髪碧眼の美人さんで、帝国航宙軍士官の白い軍服が似合う凛々しい女性だ。若い女性ながらごく短い期間で大尉から中佐に昇進している新進気鋭の軍人で、対宙賊独立艦隊の艦隊司令を務めている。


「そりゃ嫌だろう。用件がわかりきってるし」


 首を傾げるウィスカにそう言いながら溜息を吐く。

 先日から俺達はエルフの母星系であるリーフィル星系に滞在しているわけだが、エルフ達は俺達がリーフィル星系に到達する前からとある宙賊達に襲われていた。

 とあるも何も宙賊は宙賊なのだが、中には大規模な組織となって星系軍でも手を焼くような連中もいる。運の悪いことにエルフ達の母星系であるリーフィル星系を襲っていたのはそんな大規模宙賊団の一つ、赤いレッドフラッグと名乗る連中であった。

 奴らはエルフ達の母星、リーフィルⅣ――現地ではシータと呼ばれている――に襲撃を仕掛け、まんまと大量のエルフ達を拉致し、略奪も行った。

 星系軍もそれを指を咥えて見ていたというわけではなく、猛烈な追撃をかけてその大半を撃沈。取り逃した大型宙賊艦の反応を俺達が偶然キャッチし、移乗攻撃によってこれを拿捕した。

 その後、赤い旗の連中は再びリーフィルⅣに襲撃を仕掛けたが、今度は星系軍とメイの操艦するブラックロータスの活躍によってこれを撃退。そして今に至る。

 このタイミングで現れるセレナ中佐、そしてセレナ中佐からの面会要請。会ったら何を言われるかはわかりきっている。十中八九、赤い旗の討伐関連の話になるだろう。


「それにしてもまぁよく会うものよね。この広い宇宙で」

「私達は基本的に帝国領内で活動していますし、あちらの任務も対宙賊活動なわけですから……バッティングしてもおかしくはないですけど」

「おかしくはないけど今回は別に宙賊狩りに来てたわけじゃないんだよなぁ」


 観光のために来た星系が偶然大規模宙賊団に襲われていて、そこに偶然セレナ中佐が現れるとかもうどこかで誰かが仕組んでいるんじゃないかって疑いたくなってくる。いや、これも俺の不運体質によるものか。


「おかしくはないけどまぁ、縁があるんやなぁ」

「確かターメーン星系で初めて会ってから何かにつけ顔を合わせているんですよね?」

「そうだな」


 思えばこの世界に来てから会った人の中で、ミミとかエルマに次いで縁の深い人物ではあるんだよな。だからと言って彼女の部下とかそれ以上の関係になる気はないけど。


「なんというか、運命的ですね」

「冗談でもやめてくれ。恐ろしいわ」


 ウィスカの言葉に思わず身を震わせる。俺とセレナ中佐の間に運命的な何かがあるとか怖すぎるわ。プラチナランカーかつゴールドスター受勲者で、御前試合を勝ち抜いた事によって皇帝陛下の覚えもめでたくなった今、セレナ中佐から本格的にロックオンされてもおかしくない状態なんだぞ。


「なんでそこまで嫌がるん? セレナ中佐、めっちゃ美人やん?」

「そこは否定しない。確かにセレナ中佐は美人だ。プライベートがポンコツ気味で、酒を飲むと隙だらけになるのもポイント高い。でもセレナ中佐は侯爵家の令嬢だ。しかもエルマと違って実家とのパイプが太いタイプだ。彼女と仲良くするのはかなり危険なことに思えてならんね。それに、何より……」


 皆の顔を見回してから口を開く。


「俺は自由気ままな傭兵生活が気に入ってるんだ。規則に縛られた軍人生活なんて真っ平御免だね」


 ☆★☆


「よく会いますね。どうも貴方と私の間には切っても切れない縁があるようです」

「ははは、そんな畏れ多い。俺なんてチンケないち傭兵ですよ」


 帝国航宙軍隊宙賊独立艦隊、その旗艦である戦艦レスタリアスの応接室でそんな言葉の応酬をしながらフフフ、ハハハと笑い合う。もう既に帰りたいんだが?

 ちなみにレスタリアスに足を運んだのは俺とメイの二人きりだ。他のクルーはブラックロータスに残って機体の整備や物資の調達、それに情報収集をしてもらっている。


「ゴールドスターの受勲者であるプラチナランカーがチンケないち傭兵の筈がないでしょう」


 はい、ごもっともです。

 傭兵としての最高ランクであるプラチナランクに昇格し、結晶生命体との戦いで活躍したってことでゴールドスター――一等星芒十字勲章――を貰ったわけだが、正直この二つを頂いたことによるメリットを実感した覚えが殆どない。むしろデメリットが多いような気がするのは俺の気のせいだろうか?


「どうやらここでも派手にやっているようですね。貴方の行く先々でトラブルが起こっているように見えるのは私の気のせいでしょうか」

「気のせいだと思います。気のせいだということにしといてください。凹むので」

「あ、はい」


 セレナ少佐が若干引きながら頷く。どうやら俺の心の底からの懇願が伝わったらしい。


「一応反論させてもらうと、俺がこの星系に来た時にはもう第一次襲撃は終わってましたよ。俺は星系軍の討ち漏らしを偶然狩っただけですから」


 だから俺がトラブルを運んできたわけではないと主張する。


「つまりトラブルを引き寄せるのではなく、トラブルに引き寄せられる体質ということですね」

「嫌じゃ、そんな話は聞きとうない」


 悲しい現実を突きつけてくるセレナ中佐なんて嫌いだ。


「さて、再会を喜び合うのはこれくらいにして本題に入りましょうか」


 今までの会話に再会を喜びあった要素どっかにあったか? ほぼ一方的に俺がいじられていただけだと思うんだが。


「私が貴方を呼んだ用件は当然おわかりですね? キャプテン・ヒロ」

「わかんないです」

「その頭の悪そうな顔を今すぐやめなさい。真面目な話ですよ」


 ちっ、これ以上すっとぼけるのは無理か。


「まぁハイ、レッドフラッグの件ですよね。今到着ってことは第一次襲撃の時にもう連絡が行ってた感じですか」

「そうですね、惑星への降下襲撃を許したとなると帝国の沽券に関わりますから」


 そう言えば前に俺達が滞在したリゾート星系に宙賊が降下襲撃をかけてきた時にもセレナ中佐――当時は少佐――の隊宙賊独立艦隊が駆けつけてきたっけ。まぁつまるところ、セレナ中佐の艦隊はこういった感じで宙賊が暴れた所に急行して火消しをして回る艦隊ってことだな。


「ところで艦隊規模、大きくなってません?」

「中佐に昇進しましたからね。指揮権限が上がった分、艦と人員が補充されたわけです」

「なるほど」


 セレナ中佐に会うためにブラックロータスでリーフィルプライムコロニーまで上がってきたのだが、コロニーに駐留している艦の数が随分と増えているようだった。戦艦は相変わらずレスタリアスだけのようだったが、巡洋艦と駆逐艦の数が増えていたし、何よりコルベットの数がだいぶ増えているようだった。前に俺が指摘した小惑星帯での戦闘に特化した編成というものを実践したのだろう。駆逐艦以上の船だと小惑星帯内での戦闘は難しいが、コルベットならギリギリ行けるからな。

 宙賊艦にとって正規軍のコルベットほどやりづらい相手は居ない。まずもってシールドが厚すぎて宙賊艦の火力ではシールドを破れないし、コルベットの火力相手には宙賊艦のシールドも装甲も役に立たない。しかもコルベットは足が速いから、逃げ切るのも容易ではない。下手に小惑星帯から飛び出すと駆逐艦以上の船の超火力で狙撃されるしな。


「これだけの戦力となると、単独で宙賊の拠点も攻められそうですね」

「そうですね。実際、小さいのはいくつか潰しました。ただ、今回の相手は大規模宙賊団ですから。外部戦力――傭兵も集めるつもりでした。そう考えていたら丁度良い所に貴方が居たのでこれは天啓かなと。あるいは運命でも良いですけど」

「なるほど」

「それで、討伐に参加してくれますよね?」


 中佐殿がにこりといい笑顔を向けてくる。まぁうん、参加はするんですけど。


「まずはお金の話ですね。高いですよ、ゴールドスターかつプラチナランカーの俺は」


 そう言って人差し指と親指で丸を作ってみせる。


「……お友達価格になりませんか?」

「なりません」


 ビタ一文まけないぞ。絶対だぞ。上目遣いで見ても駄目です。

コンサートマスターが愛機です。

ごん太ビームは男のロマン( ˘ω˘ )

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― 新着の感想 ―
[気になる点] セレナ少佐となってる箇所がありましたー。 [一言] いつも楽しく読ませてもらってます。大変かと思いますが更新楽しみです。
[気になる点] 万が一、宙賊戦でクリシュナが宇宙(そら)に散ったら種も永遠に失われると思うんだけどエルフは何も言わないのかな?
[気になる点] セレナ・ホールズ。帝国航宙軍中佐。金髪碧眼の美人さんで、帝国航宙軍士官の白い軍服が似合う凛々しい女性だ。 セレナさん。紅い瞳との記述が 一章三話でそう書かれてます 揚げ足を取る様で何…
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