#265 次なる目的地を決め――たかったですね。
GenerationZeroという一年ほど塩漬けにしていたゲームを遊び始めました( ˘ω˘ )(発売当初は難易度があまりに辛くて投げていた
「というわけで、次の目的地について話し合いたいと思いまーす」
「わー」
俺が宣言すると、ミミが笑顔で歓声を上げながらパチパチと拍手をしてくれる。傭兵業のミーティングということでわざわざミンファ氏族領からブラックロータスまで戻ってきたのだが、やっぱりブラックロータスの中は落ち着くな。高級ホテルや旅館で上げ膳据え膳で楽をするのも悪くないけど。
「何やのん? このノリ」
「いつものことだから気にしないで」
仏頂面でそう言いながらもぱちぱちと拍手をしてくれるエルマさんは実に良い女だと思います。
「私達も意見を出して良いんですか?」
「勿論だぞ。案があるならどんどん出してほしい」
採用されるかどうかは話し合いの結果次第だが、選択肢は多ければ多いほど良いだろう。
「まず、俺から大まかな方向性を提示しておくと、目指したいのは戦力強化だな」
「戦力強化ねぇ……どういう方向で?」
「クリシュナの強化は正直難しいと思っている。ブラックボックスになってる部分が多すぎるからな」
「それはそうですね。調べてみましたけど、重レーザー砲は専用の固定武装みたいで互換性がありませんし。変えるとしたらシャードキャノンと対艦魚雷くらいですか」
「下部ウェポンベイの魚雷発射管をシーカーミサイルポッドに変えるくらいやろなぁ。シャードキャノンを変えるのは兄さんの趣味やないやろうし。シールドや足回りも今装備しているものより良い物となるとちょっと思い当たらんわ」
「魚雷も外すつもりはないな。いざって時の一発は絶対に要るし」
滅多に使うものじゃないが、大型艦相手の切り札は常に持っておきたい。シーカーミサイルポッドを積んでおけば小型、中型の敵に対しての選択肢は確かに増えるが、それは重レーザー砲と散弾砲で事足りてるからな。
「となると、強化するのはブラックロータスですか?」
「艦首のEMLはより良いものとなると難しいだろうけど、各所に装備されているレーザー砲とシールドは軍用グレードのものに変えたいよな」
「確かにそうすればブラックロータスの戦力は大幅に強化されるやろなぁ。ジェネレーター出力にはまだ余裕あるし、載せ換えんでもなんとか行けるやろ」
「母艦の戦力が充実するのは良いけど……オーバースペックじゃないの?」
「アーアーキコエナーイ」
オーバースペックになろうとも強化の余地があるなら強化したいと思うのがゲーマーの性というやつである。今の俺にとってはゲームではなく現実だが、まぁどっちにしろより高性能なものが存在するならそっちを使いたいと思うのが自然というものだろう。スペックマニア? 知らない言葉ですね。
「確かに宙賊相手にはオーバースペックかもしれませんけど、私達が戦う相手は宙賊だけとも限りませんから」
「まぁ、それもそうね。結晶生命体はもう勘弁してほしいけど」
「宇宙怪獣だけじゃなくて他国との紛争に参加する可能性だってあるぞ」
「するの?」
「場合によってはな」
実際、ミミやエルマと出会ったターメーン星系では隣国ベレベレム連邦との戦いに参加したしな。別に逃げても良かったんだが、あの頃は金を稼ぐのに必死だった。今なら……うーん、滞在している星系が紛争中域になったら立場的に逃げるのは厳しそうだ。何せゴールドスターだしな。
「あとはアレだ、着たままでも剣が振れる軽量パワーアーマーが欲しい」
「……これ以上生身での戦闘能力を上げていくの?」
「俺だって嫌だよ。でもそうしないと死ぬじゃん。俺だって嫌だよ!」
大事なことなので二回言っておく。どうもここのところ生身で戦う機会が増えてるんだよな。俺は一切望んでいないんだが、実際に増えているので対策をしなければならない。
「それならミリアムさんの申し出を受ければ良かったんじゃないですか?」
「魔法の修行ね。良いかミミ、考えても見ろ」
ミミが首を傾げる。
「仮にだ。俺が魔法の修行とやらに励んでその力を身に着けたとしよう。生身で山一つ消し飛ばすような力をだ」
「はい」
「そんなことが出来ると公に知られたらどうなると思う?」
「え? ええと……」
突然の質問にミミが眉間に皺を寄せて考え込む。
「仮にそんなことになったら、帝国軍が放っておかない?」
「帝国軍というより帝国そのものが放っておかないだろう。場合によっては危険視されて闇から闇になんてことも考えられる。今でも俺個人の戦闘能力はちょっと図抜けているかもしれんが、まだ常識の範囲内だ。まだな。でも生身で山を吹き飛ばす――つまりコロニーを破壊できるような存在は明らかに常識の範囲を逸脱してるだろう?」
反応弾頭級の火力を生身で発揮するということは、場合によっては生身で航宙戦闘艦を撃破できる可能性すらあるわけだ。帝都に忍び込んで帝城を爆破することすら可能かもしれない。そんな危ない存在に野良犬のごとくうろつき回られるのは帝国としては絶対に御免だろう。俺が帝国なら何らかの方法で首輪をつけるし、それができないならどんな手を使ってでも消す。
「確かに、ちょっとどうなるかわかりませんね」
「あの特級厄物が指し示す道ってのはそういう道だ。だから俺は断固拒否してる」
そう言いつつ会議をしている食堂の隅っこで何やらピカピカしている特級厄物に視線を送る。視覚的にうるせぇんだよおめぇはよぉ。
「山一つ吹き飛ばすような力は手に余るが、軽量級パワーアーマーはまだ常識の範囲内だ。少なくとも完全な生身よりは生存性も高くなるし。もう俺は嫌だぞ、生身でわけのわからん生体兵器と戦うなんてのは」
「言うて兄さん無傷で帰ってきたやん」
「そりゃ死にたくないし痛いのは嫌だから必死に攻撃を避けるわ。あんなん一撃でも貰ったら挽き肉になるっつうの」
あの劣悪な環境下で我ながらよく生き残ったもんだ。あんなのは二度と御免だぞ。
「まぁそういうわけで、前置きが長くなったけど俺が次に目指したいのは軍事系のテックが充実してるハイテク星系か、最新鋭技術を入手できる可能性が高い商業ハブ星系だな」
「なるほど。近くだとガレイ星系が軍事系のテックが充実しているハイテク星系ですね。商業ハブ星系は……ちょっと遠くなりますけど、ミラ星系です」
「ゲートウェイを使ったらどうだ?」
ゲートウェイを使えば遠く離れた星系にも一瞬で移動することが出来る。グラッカン帝国は広大な領土内に多数のゲートウェイによるゲートウェイネットワークを構築しているので、それを利用すればハイパードライブを使った通常の移動方法で移動するには遠過ぎるような星系も行き先の選択肢に入ってくる。
「あ、そうでした。ええと、そうすると……」
タブレット端末を操作していたミミが苦笑いを浮かべる。なんだ?
「そうすると?」
「帝都が一番ですね」
「却下で」
絶対にまた何か厄介事に巻き込まれるに違いないので帝都には近寄りたくない。皇帝陛下の暗殺未遂事件が起こってそれに巻き込まれるとか、ルシアーダ皇女殿下が拐われてその奪還を命じられるとかそんな展開に決まっている。そんなのに巻き込まれるのは絶対に御免だ。
「そうなるとガレイ星系かミラ星系がやっぱり一番近いです」
「なるほど。行き先の候補としてはその二つだな。他に何か意見は?」
「エネルを稼ぐなら国境の紛争地帯に行くとか、宙賊の動きが活発な星系に行くのもアリだと思うけど、別にそれは装備を強化してからでも良いわね」
「うちからは特に無いな。ウィーは?」
「うーん、特に無いかな。軍事系テックに強いハイテク星系に行けば色々見れるだろうし」
エルマと整備士姉妹は特に意見はないらしい。
「私としては商業ハブ星系に興味が……色々珍しい食べ物がありそうですし」
「ふむ、それは確かに」
色々なものが集まる商業ハブ星系なら炭酸飲料の取り扱いもあるかもしれない。シエラ星系で炭酸飲料が提供されていたってことは、物流に全く乗っていないというわけでも無さそうだし。まぁ望みは薄そうだけど。
「さて、どっちに行くかね」
恐らく軍事系テックに強いハイテク星系であるガレイ星系の方が値段は安い。商業ハブ星系の方が選択肢は多くなるが、輸送費の分商品の値段は上がるのだ。ただ、商業ハブ星系では軍用グレードの商品は多分手に入らない。軍用グレードの品というのは企業が軍に直接卸しているから、交易商の手に渡ることが殆ど無いのだ。
「質と値段を取るならガレイ星系、選択肢の多さを取るならミラ星系か」
「ガレイ星系に行ってからミラ星系に向かえば良いんじゃない?」
「うーん、確かにその方が良いかも知れませんね。ガレイ星系で手に入らなかったものをミラ星系に探すほうが効率が良いかも。商業ハブ星系なら情報も集めやすいでしょうし」
「お、その台詞実に傭兵っぽいというかオペレーターっぽいな」
「私も成長してますから」
ふふん、とミミが得意げに胸を張る。うん、確かに成長してるね。
「それじゃあ次の目的地はガレイ星系――」
と言いかけたところで俺の小型情報端末からコール音が鳴った。デデーン! という今にもタイキックかケツバットを食らいそうなコール音だ。
「こ、このコール音は……」
まさか、と思いつつジャケットのポケットから小型情報端末を取り出して恐る恐る画面を見る。
そこには見たくない名前が表示されていた。
「どうしたんですか?」
「というか何よその着信音……誰から?」
エルマにそう聞かれたのでみんなが見える位置に小型情報端末を置く。
「げっ」
画面に表示された名前を見たエルマがそう言って露骨に嫌そうな顔をした。ミミもなんとも言えない微妙な表情をしているし、整備士姉妹も天井を仰いだり苦笑いを浮かべたりしている。
そうだね。そうだよね。大規模宙賊が大暴れしたんだから来てもおかしくないよね。いっそ無視してやろうかとも思ったが、あとが怖いので諦めて着信ボタンを押す。
そうすると、食堂に据え付けられたホロディスプレイが起動し、白い軍服を着た金髪の美女のホログラムが映し出された。腰元の剣が彼女が貴族であることをこれでもかとアピールしてくる。
『ごきげんよう、キャプテン・ヒロ。また会いましたね』
彼女がそう言ってにっこりと満面の笑みを浮かべる。
「……はい、そっすね。セレナ中佐殿」
また面倒事だよ。絶対そうだよ。間違いない。
デデーン!_(:3」∠)_(階級を間違えていたのでセレナ中佐にタイキックを食らう作者




