#257 オイオイオイ
X4がたのしいいいい!_(:3」∠)_(遅れましたゆるして
結局朝までやることもない――というか、こんな夜中に外に出てもやれることもやることも無いので、俺達は大人しく朝まで時間を潰した。軽く身体を動かしたり、訓練をしたり、仮眠を取ったり、グラード氏族領の森から持ち出してきたモノの処分をしたりと、まぁ時間を潰そうと思えばやりようはいくらでもある。
で、軽く身体を動かしたのであの森から持ち出してきたモノを処分しようと思ったのだが。
「これ、持ってきたんだな」
バックパックに立てかけるようにして例のドリル状の手槍のような発光物体が鎮座していた。俺に会えて嬉しいとでも言うようにピカピカと点滅していて眩しい。
「あ、はい。置いていこうかとも思ったんですが、また同情でも惹くかのように弱々しく点滅していたので」
そう言ってミミが苦笑いを浮かべる。
「謎の発光体のくせにあざといな……しかも情に訴えるべき相手を把握しているあたり油断ならん」
立てかけられていた謎の発光体を手に取る。何故だか妙に手に馴染む感じがするのは何故だろうな。見た目から考えるとあまり手に馴染むようなものではないような気がするんだが。それに俺が手に持つと喜ぶかのように長い周期で点滅するのも謎だ。こいつ、俺から何か吸い取ってるいんじゃあるまいな。ほら、なんかよくわからん力だかなんだかってやつ。俺から溢れ出ているというアレ。
「うーん、手に馴染むが使い途が見当たらんな」
「船に乗ったらダウジングも必要ありませんからね」
そう言って苦笑いしながらミミがバックパックの中から収穫物を取り出す。ごろんとそのままのコキリの実に、カーボンっぽい素材でできた箱に詰め込まれたミルベリー、それに生のモコリダケ。
「どうすっかね、このナマモノ」
「このままだと腐っちゃいますよね?」
「そうだな。確か冷凍保管用のコンテナがあったよな? アレに入れて冷凍保存しとくか?」
「うーん、シェフに相談してみましょうか」
「ああ、もしかしたら調理に対応してるかもしれないしな」
テツジン・フィフスならうまい具合に調理してくれるかもしれない。自動調理器は基本的にフードカートリッジから様々な料理を作るのだが、テツジン・フィフスのような高性能調理器の場合は生の食材を投入して何かしらの料理を作る機能も併せ持っている。
なんでもテツジンの中には製造メーカーが宇宙中から蒐集した無数の料理レシピデータベースが搭載されており、投入された素材とフードカートリッジを組み合わて料理を作るらしい。科学の力ってすげーなぁ。
「じゃあ食材はあとで纏めて運ぶから良いとして、次はこいつかぁ」
「ウィスカちゃんが一応回収したほうが良いって言っていたので」
次に俺が荷物の中から取り出したのは壊れた救難信号発信ビーコンだった。役に立たなかったやつだな!
「まぁジャンク品入れに混ざらないように確保しておくか。旅先でメーカーの工場か代理店でも見つけたら持ち込むとしよう」
「わざわざですか?」
「より高性能な機種をお得な値段で買えるかもしれないしな」
ちょっとでかいが割引クーポン代わりになるかもしれない。置く場所には困ってないし、それ以外の使い途となるとジャンク品として二束三文で売り払うくらいしかない。まぁ結局忘れられて倉庫の隅で埃を被ることになりそうだが。
「こいつも一緒に置いておくか。光るこれが一緒に置いてあれば目立つだろ」
「ええと……なんだか猛抗議しているように見えるんですけど」
「眩しいなぁ」
激しく明滅する謎の物体をミミと二人で目を細めながら眺める。
「冗談だ。とにかくこれが何なのかエルフ達が来たら聞いてみないといけないしな」
そう言うと、謎の物体は安心したかのように穏やかな周期で明滅をし始めた。本当になんなんだろうな、これは。
☆★☆
夜が明けてすぐにエルフ側から連絡が入って調整した結果、朝の早い時間にあちらからブラックロータスまで謝罪に来るということで話が決まった。俺としては色々な意味で大事にしたくはないのだが、今回はメイがブチ切れている。俺はともかく、メイが黙っていなさそうだ。状況を見てメイを止める必要があるかもしれない。
「メイ、抑え気味に、抑え気味にだぞ」
「はい、お任せください」
「俺は普通に謝って貰えれば十分だから」
「承知致しました。必ずや連中を床に這い蹲らせて見せましょう」
「違う、そうじゃない。それは普通とは言わないから」
「一つ間違えばご主人様を含め、全員が帰らぬ人となっていてもおかしくない大事故です。しかも身内の争いで救援が遅れるという体たらくを晒した上、それに私まで巻き込んでご主人様の救出を止め、更に自分達で宙賊どもを退けることもできずにご主人様の手を煩わせるなど言語道断。相応の謝罪が必要かと」
「俺の手を煩わせる?」
最後の台詞には覚えがない。俺は別に宙賊に何もしてないんだが。むしろ、やったのはメイだろう?
「私はご主人様の所有物です。リーフィル自治政府が不甲斐ないばかりに私がブラックロータスを使って宙賊を撃退得ざるを得ない状況になったのですから、間接的にご主人様の手を煩わせたということになります」
「拡大解釈が過ぎないか、それ」
「私は一個の機械知性ではありますが、今はご主人様の所有物です。つまり、私が行なったことはご主人様が行なったも同然です」
「それって、メイが万が一やらかして大事故を起こしたら、俺の責任になるってことだよな?」
「そうなりますね。そのような状況に陥る確率は無きに等しいですが」
メイがこの上ない無表情でそう言う。つまりメイは間違いなど起こさないと、そう言いたいわけか。それは本当だろうか? 割とちょくちょくやらかしているイメージなのだが。いや、やらかしていると言ってもちょっとしたすれ違い程度だから、そうでもないのか。必要と感じて敢えて隠していた結果、俺に怒られるみたいなことくらいだし。
そんな話をしながらメイと一緒に食堂で待っていると、どうやら謝罪に来たエルフ達が到着したようだ。案内にはエルマとミミに行ってもらっている。直前までメイを宥めようとしていたのだが、どうにもうまく行かなかった。このままではメイの苛烈な口撃によってエルフがボコられる未来しか見えない。
「とにかく、穏便にな。俺はエルフと喧嘩をするつもりはないから」
「寧ろあちらが喧嘩を売ってきているというか、謀殺でもしようとしているのではないかという状況ですが」
「極悪なまでに俺の運が悪すぎるだけだと思うよ……」
言っていて悲しくなるが、そうとしか思えない。この世界に来てから獲得した俺の体質によって航空客車が墜落する――そんなことを予測してグラード氏族が航空客車を使って俺を送迎するようにけしかけて俺を謀殺するなんてのはいくらなんでも無理だろう。それこそ万象を見通す神の目でも存在しない限りは。それに俺にはエルフの誰かに謀殺されるような心当たりもない。メイは過剰反応し過ぎだと思う。
と、俺がメイに最後の説得を試みている間に何やら騒々しい気配が近づいてきた。なんだ? 取っ組み合いをしてるってわけじゃないが、妙に荒々しい雰囲気だな。
「貴様だな!? 神聖な森に汚れた技術を持ち込み、土足で踏み荒らしたのは!」
エルマが食堂の入り口に姿を見せたと思ったら、そのエルマを横に押し退けて見覚えのないエルフが入ってきて、開口一番そんなことをのたまいよった。瞬時にメイから剣呑な気配が漂い始める。
オイオイオイあいつ死んだわ。
「……ワァオ、なんか凄いのが来ちゃったぞ――って待ってメイ。ステイ、メイステイ! 落ち着け! クールになれ!」
前に出ようとするメイの手を掴み、全力で踏ん張って引き留めようとするが、悲しいかな。特殊金属繊維で作られた強靭かつ強力な人工筋繊維と、特殊合金製の骨格による膂力差は如何ともし難い。
謝って! 鼻息の荒いエルフの人! 早く謝って! そうじゃないと首をねじ切られても知らんぞ!
アイツ死んだわ(´゜ω゜`)




