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#224 穏やかな十日間

ギリギリセーh……マニアワナカッタ……_(:3」∠)_

 おおよその活動方針を決めてから十日間、俺達の日常は滞りなく流れていった。数が減った宙賊を『丁寧に』叩いてその船を鹵獲し、投降した宙賊をお上に引き渡して若干の割り増し報酬をもらいつつ、鹵獲した船を売り捌く。この十日間で最も忙しかったのは整備士姉妹であったことは間違いないだろう。


「がんばれ♪ がんばれ♪」

「応援してくれるのはええけど、うちらにも限界っちゅうもんはあるからな?」

「ここのところはやり口が丁寧で破損が少ないから、楽といえば楽ですけどね」

「俺にだってそれくらいの配慮はできる」


 逃げられる前に宙賊艦のメインスラスターを破壊し、ネチネチとダメージを与えながら投降を促したり、ピンポイントでコックピットブロックだけぶっ潰したりしていたので、修復・改修がかなり楽になっていたはずだ。


「やはりブラックロータスは良い買い物だったな。二人のおかげで投資分を回収するのはすぐに終わりそうだ」

「うちらの懐もかつてないくらいに温まってるな」

「ある意味スペース・ドウェルグ社で働いていた時よりもハードワークだけどね……」

「それはすまん、本当にすまん」


 ただ謝ることしか出来ない俺であった。ええっと、職場の改善要望なら聞くよ? 道具の追加とか、そういう方向なら。仕事減らしてってのはちょっと聞けないけど。いや聞けるけど。はい聞けます。だからそのレンチとスパナを素振りするのをやめよう! 今すぐにやめよう!


 ☆★☆


 整備士姉妹に説得(物理)された俺は這々の体で彼女達の仕事場であるハンガーから逃げ出し、ブラックロータスの休憩スペースに足を運んだ。そこには各社のメディアスタッフ達が屯していた。


「キャプテンが仕事を終えるなら、私達の取材もこれで終わりですなぁ」

「この高級ホテルみたいなブラックロータスでの生活も終わりとなると、名残惜しいですね」

「広々としてメシも美味いからな」

「フォーマルハウトの安月給じゃこんな生活はできないでしょうしねぇ」

「あ?」

「何か?」


 フォーマルハウトエンターテイメントのズィーアとニャットフリックスのニーアが険悪な雰囲気を醸し出しているのをスルーしてスペース・ドウェルグ社エンターテイメント部のワムドとメビウスリングのアレンに話しかけることにする。


「お前達はどこに下ろせば良いんだ? まさか帝都まで送っていけとは言わんよな?」

「それは大丈夫です。コーマット星系からであればデクサー星系への定期便が出ていますし、伯爵領主星系からならば帝都行きの便がありますので」

「なるほど、それじゃあ帰路の心配は俺達がする必要はないってわけだ」

「名残惜しいですがね」

「一ヶ月も一緒に生活すればそれはな。ワムド達が居なくなったらブラックロータスが急に静かになったように感じられるだろうな」


 一ヶ月間にわたって一社につき五名、総勢二十名ものメディアスタッフがブラックロータスとクリシュナに滞在していたのだ。

 元より俺とミミ、エルマ、メイ、それにティーナとウィスカの五名で過ごすにはブラックロータスは広すぎたくらいだったので、二十名のメディアスタッフが滞在している間は実に賑やかに感じたものだ。休憩スペースに行けば必ず誰か居るし、食事に関してもやはり同じくらいの時間に食べる事が多かったから、賑やかなものだった。一気に二十名ものスタッフが降りたら、きっと物寂しく感じることになるだろう。


「ははは、キャプテンとしては大っぴらにミミちゃんやエルマさんとイチャつけるようになるから願ったり叶ったりでは?」

「そういう面が無いと言えば嘘になるかもな」

「英雄色を好むと言いますからなぁ……ところで、ウチの二人とは?」

「俺はそこまで節操なしじゃないから」

「そうですか? 二人とも若くて美人だと思うのですがね?」

「私達からするとあのお二人は少々幼く見えてしまいますからね……」

「それな」


 首を傾げるワムドにアレンが苦笑いを零し、俺もそれに同意する。二人とも間違いなく可愛いんだけど、幼く見えるからな……いや、ドワーフとしてはれっきとしたレディだってのはわかるんだけど、どうしても見た目がな。独特の色っぽさがないというわけじゃないんだけど。


「というかそもそもの話、船に乗せたら手を出さなきゃならないってものでもないし……というか、あの二人にも相手を選ぶ権利はあるだろうし」

「……思ったよりもロマンチストなのですな」

「正直に言うとメンタルが傭兵っぽくないですよね、キャプテンは。ストイックというか、どこかピュアというか、おぼこいというか」

「それ褒められてんのかなぁ!?」


 いきり立つ俺を前にワムドとアレンが笑い声を上げる。まぁ、うん。こういう男同士のノリでやるバカ話ができなくなるのはちょっと寂しいかもな。


 ☆★☆


「それじゃあコーマットプライムコロニーで少し休息をしてから出発ってことですね」

「まぁ、良いんじゃない? 急ぐ旅路でもなし。大きな仕事も終えるわけだし、少し休んでもバチは当たらないわよ」


 休憩スペースを辞した俺はクリシュナのコックピットに戻り、そこで待機していたミミとエルマに今後の予定について相談をしていた。


「いきなりポンとワムド達を放り出すのもアレだしな。あいつらがデクサー星系行きの船が手配できるまでコーマットプライムコロニーで休息、その間に目的地の当たりをつけておくって感じで行こうと思うんだが」

『それでよろしいかと思います』


 俺の提案にメイがコックピットのメインスクリーン越しに同意する。同じコックピット内にいるミミとエルマも俺の提案に否はないようだ。


「差し当たっては家を建てる土地の選定……はどこでも良いっちゃどこでも良いんだよな」

「どういった場所が過ごしやすいんでしょうか?」

「やっぱり気候が良い場所が良いわよね。極端に寒暖差の激しい所とか私は嫌よ。あと、星系全体の治安が良い場所が良いわね。宙賊の襲撃とか、紛争に巻き込まれるのは嫌でしょ?」

「そりゃ確かに。空から雨や雪だけじゃなく宙賊艦だの軌道爆撃だのが降ってくるような星は嫌だな」

「それは嫌すぎますね!」


 ミミが俺の言葉に強く同意する。


「となると、セキュリティがしっかりしててちゃんとテラフォーミングなり気候調整なりが入ってる惑星ってことになるわね。まぁ、コネを使うならダレインワルド伯爵家の領地にある惑星が手っ取り早いわよね」

『購入費用、税制面で優遇してくれる可能性は大いにありますね。ダレインワルド伯爵家側にも恩恵がありますので』

「恩恵?」

『仮にヒロ様がデクサー星系やこのコーマット星系の惑星上に居を構え、本拠地とした場合には何か宙賊絡みでトラブルがあった場合にヒロ様を戦力として数えることができるでしょうし、そうでなくとも日常的に宙賊を狩って星系の治安に寄与することが簡単に予測できます。或いは、ダレインワルド伯爵家に仕えるという目も出てくるのでは、とダレインワルド伯爵家としては期待するでしょう。優遇して恩を売らない手は無いと思います』

「なるほどなぁ」


 お貴族様ともなればそういう風に考えを巡らせるんだな。まぁ、それだけ俺の力が買われているということでもあるし、誇らしいことではあるな。かと言ってあまり調子に乗るのも良くない。謙虚に行こう、謙虚に。それほどでもない。ヨシ。


「で、一応家を建てる土地購入なんかに関しては後でクリスに相談してみるとして、目的地に関しては何か無いか。良さげな場所は」

「うーん、難しいですね。一応あの後、帝国領内にある種族の母星系に関してはある程度情報は集めましたけど」

「ほう、どんな感じなんだ?」

「私達が行ってないところ、となるとエルフの母星系であるリーフィル星系、ドワーフの母星系であるガラキス星系、レピリカの母星系であるアマーズル星系、テクタの母星系であるシーラス星系ですね」

「ああ、リーフィル星系のリーフィルⅡには私は行ったことがあるわね。小さい頃にお父様とお母様に連れられて。私は帝都生まれの帝都育ちだったけど、一度くらいはエルフのルーツである母星系に足を踏みれておくべきだって話でね」

「ほー」


 やっぱり種族の母星系ってのは特別なのかね?


「私は種族の母星系とかはあまり考えたことはありませんけど、やっぱり帝都に降り立った時には感動しましたね」

「そういうものか」


 俺にはサッパリわからん感覚だな。まぁ、クリシュナに乗ったまま地球に帰ってみたい気持ちがないと言えば嘘になるけど、クリシュナで地球に乗り付けたりしたら大騒ぎになるだろうな。近寄らんとこ。戦闘機とかにめっちゃ追い回されそうだし。


「そう言えばなんだけど」

「うん」

「前にシエラⅢでヒロが微妙な顔をしながら飲んでたやつ、私も飲ませてもらったじゃない? あれ、リーフィルⅡで飲まされた薬湯に匂いが似てたのよね」

「……ほう」


 確かエルマに飲んでもらったのはルートビアだった。ルートビアの原型は様々なハーブやスパイスを調合した飲料で、それが独自のレシピによって無数に枝分かれして色々な飲み物に派生していった。そのうちの一つがコーラである。つまり、エルフの母星系であるリーフィル星系のリーフィルⅡにはコーラが誕生する下地があるというわけだ。


「よし、リーフィル星系に行こう」

「決断が早いですね」

「……ちょっとマズったかしら。まぁ、今のヒロならなんとでもなるか」


 エルマが何か気になることを言っている気がしたが、俺としてはそんなことよりもコーラの存在の有無の方が大事なことであった。果たしてリーフィルⅡにはコーラの実に相当する作物は存在するのか? そしてコーラに相当する清涼飲料水は存在するのか? 俺の興味はただその一点に集約されていたのである。

最強宇宙船小説四巻は12/10発売!

5巻、6巻と続けていくためにもぜひ買ってね! おねがいします! なんでもはしないけど!_(:3」∠)_

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― 新着の感想 ―
既に炭酸抜きコーラがあって、炭酸飲料にも出会ってるし、足りないのは重力のある環境だけだったはず。 環境が手に入るのなら、新天地に何かを探しに行く意味は無いよな。
機械の整備でどうしても人間の手でやって肉眼で確認しないといけないデリケートな箇所は絶対に無くならないだろうから元から完全オートメーションならともかく少人数チームならいると思いますよw〈宇宙船の整備でレ…
[気になる点] はたして宇宙船の整備でレンチやスパナを使うんだろうか…w
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