#216 戦地メシ
荷物が中々来なくて遅れました(´゜ω゜`)(他者に責任を押し付けていくスタイル
レーザー爆撃の超高温で半ば硝子化した地面が歩く度にジャリ、ジャリ、と耳障りな音を立てる。辺り一面に吹き荒ぶ砂塵で視界は最悪だが、それでもグロテスクな姿を晒して擱座している巨大な『攻撃的原生生物』の姿は嫌でも目に入ってきた。
「これでこの『攻撃的原生生物』が人為的なものであることはほぼ確定でしょうね」
セレナ少佐が真っ直ぐに前を見ながら俺の耳にそんな言葉を届けてくる。彼女も俺も頭全体を覆うタイプのヘルメットを装備しているので、この言葉は通信越しのものだ。
「どう見てもコーマットⅢに出てきたのと同じタイプだものな」
「えぇ。姿形がこうまで一致するとなると、ほぼ確定でしょう」
敢えて『ほぼ』と言っているのはこの攻撃的原生生物のDNAを精査しなければ完全に同一の存在であるとは断言できないからだろう。それこそ天文学的な確率でコーマットⅢとコーマットⅣに現れた攻撃的原生生物が全く別のDNAを持ちながらほぼ同じ姿形と攻撃性を持っている、という可能性も無くはないわけだからな。
『中佐、サプレッションシップのものと思しき反応を捉えました』
「結構。上空の機体と情報を共有して下さい」
『イエスマム!』
すぐに俺のユニバーサルマスクのHUD上にも情報が共有されてくる。当然ながら、そんなに遠くはないな。上空から探知不能だからこそわざわざ地上に降りて探索していたわけで、当たり前っちゃ当たり前なんだけども。
「歩くのか?」
「さして時間はかからないようですから。ドロップシップの降下地点を確保して全員で乗り込み、展開している装備も積み込んで点呼をとって云々とやることを考えれば時間もさほど変わりません」
「さようで」
別に音を上げるような距離でもない。大人しく歩くとしよう。
☆★☆
『前方にサプレッションシップを発見! 地面に突き刺さって擱座しています!』
「まずはドローンを送り込んで内部を捜査しろ。反応爆弾なんかが置き土産にされていたら洒落にならん。工兵、シールドジェネレーターを設置して簡易防衛拠点を構築しろ」
『アイアイマム!』
セレナ中佐の指揮の下、帝国海兵達がキビキビと動き始める。俺がやることは無いので、手持ち無沙汰にぼーっとしているしか無い。いや、そう言っても警戒はするけど。
「反応爆弾ね。そこまでする余裕があったかどうか」
「反応弾頭を積んでいなくても、サプレッションシップのジェネレーターに細工をしている可能性だってありますから。無警戒に近づいて消し飛ぶのは嫌でしょう?」
「確かに、そりゃ御免だ」
航宙艦のジェネレーターも悪意を持ってオーバーロードさせれば反応弾頭とさほど変わらない威力の爆発物になるだろうからなぁ。少なくともSOLではそういった自爆攻撃めいた方法を取ることは出来なかったが、この世界でそれができないという保証もない。
暫くしてドローンを操作していた斥候から危険物なしという報告が為され、斥候を主力とした調査部隊がサプレッションシップに突入していく。内部にターゲットが居ないことも確認済みなので、俺とセレナ少佐安全な防衛拠点で待機だ。
「今のうちに食事休憩を取っておきましょう」
「へーい」
陸戦用のシールド発生装置に守られたこの簡易防衛拠点内には砂塵も吹き込んでこない。その御蔭でヘルメットを外して食事や給水ができるわけだ。俺がユニバーサルマスクを外している間にセレナ中佐が交代で休憩と食事を摂るように部下に指示を出していく。俺はそれを横目で見ながらバックパックからミミとエルマが用意してくれたレーションを取り出――。
「……」
「うわ、なんですそれ」
俺のバックパックから出てきたのは真空パックにされたフ○イスハガーめいた異形の生物であった。ああうん、これね。食べたことあるね。見た目に反して美味いんだよ、これ。外殻に見える部分は意外と柔らかくてカマボコみたいな感じで、中身はほんのり甘いクリーミーなペースト状なんだ。確かどこかの国で軍用のレーションとして使われてるって話もあったな。
「……意外と美味いぞ」
「食べたことがあるんですか!?」
「……うん」
しかしなぜ敢えてこのタイミングで俺のバックパックにこいつが突っ込んであるのか? 脳裏にテヘペロしているエルマの顔が過る。ミミの仕業とは思えないし、下手人は間違いなくエルマだろう。しかし、こういった所謂『異星食材』の管理をしているのはミミだ。ミミも一緒にバックパックの中身を用意してくれていた覚えがあるので、ミミも知っていてこいつを突っ込んでいた可能性がある。これは船に戻ったら二人をきつく『尋問』せねばなるまい。覚えていろよ。
「ええと……」
「うちの可愛い船員達の可愛い悪戯だろう、ハハハ……」
とりあえず見なかったことにしてフェ○スハガーめいた物体をバックパックに突っ込み直し、他に何か入っていないか探してみる。そうすると、バックの奥から別の食べ物らしきものが出てきた。
銀色の金属箔のようなものでパッケージングされた物体で、表面にはペニテンス王国軍用食三型と大きく印字されており、裏面には原材料や一食分に含まれる栄養成分などがびっしりと書き込まれている。大きさはスーパーで売っている着る前のカステラくらいの大きさだろうか。結構ずっしりと重く、食べごたえがありそうだ。
「それは?」
「あー……ペニテンス王国とかいうところのレーションみたいだ」
「ああ、少し遠いですが帝国とも関係は悪くない国ですね」
「へー。まぁこれはまともそうだし食ってみるかな」
銀色のパッケージを破って見ると、中から顔を出したのはずっしりとしたパウンドケーキのようなものだった。どうやらこのパッケージは一本丸々このパウンドケーキのようなものがみっしりと詰まっているらしい。
「良い香りがしますね?」
確かに何か果物のような甘い匂いがする。甘い匂いに惹かれるとは、やはりセレナ中佐も女性なのだなと思う。いや、甘いものが好きな男性も多いけどさ。俺も嫌いじゃないし。
「一口いかが?」
「では、こちらのレーションも少しお分けしましょう」
パウンドケーキめいたレーションに齧り付く間に程々の量をセレナ中佐に分けてやる。セレナ中佐からは何かドライソーセージのようなものを分けてもらった。
「これは?」
「軍用ソーセージというやつですね。味はそこそこです」
「ほーん。じゃあいただきます」
右手にペニテンス王国のレーションを、左手にゲッペルス王国の軍用ソーセージとやらを持って、とりあえずペニテンス王国のレーションに齧り付く。
ずっしり、しっとりとしたパンのような食感。それにこの甘さは砂糖由来のものだけではない。スポンジに練り込まれたドライフルーツと、恐らくは生地に沁み込んでしっとりとさせているシロップ――いや、若干の酒精を感じるから、甘い酒も使っているのかもしれないな。
「あー、なんか似たようなのを食ったことある気がするな」
「そうなのですか?」
「んー、なんだったかな」
ああ、思い出した。シュトレンだ。ドイツのお菓子だったかな? まぁ、セレナ中佐に言っても仕方がないから、思い出せないってことにして黙っておこう。次はゲッペルス帝国の軍用レーションであるというドライソーセージを食べてみる。
「うん、確かにそこそこだな」
「ええ、そこそこでしょう。酒のつまみにする人もいるそうです」
あれだ。コンビニとかで売ってる安いドライソーセージみたいな味だ。まずくはないけどなんか一味足りない。食感もあんまり肉っぽくない。でも塩気と脂はあるな。雑に塩分とカロリーを補給するって感じの味だ。
「私はペニテンス王国のレーションのほうが好みですね」
「俺もだ」
量が多いから一本丸まんま食うのは飽きそうだし、これを一日に三食とかだと絶対に飽きるだろうけど、単品の評価をするならペニテンス王国の三型レーションの方が味も満足度も上だな。
まぁ、ゲッペルス帝国のレーションはこの軍用ソーセージだけでなくビスケット状のカロリーバーとか、パウチに入っているジェル状のスープもついてるみたいだから、総合的にはどっこいどっこいだろうか。
「アレも食べるんですか?」
「……機会があればな。でも、正直に言うとペニテンス王国のレーションよりもゲッペルス帝国のレーションよりもアレの方が美味いと思う」
「えぇ……?」
セレナ中佐が疑わしげな視線を向けてくるが、実際に全部口にした俺が言うんだから間違いないよ。この探索行が長引いたら是非セレナ中佐にも食わせてやろう。




