#215 砂塵の惑星
ちょっと短いけどMPが尽きました!_(:3」∠)_(ゆるして!
「敵性体接近! 数、二十二!」
「私とヒロが前に出る。援護を」
「アイアイマム!」
「ほら、行きますよ」
「ああ、畜生!」
腰の鞘から大ぶりの剣を引き抜いて飛び出していくセレナ中佐の背を追って俺も戦場へと飛び出す。
俺の両手には大小二本の剣。剣と言っても、勿論ただの金属剣ではない。強化単分子の刃を持つ高周波ブレードで、ジ○ダイの持つ光の剣と良い勝負ができるほどの切れ味と耐久性を誇るハイテクなんだかローテクなんだかよくわからない武器だ。
「私は左を」
「はいはい!」
セレナ少佐が大ぶりの剣を構えたまま敵集団の左側に突っ込んでいくのを見送りつつ、俺は敵集団の右側に突っ込む。相対しているのは剥き出しの赤黒い筋肉組織のようなもので構成された歪な人型の生命体だ。両手、両足に当たる部分が岩石質で覆われており、全体的に『捻れて』見えるのが特徴だ。
「ッ!」
三体が同時に俺に向かって飛びかかってくる。
連携も何もなくがむしゃらに突っ込んでくるのだが、見た目が人型なのに動きが人型のそれではないのでとても厄介な奴らだ。
全身をバネのように使い、岩石質の両手を突き出して矢のように飛んできた一体目を横に避けながら右手の剣で両断し、鞭のようにしなりながら襲いかかってきた二体目の右腕を左手の剣で斬り飛ばし、一体目と同じく飛びかかってきた三体目の突進を避けながら両手の剣を振るって三分割にしてやる。
そうして俺とセレナ少佐が稼いだ一瞬の時間を使って海兵達がレーザーライフルやレーザーランチャーなどの銃火器で敵性体――仮称:ツイステッドどもを駆逐していく。俺も左手の小剣を地面に突き立て、左太腿のレッグホルスターに収まっていたレーザーガンを抜いてツイステッドどもにレーザーを放つ。無論、出力は殺傷モードだ。
「チッ!」
レーザー弾幕を突破して飛びかかってきたツイステッドに舌打ちをしながら右手の剣を振るい、突進を受け流してその無防備な背中に連続でレーザーガンを撃ち込んでやる。全く油断も隙もない。
「被害報告!」
「A班、被害ありません!」
「B班、被害ありません!」
「C班も被害なしです!」
どうやら今回の襲撃も被害無しで切り抜けることが出来たらしい。レーザーガンと剣をホルスターと鞘にそれぞれ納め、ユニバーサルマスクの中で小さく溜め息を吐く。
「中佐殿、このまま進むのは危ないんじゃないか?」
「この程度であればまだ問題ないでしょう。支援は手厚いですし」
そう言って剣を鞘に収めながらセレナ中佐が空を見上げる。
強風で巻き上がる砂塵で肉眼では空の先を見通すことはできないが、ユニバーサルマスクのHUD上には砂塵の向こうに浮かぶクリシュナや、その他にも帝国航宙軍所属の小型戦闘艦が表示されていた。クリシュナを含めた小型戦闘艦からは俺達の前方に向かって断続的にレーザーが発射されており、その度に前方でまばゆい光と爆発音が発生していた。
「さようで……しかしセレナ中佐はお強いですね」
セレナ中佐が剣を振るっていた場所には真っ二つに両断されたツイステッドが六体も転がっていた。単純に俺の倍の数のツイステッドを斬り捨てているわけで、それだけでセレナ中佐の剣術の腕の高さが窺える。
「性質の違いでしょう。私の剣は前に出て斬り捨てる剣で、貴方の剣は待ち構えて刈り取る剣ですから」
そう言ってセレナ中佐が俺のつま先から頭の天辺までを観察する。
「私と貴方が死合えば最後に立っているのがどちらなのかは私にも予想が付きません。一方的にやられるとは思えませんが、貴方を圧倒するビジョンも持てませんね」
「中佐殿、テンションが上りすぎです。中佐殿と斬り合うなんて俺は御免ですよ」
あの一瞬でツイステッドを六体も真っ二つにする女と斬り合うとかおっかなすぎるわ。絶対に御免だ。間違いなく俺は逃げるね。
「しかし、このツイステッドども……アレですよね」
「ええ。今後方で分析させていますが、見る限りはコーマットⅢで発生した『攻撃的原生生物』と非常に似ていますね。この岩石質の攻撃腕とか」
そう言ってセレナ中佐が足元に転がるツイステッドの腕――その先端の岩石質の部分を足蹴にする。この岩石質の部分は非常に硬く、当たり方によってはレーザーライフルの直撃にも耐えるほどだ。流石に俺やセレナ中佐が使っている剣の切れ味の前には無力だが。
「それにしてももう少しこう、楽かつ安全にいけないもんですかね」
「難しいですね。軍用RVでも奴らに取りつかれてしまうと棺桶に早変わりですし」
俺達の後ろには通常装備の海兵やパワーアーマー装備の装甲兵だけでなく、高機動偵察車両(RV)も随伴している。RVはパワーアーマーと同等以上の装甲と火力を併せ持つ車両で、当然ながら機動力も歩兵やパワーアーマー兵を大きく凌駕するものなのだが、ツイステッドどもに群がられてしまうとどうしようもなくなる。威力偵察に赴いたRV三台と乗員合わせて十二名が既に犠牲となっており、RVを主軸とした探索は断念されていた。
「小型艦のセンサーが利かないのも痛いなぁ……」
強風で巻き上がる砂塵にテラフォーミングマシン由来の微細な金属粒子が含まれるせいで、強風が吹き荒れている地域ではセンサー類が非常に利きにくいのが状況を更に厄介なものにしている。
サプレッションシップの着陸地点は確かにクリシュナがマークしたのだが、距離があった上に地表でこの特殊な砂塵の影響でマークした地点がズレていたようなのだ。
そのせいで俺達はこの最悪の環境の中、ツイステッドどもの襲撃を警戒しながら亀のような歩みでサプレッションシップを探す羽目に陥っているというわけだな。ははは、クソが。
「しかし、こんなにツイステッドどもがいるなら例の――なんでしたっけ。例の貴族も死んでるんじゃ?」
俺達は手厚い近接航空支援としっかりとした装備、それに豊富な頭数による火力でもってなんとかツイステッドどもを撃退できているわけだが、奴にはそれがない。ツイステッドどもに襲われればひとたまりもないと思うのだが。
「それはそれで困りますが、それならそれで奴の死体の一部でも持ち帰らなければならないのですよ。ゲリッツがこのコーマット星系で宙賊と結託していたという確かな証拠になりますから」
足蹴にしていたツイステッドの腕から足を退かし、セレナ中佐が肩を竦める。
「それに、サプレッションシップに篭もったままなら無事でしょうし、何よりこのツイステッドどもやコーマットⅢの『攻撃的原生生物』の存在がゲリッツの差し金なのだとしたら、それらを制御する術を有していてもおかしくはありません。そのようなものがあるのであれば、それを奪取する必要があります」
「確かに。それがあればコーマットⅢやこのコーマットⅣで奴らに悩まされることが無くなりますわな」
「そういうことです。さぁ、部隊の準備も整ったようです。進みますよ」
「アイアイマム」
先に立って歩き始めるセレナ中佐の後を追い、砂塵の吹き荒れる大地を海兵達が征く。俺もその中に交じってセレナ中佐の後について行くのであった。




