#208 救難要請再び
どうも三十分から一時間の遅れるな!_(:3」∠)_(そのうちリズムを取り戻すので許して!
出港したばかりだが、一度コーマットプライムコロニーに戻って戦利品の売却等を行なう。戦利品を満載したままだと色々と支障があるからな。
とは言え、それで哨戒任務に支障を来すのは本末転倒なので、コーマットプライムコロニーで契約しておいた戦利品の保管スペースに宙賊艦のスクラップやら戦利品やらを雑に放り込んでおく。
「うちらはコロニーに残って回収品の改修を進めとくわ」
「了解。何もないとは思うけど、気をつけろよ」
「はい!」
整備士姉妹にはコーマットプライムコロニーに残ってもらい。回収した中型艦二隻と小型艦二隻の修理、改修作業を進めてもらう。整備ドッグで動いている分には危険もないだろうし、問題はないだろう。特に港湾部は帝国航宙軍とコロニーのセキュリティが目を光らせているからな。
「私達もコロニーに残って戦利品の船を改修する二人の取材をさせて頂きます」
「良いけど、邪魔はするなよ」
「それはもちろんですとも」
スペース・ドウェルグ社のワムドとそのスタッフ達もコーマットプライムコロニーに残るらしい。フォーマルハウトエンターテイメントのズィーアはクリシュナに乗り込み、その他のスタッフとニャットフリックス、メビウスリングはブラックロータスに乗り込んで取材を続けるようだ。
「忙しないと言うか、勤勉ですね」
「うん? そうか?」
「はい。我々のイメージする傭兵像とはかけ離れていますね」
クリシュナをブラックロータスのハンガーに格納し、ブラックロータスの休憩スペースで小休止を取っているとメビウスリングのアレンがそんな事を言い始めた。
「俺はその一般的な傭兵像ってのがよくわからんのだよな」
この世界の生まれではないので、この世界のスタンダートというものが未だによく理解できていないんだよな、俺は。無論、俺だってこの世界の勉強をサボっているというわけではないのだが、俺の頭には元の世界の常識というものが既にベッタリとこびりついているので、この世界特有の価値観やイメージというものがなかなか頭に馴染まないのだ。
「普通の傭兵像ってのは大きく稼いでパーッと遊んで、お金があるうちはダラダラ過ごしてるって感じよね」
「そうですね。ヒロ様はその点勤勉というか、ストイックというか」
「ストイックねぇ……」
そうは言ってもミミやエルマ、それにメイとそれなりによろしくしているし、毎日テツジンの美味い飯を食って、買いたいものを見つければ特に節制することなく購入しているけど。
「よりストレートに表現すると、こんな美人さんが二人もいるんだから昼となく夜となくそれはもうイチャイチャしているのかと思っていたというわけです」
「また減点されたいのかな?」
「いやいや普通はそう思いますって! ねぇ!?」
ニャットフリックスのニーアがそう言ってフォーマルハウトエンターテイメントのズィーアとメビウスリングのアレンに同意を求めるが、二人はハハハと乾いた笑いを漏らしてそれを受け流した。二人とも同意はしないが、否定もしない辺り考えていたことにほぼ違いはないらしい。
「まぁ減点は冗談として、そんなもんなのか。そんなんじゃいつまで経っても船をアップグレードできないだろうし、船を動かす感覚も鈍るだろうから腕も上がらないと思うけどなぁ」
「その発言が既にストイックですね」
「ヒロはなんだかんだで毎日自己鍛錬を欠かさないわよね」
「勘が鈍るのは良くないからな。俺は死にたくないし、クルーも死なせたくない。命張ってるんだから手を抜かないのは当たり前だよな」
下手踏んで自分だけが死ぬならともかく、同じ船に乗っているミミとエルマの命も預かっているとなると俺の責任はとても重い。
「やっぱりゴールドスターのプラチナランカーともなると心構えからして違うんですね」
「ワーカーホリック気味なだけかもな。さぁ、小休止したらクリシュナを出すぞ。さっさとパトロールに戻らないとな。メイはデータキャッシュの解析を進めておいてくれ」
「はい、お任せください」
☆★☆
「もうちょっとこう、ロックな展開にはならないのか?」
「パトロールでロックな展開ってどんなだよ」
再びコーマットプライムコロニーから出港して凡そ二時間。俺達は特にトラブルもなく哨戒を続けていた。ダレインワルド伯爵家から受けている依頼ではコーマット星系内における俺達の行動範囲にある程度の自由裁量はあるのだが、それでもその範囲内で宙賊なり何なりに遭遇できなければただのドライブみたいなものである。今日は大型民間客船を襲った連中を文字通り一網打尽にしたので、暫くこの辺りには宙賊どもは寄り付かないかもしれないな。
「あ、コーマットⅢの防衛部隊の司令部から緊急通信です」
「おっと、ズィーアが変なことを言うからロックな展開が来たぞ」
「やったぜ」
「やったぜじゃないんだよなぁ……で、ミミ。内容は?」
「えっと……コーマットⅢの開拓地が攻撃的な原生生物に襲われているようで、対地攻撃が可能な艦艇は至急コーマットⅢに急行して支援攻撃をして欲しいとのことです」
「対地攻撃ィ……?」
あまりに意味のわからない通信内容に俺は思わず変な声を出してしまう。
いくら開拓が始まったばかりの開拓地とは言え、原生生物――つまり動物の襲撃程度で宇宙に展開している戦力に救難要請を行なうというのは妙な話だ。
そりゃあ彼らは軍隊ではないのだからそこまで強力な武装はしていないだろうが、それでも金属の弾丸を火薬を使って発射する銃なんかよりも遥かに強力なレーザーガンやレーザーライフルは持ち込んでいるはずだし、拠点となる移民船にはシールド発生装置や人間が携行できる武器よりも余程強力なレーザータレットやマルチキャノンタレットが装備されているはずだ。
何より、そんなに脅威度の高い原生生物が存在するということが今更になって判明するというのもおかしな話である。テラフォーミングをする前にも完了した後にも現地には調査が入っているはずだし、その段階で脅威度の高い原生生物に関しては発見され、対処されているはずだ。
「なんだか妙な話だな。本当に発信元はコーマットⅢの防衛部隊か?」
「えっと、間違いないです」
「……一応こちらからも防衛部隊の司令部と、あと念の為にクライアントにも確認を入れておいてくれ。あと、通信ログはしっかり取っといてくれ」
「わかりました!」
今はズィーアが同乗しているから、クリスの名前は直接口に出さないほうが良いだろう。まぁ、隠しても俺達とクリスが割とズブズブな関係なのはとっくにバレてそうだけど。
「どうするの?」
「防衛部隊司令部からの通達となると無視するわけにもいかんだろうよ。ミミ、メイにもコーマットⅢに向かう旨を伝えてくれ」
「はい!」
こういう時はミミが大忙しだな。まぁ、難なくこの辺の通信業務をこなせるようになってきた辺り、ミミももう一端のオペレーターだな。もう少ししたらまた分け前の見直しをするべきかね。
「航路設定、コーマットⅢ」
「アイアイサー、航路設定するわ」
ミミが通信で手一杯なので、エルマがコーマットⅢへの航路を設定する。既に超光速航行中なので、超光速ドライブの起動シークエンスは必要無い。
「しかし、どう思う?」
「まぁ、変な話よね。絶対に無いってわけじゃないけど」
エルマも今回の対地攻撃要請には疑問を持っているようだ。
「見落としか、テラフォーミングの影響による急性変異か」
調査隊が危険な原生生物の存在を見落としたか、見誤ったか、或いはテラフォーミングによる環境の激変が無害と判断されていた原生生物に何か深刻な影響を与えたか。
「もしくは第三者の手による意図的な妨害かよね」
「あー、それも考えられるのか」
第三者の手による意図的な妨害――つまり今回のケースの場合は攻撃性が極めて高い生物兵器を秘密裏に降下させ、繁殖させた可能性だな。確かにその線も無いとは言えない。ダレインワルド伯爵家の躍進を防ぎたい連中がいるのなら、そういった手を取る可能性は十分にある。
バレれば自分の首を締めることになる一手だが、バレさえしなければ極めて有効な嫌がらせになるだろう。いずれにせよ、ここで入植地に大被害が出ればダレインワルド伯爵家の入植事業には大きくケチが付く形になるわけだ。
「現地で対処しきれずに救難要請が来るってことは……」
「どうも第三の可能性が高そうよね」
「Oh……」
「ロックな展開になってきたな!」
「どんな脅威があるかわからんが、俺達の話し合いの内容はカットしておけよ。貴族の暗闘に巻き込まれたいなら話は別だけど」
「ははは、当たり前だろう。そんなドロドロした話よりも派手でロックな映像の方が受けが良いに決まってるんだからな。ニャットフリックスの連中はそっちに食いつきそうだがね」
あー、そうね。ニーアなんかはこういうドロドロした話の方が好きそうだね。
まぁ、何にせよ久々の重力下戦闘になりそうだな。相手が原生生物となるとただの鴨撃ちになりそうだが、まぁそれはそれか。下手こいて地面に激突、なんてことにならないよう気をつけるとするか。




