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#146 依頼完了と報酬と褒賞

滑り込みアウトー!_(:3」∠)_(ゆるして

「……おはよ」

「おう。顔でも洗ってきたらどうだ?」

「そうするわ」


 あくびをしながらエルマが休憩室の外に出ていく。セレナ少佐は相変わらずの粘り腰であったが、俺も一度痛い目に遭わされているのでそうそう引っかかりはしない。のらりくらりと明確な回答を避け続け、最終的には所用があるので、ということで通話を切らせてもらった。

 そしてエルマを起こすのも忍びないのでメッセージアプリを使ってミミやメイ、整備士姉妹と連絡を取ったりしていたわけだ。

 取り敢えず輸送依頼を完了し、その報酬として150万エネルを得た。運ぶ荷物量に対して報酬が良かったのはここが危険な前線基地だったのと、俺達の配達速度に拠るものだろう。ただし、荷物を運んでいるのに戦闘に参加するのは如何なものかと商人ギルドの職員にはチクリと言われてしまったそうだ。


 うーん、確かにそう言われると申し開きのしようもないな! 一応荷物を積んでいるブラックロータスは帝国航宙軍の近くから砲撃を行っただけだから危険はなかったと思うが、今度からは気をつけるとしよう。覚えてたらな。

 商人ギルドの人には悪いが、俺の、俺達の本業はあくまで傭兵だ。戦って金になり、なおかつ戦っても問題がないと判断すれば俺は戦って報酬を得るチャンスは逃す気はない。それを含めて信頼できないというのなら今後は依頼を請けずに交易で荒稼ぎするスタイルでも俺は一向に構わない。

 運び屋としての仕事の良い所は運べば必ず儲けが出るという一点のみなので、利益を突き詰めていけば交易のほうが稼げるということもままあるし。というかちゃんと期限内に問題なく届けたのに文句を言われるとは思わなかったなぁ。


 というような内容のメッセージを商人ギルドに送ったら。


『信頼していないわけではありません。一般論として申し上げたまででして。今後も是非我々の依頼を請けてください。お願いします』


 といった旨のメッセージが返信されてきた。今回商人ギルドとの折衝を任せたミミが若い女の子だからと舐めてかかったのかな? どこにも困ったちゃんがいるもんだ。


『兄さんこっわ』


 メッセージと一緒に赤いスパナをモチーフにしたキャラクターがブルブルと震えているスタンプが表示された。これはティーナだな。


『傭兵稼業は舐められたら終わりだから。あの状況で戦闘に参加せず、ささっと荷物届けてささっと逃げたら他の傭兵連中に舐められるようになるわよ』


 コミカル単眼エイリアンが腕を組んでウンウンと頷くスタンプが表示される。顔を洗いに行ったと思ったら、向こうで参加してるのか。歯でも磨いているのだろうか?


『傭兵稼業というのも大変なものなんですね』


 今度は青いハンマーをモチーフにしたキャラクターが壁の向こうから覗いているスタンプが表示される。多分ウィスカなんだろうけど、キャラクターがムキムキマッチョな感じで絶妙にキモい。何故そのスタンプを使おうと思った?


『うぅ……ヒロ様の手を煩わせてしまいました』


 リスのようなネコのような不思議生物が落ち込んでいるスタンプが表示される。見た目だけは如何ともし難いから、こればかりは仕方がないと思うよ。眼鏡とかをかけると雰囲気が変わるかも知れないし、伊達眼鏡でもかけてみるか? できる秘書みたいなイメージが……いや難しいな。ミミだとどうやっても可愛い感じにしかならない気がする。


 ☆★☆


「いつまでも落ち込むなって。次は笑顔で受け流して言葉の刃をえぐり込んでやる、くらいの気持ちで頑張ろう」

「はい……」

「それに残りの積荷枠を使った交易ではちゃんとまとまった儲けが出たじゃないか。何も恥じることはないと思うぞ」

「……はい!」


 実際のところ、運んできた嗜好品は飛ぶように売れたそうだ。売りに出すなり次々に買い手がついて、売り出して間もなく荷は捌けたらしい。今回の交易で得た儲けは凡そ33万エネル。ミミへのボーナスは話し合いで儲けの3%と定めたので、9900エネルとなる。俺の取り分が凡そ32万エネル。

 そして輸送報酬の150万エネルに関してはいつもの賞金と同じ配分で分け前を分配することにしたので、ミミに1万5000エネル。エルマに4万5000エネル。俺の取り分が144万エネル。

 俺の取り分を合わせると176万エネルといったところか。ここから船の整備費用や停泊費、それに皆の生活費なんかが出ていくわけだ。意外と停泊費がばかにならないんだよな。ブラックロータスはクリシュナに比べて大きい分、停泊費も高くなるから。

 ちなみに今回の儲けから整備士姉妹に分配する分はない。彼女達にボーナスとして分配するのはあくまでも彼女達が主体となって作業をする宙賊艦からぶっこ抜いた装備の売却益と、鹵獲した宙賊艦の売却益だけである。


「それで、少佐から……というか帝国航宙軍からの依頼なんだが」

「まぁ、報酬次第よね」

「結局のところそれだよな。まだ向こうから連絡は来てないんだよな?」

「はい。今の所は帝国航宙軍からは何も」


 俺の後ろに控えているメイに聞いて見るが、やはりまだ帝国航宙軍の主計科からは何も連絡が入っていないらしい。


「こんなに時間がかかるものか?」

「恐らくは前例が無いので判断に困っているのではないかと」

「前例が無いってことあるか? 帝国航宙軍の戦闘に傭兵が介入して報酬をせびるなんてよくあることだろう?」


 既に戦闘が発生している宙域に突入し、その星系の支配者側の軍に肩入れして漁夫の利を得たりするのは傭兵プレイの常套手段である。俺もSOLで駆け出しの頃にはそうやって装備や船をアップグレードするための資金を稼いだもんだ。


「ご主人様の挙げた戦果が大き過ぎるのが問題なのでしょう。ご主人様の特攻じみた攻撃で戦いの趨勢が一気に帝国航宙軍側に傾いたのは明らかですから」

「特攻じみた攻撃てお前」


 そんなに無謀な行動はしていない。ちゃんと経験に裏打ちされた安全な運行だった。もっとも、SOLでは慣れるまでに何度も爆散したけど……そうか、この世界の人達があの機動を実現しようとすると何度も爆散=死という体験をしないといけないわけか。結晶生命体の群れの中で爆散したら、この世界では一瞬で結晶生命体の餌食になるものな。


「ご主人様は大型種四体を半壊、大破させて増援の出現能力を大幅に低下させ、大量の小型種、中型種の敵意を惹きつけて帝国航宙軍が組織的効力射を行うための時間を稼いだのです。あのままですと帝国航宙軍にもそれなりに被害が出たでしょうが、ご主人様の行動はそれを防ぎました。まともに評価すると叙勲と叙爵も有り得る大活躍です」

「なんて?」

「勲章の授与と騎士爵の叙爵も有り得ます」

「……聞かなかったことにしても良いかな?」


 年金付きの勲章なら喜んで貰うが、爵位はいらない。絶対に面倒事になるに決まっている。あっ、なんか遠くで黒髪おかっぱの可愛いお嬢ちゃんが物凄い笑顔を浮かべているのが見える気がする。

 別にクリスが嫌いというわけじゃないが、帝国貴族になったりするとしがらみが面倒臭いことになりそうだ。とりあえずセレナ少佐とクリス挟まれて両手をぐいぐいと引っ張られる構図が脳裏に浮かぶ。

 権勢の強そうなホールズ侯爵家と落ち目のダレインワルド伯爵家ではホールズ侯爵家に軍配が上がりそうだが、俺とクリスは同じ場所で寝泊まりをしていたという既成事実がある。俺はクリスには一切手を出していないが、その事実を知ったらあのおっかない伯爵の爺様が光り物を振りかざして責任を取れと迫ってくる気がしてならない。

 それを言ったらセレナ少佐も俺の船に乗り込んだりしてる? あっちが勝手に乗り込んできてる上に酒をかっ喰らって醜態を晒しまくっていたからあれはノーカン。もし騒ぐようなら俺の小型情報端末と念の為にクリシュナにバックアップしてある音声及び映像ファイルが盛大に火を吹くぜ。


「ヒロ様の目標を考えれば叙爵は都合が良いんじゃないですか?」

「兄さんの目標?」

「惑星上居住地に庭付きの一戸建てを立てて悠々自適な生活を送りたいんですって」

「それは大きな目標ですね」


 帝国内で惑星上居住地に家を建てる他には上級市民権が必要である。騎士爵を叙爵されれば自動的に上級市民権を持つ一等市民として登録されるので、普通に買うよりも大変お安く惑星上居住地に家を建てられるようになるわけだ。


「確かに爵位を得れば目標には大きく近づくことになるが……いや! まだそうと決まったわけじゃない! 今からそんな心配をする必要はない!」

「現実から目を背けるのはオススメしないけど」

「目の前に現れていない以上現実ではない。想像に怯えるのは馬鹿らしいじゃないか。それに、セレナ少佐は俺がそういったしがらみを好まないことを知っている。下手にそんなことをしたら俺の態度が硬化するとわかっているはずだ」

「それは確かにそうですね」


 俺の言葉にミミが同意する。そうだろう? いざとなったら逃げるよ、俺は。悠々自適な傭兵生活を手放すつもりはないからな。しがらみの少ない勲章なら貰うけど。


「勿体ないなぁ。お貴族様になれるならなったらええのに」

「平民から貴族に成り上がるのって帝国臣民なら誰でも夢見るサクセスストーリーなのにね」


 整備士姉妹が気楽にそんなことを言っているが、貴族なんてそんなに良いものなんだろうか? そりゃ色々と優遇されることはあるんだろうが、その分責任も負うことになると思うんだが。そんんなのは気楽な傭兵生活に勝るものじゃないと思うんだけどな。


「俺は社交的な性質じゃないから貴族とか無理」

「別に貴族だからって社交しなきゃならないわけじゃないわよ。特に騎士爵なんてのは貴族は貴族でも本物の貴族からすれば成り上がりの半平民みたいな扱いだしね」

「そんな風に見下されるのも癪じゃないか。それなら俺は傭兵として一目置かれるプラチナランクを目指すよ」

「あんたは一体どこに向かおうとしているのよ……というか、何でそんなに貴族になるのは嫌なわけ? 何か嫌な思い出でもあるの?」

「嫌な思い出……別に無いけど面倒くさそうじゃないか。性に合いそうにない」

「なってみたら意外と良いと思うかもしれんよ?」

「ぬぅ……終わり終わり、この話は終わりだ。はいやめ」

「えー」


 ティーナが不満そうに唇を尖らせる。お前、俺をからかって遊んでるな? 覚えてろよ。


「あっ、傭兵ギルド経由で帝国航宙軍の主計科から連絡が来ました」

「おっ、いいタイミングやね。なんて?」

「えっと……今回の戦役における貴艦の奮闘は敵の勢力を大いに挫き、多くの将兵の命を救ったと認められる働きであったと認められる。その戦功を認め、褒賞金300万エネルと銀剣翼突撃勲章を授与する、と」

「銀剣翼突撃勲章と言われてもピンとはこないが、褒賞金300万エネルはわかりやすくて結構だな」


 妥当な金額かどうかは判断できないが、なかなかの金額だと思う。日本円換算でおよそ三億円と考えると凄い金額なのでは? 一生遊んで暮らせる金額とまではいかないかも知れないけど。


「いや、300万エネルよりも銀剣翼突撃勲章の方に驚くべきでしょ?」

「だってピンとこないし……凄いのか? なんか豪華そうだなぁとは思うけど」


 デザインには興味がある。銀色の剣の鍔が翼になっているのか、それとも剣の翼が生えた戦闘機か何かなのか。


「ミミ様の読み上げた文章そのままです。帝国航宙軍の関わる戦闘において多大に貢献し、多くの将兵の命を救った兵に与えられる勲章です。データベースを参照する限り、グラッカン帝国で傭兵に授与されるのは十二年と七ヶ月ぶり、史上十七人目ですね」

「なるほどぉ……あれ? ターメーン星系では……ああうん、あれは無理だよな」


 ターメーン星系でも俺は同じような規模の戦果を挙げたが、あれは歌う水晶を使った半分以上イリーガルな手法だったからな。あれで俺を評価すると帝国航宙軍は歌う水晶を虐殺兵器として利用することを是としたことになるから、そうすることはできなかったわけだ。


「で、それって何か特典とかついてるのか?」

「グラッカン帝国内に於いては受勲者は身分として騎士爵位持ちの貴族と同じ扱いになります」

「凄い嫌そうな顔をしてるけど、大丈夫よ。本当に貴族になるわけじゃないから。あと、年金もついてたわよね?」

「はい。年間15万エネルの生涯年金がつきますね」

「しょぼい……しょぼくない?」


 15万エネルじゃ初期船の座布団をアップグレードすることもできない。微妙。


「いやしょぼくないですよ」

「兄さんの金銭感覚がおかしいだけや。年間15万エネルも貰えたらもう働かなくても生きていけるやん」


 ウィスカとティーナが冷静に突っ込んでくる。そうかぁ……まぁそうなんだな。整備士姉妹はこの世界における極めて一般的な金銭感覚の持ち主だものな。確かに年間1500万円の生涯年金と考えると破格の待遇か。


「貰ってもそれで変なしがらみが生まれたりはしないんだよな?」

「はい、問題ないかと」

「じゃあ謹んで拝領しますと返信しておいてくれ」

「わ、わかりました……」


 緊張した様子のミミがタブレットを操作して返信のメッセージをしたため始める。褒賞は上々。あとは依頼がどうなるかかね。この分だと期待して良さそうだが。

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さて、私はやたらめったらねちっこく嫌味っぽくしてみようと思い立ったが吉日とばかりに動きましょうかね。 ''拝啓 商人ギルドの皆様方におかれましては、ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。さて、こ…
[気になる点] 報奨金3億円は少ないですよね もし艦隊が半分やられたら兆円単位の損害が出るだろうし それを防いだと思えばボーナスは百億単位が最低ラインかと
[良い点] 勲章いいですねぇ~
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