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#124 仕事の成果と寸評

サムイ……サムイ……お犬様が膝の上から離れねぇ_(:3」∠)_(足が痺れてくる

「お上手ですね」

「ヒロ様は料理ができますからね!」

「いや、これくらい誰でもできるだろう……」


 片面が焼けたお好み焼きをひっくり返したところでウィスカが感心したような声を、ミミが何故か誇らしげな声を上げる。


「それにしてもあれよね。これ、焼く前の見た目がゲ――」

「姐さん、それ以上はアカン。それ以上言うたら戦争や」


 隣ではまったく焼く気無しな体勢でビールを飲んでいるエルマが危険な発言をしようとしてティーナに止められていた。俺もその発言はどうかと思うぞ。

 ちなみに、ドワーフ焼きはお好み焼きのようで、やはり別物の食い物であった。

 食感とか味は近いんだが、何か違う。キャベツっぽい食材の食感がいまいちだし、豚肉っぽい食材やイカっぽい食材も何か違う。一味足りない。でも青のりっぽい粉末の風味とか鰹節っぽい粉末の風味とかマヨネーズやソースの味は完璧だ。

 総合的に見ると……まぁ、八割くらいお好み焼き。ほぼお好み焼きで良いと思う。

 ちなみに、メイはものを食べることが出来ないわけではないが、後で廃棄することになるらしいので食事には参加せず、お行儀よく座ってエルマの分のドワーフ焼きを焼いている。ティーナとウィスカの焼き方を見て学習したらしく、その手付きに危うさのようなものは一切見当たらない。


「で、できましたっ」


 そうしているうちにミミも自作のドワーフ焼き第一号を作り上げることがかなったようである。ひっくり返すのに失敗して若干いびつな形になってはいるが、問題なく食べられそうである。


「ヒ、ヒロ様、よ、良かったらその……」

「一口くれ」

「はいっ」


 あーんと口を開けると、ミミは金属製のヘラで一口分を切り取ってそのまま突き出してきた。さすがに火傷はしたくないので、息を吹きかけて適度に冷ましてからミミの作ったドワーフ焼きを頂く。

 口の中に広がる生地のほのかな甘さ、キャベツっぽいサムシングの確かな甘さ、ソースとマヨネーズの濃厚な旨味、そして鼻に突き抜ける青のりの香り……うん、美味しい。食材の関係で少し残念な部分は完璧なソースとマヨネーズ、そして青のりっぽいものや鰹節っぽいものが十分に補っている。


「ど、どうですか?」

「美味しいぞ。上手く焼けてる。練習すれば他の料理も作れるようになるんじゃないか?」

「そ、そうですか? えへ、えへへ……」


 ミミがくねくねしながら鉄板の上のドワーフ焼きをもの凄い勢いで一口サイズにカットしていく。凄まじいヘラ捌きだ。もしかしたらミミにはナイフ格闘の才能があるのかもしれない。今度メイにレクチャーさせてみようかな。


「せや、旦那。あたし達の成果見たってぇな」


 そう言ってティーナが小型情報端末を取り出し、熱気を上げる鉄板の横に置いて操作すると手斧のようなもののホロ映像が投影されて浮かび上がってきた。

 それはまるで手斧か大鉈のようであった。だが決してそれは手斧や大鉈ではない。手斧や大鉈のグリップには普通トリガーなどはついていないし、ブレードと銃身が一体化していることもないだろう。寧ろこれは超大型の拳銃――いや、切り詰めたショットガンか、ライフルか。

 これは本来両手で扱うような大きさの銃器の銃身と銃床を片手でも持てるように無理やり切り詰め、その銃身の下に凶悪さを隠そうともしないブレードを取り付けたトンデモ武器だ。


「かっこいい武器ですね!」


 トンデモ武器のホロ映像を目にしたミミが目を輝かせている。ああうん。割とパンキッシュなファッションが好きなミミとしてはパッションを感じそうな見た目だね。俺としてはただでさえ悪人面というか強面のRIKISHIがこんな武器を持ったらどう見ても悪役だよなぁという感想が先に出てくるわけだが。


「旦那のパワーアーマーなら片手で扱える重さや。だから、三丁発注しておいたで。両手に一丁ずつ、もう一丁は失くしたり故障したりした時用の予備やな」


 ホロ映像に表示されている金額はきっちりと予算内であった。メイをつけておいたので心配はしていなかったが、良い仕事をしてくれたようだ。


「射撃スペックはスプリットレーザーガンに若干劣りますが、拡散率を絞ったので精度は上がっています。格闘武器としては刃部分にのみ超重圧縮素材を使ったことによって、強化単分子素材の刀剣とも打ち合えるスペックを持ちつつ軽量化にも成功しています。お使いのパワーアーマーの膂力なら同等のパワーアーマーの装甲すら打ち砕き、ダメージを与えることが可能です」


 メイがスペックの説明をしてくれる。生身の人間について言及がないのは、言うまでもなく真っ二つにでもなんでもしてしまえるからであろう。


「なんというか、悪そうな武器ねぇ」


 ホロ映像を見ながらエルマがニヤニヤと笑う。


「デザインの調和っちゅうんも大切やで。その上で要求スペックを満たしていれば花丸やな。名前は……せやなぁ。ハチェットガンなんてのはどうや?」

「ハチェットガンね。奇にてらうよりはシンプルで良いんじゃないか」


 漢字にすると斧銃。語感が微妙だな? やっぱハチェットガンで良いだろう。


「カタログスペック上は問題ないみたいだから、後は実際の使い勝手だな。報酬に関しては実物が届いて、使い勝手を確かめてからにさせてもらうぞ」

「妥当やな」


 俺の言葉にティーナが頷き、ウィスカが首を傾げた。


「報酬?」

「せや。旦那が要求したスペックを持つパワーアーマー用のオーダーメイド武器の設計依頼を請けたんや。最低限のスペックを満たせば1万、スペックをすべて満たしたら倍額の2万っちゅう話でな」


 ティーナがニコニコと満面の笑みを浮かべながらウィスカに事情を説明すると、ウィスカが俺に切なげな視線を向けてきた。


「お姉ちゃんだけですか……?」

「あー……うん、すまん。次に何かあったらウィスカに頼むから」

「約束ですよ?」

「わかったわかった……ん?」


 今の流れは今後もお付き合いするアレでは? ウィスカに視線を向けると、彼女はなんだかニコニコしているし、ティーナはニヤニヤというか『計画通り……!』みたいな顔をしていた。ミミは幸せそうにドワーフ焼きを食べていて、エルマは苦笑いを浮かべている。なんだか順調に既成事実を積み上げられている気がするな。まぁ、何にせよまだ結論を出すつもりはないが。


「メイ、技術者としてのティーナはどんな感じだったんだ? 所感を聞かせてくれ」

「ちょっ……本人を前に寸評すんのはやめてや!?」


 顔芸をしていたティーナが突然素に戻って慌て始める。しかし、メイがそんなティーナに構うわけもなく、彼女はドワーフ焼きを作る手を止めずに口を開いた。


「工学知識については問題ないかと。少なくとも、一流のエンジニアと言っても問題ないだけの知識を有していると考えられます。発想に関してはどちらかと言えば閃き型ではなく、堅実な考え方をするようです。言動などに迂闊な点は多いようですが、仕事には情熱を持って取り掛かるようですね。ご主人様とのトラブルも、仕事への行き過ぎた情熱と持ち前の迂闊さが最大限に発揮されてしまった結果でしょう」

「褒められてるのか駄目出しされてるのかようわからん評価やな」

「的確なんじゃないかな?」


 微妙な顔をしながらドワーフ焼きを口にするティーナの横で、ウィスカがメイの評価を肯定する。

 感性で生きてるっぽいティーナは閃き型というか天才肌なんじゃないかと勝手に思っていたんだが、技術者としてはどちらかというと堅実なタイプであるらしい。そう言われてみればハチェットガンもデザインはともかく、コンセプトや性能は尖った所もなく堅実ではあるよな。


「けったいなもんを作るのはウィスカのほうが得意やもんな」

「けったいなんて失礼な。私は中途半端なのが嫌いなだけだよ」

「それはわかるけど、ピーキー過ぎるのはあかんやろ。この前試作したスラスターとか中途半端な慣性制御機構やったら中の人が血を吐くで」

「でもスラスターは出力が高くて反応が早い方が良いでしょ?」

「それにも限度があるっちゅう話や……」


 姉妹がなんだか恐ろしい話をしている。半端な慣性制御だと中の人が血を吐くって、一体どんな殺人的な加速をするっていうんだよ。恐ろしいわ。


「大人しそうに見えるけど、実はウィスカの方が危ないのでは?」

「私はクリシュナのコックピットで挽き肉になるのは嫌よ」

「俺だって嫌だわそんなもの」


 ともあれ、今日一日行動を共にして姉妹の人柄はそれなりに知れたのではないかと思う。あとはホテルに戻ってからミミとエルマの二人からウィスカについて話を聞いて、こちらからもティーナとのことを話せばある程度の判断材料が揃うだろう。

 第一印象はともかく、二人の人柄は嫌いではないので俺としては船に乗せる方にだいぶ天秤が傾いているのだが……ミミとエルマ、それにメイの意見も大事だからな。まずは皆で話し合うことにするとしよう。

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― 新着の感想 ―
焼く前の姿がゲ●に見えるのは「お好み」よりも「もんじゃ」のほうなのでは? もしかして世の中の皆さんには同一のモノに見えるのか???
エルマ酒飲まないっていってなかったかな?
[気になる点] >隣ではまったく焼く気無しな体勢でビールを飲んでいるエルマが危険な発言をしようとしてティーナに止められていた。 ん?ビール??確か前話で・・・ と思ってツッコミ入れようとした…
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