#111 スペース・ドウェルグ社へ
不審人物達が連行されるのを見送った俺達は港湾区画を後にしてエレベーターに乗り、商業区画へと移動した。そして四人で通りを連れ立って歩いているわけだが……。
「なんだか息苦しいというか、狭苦しいコロニーだな」
「天井が低いですよね」
ミミがそう言って天井を見上げる。そう言われればそうかもしれない。ターメーンプライムコロニーもシエラプライムコロニーもこういう通りの天井はかなり高かった覚えがある。このコロニーは通りだと言うのに天井がかなり低い。それが頭の上から天井に押さえつけられるような圧迫感を生み出しているのか。
「ドワーフは背が低いのが多いからね。これくらいの高さでも気にならないんでしょ」
「ドワーフ?」
ドワーフと言うと、あのずんぐりむっくりで小さいおっさんというイメージあるあの? この世界にはエルフだけでなくドワーフもいるのか?
「そりゃスペース・ドウェルグ社なんだからドワーフはいるでしょ。ドウェルグってドワーフの別名じゃない」
「……おお!」
ドウェルグってどっかで聞いた単語だなぁと思ってたらそうか、ドワーフの別名か。ああ、そうだ。昔北欧神話か何かを読んだ時にドウェルグって小人が出てきたっけ。あれか。そういえばスキーズブラズニルってのもどことなく北欧っぽい雰囲気がある。北欧神話にそんな名前が出てきていた気がするな。どの神のどんな持ち物か覚えてないけど。多分名前の響きから言って神々が持つ乗り物か動物か何かだろう。
「急に腑に落ちたって顔をしたわね」
「いや、北欧神話でそんなのを見た覚えがあるなって。スッキリしたわ」
そういえばさっき連行されていった連中の中にもやたらとガタイの良い小さいおっさんが何人か居た気がするな。なるほど、彼らを基準に作られたコロニーなら天井が低めになるのも頷ける話だな。彼らを基準にしつつ、俺みたいな普通の人間でも過ごせるようにある程度高さを確保した結果がこの中途半端に圧迫感があるコロニーなのだろう。
「北欧神話、ね……そういえばあんた、エルフについても最初から知ってたわよね」
「ん? ああ。そうだな」
ゲームとかだとエルフはドワーフと並んでメジャーな存在だからな。勿論知ってる。
「それって不思議ですよね。ヒロ様はここじゃないどこかから来たはずなのに、エルフやドワーフを当然のように知っていて、しかもエルフやドワーフが出てくる神話も知っている。確かエルフとかドワーフって人間が宇宙進出して暫くしてから交流が始まった筈ですよね?」
「そうね、その筈ね。ヒロの居たところではまだ恒星間航行技術は確立されていなかったんでしょう? それなのになんでエルフやドワーフの存在を知っているのかしら」
「それを言ったら俺がゲームとしてこの世界のことを知っていたことのほうが謎じゃないか?」
「ん……確かにそれはそうよね。そう聞くとやっぱりヒロは元々この世界の住人で、何らかの事故で記憶が混乱していると考えたほうが自然な気がするわね」
「自分が異世界から来たと思い込んでるってことか? それはイタいな……いやでも、それだと俺の頭の中にアレが入ってないのはおかしいんじゃないか? それに、俺の遺伝子情報の件もあるだろ」
俺がそう言って自分の頭を指先でトントンとつつくと、エルマが眉間に皺を寄せた。
「それはそうよね……うーん、不思議だわ」
「ミステリーですね」
俺の頭の中にはこの世界で一般的に普及しているという言語翻訳インプラントというものが入っていない。これはどんなに経済的に困窮している人でもインプラント手術を受けられるという代物らしく、およそ入れていない人は居ないだろうと思われるレベルで普及しているものであるらしい。
ちなみに、俺は言語翻訳インプラントが入っていないにも拘らず、多数の言語を理解することができている。診察した先生を大いに首を傾げる不思議人間なのだ。ついでに言えば俺の遺伝子情報はこの世界では確認されていない未知のものが多いらしく、非常に価値のあるものであるということだった。
そっち関係は俺もミミもエルマもさっぱりわからない門外漢なので、何がどう珍しくて価値があるのかは5%も理解できていない。そういえば解析は進んでるのかな? 今度機会があったらショーコ先生のいるアレイン星系を再訪するのも良いかも知れない。
「到着しました」
ドワーフの話題から俺の存在そのものに対するミステリーな話題に移ったところで俺達は目的地に到着した。レトロフューチャー感あふれるロケット型宇宙船に宇宙服を着た髭面のおっさんが跨っている巨大な看板が印象的な巨大ショールームである。肩に担いでいる妙にSFチックな見た目のハンマーが絶妙にダサい。
「看板で損してないか?」
「伝統の看板だからね。確か数百年前からずっと同じ看板だとか聞いてるわよ」
「うーん、私のセンスには合いませんね」
エルマが肩を竦め、ミミは難しい顔で看板を見上げて辛口コメントをしている。ミミのセンスには合わないだろうなぁ。ミミは大人しそうな顔をしているけど割とパンキッシュなファッションセンスだし。
でもまぁ、人はそれなりに入っているようだ。そりゃこのコロニー自体が実質的にスペース・ドウェルグ社のものであるわけだし、このコロニーに来る人々は基本的にスペース・ドウェルグ社に用がある人々であるはずなので当たり前といえば当たり前か。
看板を見上げていても何も始まらないので、全員で中に入る。中に入ると正面に大きなカウンターがあり、そこでは多数の受付嬢が来客に対応していた。全員両耳の辺りに機械パーツがあるので、恐らく受付嬢は人間ではなくメイと同じようなアンドロイドなのだろう。
「結構人が多いですね」
ミミの言う通り、それなりの広さがあるロビーには結構な数の客らしき人々がいた。俺達と同じ傭兵と思われるちょっと厳つい人々や、もう少しマイルドな感じの商人っぽい人々。下請け業者なのか、ドワーフらしき頑健そうな身体つきの背の低い男性達の姿も多い。
「スペース・ドウェルグ社の製品はデザイン性はともかくとして頑丈で信頼性が高いものが多いからね。堅実派の商人や傭兵に人気なのよ」
「なるほどー」
空いているカウンターを見つけて四人で連れ立って歩いていく。
「いらっしゃいませ。スペース・ドウェルグ社にようこそ」
そう言って頭を下げ、営業スマイルを浮かべる受付嬢アンドロイド。ふむ、前髪ぱっつんボブカットの青みがかった黒髪か。誰がデザインしたのかは知らないが、良いセンスだな。
「本日はどのようなご用件でしょうか?」
「母艦の購入を検討していてな。その相談に来たんだ。とりあえず今検討している艦はスキーズブラズニルだが、オプションその他諸々について総合的にな」
そう言って俺は小型情報端末を取り出した。すると彼女は頷き、自分の手の甲を小型情報端末に翳す。どうやら彼女の手の甲には情報の読み取り機能があるらしい。
「ゴールドランク傭兵のキャプテン・ヒロ様ですね。承りました。ガイドボットの道案内に従ってお進みください」
「わかった」
カウンターの下部に穴が開き、ボウリングの球くらいの大きさの球体がごろりと転がり出てくる。イナガワテクノロジーでも同じようなのがいたな。見るからに重くて頑丈そうなのは蹴っ飛ばされて壊れないようにという対策なのだろうか? 他に改善する方法があるのでは……?
「コチラヘドウゾ」
「お、おう」
ピカピカと光りながら転がり始めるガイドボットの道案内で俺達は商談ブースへと向かう。ガイドボットは器用に人々に接触しないようにロビーを横切り、俺達を目的地へと導いてくれた。
「なんであんたはガイドボットに目が釘付けになってんのよ……」
「なんか不安になって……」
「わかる気がします」
エルマは呆れていたが、ミミは俺と同じ気持ちだったようだ。エルマはちょっとおおらか過ぎるというか、気にしなさすぎだと思うよ。うん。
案内されたブースというか個室の扉を開くと、そこにはビシッとビジネススーツを着込んだ小学生くらいの少女がいた。
「……?」
部屋を間違えたかと思って扉を閉めてガイドボットを確かめる。確かにガイドボットはこの扉に案内してくれたようだ。
「どうしたの?」
「いや、中になんかビジネススーツを着込んだ女の子が」
「それはドワーフの女性では?」
「えっ」
この世界のドワーフの女性は合法ロリなのか? 団子鼻に樽体型のかっちゃま的なやつじゃないのか? いや、確かに近年の女性ドワーフは合法ロリ率が高くなってはいたと思うがそれにしてもあんまりなのでは?
閉めていた扉が向こう側から割と力づくで開かれる。力強いね?
「お客様。どうぞこちらへ」
俺の発言が聞こえていたのか、満面の笑みを浮かべたスーツ姿の少女──ではなくドワーフの女性社員が俺達を個室の中へと招き入れた。そして俺達に席を勧め、俺達が席に着いた後に「失礼します」と一言断ってから自分も俺達の対面に座った。
「本日はスペース・ドウェルグ社ブラドプライム支店にご来店いただきありがとうございます。私は本日お客様の接客を担当させていただくサラ、と申します。よろしくお願いいたします」
そう言って彼女は完璧な営業スマイルを浮かべて見せた。
ボーダーランズ3もやってます。
ああ~、こころがすさんでいくんじゃぁー_(:3」∠)_




