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鬼譚―陰陽記―  作者: こ~すけ
第二章 予兆と予想
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二.

「次はどうしようかなー」

 俺の前を明華が歩いている。

 綾奈は、次はどこに行こうか悩んでいた。ただその顔はとても嬉しそうで、悩むのも楽しみの一つといった感じだ。

 最初のペットショップからかなりの店を見てまわった。本屋、CDショップ、カフェで小休止をした後、服屋にも行った。

 そのほとんどがウィンドウショッピングだったが、俺は楽しい時間を過ごせた。それは表情を見るに、明華も同じだろう。

 あとはどこがあるだろうか。いくら大型のショッピングモールとはいえ、めぼしい所には行ったような気がする。

 しかし、そうなるといまだにプレゼントが渡せていないのは結構問題がある。次の店しだいで決めないと。

「ん?」

 プレゼントをどうするか考えながら歩いていたのだが、俺の前を歩く明華が足をとめたので意識を明華に戻す。

 明華は、通路わきに並べられたガラスケースの中を見つめていた。

 俺も隣に立って中を覗くと、ケースの中にはアクセサリーが並べられている。様々な種類のものがあるが、明華の視線はその中の一つに向けられている。

 ――ペンダント、か。

 そのペンダントは、銀の鎖が付いていて、その先のペンダントトップと呼ばれる部分は、風と鳥の翼を思わせる綺麗なデザインになっていた。全体的に薄い緑色をしていて、草原を吹き抜ける柔らかな風とそれを受けて飛ぶ鳥を想像させる。

「綺麗……」

 明華がぽつりと呟いた。

「そうだな」

「うん」

 俺が同意すると、明華はフッと微笑む。どこか儚い雰囲気がして、ふいに心配になった。

「風ってね、なんだか自由な感じがして私好きなの。それに乗って飛ぶ鳥たちも。しがらみとかそんなのなくて、どこまでも飛んでいきそうでしょ?」

「…………」

 そう言うと、明華は顔を悲しげに伏せる。

 ……なんでそんなに悲しそうな顔をするんだよ。

 明華にはそんな顔はしてほしくない。俺は笑顔の明華が好きだ。いつも俺に力をくれる笑顔の明華が――。

「総真君?」

 無言の俺を不思議がってか、明華が首をかしげた。

 俺はチラリとそのペンダントの値札を見る。――よし、決めた!

「これ買うか!」

「えっ!?」

 明華が驚いて声を上げた。そしてケースの中の値札を見る。

 そこに書かれている数字は、学生ならちょっと尻込みしてしまうようなものだった。けどそんなことは関係ない。ギリギリだがなんとかなる!

「すいませーん」

「そ、総真君!?」

 明華が値札に気をとられている間に、俺は店員に声をかけていた。明華が慌ててその後を追ってくる。

「総真君、買わなくていいよ! わ、私、眺めてただけだから」

「気にすんなってー」

 俺はひらひらと手を振った。

 わざとこれくらいどうってことないって雰囲気を醸し出す。

「いらっしゃいませ。こちらでよろしいですか?」

 対応してくれたのは若い女性の店員で、ペンダントを手でさして尋ねてくる。

「はい。あ、あとプレゼント用なんで包んでくれますか?」

 そうお願いすると、女性店員は俺ではなく、少し離れたところで立っている明華に目をやった後、なにかを察してニッコリとした笑顔を見せると、心よく了承してくれた。

「分かりましたー! 特別念入りに包装させていただきますねー」

「ははは、ありがとうございます」

 そのテンションの高さに苦笑いを浮かべつつ、俺は会計をしにレジに向かう。

「……総真君」

 その途中、明華がもう一度だけ俺の名前を呼んだ。申し訳なさそうな顔をしている。

 心配しなくていいよ、という意味も込めて俺は笑顔を見せた。

「もう少し待ってて、すぐ戻るから」

 そう言うと、明華は頷いてくれた。

 レジで手早く会計を済まし、ペンダントと同じ薄い緑色の紙で包装された細長い箱を受け取る。

 そして、そのまま明華のところへ駆け寄った。

「おまたせ! はい、プレゼント」

 俺の見せられる最大限の笑顔でプレゼントを手渡す。

 明華はゆっくりと手をあげると、それを受け取ってくれた。

「……ありがとう」

 受け取った明華が笑顔を見せてくれた。……よかった、喜んでくれた。

「残念ながらサプライズ性はまったくないけどな」

 俺は照れ隠しをするつもりで苦笑した。明華の笑顔を見て、顔に熱がいくのを感じたからだ。今の俺なら顔面でお湯を沸かせるかもしれない。……自分で言うのもなんだが。

「うん。でも嬉しいよ。……ホントに、ありがと」

 もう一度お礼を言ってくれる笑顔の明華。しかしその瞳にみるみると透明の雫が溜まっていく。……て、えぇ! 泣いてるのか?

「お、おいおい……明華、泣くなよ。そんな高いもんじゃないんだから」

 女の子に泣かれたのはなにも初めてじゃない。子供の頃は綾奈によく泣かれた。けど、この年になって、しかも彼女に泣かれるのは初めてだ。――明華が初の彼女なんだから当然だが。

 さっき落ち込まれた時以上に、どうすればいいのかまったく分からない。

「違う……違うの。値段なんて関係ないよ……私、嬉しい……」

 しかし、明華が絞り出すように言った言葉を聞いて、俺は微笑んだ。

 明華、喜んでくれてるんだな。よかった。本当にプレゼントしてよかった。そう心から思った。

「そんなに喜んでもらえて、俺も嬉しいよ。……とにかくちょっと休もうか」

「……うん」

 涙を隠すように目元に手をあてて、顔を伏せている明華の手をそっととって一緒に歩きだす。

 俺たちの様子を見ていた女性店員さんの微笑ましいものを見るような、生暖かい視線を浴びながら店を出る。いや、よく見ると、店員さんだけではなくて、店にいた他のお客さんたちからも同様の視線を浴びている。

 明華には悪いがものすごく恥ずかしいな、これ。……一刻も早くこの場から逃げるのが先決だ。

 とはいえ、どこに行こうか。ここから近くて落ち着ける場所といえば……「憩いの場」だな。

 俺はそう決めると、明華の手を引いて歩き始めた。


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