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『御伽話』

 夕暮れ時。

 傾いた陽の光は赤みを帯び、足元から伸びる影は長くなる。足元だけではない。木も森も家も小屋も、長い影を生む。

 そして部屋の中、手元にも影は伸びる。だから部屋に明かりを灯し、影をなくす。闇を払おうと火を灯す。


 見えれば安心だ。なにもないことを確認できる。


 そして子供に伝える。日が暮れるまでに帰ってきなさい、と。長く伸びた影に隠される道の窪み。昼間なら気にも止めない小さな石の頭。それを影が隠してしまう。足元が疎かな子供ほどよく転ぶ。見えない事の怖さを痛みで覚えていく。


 明るい家に帰ると安心する。それは大人も同じ。家が、灯りが、獣や魔物から自身を守ってくれる。暗い夜、闇からも。

 しかし明かりを消せば家の中も暗くなる。夜が、闇が。家の中に入ってくる。


 子供は怖くなる。


 あの棚の影に何かいるかも。

 扉の向こうに誰か隠れているかも。

 そういう時に限って、用足しに行きたい。


 風も敵だ。


 ひゅうと吹く風の音。

 何かの生き物の息使いに思える。

 もしかしたら化け物が。


 その風が家を揺らす。

 僅かに家を軋ませる。


 子供はぎゅっと目を瞑る。

 用足しを考えるのをやめ、時に失敗する。


 そして翌朝、失敗は見つかる。

 母親にげんこつを落とされる。


 そんな闇への恐怖。

 その恐怖心はいつしか形を作る。

 居るはずもない化け物を想像する。


 そして。

 物語は作られる。

 物語は語られる。

 物語は伝えられる。

 物語は広がっていく。


 そこに魔が付け込むのは必然だったのかもしれない。

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