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【書籍化】私の推しメンは噛ませ犬◆こっち向いてよヒロイン様!◆  作者: ナユタ
◆一年生◆

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*14* 夏期休暇の終了と、それから?

 

 学園図書館の自慢である大窓から差し込む日の色が、白い夏の昼間の日射しからから夕方に近付いた黄色に変わる。窓から見える鳥達も、ゆっくりと旋回しながら住処のある裏庭の木々や、街の公園の方角へと飛んでいく。


「おっと……もうこんな時間か。それじゃあ、今日の勉強はここまでにしようか、リンクスさん」


 窓の外の変化に気付いたホーンスさんが、胸元にしまってあった懐中時計を取り出して時間を確認し、穏やかに本日の授業終了を告げる。


「はいぃ……今日もご教授ありがとうございました……ホーンス先生」


 広いテーブルに熱暴走を起こしかけている頭を預け、何とかそれだけを口にした。おぉ……木目の美しい一枚板のテーブルが冷たくて気持ちいい。推しメン用のスチルボックスが、今日の勉強内容に押されて歪みそうだ。何としても死守せねば。


 それにしても――と、突っ伏していた頭を持ち上げて、外を眺めるホーンスさんの大きな背中を眺める。夏休みが始まって一週間でやや濃さを増した星は、あれ以来その濃さを増すことなく淡い輝きを放っていた。


 いまのところ一番長く張り込んでいるホーンスさんが、まだ落ち着きのある巨峰色のエフェクトで良かったと思う。これがアーロンやカインや、もうすでに脱落したがヨシュアだったりしたら、目がチカチカして長時間一緒に勉強なんてとても出来ないところだ。


 ちょっとしたパチ○コや歓○街のネオンサインみたいに、四六時中間近に瞬くと光害になってしまう。ゲームの制作者さん、お願いですからもう少し目に優しいパステルカラーとかになりませんか?


  ――って、駄目か。そんな目に優しいパッケージデザインなんて、あの激しい色遣いやキャラクターの棚に置かれた瞬間霞むもんね。悪目立ちでも手に取られないと売れないし。


 そんな私の色々含んだ視線に気付いたのか、不意に振り向いたホーンスさんと目が合う。こういう時に咄嗟に愛想笑いを浮かべてしまうのは、仏頂面だった前世の癖ではなさそうだ。


「はは、だいぶ疲れさせてしまったみたいだな。君がなかなか音を上げないから、つい自分も教えることに熱が入ってしまったようだ。今日で夏期休暇も終わりなのが惜しいくらいだったよ」


 椅子から立ち上がる、が。勢いよく立ち上がったせいで、膝裏に思い切り椅子が当たって「あ痛ぁっ!」という乙女ゲームの住人らしからぬ声が出た。痛いうえに格好悪い。図書館という無音に近い空間で、私の上げた声はかなり良く響く。


 いまが夏期休暇中で、私達以外にここを使用している生徒がいなくて良かった。さもないと大迷惑になってしまうところだ。


 私の間抜けな失態に、すぐに「だ、大丈夫か?」とテーブルを回り込んで来てくれたホーンスさんが訊ねてくれるけれど……そのガタイに似合わない紳士さが、余計に自分のお馬鹿さを引き立たせている気がする。


「あ、はい、大丈夫です――って、それよりも、今日までご指導頂いてありがとうございました。お陰様で休み明けのテストも何とかなりそうです!」


 お礼を述べながら、当初はヒロインちゃんとどこで出逢ってしまったのか分からなくて、ルート発生の阻止と見張りの意味合いで申し込んだこの勉強会も、いざ終わるとなると少々寂しいな。ホーンスさんの授業は、学園で落ち零れの生徒である私にも丁寧で分かりやすかったし。


「いや、大したことは教えていないよ。むしろ大切なのは熱心な学びへの態度だ。その点、君みたいな生徒は大歓迎だよ。またここで自分を見つけた時に訊きたいことがあれば、いつでも声をかけてくれ」


 こちらの始まりの思惑など全く知らないホーンスさんは、そう爽やかな笑顔でありがたいことを言ってくれる。そんなお人好し極まるホーンスさんと図書館前で別れ、夕方の校内を一人女子寮へと向かった。


 明日からの学園開始に合わせて戻った生徒達でごった返す玄関口から、裏口経由で自室へと戻った私は、前世の学生時代なら絶対にありえなかったことだけれど、明日の学園開始の日付に大きく華丸を付ける。やっと今日の深夜十二時で、全く気の休まることがなかった夏休みが終わるのだ。


 アリシアがどこかでホーンスさんと再び顔を合わせて、会話を楽しんだり親睦を深めてしまったりしたら、私がここに残っていた意味がないもんね。


「玄関の込みようからして、今夜は食堂も混むだろうし。昨日まとめ買いしておいたパンが、残ってるから、夕飯はそれで、済ませて、夜中の星詠みまで体力でも温存しよう、かな」


 ――……何よりもだ。


「……もう無理……眠い」


 ベッドに腰を下ろした途端にプツリと意識が途切れて、危うく深夜の星詠みをしないまま朝を迎えてしまうところだった。


 翌日は久し振りにスティルマン君と会えるとあって、かなり早くから目が覚めてしまった。張り切ったところで、生まれついての地味顔がどうなる訳でもないんだけどね?


 この世界では前世のように、顔の見目ががらりと変わるような意匠を施せるメイク道具や化粧品なんて、本当に貴族のお嬢様達にしか普及してない。


 そもそも添加物の一切ない食生活的に肌荒れが起こるようなことも少ないから、若い内はあまり気にしなくても良いかな。ツヤツヤピチピチのお肌なんていまの間だけだよ。心が落ち着かないまま身支度を整えて学園の教室に入ると、夏期休暇の間はシンと静まり返っていた教室内に、領地から戻った生徒達が親しい友人と話す賑やかな声が満ちていた。


 私に話しかける生徒なんて一人もいないけれど、そこは問題ではない。私は素早く視線を教室内に走らせてカインの姿を探す。するとすぐにあのエフェクトを纏った姿を見つけることが出来た。


 ――良かった。遠目からでも、夏期休暇前に比べて輝きが増しているなんてことはなさそうだ。ヒロインちゃんはいまのところカインに対してお友達以上の感情持っていないのかな?


 そのことに満足した私は、ホームルームが始まるのを待つ間、ずっと推しメンが選んでくれた本を読みふけりつつチャイムが鳴るのを待った……のだけれど……チャイムが鳴っても、スティルマン君が来ない。


 結局担当の先生が現れ、ホームルームが始まってもスティルマン君が教室に現れることはなく、そうこうする間に放課後になってしまった。


 もういまさら現れることはないと分かっていても、しばらく待ってみた。しかし休み明けでお喋りに花を咲かせる生徒達が多くて居辛くなった私は、諦めて図書館へ向かうことにする。


 図書館の入口で星火石ランプの貸出しを断って、肌身離さず首にかけている星火石で出来た涙型の首飾りを掲げながら、いつもの場所に向かう。


「うーん、お家の用事とかかなぁ? だったら仕方ないけど……」


 そう口にしてみるけれど、せっかく久々に会えると思っていただけに寂しいぞ。何というか、友達に会えなくてしょんぼりする気分を初めて味わった。


 それとも……これが前世学生時代に聞いた〝○○君に会うために学校来てるの〟とかいうやつなのか? いまさらだし、世界すら違うけど激しく同意出来る。私は今まさに凄くガッカリしているのだ。


「まぁ、このガッカリも前世は感じなかった訳だし……ちょっとしたスパイスだとでも思おうかなぁ」


 心ではちっとも納得しなくとも、口に出せば諦めもつく。しかし、明日こそは会えるだろうと信じて最後の本棚を曲がった私がそこで発見したのは、とんでもなくレアで垂涎物なご褒美スチルだった。

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