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【書籍化】私の推しメンは噛ませ犬◆こっち向いてよヒロイン様!◆  作者: ナユタ
◆オマケ◆

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*書籍化御礼SS* 新発売のお菓子って?

1年生時の部室でのお話です。

よろしければどうぞ〜(*´ω`*)♪

 珍しく放課後の部活時間を削って向かったのは、スティルマン君との街歩きで教えてもらった別名【学生通り】。


 その彼は現在これまた珍しく教師に授業内容について質問中なので、彼と一学年上のラシード達が部室に来る前に、量が足りなくなっているお茶菓子を買いに来ているのだが――。


「えぇ? カインの言ってた新作のお菓子って……これ?」


 まぁ勝手に期待した私が悪いのだけど、奴が大事な提出物を忘れてまで死守した新商品の発売日の記憶が、まさかこれだとは思うまい。部活の時間に皆で食べられるものかと思っていたので、肩透かしを食らった気分だ。


「大商家の息子がリサーチしてるから、てっきりクッキーとかマドレーヌとかパイ系だと思ってたんだけどなぁ」


 新商品の棚に伸ばしかけていた手を引っ込め、いつも購入するお菓子が並ぶ棚へと移動する。安心のラインナップの中から、カーサが好きそうなアイシングクッキーを一袋、次いでラシードの好きそうなハーブとスパイスが入ったクッキー、最後に推しメンが好きそうなビスコッティを一袋取る。


 お菓子を選ぶ時は自分用は考えない。気心の知れた友人達が好きなものは、何でも美味しく感じるからだ。あ、でもラシードの時はちょっと考えるかな。いや、かなり悩むか。奴の味覚は常人にはハードルが高い。


 ともあれお目当ての商品がハズレだったので、これ以上お財布が軽くなる前にさっさと退散しようと思ったけど、ふと自分が原理は知っていても、機械を使わないあれの作り方を知らないことに気付いた。きっとラシードも知らないに違いない。


 値段は材料代を考えるとお高い気もしたけど、ノスタルジーに払うと思えば安い気もしたので買ってしまった。その代わりにラシードの好きなクッキーは棚に戻しちゃったけど、どのみちお裾分けするから問題なし!お目当てのお菓子をゲットした私は、店を出て皆の待つ部室へと一目散に駆けた。


 ――、

 ――――、

 ――――――。


「あらぁ、やだ、どうしたのよこれ。懐かしいわね〜!!」


「そうでしょ? こっちだと新商品なんだって。でも縁日で見ることしかなかったから、お菓子屋さんの棚に並んでると違和感が凄かった」


 部室でラシードに真っ先に買ってきたブツを見せた反応は上々だ。子女らしさをかなぐり捨ててまで走って買いに行った甲斐があったぜ。後ろでお小言を言いたそうにしているスティルマン君からはソッと目を逸らす。


 そこまでして買い求めた新商品の正体は、縁日でアニメキャラクターを描いた袋で子供を釣る、親が最も注意して遠ざける屋台……綿菓子だ。虚無を具現化したみたいに軽いのに、金額的には結構重い。


 あの袋って砂糖でベタベタになってるし、匂いもついちゃってるから、何にも使えないで捨てるしかないのに、あれ一枚で綿菓子の価値を一気に上げるよね。でも縁日で見かけると不思議と抗い難い魅力があるんだよなぁ。


 こちらの世界では流石に可愛い柄の紙袋だけど、ラシードと記憶の共有が出来たので買ってきて良かった。お初のカーサとスティルマン君は、袋の中から溢れる白い物体に興味津々だ。


「ふむ、甘い香りがするから辛うじて菓子なことは分かるが……」


「ルシア、どうやって食べるものなのだこれは?」


「こうやって手でちぎって食べるんだけど、味はあんまり期待しないでね。本当にただ甘いだけだからさ」


 綿菓子の食べ方をレクチャーするなんて人生で初めてだけど、指先で摘んで引っ張るむっちりとした感触は、あまり楽しくなかった幼少期でも、少し懐かしい気分にさせてくれる。


「どれお味は――甘っ」


 原材料砂糖。以上。シュワッと溶ける特性以外は、それ以上でもそれ以下でもない。知ってたけど。


 ちなみにお祭りに一回連れて行ってもらうのに、テストで全科目九十点以下をとっては駄目だった。今世はお祭りに行けなかったことなどない。今の私は両親に溺愛されし一人娘ですからね、ふはははは!

 

「そうそう、この甘さと食感。懐かしいわね〜」


「むぅっ……これは……!」


「砂糖だな。それ以外の味はしない」


「だからそうだってば。砂糖をこういう風にふわふわにしたら面白いでしょ、くらいの話。ネタ商品です」


「原価率が気になるところだが、子供は喜びそうだな」


「凄い! 口に入れた瞬間になくなったぞ! ちぎってパクッ、スーッだ!」


「カーサったら、興奮で語彙が赤ちゃんになってるわねぇ」


「ああ、まぁ……一部の甘い物好きな人間にも効果的らしいな」


 流石のヘイトマンでもカーサの表情に言葉を選んだか。長身の美少女が瞳をキラキラさせ、語彙のあれな食レポをしている姿からしか得られない栄養素ってあるよ。あの頃みたいに縁日の魔法がかかっていないから、食べてももっとがっかりするものだと思っていた。


 だけど違ったや。あの頃みたいに滅多にもらえない宝物だから、大事に食べようと翌日まで残してぺしゃんこになって、泣きながら食べた少ししょっぱい綿菓子は、ここにはない。


 まぁでもただの砂糖の塊にお金を使ったことで、スティルマン君に皮肉られるかなと覚悟したのに、彼は意外にも柔らかく微笑んで。


「いつも突飛なことばかりするルシアが、今度は何を持ってきたのかと思えば……まさか星詠師が食べられる雲を持ち帰るとは。今夜はルシアでも四日分くらいは星が見えるかもな?」


 いや結局皮肉は言うのかよとは思いつつ、いつもの切れ味がない優しい皮肉が、まだ私の中にいた幼い私を包み込んでくれる。涙を含まない甘いだけの綿菓子は、記憶の中にあるものよりも、ずっとずっと美味しかった。

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― 新着の感想 ―
おめでとうございます♪ そしてかわいいエピありがとうございます!
推しメン、書籍化&発売おめでとうございますー!!!! うれしーい!!ヽ(;▽;)ノ 感想書くのが遅れてしまったけど、記念日に4人が登場するSSが読めて幸せ♡ 長身の美少女が語彙のあれな食レポをしてい…
そう…美人の輝きは人類の必要栄養素に入れていいと思う(๑ •`д•´๑)✧ SSありがとうございます! あらためまして、書籍化おめでとうございます!!ヽ(=´▽`=)ノ♪
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