☆☆ トリック・オア・トリート!
季節ネタを急に思いついたので書いてみました。
結婚して間もない頃の時間軸でお送りします(*´ω`*)
「割とついこの間まで着てたのに、もう行かない場所の格好するのって結構勇気がいるもんだなぁ。ラシードは〝制服なんてものは、卒業した時から価値が上がるのよ!〟とか訳の分かんないこと手紙に書いてたけど……うーん」
自室の鏡の前で気恥ずかしさから独り言を言いつつ、制服のスカートを摘まんで持ち上げてみる。学園にいた頃より太股の辺りがやや筋肉質になった以外は、まだ現役だと偽ってもギリギリ許される……はず。
「でもラシードの言うことだし、きっとクラウスを驚かすには効果あるよね。ハロウィンはこっちの世界にはないお祭りだもん」
そう。本日は前世でいうところのハロウィン。そして学生を卒業した身で学生服を着る行為は、まぎれもなくコスプレに入る。大好きな人を驚かせる悪戯とはいえ、前世の私なら絶対に真似しなかったリア充のイベントに手を染めるだなんて。
「それにラシードも〝もう結婚してるとはいってもよ、たまにはスパイスが欲しいじゃない? ハロウィンは持ってこいだと思うわ〟って手紙に書いてたもんね」
現在時刻は夜の十時。
この奇行に同調する仲間が少なくとも今日一人は確実にいる。あっちは制服とかみたいな手抜きでなく、もっと気合いが入ってそうだけど。そんなことを考えながらガウンを羽織って、最近また仕事人間になりつつあるクラウスの仕事部屋へと向かった。
仕事部屋の前まで行くと、僅かにドアが開いて室内から灯りが漏れている。ここまで来て〝夫が熱心に仕事をしているのに、私は何をしてるんだろう?〟とか思ってはいけない。まともな部分が残っているが故の居たたまれなさを飲み込んで、一息にドアを開いた。
するとこっちに気付いたクラウスが書類から視線を上げ、それまでの真剣な表情を消し、ふっと柔らかい表情を浮かべて「どうしたルシア」と声をかけてくれる。この時点でもうかなり好きが溢れる。私の旦那様が今日も格好良い。
「えーと、あはは、急にごめんね? ちょっと用事があってさ」
「そうか。今夜は十二時頃には切り上げるつもりだから、もう少し後でベッドで聞いても構わないか?」
妻が夜分に仕事部屋を訪ねても冷静な判断。流石は堅物。しかし今ここで引いてしまえば、後で正気に戻った時間に同じことをする勇気がない。
何より日付が変わっちゃったら〝前世のお祭りでした~〟というネタバレも使えなくなってしまう。
「あ、そこは是非今が良いです。我儘言ってごめん。でもすぐに済むから、ね」
へらりと笑う私を見て「分かった。ならずっと寒い入口にいないでこちらに」と手招いてくれた。はい好き。全然大したことを伝えに来たわけじゃないから、地味に優しさが心苦しいけど。
羞恥と緊張を胸にクラウスの隣まで移動した私は固く目蓋を閉ざし、意を決してガウンを広げあの台詞を言い放った――!
「トリック・オア・トリート! お菓子をくれなきゃいっ、悪戯、しちゃうぞ!」
うおぉぉぉ……大事なところで盛大に噛んだ。もう逃げたい。しかもこの格好って冬場の変質者と同じじゃん。二重三重の失敗に気付いた瞬間、恥ずかしくて目蓋を持ち上げられない。最悪だ――……と。
「ルシア、ほらどうしたんだ。目を開けてくれ。お菓子が欲しいのだろう?」
くつくつと喉の奥で笑う気配と、唇に押し当てられたキャンディーの包み紙の感触に、四重目の失敗を悟って目蓋を持ち上げた。
「……ありがとうございました。おやすみなさ、うおゎ?」
目の前で笑みを浮かべるクラウスの手からキャンディーの包みを受け取り、ガウンの前を合わせてそうお礼を言って寝室に逃げ帰ろうとしたら、いきなりクラウスの腕に捕まって膝の上に座らされてしまった。それも向かい合わせに跨がった状態で。これってどんな罰ゲームかな?
そのままガウンを剥がれ、ジーッと上から下まで私の格好を眺めるクラウス。もう止めてぇぇぇこれ以上はライフがゼロになる!!
「な、何か用ですかクラウスさん? お、お菓子をもらえたから、私としてはもう、部屋に戻りたいんデスけど?」
「ほう、それだとラシードに聞いていた話と違うな」
「えっ……あ、あれ、何でクラウスがそれを知って……?」
「今夜中だと聞いていたのになかなか来ないから、もうやってこないかと思っていたが……お菓子の用意が無駄にならなくて良かった」
「そ、そうだね~、可愛いキャンディーありがとうクラウス。それじゃあ……」
「まぁ待てルシア。ラシードからお菓子をあげたら悪戯する権利はこちらに移ると教わっているのだが?」
ギクリとする私にニヤリとするクラウス。その手がゆっくりと腰に添えられた。あ……ヤバイ、これ動けない。というか、またか、またなのかラシード!! お前また裏切ったなあぁ!?
「そ、そーだったかな? 私、本当はあんまりこのお祭りに詳しくなくて」
「成程。それならラシードの方が詳しかったわけか。教わっていて助かった。さてそれではルシア。わざわざ前世の記憶をラシードと共有してまで俺に悪戯を仕掛けたからには……覚悟のほどはあるんだろうな?」
耳許で低く問われて背中が粟立つ。期待と不安の感覚って何で少し似てるんだろうと思いながらも。
「お、お手柔らかに、お願いします……」
消え入るような声で返した言葉に返ってくる口付けと、真正面からの「それはどうだろうな」という言葉と視線に、これから起こる事態への覚悟を決めた。
この続きは月面に置いてます(今夜21時前後に投稿)




