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【書籍化】私の推しメンは噛ませ犬◆こっち向いてよヒロイン様!◆  作者: ナユタ
◆番外編◆ ルシアとクラウスの場合。

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☆5☆ 激闘!嵐を呼ぶ贈り物。



 クラウスが我が家にやってきてから、もう一週間が経った。


 それすなわち、毎朝クラウスを起こしに行くという幸せな使命が日課になって、もう七日目ということだ。もう毎朝が実に尊い。


 あの無防備な寝顔を見つめるのが幸せすぎて、毎日同じ手に引っかかる私も私だとは思うけど……ここへ来てからというもの、クラウスは徐々に変わりつつある。やや遅れてきた悪戯っ子な感じはするものの、勿論基本的には良い方向へだ。


 仕事も徐々に憶えていってくれているし、元の地頭が良いから飲み込みが早い。これまで書類仕事ばかりで、やったことがなかったような農作業でも、今まで私達がやってきた手順より効率良くこなせるように気を利かせてくれるしね。


 口調こそまだ堅いところが残っているけれど、基本の物腰は穏やかなものだから、領地内でももうすっかり人気者だ。本人はうちの領地の皆が人懐っこいお人好しだからだと言っていたけど、そんなことはないと思う。


 そりゃあ確かにうちの領民は結構緩い方だと思うけど、田舎の人って案外王都の中枢部で働いている人達くらいに警戒心が強い。だからそんな風に感じられるクラウスは、やっぱりうちの領地に向いている人なんだろう。


 だんだん四人でとる食事も板につき始めたし、領地の皆ともだいぶ打ち解けてきたクラウスをつれて、今日はどんな新しい仕事を憶えてみたいかと訊ねながら屋敷の玄関に向かうと、そこにはニコニコ顔の母様が立っていた。


 母様は私とクラウスに気付くと「あら、ちょうど良かったわ~。二人宛にいっぱい荷物が届いたところなのよ」と言ってその足許を指差す。クラウスと揃って視線を落とせば、そこには大小様々な箱が積み上げられていて、ラッピングの煌びやかさから、この片田舎の商品ではないと分かる。


 瞬時に同じことを考えたのか、隣にいたクラウスが「義母上、もしや差出人は全部同じ人物からですか?」と母様に訊ねた。すると今年で三十九歳になるのに、いつまでたっても少女っぽさが抜けない母様が「大正解よ~」と嬉しそうに拍手をしてくれる。


「母様も今日辺りから、ルシアの結婚式のドレスとか引っ張り出そうと思ってたんだけど……あなた達、先にこれを部屋に運んで開けちゃいなさいな。その代わり、素敵な物があったら見せて頂戴ね~。どうせルシアの本番一着目のドレスは、母様が着たドレスで退屈なんだもの」


「あ、母様……先に自分で退屈なドレスとか言っちゃうんだ?」


「あらあら、この子ったら当然でしょう。ここは田舎なんだから、代々受け継いだ……なんて言ったら聞こえは良いけど、ようは流行りからうーんと離れた古物よ? 虫が食べてないか心配だわぁ」


 あんまりすぎるその言い分に私が「一人娘の結婚式なのに雑だなぁ」と苦笑すると、隣でクラウスが肩を震わせながら笑いを堪えていた。彼の笑いのツボは相変わらず謎である。


 そんなこんなで結局今日の朝の仕事はお休みすることになり、領地の皆にそのことを告げに行くと出て行った母様によって、先に仕事に出ていた父様が連れ戻され、玄関先にあった荷物を私の部屋へと運び込む手伝いをしてもらった。


 気になったのは箱を一つ私の部屋に運び込むたびに、父様が「昔はお父様のお嫁さんになるんだって言ってたルシアが……」と呟いては「うふふ、娘と妻で近親の重婚だなんて、気持ち悪いわぁ」と母様が笑い飛ばしていたことだろうか……。


 クラウスの前で恥ずかしいから止めてほしいのに、当のクラウスは「近くにはいるのですから、問題ありませんよ」と上機嫌に母様とタッグを組んで、うなだれる父様をからかっていた。ううん、この――……良い家族になれそうな予感、で良いんだよね?


 最終的に心が磨り減った父様は一人で仕事に戻るのかと思いきや、どうにも母様の手伝いのために、今日は一日屋敷で結婚式の準備を手伝ってくれることにしたらしい。二人と午後のお茶の約束をした私とクラウスは、部屋に運び込んだはいいものの、贈り物の箱で出来た塔を攻略する羽目になった。


「さて、それじゃあ一個ずつ開けてみよっか?」


「ああ、そうだな。早く取りかからないと、これでは夕飯までに開けきれるか分からんぞ」


 そのクラウスの言葉を大袈裟だとは言えない量だからこそ、私も「だよね~」と返しながら手近にある箱から丁寧に包装紙を剥がして、中身を確かめていく。包装紙とリボンを一つずつ纏めていたら、そんな私の姿を見たクラウスが「言った傍からそれか」と苦笑する。


 貧乏くさいところを見られてしまったと、慌てて「いやいやでもさぁ、包装紙とリボンも可愛いんだよ? 贈り物って外側の部分込みで贈り物なんだからね?」とそれっぽく言い訳をした私に「分かった分かった、それならこれも纏めておいてくれ」と、綺麗に角を揃えて折りたたまれた包装紙が手渡された。


 瞬間“最初からそのつもりなんだったら妙な言い方するなよ”という不満が顔に出ていたのか、クラウスは「そう拗ねるな」と笑って、可愛らしいバラの造花がついたリボンを私の髪に挿す。


 そしてキョトンとした私に満足したのか「似合うぞ」と微笑んだヤツは、額に口付けを落として涼しい顔で作業を再開したが――。


 えええええ何それ今の凄い映画っぽいキザな感じが尊すぎるんですけど? と、騒がしい脳内の声を抱えて身悶える私なのだった。



***



 そして、贈り物を延々開けて、ベッドや椅子の上に品物を積み上げる作業に没頭し始めてから二時間ほど経った頃。


「あれ、何だろうこれ。すっごく薄くて軽い箱だなぁ……?」


 そう思わず口に出してしまうほど薄くて軽い、綺麗にラッピングが施された箱が一つ。攻めたデザインのドレスや靴や小物など、自己主張の激しい贈り物の山から現れた。奇妙に感じて振ってみても、音もしない。


 そんな箱に首を傾げる私の背後から「どうした?」とクラウスが顔を覗かせる。肩に顎を載せてもたれかかってくるクラウスに、内心“ううわ……私の推し、可愛すぎかよ”と悶えつつも、そんな素振りはしまい込んで「何かよく分からない包みがあったよ」と、手にした箱をクラウスの鼻先に差し出す。


 私の手から箱を受け取ったクラウスも一度振ってみて、やはり小首を傾げた。はい、可愛い角度頂き。


「振ってみただけだとよく分からんな。小さいものだし、開けてみよう」


 耳許で囁くようなクラウスの声に背筋がぞわぞわする、なんて変態じみたことを考えながら、繊細な小花模様の包装紙を剥がして箱を開けたんだけど――……。


「なっ…………!?」


「ひええっ!?」


 次の瞬間私達の開けたその箱の中から現れたのは、なんと!? これでもかという古典的なお色気デザインをしたランジェリー。


 淡いブルーのグラデーションがかかっていて綺麗なんだけど……俗に言う【オトナの女性用装備】だ。前世の私にも今世の私にも全くそぐわない。中に一緒に入っていた手紙にはこうあった。



【あ、イヤだわ~もう開けちゃったのね? でも残念、これは“サムシング・ブルー”用の青いアイテムなの。勝負下着はまた別のやつを送ってあげるわよ――ってことだからコレ、使っちゃ駄・目・よ?】



 おいおいおいおい……あのオネエさんは何を考えているんだ?


 ぎこちなく後ろを振り向けば、背後でクラウスも石化している。その視線が下着から離れて私を捉えた。こちらも思わずそのダークブラウンの瞳を見つめ返すけれど……あれ、うわ、何だろう……何か滅茶苦茶に気まずい、ぞ?


 そおーっと私の背中から身体を離したクラウスの目が泳いでいる。端から見れば、私もたぶんそんな感じなのだと思う。いつの間にか和やかで微笑ましかった室内が、急に非常にデリケートな空間になってしまった。


 おのれ、ラシード……この借りはいずれ同じように返してやるからな!


 そんな沸々とわき上がってくるラシードへの復讐心を抱いていたら、突如ノックもなしに「は~い二人とも。ちょっとは作業が進んだかしらぁ?」と空気を読まない母様が部屋に乱入して来た。


 当然「ちょ、母様、ノックしてってば! プライバシーの侵害!」と権利を主張するも「あらぁ、ごめんなさい。お邪魔だった? でも久々に見る狼狽えた我が子、可愛いわ~」と華麗にスルー。


 しかしこんなことは想定内だから「別にお邪魔じゃないですけど!?」とやや食い気味に返事をしたんだけど、母様に「うふふふふ、だったらその手に持ってるのは何かしら?」と手にしていた青いアレを指さされる。


 そこで母様の登場で反応が遅れたけど、父様にはまだこのことを知らないから口止め……は、間に合わなかった。母様の後ろにいたわ父様。あまりにもショックだったのか、床に膝をついていたから見えなかっただけで。


 父様のことは一旦放置するとしても“あ、はい、日の高い時間から握りしめていて良いものじゃないよね!”と言いたいが、言葉が喉につかえて出ない。


 ――――と。


「そうそうルシア、女の子は妊娠したら身体の造りが変わるのよ~」


 母様の快進撃は止まらず、私とクラウスは仲良くむせた。だがそれ以上に慌てたのは勿論、父様だ。


「待て待て待てメリル!! お前はいきなり何を言い出すんだ!?」


 未だむせて言葉を発せない私達に変わり、全力で突っ込んでくれる父様。けれどそんな父様に向かって慈愛に満ちた微笑みを浮かべた母様は――、


「いきなりって……もうあと一週間で結婚する子達にそれは変よエヴァン。それにもしもルシアに星詠みの能力が戻らなくても、赤ちゃんに遺伝するかもしれないわ。そうなったら親子で星詠みが出来るし、素敵よねぇ」


 と、のたまい、この母様の発言によりクラウスがバグった。


「くっ……善処します」


 背後からのその言葉に勢いよく振り返って「何言ってるのクラウス!?」と突っ込むも、クラウスは「理論上出来なくは……ないはずだ」と何やら覚悟を決めてしまっている。


 いや待って、結婚式もまだ挙げてないのに決めるな早まるな。いずれは三人くらい欲しいかもだけど今じゃない。


「そ、それはいかんぞルシア! 父様は婚前交渉など絶対に許さん!!」


「まさかの何言ってるの第二弾!?」


 最早まともな援護射撃を求めることも出来ない混迷を極めるこの状況で、パンッと手を叩いて注目を集めた母様は、こんな惨状を生み出したことなど素知らぬように微笑んでこう言った。


「うふふ、ね~? 三年ぶりに戻った年頃の娘に何言ってるのア・ナ・タ。そういう男親の下ネタな発想が嫌われるのよ~? お馬鹿さんは放っておいて、こっちにいらっしゃいルシア。クラウスもよ。母様と一緒にお茶にしましょう」


 かくて一番最後に馬鹿な発言をした人物を一人部屋に残して、私達は穏やかなアフタヌーンティーを楽しんだのである。

次回、ラシード達が合流する……(´ω`*)<予定!

そしてさようなら、平成!!

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