*エピローグ*
これにてこのお話も無事終了です!
読者様におかれましては、
ここまで長く続いた本作にお付き合い頂いて、
誠にありがとうございました~~~~~\(*>ω<*)ノ<大感謝ー!!
春の日差しが鮮やかに緑の芝生を照らす緩やかな傾斜を登り、木陰でひっそりと佇んでいた人影がこちらに気付いて、幹に預けていた背中を離して手を振ってくれる。私は嬉しくなって、一目散にその人影に駆け寄った。
いくら緩やかとはいえスカートで傾斜を駆け上がったせいで、裾に足を取られて無駄に体力を消耗してしまった。まあ普通はスカートで傾斜を上ったりしないんだけどね。
「お待たせクラウス、今見て来たけど、お屋敷の焼け跡には、もう結構新しいお屋敷の土台が出来てたよ。それと、やっぱり、しばらくはこの土地、王家の所有領になるみたい。後任はお屋敷が出来てから、決めるのかもしれないね」
少しだけ乱れた呼吸を整えながら、逸る気持ちを抑えきれずに切れ切れに説明をする私を見つめるクラウスは、そのダークブラウンの目を細めて「急いでくれるのは嬉しいが、もっとゆっくりで良い」と笑う。
王都での【星喚師】就任パレードから三日が経ち、そろそろラシード達と一度お別れをしなければならないという段に至って、二つ目のペナルティーにクラウスが選んだのは、私の領地に戻る前に自領がどうなったのかを確認したいとの申し出だった。
私としてはそんなことにペナルティー分を使わなくても別に良かったのだけれど、よくよく考えたら残しておいた場合、次はどんな恐ろしい魅了をかけられるか分かったものではないので、黙って使ってもらうことに。狡くない。これはそう、生存本能というやつだから。
けれど出立の直前にそれを言ったところラシード達は、
『は? そろそろ家族が結婚式の準備して待ってるから領地に帰る? 馬鹿を仰い。アンタのメイクアップをするのはアタシだって言ったでしょう。田舎のセンスは信用してないのよ。だ・か・ら・今すぐアタシ達への招待状を書きなさい。アタシ達はそれを持って先にアンタの実家に行くから。それが無理なら結婚式の日取りを変えて』
『そうだぞルシア! いきなり言われたのでは出席出来ないではないか! 何としても有給休暇をもらうから、それまで少しだけ延期してくれ!!』
などと大騒ぎするので、両親には日取りを一月延ばしてくれるように手紙を出し、文才のない脳みそをフル回転させて自分の結婚式の招待状を書くという……これ以上なく恥ずかしい経験をした後、予定よりもさらに二日遅れて王都を出立したのだ。
本当にあの親友カップルには振り回されっぱなしである。まったく感謝してるぞ、二人とも大好きだ!
今頃王都で色々な準備をしてくれているであろう親友達を思いながら、私達はこうしてここに並んで立つことが出来ている。あの二人がいなかったら、私達はきっとこんな風に一緒にはいられなかっただろう。結婚式に来てくれる時の為に、こっちも今から準備に気合いが入る。
だけど、取り敢えず今は目の前にいる私の番星様への報告が先かな。
「クラウスが心配してた一族のお墓もね、ちゃんとあったよ。それも誰かが手入れしてくれてるみたいで、綺麗なお花まで置いてあった」
素直でないクラウスは口にしなかったけれど、きっと屋敷の跡よりも本当はそれを確かめたかったのだと、私は思う。仮にもしも勘違いだったとしても、私が来たかったのだから問題はないのだ。
覗き込む私に対し、クラウスは「誰だろうな……どちらにしても、物好きなことだ」とぽつりと口にするけど、その瞳がほんの少しだけ揺らいだ様をしっかりと目に焼き付ける。この表情を見られただけでもここへ一緒に来て良かった。
しかし、クラウスにとってはこれでもう充分かもしれないけれど、私の本当の目的はそれだけではないので、素直でない番星にはこれからこっちに付き合ってもらわないとならない。その為にわざわざヴォルフさんが紹介してくれたお仲間さんの荷馬車には、ここから少し離れた別の場所に待機してもらっているんだもん。
……という訳で「そういうことだからさ、クラウス」と私が笑みを浮かべ、ギュウウッと逃げられないように背中に腕を回した瞬間、クラウスが怪訝な表情を見せる。ふふふ、今更気付いたところで離すものか。
「せっかくここまで来たんだし、一緒にお墓参りも兼ねてお父様達に色々報告して行こうよ。ちょうど今は誰もいなかったしさ。そうでないと、次にここに寄る時にはきっと新しい領主様が着任してるだろうから、ね?」
元来おねだりをし慣れていないので、こういう時にコロッと相手に頷いてもらえるような魅力はないけれど、頼む! どうか“うん”と頷いてくれ! そう祈る思いでクラウスを見上げるものの、眉間に皺を刻んだクラウスの表情から、状況はあまり芳しくない。
だけどどうしても、何も言わずにクラウスを私の故郷に連れて行くのは嫌だ。何とかならないだろうか――……と、不意に自分の左手の薬指にはめられた銀色の輝きが、春の日差しを反射してキラリと輝く。
それを視界に入れた途端に頬がだらしなく緩みそうになるのを、奥歯を噛み締めて耐える。そうだよ、これだよ。私には親御さんの墓前に行く理由として最も相応しい、最終兵器があったじゃないですか!
しかし恥ずかしいかな、これを手に入れられたのもやっぱりラシード達のお陰なのだけど。
「えっと……じゃあさ、クラウス。パレードのあった日にクラウスがくれたこの指輪を見せて、今度結婚しますって報告をしに行こうよ」
この話題を振るのは今思い出しても悶絶しそうになるけれど、パレードの当日に見物場所を提供してくれたあの店先は、何とジュエリー工房だったのだ。
むしろラシードのことだから、私達が“何らかの”行動を取ることを見越してそんな場所を教えてくれたのかもしれないけど……まさかあの後すぐに工房に引きずり込まれるとは……商売人は怖い。そもあの工房は他人のロマンチックが商売の種なんだもんね。
でもそれよりも驚いたのは、いくら出来合いの指輪の中から選んだにしろ、ポンとそれを即金で買えるクラウスの財力だろうか。だって数ヶ月前にお家取り潰しになったのに、どこから出て来たのそのお金……って。
流石にあの時の『これは婚約指輪だから、もう一つ結婚指輪を選ぶと良い』という申し出は辞退したけど。そんなに指輪ばっかりいらないし、石がついてるやつはお値段がおかしい。あんなのなくしたら大変だよ……っと、そんな金銭感覚のズレの問題はまた追々話し合いをするとしてもだ。
「ねえ、お願いだから頷いて。クラウスがそうしてくれたみたいに、私もクラウスのご両親に挨拶したいんだ」
こうまで言って頷いてもらえなかったら諦めるしかない。そりゃあ真剣なお願いではあるけれど、これは単なる私の我儘で、クラウスにしてみたら屋敷の傍にはまだ近寄りたくないだろうから。
だけど、こちらのそんな心の揺れを感じ取ってくれたのか、クラウスが依然として眉間に皺を刻んではいるものの「……何と挨拶してくれるんだ?」と溜息のように微かな声で訊いてくれる。
おお、これはだいぶ譲歩してくれるつもりになったのか? もう後一押しといったその反応に勇気づけられた私が「それは勿論、お約束のあれだよ」と、勿体を付けて咳払いを一つ。
「“絶対に幸せにしますから、息子さんを私に下さい!”って言うつもり」
銀色の指輪が輝く手を握り締めて、勢い込んだ私の声に「却下だ!!」と駄目出しをするクラウスの声が春の日差しの中で同じくらいに輝いて。
これから、私達は長い長い恋をする。
それこそ【一生で一度だけ】の大恋愛を、死が二人を分かつまで。
一応これにて本編は終了ですが、
暇のある時にでも番外編を書くか……も!?
その時はまたよろしくお願いします~\(*´ω`*)<ね。




