俺がチートなんて当たり前だろ?
轟音とともにパラスフィアの身体は砦の壁に打ち付けられた。
「……ぐはっ……!」
だが、死んではいなかった。パラスフィアが吐血する。
残念ながら、ハンドレッドはパラスフィアをわずかに外した。それでも右腕は右胸あたりからごっそりと消えてなくなっている。身体中に裂傷が走り、おびただしい血が流れている。
ガラスの割れるような音ともに、壁に突き立っていたハンドレッドが砕け散る。
まるで粉雪が落ちるようにキラキラと破片が舞う。
支えを失ったパラスフィアの身体がぐらりと落ちて、ドラゴンの死体の上に落ちた。
「……ふ、ふははは……なかなか、やるじゃない、か……」
蒼白な顔でパラスフィアが笑う。
アストラル・シフトをする様子はない。どうやら弾切れなのだろう。もう傷は治らない。
勝負は決した――
「勝負は決した、とか思っているか?」
ははははは、とパラスフィアが笑う。
「ああ、勝負は決したよ――俺の勝ちでな」
ハンドレッドの破片がきらめくなか、瀕死のパラスフィアは断言する。
……頭でもおかしくなったのか?
「証拠を見せてやろう」
パラスフィアが指を鳴らした。
瞬間、ハンドレッドの破片がまるで意志を持ったかのように動き出した。パラスフィアの周辺に集まっていく。
そして――
パラスフィアの周りに100の小さな槍が生まれた。
「これが魔槍ハンドレッドの真の姿――1で100突ではなく、100で各1突だ」
パラスフィアが立ち上がる。
「詰めを誤ったな――もともと魔槍ハンドレッドは魔族のもの。だから、俺はお前たちよりも詳しい。そして、もうこいつは俺のものになっている!」
喋り続けるパラスフィアめがけて光弾が飛んだ。
リノの援護射撃!
だが、その光弾をハンドレッドのひとつが打ち落とす。
「はははは! あとたった一撃! たった一撃なのになあああああ! 銃弾1発、確かに当たれば俺に勝てるのに! ここまで追い詰めたのに! 全部全部ひっくり返されて! それもお前自身のいらない手で! 詰めの甘さで! ねええええええ! 今どんな気持ちいいいいいいいいい!? どんな気持ちかなああああああああああ!」
パラスフィアはこの世の絶頂とばかりに絶叫した後、こう続けた。
「死ね」
100の刃が俺たちに襲い掛かる。
その波濤に飲み込まれれば、柔らかい肉のかたまりでしかない俺たちなど一瞬で死ぬだろう。
だが、まあ――
それで?
「講義ありがとう」
俺はそう言って、指を鳴らした。
瞬間、俺たちに迫っていた100の刃が動きを止める。
「……はあ?」
間抜けな声を漏らすパラスフィアに俺は言った。
「悪いが、奪わせてもらったよ」
ぐるりと刃が180度回転して――その切っ先をパラスフィアに向ける。
「こいつらは俺のものだ」
「え、ええ、えええええええええええええ!?」
パラスフィアが絶叫する。
「どどど、どういうことだ!?」
「俺は付与術師だからな。別に武器のコントロールを奪うことなど造作もない」
「魔族の俺より人間のお前が――!?」
「そいつを再調整したのは俺だ。なので、そいつについては俺のほうがお前より詳しい」
「ふ、ふざけるな……そんなチート、あり得るか!?」
「ははははははは」
俺は笑った。笑って、言った。
「俺は武器の付与術師。だから、武器に限ってはなんでもありのチート持ちだ。知らなかったか?」
俺は右手をパラスフィアに向ける。
「ええと、なんだったっけ……ああ、そうだ。どんな気持ち、だったか。どうだ? あれだけ大声で勝利宣言をして、こう……あっさりと覆される気分は? どんな気持ちか教えてくれないか? あいにく、そんな恥ずかしい経験がなくてね。後学のために教えてくれないか?」
「ああああ、あああああああああ、ひいいいいいいいいい!」
「楽しそうで何よりだ」
俺が指を鳴らした瞬間、100の刃がパラスフィアに襲いかかった。まるで、川に落ちた獲物に食らいつく肉食の小魚のように。
「えいぎやああああああああああああああああああああああああ!」
パラスフィアの絶叫が響き渡る。
100の刃を引いたとき、そこに残っていたのは石灰化したパラスフィアの残骸だった。空気に溶けるように消えていく。
俺はパラスフィアの血がついたブロードソードを展開、『追尾攻撃』をかける。透明化する魔族エレオノールの気配をたどった付与術だ。パラスフィアの気配を探るが――ない。
ドラゴンの死体に同化して逃げ込んだ可能性を考えたが、大丈夫なようだ。
あの替え玉戦法はアストラル・シフトの回数を消耗するのでは? と思っている。でなければ、もっと連発しているはずだ。
アストラル・シフトを使えない以上、パラスフィアに逃げる手段は残っていなかった。
終わったのだ。完全に。
俺は静かな充足感に身を――
「ルーファスウウウウウ! イエエエエエエエエエエイ!」
ミッシェルが空気感を台無しにする勢いで騒いでいる。
そんな中、王太子が近づいてきた。
「さすがだ、付与術師ルーファス。お前がいなければ危なかった」
「お役に立てたようで何よりです」
「ところで、私は敵を倒すのに貢献したと吹聴してもいいのかな?」
「もちろんです、殿下。殿下がパラスフィアの切り札『入れ替え』を誘発してくれたので、こちらもハンドレッドを放つための対応ができましたから」
これは別に王太子に気を使ったわけではなく、俺の本音だ。
戦いとは、全てのやりとりの帰結だ。どんな一手にも意味がある――いい意味でも、悪い意味でも。
「悪魔のような男だと聞いていたが……意外と優しいんだな、ルーファス?」
「優しいんだな、ルーファス――だけでいいと思いますよ?」
「別に恨んではいないが、見殺しにされかけたからなあ……優しいと言うのは気が引ける」
俺と王太子はお互いに顔を見合わせると、はははは! と笑った。
ファルセンは俺に背を向けると、戦う兵士たちが見下ろせる場所に移動して叫ぶ。
「この王太子ファルセン、付与術師ルーファス、剣聖ランカスターの3人で敵将軍パラスフィアを討ち取った! 我が兵は勇とせよ! 敵兵は臆せよ! 勝利の栄光は我が軍に近い! 奮闘せよ! 今こそ決戦のとき! 魔族たちを撃滅するのだ!」
さすがは王家の人間。演説慣れしている。
戦場の隅々にまで朗々とファルセンの大音声が響き渡る。
その瞬間――
「「「「「おおおおおおおおおおおおおお!」」」」」
兵士たちが一斉に野太い声を上げた。
士気が天井知らずに上がっていく。
逆に、魔族たちの士気は地に落ちた。
「パラスフィア様が負けただと!?」
「そ、そんな――!?」
「こいつら急に強くなるし、ダメだ、逃げろ!」
統制を失った魔族たちが潰走し始める。それを見逃すほど人間たちも甘くない。今まで押しまくられた怒りをぶつけるかのように追いすがり攻撃を仕掛ける。
戦いは完全に終わったのだった――
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