魔槍ハンドレッド、発動
左腕を切り落とされたパラスフィアに、3人相手に継戦する余裕はない。
「くっそ!」
ミッシェルたちの追撃を食いつつも、パラスフィアは脱出を優先、後ろに下がる。
アストラル・シフト!
一瞬にして傷を治したパラスフィアが着地し――
「甘い」
その瞬間を狙い、俺は3本の剣を同時に展開、射出。
攻撃力+999の3本のブロードソードがパラスフィアめがけて飛んでいく。
「くっ!?」
パラスフィアの剣が1本を弾く。だが、残りは。
「ぐおおおおおおおおあああああ!?」
俺の剣に串刺しになり、パラスフィアは大きくよろめいた。
飛び出したミッシェルが再びパラスフィアとの間合いを詰める。
「足を止めてくれ、ミッシェル!」
王太子の言葉にミッシェルが返事をする。
「わかったよ、ファルっち!」
「舐めるなあああああああ!」
ようやく態勢を整えたパラスフィアが迎撃しようと剣を振るうが――ミッシェルの姿は消えていた。
ミッシェルはしゃがみ込んでいた。姿勢を低くしたまま勢いを殺さずに突進、パラスフィアの足元を一瞬で駆け抜ける。
その直後――
パラスフィアの両足がズタボロに切り刻まれた。すれ違った一瞬でミッシェルが切り裂いたのだ。
ふふ、攻撃力+600でもなかなかの威力じゃないか。
「くおおおおおおおおおおおお!?」
パラスフィアがバランスを崩す。倒れそうになる身体を、左手をついて支える。
アストラル・シフト!
またしても万全の状態に戻るパラスフィア。
だが、遅い!
ファルセンが間合いを詰めていた。聖剣は炎のように理力が燃え上がっていた。
理力は――
魔族への特攻。なぜそう言われているのか。
対魔族で面倒なのはアストラル・シフトだ。負傷による弱体化を無効にできるし、人間なら即死しているダメージも無視できる。
アストラル・シフトは魔族の『生命力』をコストに使うわけだが、勇者の理力による攻撃は、この生命力をごっそりと削る。
「『神王豪光斬』!」
王太子が聖剣をパラスフィアに叩き込んだ。
直後、パラスフィアの身体が青く爆発する。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおあああああ!?」
パラスフィアの絶叫が響き渡った。
さすがは理力の大技――
……どうでもいいが、あの必殺技みたいな絶叫は叫ばないとダメなんだろうか? 名前がカッコ悪いのでちょっと恥ずかしいんだが。
終わっ――
てはいなかった。
青い爆発が消えた直後、ドラゴンの身体から、まるで樹木でも生えるかのように何かが急速に伸び上がってきた――位置は王太子の後ろ!
「ファルセン!」
俺の鋭い声にファルセンは反応したが――
パラスフィアを仕留めたという確かな手応えと、大量の理力を消耗した疲労のせいだろう、反応が遅れた。
ファルセンの背中に、湧き出てきた『何か』が手を当てる。
漆黒の閃光が爆ぜた。
「うぐおおおお!?」
直撃を受けたファルセンはその場に崩れ落ちる。
背後に立っていたのは――
無傷のパラスフィアだった。
「ひひひひ、ひ……」
パラスフィアが狂ったように笑う。
「ひひひひひひひひひひひひ! 勝てたと思ったのに、全部チャラにされる! ねえ、どんな気持ち? どんな気持ちかなあああああああああああ!?」
「……バ、バカな……?」
王太子が目を向けた先には、石灰化したパラスフィアの死体が転がっていた。
「確かに仕留めたはず……?」
「俺の能力はなあああああ、『寄生』だ! モンスターを取り込んで同化する。このドラゴンの死体と俺の身体は一心同体なわけよ!」
まるでそれを証明するかのように――
パラスフィアが足を上げると、べりっと何かが剥がれる音がした。ドラゴンの死体に張り付いていた肉を引き剥がしたのだろう。
「つまり! 俺はドラゴンと同化することでどこでも好きに移動できるんだよ。王太子、お前がぶった斬ったのは俺の抜け殻だ。このドラゴンの上なら俺はどこでも移動できる。ここで戦っている時点で、お前たちの負けは決まっていたんだよなあああああああ!」
倒れて動けないファルセンの背中にパラスフィアが右足を乗せる。
右手の剣を俺たちに向けた。
「さて、形勢は逆転だな……。お前たちの大切な大切な――た、い、せ、つぅーな王太子様は俺の手の中だああああ。いつだって殺せる。いつだって潰せる。さあ、おとなしくして――」
俺は右手を差し向けた。
「射出」
言葉と同時、攻撃力+999のブロードソードがパラスフィアめがけて飛んでいった。
「うおおおおおおお!?」
パラスフィアは慌ててそれを剣で弾く。
「お、お前!? 聞いてなかったのか!? 王太子を人質にとってるんだぞ!?」
「それがどうした?」
俺はせせら笑う。
「俺たちが命を差し出せば殿下は助けてくれるのか? 保証は? 根拠は? 俺たちを殺してから動けない王太子を殺す。違うか? 俺は犬死するつもりなんてないね」
「くっ――!? お前には協調性はないのか!?」
「『自分勝手』を体現する魔族にまで協調性を責められるとは泣きたくなるね」
俺はため息をつく。
「さて、もう時間は稼いだかな……。いいのか、俺にばかり注意を向けていて? そろそろ『親切心』が飛んできてもおかしくない」
「は?」
同時――パラスフィアの側頭部に光弾が直撃した。
「ぷべええええええええええええええ!?」
ぐらりと揺れてパラスフィアの身体が王太子から離れる。
「いけ! ミッシェル!」
俺の声と同時、ミッシェルが飛び込んで斬撃の嵐をパラスフィアに叩き込んだ。
俺は光弾が飛んできた方角に目を向ける。
視線の先にはスナイパーライフルを持ったリノが立っている。
「さすがだ。来ると思っていたよ」
さあ、終局だ。
王太子が戦力外になってしまった以上、一気に押し切る必要がある。
手はある。
魔槍ハンドレッドだ。1撃で100の刺突を生み出す脅威の槍。こいつを叩き込めば、さしものパラスフィアといえど大ダメージは免れない。
だが、安易な一撃は禁物だ。
王太子の必殺技をかわした入れ替わり技――あれを使われると厄介だ。
ハンドレッドは一撃で大破する槍だからな……。
ならば、確実に当てるだけ。
「ミッシェル! 一瞬でいい! パラスフィアを空中に打ち上げろ!」
「貴様!?」
パラスフィアの目に怒りと動揺が浮かぶ。
……気づいているさ……。お前が『入れ替わり』をするには、身体の一部が対象と接していないといけないくらいな。同化なんだから、離れていたらできないよな?
お前の身体が浮かび上がれば、その瞬間にハンドレッドを叩き込む。
「……わかった」
ミッシェルが双剣から無数の斬撃を繰り出す。だが、そのいずれもパラスフィアには当たらなかった。まるで周辺の空気だけを切り裂くような。
「はあっ!」
気合の声とともに、ミッシェルは弧を描くようにパラスフィアの右側面をぐるりと回り込みながら双剣で空気を切る。
「ランカスター流『昇竜閃』!」
瞬間――
パラスフィアの足元から小規模な竜巻が生まれた。
やるじゃないか、ミッシェル。高速の斬撃によって空気を切り裂き、そんなものを作るだなんて!
「うおお!?」
パラスフィアの身体が宙に舞う。
「貴様ァッ――!」
俺が待ちに待っていた瞬間だ!
俺は空中であがくパラスフィアに右手を向ける。
ハンドレッドを展開――
付与術、攻撃力+999。
「射出!」
魔槍ハンドレッドが空気を打ち抜いてパラスフィアへと突っ込んでいった。
「なっ!? そ、それは――!」
パラスフィアは持っていた剣をハンドレッドにぶつける。
だが、無駄だった。
荒れ狂う100の突撃はあっという間にパラスフィアの剣を粉砕、そのままパラスフィア本体へと襲い掛かる。
「う、うおおおおおおおおおおおおおお!?」
魔槍ハンドレッドの勢いに呑まれ、パラスフィアの肉体は砦の壁に打ち付けられた!
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