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将軍級魔族パラスフィア、襲撃

「ハンドレッドを寄越せ、だと!?」


「ええ」


「う、ううむ……!」


 さすがの王太子も狼狽している。


「――直してくれと頼んだのはこちらだぞ! 報酬になって失うのなら、意味がないではないか!?」


「意味はありますよ。誰にも使えなかった槍が蘇る。そして、有効活用します――」


 俺はさらりと言った。


「打倒魔王のために」


「!? 打倒魔王だと……!?」


「何をそんなに驚くのです? 打倒魔王は勇者の宿願でもあるのに?」


 俺は薄く笑ってから続ける。


「強力な武器はいくらあっても困らない。殿下には――いえ、最大戦力である勇者にはありがたい聖剣があるではないですか? なら、そんな魔族が使っていた縁起の悪い槍なんて不要でしょう?」


「ふん、なかなか言うな」


 王太子はそう応じたが、表情はまんざらでもなさそうだった。


「いいだろう、デュランダルの報酬だ。だが、おまけはつけてもらうぞ?」


「おまけ?」


「デュランダルの製造難度を下げる方法を考えて欲しい。もちろん、お前がデュランダルをずっと作ってくれるのなら不要だがな」


「考えましょう」


 それは必要なことだと思っていた。俺がいなくなるとデュランダルが作れなくなるのは問題だ。王太子が用意できるレベルの付与術師でも対応できる術式を作って引き継ぐ必要がある。

 今よりは理力に対する親和性は下がるだろうが、どこまで許容できるかは今後の話し合いだろう。


 ……やれやれ、忙しくなるな……。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 ルーファスがハンドレッド修復の依頼を受けてから1ヶ月の間――

 将軍級の魔族パラスティア率いる500の大隊がライサス砦を攻撃していた。


 だが、その攻撃は本気とは思えないものだった。


 下級から中級魔族による散発的な攻撃。

 砦に近づくことなく、浅い場所までしか踏み込まない進軍。

 城壁の前にいる砦の防衛兵と戦い、犠牲を出さずに逃げる。


 ライサス砦の防衛部隊は何も不審に思っていなかった。なぜなら、こういう『小競り合い』は前線だとよくあることだから。


「攻め込む勇気もない魔族の臆病者どもめ! ライサスの城壁を抜けるものなら抜いてみろ!」


 陣地から双眼鏡で戦況を眺めながら、パラスティアは楽しげな様子で口を開く。


「――なんて、ライサスの連中は思っているんだろうなあ?」


 パラスフィアは外見上20半ばくらいの男だ。

 くくくくと笑う。


「ご期待どおり、ご自慢の城壁を抜いてあげようじゃないか」


「ついに、ですか?」


「ああ……ついにだ」


 部下からの言葉にパラスフィアは楽しげにうなずく。

 もともとパラスフィアに小競り合いをするつもりなどなかった。

 最初から、撃滅あるのみ。

 小競り合いだと思って適当に構えてもらいたかったので、そう印象付けただけのことだ。


「兵の展開はすんでいるな?」


「はい。我々が今まで進撃していたラインまで達しています」


「素晴らしい」


 パラスフィアは立ち上がった。

 いつもならここで退くのが常だが、今日は違う。


「合図を送ろう」


 パラスフィアは独特なリズムで指笛を吹いた。

 その音は魔力によって増幅されて戦場全体に響き渡る。そのリズムが何を意味しているのか、すでに兵士たちには伝えてある。

 彼らは言われた通りに動き出した。


 退かずに、前へ前へ!


「諸君、それでは我々も進むとしよう!」


 パラスフィアは右手の人差し指を下へと向ける。

 指先がグニョリと歪み、膨らんだ。

 形作られたのは人肌と同じ色の『トカゲ』だった。トカゲはジタバタと短い手足を動かしている。


「こいつを手に入れるのはとても大変だった。瘴気が特濃の場所にいたデカブツでね、取り込むのに難儀したよ」


 パラスフィアは片膝をつき、地面にトカゲを置いた。

 指先を離す。


 トカゲがぐんぐんと大きくなる。

 犬の大きさを超えて、人の大きさを超えて、象の大きさを超えて――


 あっという間に20メートルくらいの巨大なアース・ドラゴンになった。空を飛ぶことはできないが、ずんぐりとした体格に見合った耐久力と防御力を誇る。


 パラスフィアはアース・ドラゴンの胴体に立っていた。

 アース・ドラゴンがパラスフィスに襲いかかることはない。

 それが、パラスフィアの能力――『寄生』だ。モンスターを己の身体の一部として取り込み、意のままに操る。


「さて、超質量の――自走する破城槌だ。耐えられるかな、ご自慢の城壁は?」


 きっと砦の中はすでに混乱の真っ只中だろう。

 砦の向こう側からでも見える、こんな巨大なドラゴンがいきなり出現したのだから。


「ふふ、ふふふ!」


 それを想像すると、パラスフィアは楽しくてたまらない。

 声の限りパラスフィアは叫んだ。


「突撃! 突撃! 突撃! 我らが敵を踏み潰せ!」


 アース・ドラゴンが走り出した。

 みるみると城壁が迫ってくる。足元から聞こえてくる砦の防衛兵たちの悲鳴が心地いい。

 作戦はとても単純だ。

 アースドラゴンの体当たりで城壁を粉砕、その大穴から前方に詰めていた魔族たちが侵入して攻勢を仕掛ける――


「はははははは! シンプルこそベストなのだよおおおおおお!」


 アース・ドラゴンはライサス砦の城壁に激突した。

 とんでもない質量の激突により、城壁はあっさりと崩れ去る。


「はーははははははははははは!」


 瓦礫はパラスフィアにも激突するが、そんなもの意に介さない。なぜなら、上級を超える強さを誇る魔族なのだから。その程度、ダメージのうちに入らない。


 アースドラゴンは止まらない。

 そのまま城壁の内部に踏み込み、砦に巨体をぶち当てた。


 建物がごうんと揺れる。

 ボロボロと崩れる城壁、砦本体。逃げ惑う人々。彼らの悲鳴、怒号。


 後ろを振り返れば、こじ開けた大穴から前詰めしていた魔族たちが侵入して混乱の最中にある兵たちに襲い掛かっている。

 もう少しすれば、本隊である後詰めも追いつくだろう。

 阿鼻叫喚。

 その有様はパラスフィアを気持ちよくさせた。


「あーはははははははは! どんな気持ちぃ!? ご自慢の城壁がぶっ壊されて、こうやって踏みにじられる気分はさ、どんな気分かなああああああああ!?」


「――実に最悪だな」


 砦の屋上から声が聞こえた。

 それは静かで低い声だったが、確かにパラスフィアの耳に届いた。

 パラスフィアが目を向けると、そこに鎧を着た両手剣――聖剣ルクレンティアを肩にかついだ男が立っていた。


「ファルセン!」


 パラスフィアは嬉々としてその人物の名前を呼ぶ。


「ははははは! 次期国王にして一等勇者! お前を討ち取れば魔王さまもお喜びになるだろう! さあ、その首を差し出せ!」


「ふん」


 ファルセンは屋上から飛び降りた。

 アース・ドラゴンが首を伸ばして、その牙でファルセンを迎撃する。

 ファルセンが眩いばかりに輝く聖剣ルクレンティアを振った。


 斬。


 着地。

 直後、アース・ドラゴンの巨大な顔面が真っ二つに裂けた。


「グゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」


 アース・ドラゴンは絶叫と血をほとばしらせて、そのままぐたりと大きな身体を地に押し付けた。どおん、と大きな音が響き渡る。


「ファルセン――貴様ッ!?」


 パラスフィアは唇を噛む。

 そのパラスフィアに大剣を向けながらファルセンが口を開いた。


「なぜ次期国王である俺が呑気に最前線に立っているのか、その身体に教えてやろう。愚かな侵入者よ、かかってこい」


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― 新着の感想 ―
[一言] 作者にダブル主人公の気が無くても、ライバルやらサブキャラやらに人気が出るのは仕方が無いのです。 まあ、私は好きじゃないけど。
[一言] >クルス、今回、出番ないですよ(笑) >>出番があろうがなかろうが、自分はクルス君を推し続けるのです…
[良い点] ファルセン皇太子強し! [気になる点] ファルセンさんの聖剣の銘はありますか? [一言] クルス君、屈辱も、艱難も、絶望も、全て乗り越え君は誰よりも強くなれ…
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