100突の魔槍ハンドレッド
勇者クルスがリティの一撃で吹っ飛ばされて――
まさかの番狂わせに野次馬たちが歓声を上げる。
……その一部には嘲笑も混じっていたが。
「おいおい、二等のくせに三等に負けるなよー(笑)」
身を起こしたクルスの表情は屈辱に歪んでいた。肩がわなわなと震えている。
クルスが大声で言い返した。
「うるせえ! 聖剣を使ってりゃな、負けてないんだよ!」
だが、最前線の気が荒い兵士たちも負けていない。
「三等相手に聖剣(笑)」
「本気すぎる(笑)」
苛立ったクルスは奇声を発すると、ひとりで建物のほうに歩いていった。クルスが消えると、暇な見物人たちも少しずつ帰っていく。
リティが俺たちのもとに戻ってきた。
「おめでとう、リティ! 二等を倒すだなんてすごいじゃないか!」
興奮気味のクライツが声をかけると、ずっと硬い顔だったリティの表情がようやく和らいだ。
「……いえいえ、この剣ですよ、本当にすごいのは」
リティはプチ聖剣の表面を優しい手つきで撫でた。
「今まで以上に実力が出せます。普通の剣だとあまり感じられなかった小さな理力が、そこにあるとはっきりわかります」
リティのプチ聖剣がふわりと青く輝き、消えた。
「ありがとうございます、ルーファスさん!」
「気に入ってくれたようでよかったよ」
そのときだった。
パチパチパチと手を叩く音がした。
振り返ると、フードを被ったローブ姿の誰かが立っていた。
「おめでとう」
その声は――
フードを脱ぐと王太子ファルセンが立っていた。
「王太子殿下!」
クライツとリティ、他のスタッフたちが身を固くする。
「かしこまらなくていい」
ひらひらとファルセンが手を振る。
……歩いているだけでこういう反応があるから、こっそり模擬戦を見るために顔を隠していたんだろうな。
「素晴らしいな、クランツ! 三等が二等を倒すなど、聞いたことがない! これで完成と見て大丈夫か!?」
「はい。十全でございます」
クランツの返事にファルセンは機嫌が良さそうな表情を浮かべる。
「そうか、なら次は量産だな。とりあえず100本だ」
「わかりました」
「……ルーファス、もちろん、お前の力も必要だ。頼まれてくるか?」
「仰せのままに、殿下」
俺はあっさりと受け入れた。
量産ね……同じものを作るなんて興味はわかないが――
ファルセンがリティに目を向ける。
「すまない、私は君の名前を知らない。教えてもらえるか?」
「リティです」
「リティ、よくぞ二等を倒した。君の勇戦は他の三等に確かな勇気を与えただろう。これから三等の価値は高まる。この勝ちに浮かれることなく精進してくれ」
「はい、はい……! 殿下! 頑張ります!」
本当に嬉しそうな顔でリティがうなずいた。
三等――日の当たらない存在。二等未満の使い捨て。
一等勇者にして王太子ファルセンの声がかかることなど、どれほど栄誉なことだろうか。
……同じものを作るなんて興味はわかないが……リティと同じく『報われるやつ』がいるのなら悪くはないだろう。
「プチ聖剣はデュランダルと名付ける。以後はそう呼ぶように」
そう言ってから王太子は話題を変えた。
「量産の作業は期間が必要だ。その間だが――ルーファス、もうひとつ頼まれてくれないか?」
「なんでしょう?」
「ついてきてくれ」
王太子は俺を連れて建物の中へと入っていった。
建物の奥へ奥へと俺を連れていく。
「ここだ」
木製の大きな両開きのドアに王太子が鍵を差し込んだ。
ドアを開けると、そこは建物の中ではなかった。左右と頭上をゴツゴツとした岩が囲んでいる。足元から下へと続く階段だけが人工的だった。
「……ここは?」
「ライサスの、秘密の部屋だ」
冗談めかした口調で言う。
……王太子の性格からして、絶対に冗談じゃないな……。
階段を降りると、足元も岩場になっていた。薄暗い洞窟がずっと横に伸びている。ところどころに魔術の明かりを灯したランタンが吊り下げられている。
ずんずんと奥に進む王太子についていく。
そう歩かないうちに――
小さな部屋に出た。
「……槍?」
そこには一本の黒い槍が浮かんでいた。
誇張でもなんでもなく、地面から少し離れた位置で立っている。
「あれは魔槍ハンドレッド――昔、高名な魔族が使っていた強力な力を秘めた槍だ。噂では1突きで100の刺突を食らわせることができたらしい」
「……手に取ってもいいですか?」
「いや、今は力を失っている」
王太子は首を振った。
「ここを発見したとき、付与術師に調べさせたんだ。どうやら付与されている術がところどころ壊れているらしくてな。復元には高位の付与術師の力が必要なのだそうだ」
「その流れ、プチ聖剣のときと同じ流れを感じますね」
「そうだな……ま、できる男には仕事が集中するものと思って欲しい」
苦笑してから王太子が続ける。
「付与術師ルーファス、ハンドレッドの修復をお願いしたい」
「ふぅむ……」
俺は少し考えてから、こう切り返した。
「構いませんが、プチ聖剣に続いてタダ働きは性に合いませんね」
「国家の一大事でも?」
「その理由は好きじゃないですね。個人的には興味がないので」
「ははははは! 王太子の前でそれを言うか!」
「見下げました?」
「いや、むしろ信頼できそうだ。お前はお前の価値観に見合うものを差し出せば動くのだろう?」
「そうですね」
「で、お前は何を望む? プチ聖剣――デュランダルの代金も含めて言え」
「なら、遠慮なく」
俺はハンドレッドを指差した。
「あの槍を直しますから、直ったら褒美にくれませんか?」
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