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付与術師、古巣の仲間たちと再会する

「頼む、ルーファス! そこを曲げて、また一緒に旅をしてくれないか!?」


 悲壮感すら漂わせる戦士の声。

 その声は俺の胸にかすかな痛みを感じさせた。

 苦労したんだな――

 俺は即答した。


「断る」


 俺の容赦のない言葉に、戦士たちはがっくりとうなだれた。


「……そう、だよな……当然、そうだよな……」


「あんなに困っている人に。あれは鬼の所業だよね、リノ?」


「ええ、人の心を置き去りしたものだけにできる返事ですね、お嬢さま」


「そこの二人、聞こえているぞ?」


 俺の言葉に、ミッシェルとリノが慌てた様子で、わざとらしく口を押さえる。

 鬼の所業とは言ってくれるなー。

 ……いたって普通の返事だと思うが。


「大丈夫だ、ルーファス。気にしないでくれ」


 そう言った後、戦士の目がミッシェルとリノに向いた。


「この2人は新しい仲間か?」


「そうだ」


「……あれ、こっちの女の子は剣聖ランカスターの弟子の――!」


「はーい、ミッシェルだよー。お久しぶり〜」


 気軽な様子でミッシェルが応じる。

 知り合いなのか。……そう言えば、ミンツの街で体調不良そうなクルスに会ったとき、剣聖ランカスターにボコられたとか言っていたような――


「クルスをボコったのお前?」


「えへ?」


 ミッシェルが可愛い顔をして下をぺろりと出した。

 鬼の所業はお前じゃないのか?

 戦士が、ははっと笑った。


「ランカスターの弟子が仲間になったんじゃ、俺たちの元に戻ってきてくれるはずもないな」


「あー、こいつは弟子じゃない。こいつが剣聖ランカスターだ」


「え?」


「違うよ。わたしは弟子だよ?」


「え?」


 俺たちの話に戦士たちが混乱する。

 あー、メンドくさい!


「えーと、先代のランカスターがこいつの師匠で、こいつが当代のランカスターだ」


「剣聖ランカスターの弟子で、剣聖ランカスターのミッシェルだよー! よろしくねー!」


 わざわざややこしい自己紹介をするなよなー。

 戦士たちは目を丸くしていた。


「す、すごい、ルーファス! 剣聖ランカスターを仲間にしたのか!?」


「クルスには黙っておけよ?」


「も、もちろんだ! 絶対に言えない!」


 ミッシェルに袖にされた上にボコられたのだ。

 そして、怨敵である俺が実は剣聖ランカスターであるミッシェルを仲間にした。

 ……またしてもクルスの逆恨みが増えてしまう。

 きっと不機嫌になって、戦士たちの労働環境が悪化することだろう。


「それよりもだ」


 俺は話題を変えた。


「そんなにクルスの下が嫌なら、出ていけばいいのでは? お前たちも『女神の枷』が?」


「いや、俺たちにそれはないんだがな……」


 3人は顔を見合わせてから、ほろ苦い顔で続けた。


「王国への忠誠と――責任だな。俺たちには、俺たちのやるべきことがある」


「そうか」


「あれれー、誰かさんには忠誠がないのかなあ?」


「おやあー、誰かさんには責任がないのですかねえ?」


 隣のこいつらがウザい。

 俺は満面の笑みを浮かべてこう続けた。


「俺の胸に宿る忠誠と背骨を貫く責任を知ってほしいのだがな。残念、勇者クルスが俺をクビにしてしまったよ! 俺はこれほどまでに熱い気持ちを持っているってのになあ、ああ、見せることができなくてとても残念だよ。残念残念!」


「性格が悪いよ?」


「性格が悪すぎですねー」


「あっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは!」


 リストラしてくれてありがとー!

 大笑いする俺を見て、戦士たちが重いため息をついた。


「「「俺たちもクビにしてくれないかな……そしたら頑張らなくてもいいんだけど……」」」


 やれやれ……残されたものは大変だな。

 じゃあ、頑張ってね。バイバイ! と言えるほど、俺の性格は悪――いのは事実だが、こいつらの義務を全うしようという心意気を応援したい気持ちもある。

 あと、俺はこいつらに含むところはない。

 クルスが俺を追放してきたときにフォローしてくれたくらいなのだ。


「お前たちの元に戻るつもりはないが、どうだろう……言っていたな、俺の付与術が必要だと。俺ではなく、俺の付与術が」


 戦士の顔が真っ青になる。


「あ、いや! そ、そんなことはないぞ! 俺はルーファスと旅がしたい!」


「……すまん。そういう意味ではなくてな――」


 俺は自分の失言に気がついた。


「俺の付与術の――長持ちするやつを武器にかけておいてやろう。1年くらいかな」


「え!? そんなことができるのか!?」


「ああ」


 残念ながら『永続』の術式となると、かなり条件が厳しくなるので難しいが、期限付きであれば制限が緩い。

 希少な触媒を使うので、ぽんぽん使えるものではないが、俺の代わりに苦労しているこいつらを助けてやりたい気持ちはある。


「剣を貸してみろ」


 俺は戦士の剣を受け取り、付与術を施す。


 ・支援/レベル30戦士――剣士


 攻撃力の付与よりは、戦士としてのレベルそのものを向上させたほうが戦いは安定するだろう。


「使ってみろ」


「わかった」


 戦士は剣を持って立ち回る。


「おお、おお、おお! すごい! ルーファスがいた頃と同じだ! 身体が軽い! 10レベルくらい上がった気分だ!」


「本当か!?」


 色めき立つ仲間に戦士がうなずいた。


「ああ、これならミノタウロスでも相手にできるぞ!」


「安心しろ。お前たちの武器にも付与してやる」


 俺は言った通りに付与術をかけていく。俺の剣を受け取った3人の表情は実に晴々としていた。まるで地獄の底で見つけた一筋の光を見るかのように。


「ありがとう、ルーファス!」


「お前のおかげで、俺たちはまだ戦える!」


「クルスから守れなかったこと、すまん!」


 なんだかむっちゃ感謝された。

 やれやれ照れるな……。

 戦士たちと別れた後、リノが話しかけてくる。


「意外とお節介なんですね?」


「昔のなじみが困っていたら助けてやるくらいの優しさはあるつもりだ」


「昔のなじみに勇者クルスは含まれますか?」


「含まない。あれを含むなら、バナナでも含んだほうがマシだな」


 頭をよぎったクルスの顔をパタパタと手で振って追い出し、俺たちは村へと歩き出した。

 ……クルスがこの辺にいるのか。

 めんどくさいから出会いたくないものだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 戦士3人が普通に可哀想でこの3人が性悪主人公と勇者にざまぁする話の方がスカッとしそうと思ってたから、読者への主人公実はいいヤツアピールの為とはいえちょっと救われてよかった
2022/02/04 19:25 退会済み
管理
[一言] 乗っ取られた子にも枷があったみたいだから、女神が枷を嵌める基準があるってことですよね… やっぱり能力なんだろうか。あるいは無いとすぐ出て行きそうな奴とか
[一言] なんでルーファスだけは女神の枷があったんだろう・・・。 というか、女神さんもなんで付与術最強のルーファスに女神の枷を付けたのかな?勇者が聖剣を手に入れたら、「要らない」って言われるのは当然…
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