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4話 俊司と慎の暴走!

昼休みの休憩時間、俺は机の中から弁当を取り出し、食べる準備を始めた。

包んでいる布を広げ、蓋を開けると、ご飯の他に、色とりどりのおかずがギッシリと詰まっていた。


「お、今日の弁当も気合入ってるな。いいな俺も女子に弁当を作ってもらいたいぜ」

「そうだぞ。こんな可愛い弁当を毎日のように味わえることに感謝しろ」

「二人共、うるさいぞ。女子と言っても妹だろうが、毎回毎回ギャーギャー言うな」


俺の机に集まってきていた俊司と慎は、左右の椅子に座って不満そうな表情をする。

二人の手にはそれぞれ、コンビニの袋が握られている。


俊司はメンチカツバーガーを取り出し、一口齧りつき、話を続ける。


「なあー、加奈ちゃん、嫁にくれよー、大事にするからさー」

「そうだな。加奈ちゃんは良妻になりそうだから、優良物件として検討の余地はあるな」

「お前達二人と肉親になる気はないわ」

「そういうなって義兄ちゃん」

「これからは義兄上と呼んでやろう」

「気持ち悪いから止めろ!」


加奈は一つ年下の俺の妹。

幼い頃からしっかり者で、いつも自分の弁当を作るついでに、俺の弁当まで用意してくれている。

俊司も慎も俺の家に遊びに来るので、加奈とは顔見知りなのだ。


タコさんウィンナー、ハンバーグには可愛い顔。

加奈は料理が好きなだけあって、芸が細かい。

弁当のご飯の上に、細長い海苔で『大人しく』と書かれているのだが、俺は妹からどんな風に見られているのか……


だし巻き卵を頬張っていると、女子二人が俺の席に近寄ってきた。


「九条、食べ終わってからでいいからさ。ちょっと付き合ってよ」

「九条君に、聞きたいことがあるの。お願いね」


ポニーテールの女子の名は、赤沢輝夜あかざわてるや

剣道部に所属している、少し目の鋭いスポーツ女子だ。

少し目元は鋭いが、凛とした姿は、男女共に人気がある。


もう一人は、目元が少し垂れ、おっとりした女子で、名前は神楽結衣かぐらいゆいと言う。

豊満な胸元、ふんわりとした雰囲気をしていて、女子達のお姉さん的な存在である。

ちなみに彼女が所属しているクラブは料理部だったりする。


赤沢も神楽も朝霧と仲がよく、教室内では三人で集まっていることが多い。

あの二人が声をかけてくるなんて……やっぱり朝霧絡みだよな……。


先に食事を終えた、俊司と慎が椅子から立ち上がる。


「どこに行くんだ?」

「宗太は、あの二人に呼ばれてるんだろ。それで俺達には声をかけなかった。なんだかムカつくんだよなー。最近、宗太ばっかりいい思いをしやがって」

「そうだ! だからハブられた俺達は、他のクラスの女子を見に行くのだ。止めても無駄だぞ」

「お前達二人も、俺に付き合えばいいだろ。そうすれば赤沢達と話せるし」

「その手には乗らん。俊司、行くぞ」


慎はそう言い残すと、二人は教室の後ろから廊下に去っていった。

チッ……適当な理由をつけて逃げたな。


食べ終わった弁当を机の中に片付け、俺は赤沢達の元へと向かう。

窓際の席に、赤沢、神楽の二人と一緒に、朝霧も集まっていた。

三人に近づいて、俺は声をかける。


「呼ばれたから来たけど、何なんだ?」

「結奈が謝りたいって言うからさ」


赤沢はそう言いつつ、顔を横に向け、朝霧を見る。

すると彼女はにっこりと笑った。


「さっきはやり過ぎたかなーって。あんな騒ぎになるなんて思ってなかったの」

「……済んだことだからもういい。これからはからかってくんなよな」

「私だって誰にでも抱き着いたりしないよ。九条だったら大丈夫と思ったもん」


つまり、俺は人畜無害な男子扱いってことか。


確かに俺はクラスカーストの頂点にいるような陽キャでイケメンで、女子と親しく接したこともない。

俺、俊司、慎の三人はクラスの中では、お騒がせ要員だからな。


俺がムスっとした表情をしていると、神楽がおっとりと質問してきた。


「いつの間に結奈と仲良くなったの? 教室の中で、二人が話をしているのを、あまり見たことがないんだけど」

「最近かな。時々、放課後に教室に残って、二人で勉強会をしたんだ。ねー九条」

「サラっと嘘を言うな」


二人で勉強していたのは確かだが、それは鈴ちゃんに居残りを命じられてだろ。


中間テストの他に、担任の鈴ちゃんは、頻繁に小テストを行う。

その度に点数の低い者達が居残りになるのだ。

四月の頃は数人の生徒が教室に残ることになったが、今は俺と朝霧の二人だけ。

鈴ちゃんの教育熱心なのも、程々にしてもらいたい。


俺が居残りであると説明すると、赤沢と神楽は納得したように深く頷いた。


「そんなことだと思ったわ。結奈が冴えない男子を好きになるはずないもの」

「それは失礼よ。九条君だって、どこかに良いところがあるはずだわ」


この二人、無意識にディスっているような?

それだけクラスの女子達からは、俺がからかいやすい相手に見られているってことか。

目立つほどの特殊な才能もないから仕方ないけどな……


心の中で少し落ち込んでいると、朝霧が微笑みながら人差し指を立てる。


「ちゃんと九条にだっていい所はあるよ。私、知ってるもん」

「え、どこなのよ?」

「八重歯。それと驚いて焦ってる顔が可愛いかな」

「だから結奈、さっきも抱き着いてたの?」

「うん。だって九条って、面白いでしょ」


やっぱり、こいつは小悪魔だ。

男子の心を弄ぶという噂は本当だったんだな。

ちょっと迫られて、本気になりかけていて、俺の純情を返せ。


女子三人は楽しそうに会話を続けているが、俺は全く楽しくない。

もう席に戻ってもいいだろうか……


そろそろ女子達から離れようとした時、教室の中に、男子が走ってきた。


「俊司と慎が面白いことを始めたぞ! 九条と朝霧が抱き合ったことを、廊下で喚いてる! 他のクラスの連中も聞いてるから、一気に学校内に噂が広まるぞ!」

「あいつ等、ふざけんな!」


俺は叫び声をあげ、咄嗟に駆けだした。

後から朝霧の声が聞こえてくる。


「私、九条となら噂になっても大丈夫だからね!」


女子達と話ができるのに、慎達が消えたから変だと思ってたんだ。!

あの二人、やってくれたな!

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