14話 遠藤先輩からの謝罪!
午前の授業が終わり、昼休憩になった。
俊司、慎といつものように加奈の手作り弁当を食べていると、教室のドアが開き、遠藤先輩が廊下に立っていた。
俺達三人と目が合うと、先輩は黙ったまま手招きする。
それを見た俊司と慎が、心配そうな表情に変化した。
「俺と慎も一緒に行くか?」
「いや……昨日のこともあるから、今日は俺一人でも大丈夫だろ」
「俺達二人は遠藤先輩とは、それなりに仲良くなったからな。宗太も先輩と話してくるのがいいだろう」
慎の言葉に頷き、俺は弁当を机に仕舞い、椅子から立ち上がる。
教室を出ると、遠藤先輩が「ついてきてくれ」と言って、先に歩き出した。
その背中が少し寂しそうに見える。
黙ったまま後を歩いていくと校舎を出て、体育館へと続く通路の中央で、遠藤先輩は足を止め、後を振り返った。
「九条……俊司と慎からお前の話を聞いた。バカだけど他の男から、彼女を盗むような真似を、九条はしないと二人は断言していたぞ。俊司も慎もいい奴等だな」
「中学からの腐れ縁ですからね」
「そういう付き合いほど、長く続くもんだ。大事にしろよ」
遠藤先輩はにっこりと笑う。
イケメンならかっこいい場面ですが、短髪、筋肉マッチョな先輩だと迫力があるというか……
昨日は、言い争いになりかけたけど……遠藤先輩って、ホントは良い人だったんだな。
俺は一歩前に進み、ペコリと頭を下げた。
「噂のことで、遠藤先輩に迷惑をかけて、すみません」
「九条は何も悪くない。噂を広げたのは、俊司と慎らしいからな。俺の方こそ、結奈に片思いして、彼女のことを勝手に恋人と勘違いして……情けねーよな」
「いえ、朝霧は人懐っこいところがあるんで、男子だったら誰でも勘違いしますよ」
「九条も勘違いしたのか?」
「正直に言って、勘違いしそうになったことはあります……」
「だよな……可愛いもんな」
遠藤先輩はポツリと呟き、近づいてくると、俺の両肩をギュッと握る。
「昨日、思ったんだが、結奈は九条のことを好きだと思うぞ」
「からかいやすいからでしょうね」
「お前のことを心配して学校を抜け出して、公園まで探しにきたんだぞ。何の気もない男のことを気にかけるか」
「噂の原因は私だって気にしていましたし、意外と朝霧って、優しいですからね。だからじゃないですか」
「そうかな……俺にはそう思えないんだが」
遠藤先輩は難しい表情で考え込み、それから俺の目を真っ直ぐ見つめてきた。
「もし結奈と九条が付き合うなら、全面的に協力する。何か問題があったら俺の教室に訪ねてこい」
「どうして俺と朝霧が?」
「……わからん……だがな好きになった女子の気持ちぐらいは少しはわかるつもりだ」
「そういうことはないと思いますが、遠藤先輩とは仲直りしたいです」
「九条ー!」
遠藤先輩は大きく腕を広げ、俺の体をギュッと抱きしめる。
「グェッ……先輩……放して……」
……体中の骨がギシギシと軋み、背骨が折れそうだ……
ボディビルの筋肉って、伊達じゃないんだな……
グッタリと項垂れていると、気づいた遠藤先輩が、パッと両手を解いた。
「すまん、感動して、つい力が入ってしまった」
「いえ……すごい怪力ですね」
「結奈には、この肉体のせいで嫌われてしまったがな……だがな、やはり俺には筋肉しかない。俺は筋肉を信じ続けようと思う」
決意は立派ですが……モリモリの筋肉を好む女子って、ニッチなような……
それに、朝霧は筋肉だけで、先輩を拒否したんじゃないような気がするけど。
これは言わないほうがいいよな。
俺はパチパチと手を叩き、できるだけ笑顔で答えた。
「さすが遠藤先輩です。漢の中の漢です」
「うむ、九条とは気が合いそうだな。俊司と慎も誘って、今度、皆でカラオケでもいこう」
「ファミレスでいいんじゃないですか。放課後にちょっと寄ってから帰りましょう」
「どうだな。用件はそれだけだ。校内で見かけたら、声をかけてくれ」
「ありがとうございます」
遠藤先輩は晴れ晴れとした笑みを浮かべ、サムズアップして校舎に戻ったいった。
俺は黙ったまま、小さく手を振る。
俊司達は先輩とのカラオケは苦行だと言っていたからな。
なんとか回避できてよかったよ。
俺はとぼとぼと歩いて校舎の中に入り、教室へと戻った。
これで一応は先輩との仲は解決したが……他にも嫌がらせをしてきた男子もいる。
そのことを考えると気が重いな……
またサボったら、今度こそ鈴ちゃんに激怒されるだろうし……それもいいかな。




