魔法雪合戦
またまた忘れてました。
すみません。
途中から久しぶりにフィノ視点となります。
「そろそろ実技試験かな? シル、大丈夫かな? 怪我しないかな?」
「大丈夫だって。実力は大分伸びたし、シリウリード君も男の子なんだから怪我をして強くなるんだよ」
フィノは心非ずといった感じで、ちびちびとお菓子を千切りながら食べている。
いや、食べる手を止めないのはどうなのかと一瞬を思うけど、それはそれで栗鼠や兎みたいで可愛い。
「そういうけど、心配なんだもん……」
ちょっと妬いちゃうねぇ。
僕の実力には心配するところが無いのかもしれないけど。
「と言っても、試験に顔出しはダメだし、僕達は祈るくらいしかできないよ。出来る限り手は尽くしたし、ノール学園長も認めてたから大丈夫だと思うよ」
昼に差し掛かって、今頃フィノが作ったカツサンドを食べているはずだ。
験担ぎだけど、話したらフィノが作ってあげるという話になったんだよ。
パンに関しては僕が作ったけど、カツはフィノが合格を祈って美味しく作ったはずだ。
羨ましいなぁ。
「やっぱり心配ー……。一年遅れて生まれてたら一緒だったのに……」
そ、そんなこと言うの……。
流石に悲しくなるんだけど。
「あ、そ、そういう意味じゃないの! シュン君と会えなくなるのは嫌だもん! ご、ごめんなさい! シルが早く生まれたらよかったんだよね!」
いや、そういう問題じゃないけどね。
まあ、生まれるのが遅かったとしても僕とフィノは出会ってたと思う。
結局のところ僕がフィノと出会ったのはミクトさんのお願いだけど、王都に行かないといけなかったもんね。
だからさ、何事も無ければガラリアの街で一年間過ごしてたと思うわけ。
「気にしてないことはないけど、恋人としては見てほしいなって思うわけで。シリウリード君を信頼してあげないと。お姉ちゃんとしてね」
「うっ……シュン君が拗ねた。これが言ってたメッてやつかも……」
ちょっと違うと思う。
悲しんだだけで、別に怒ってはいないから。
「いつもとは立場が逆ですね」
「フォロン、言うねぇ。ま、そうだから面白いと思うけどね」
最近のフォロンは落ち着きが出て来て、顔が赤くなることは無くなった。
「フィノ様はシュン様の気持ちが分かってよかったのではないでしょうか」
「ツェル!」
「お互いの気持ちが分かってより仲良くなれるのではないですか? 良い事だと思いますよ」
「そ、そう、だね。うん、これでシュン君ともっともっと仲良くなれるね」
それでいいの、フィノさんや。
僕が言うのもおかしいけど、ほんとフィノは僕のことになるとおバカさんになるよね。
おバカさんと言うより全部を肯定するって感じ?
「まあ、気になるのは僕もわかるよ。でも、試験を家族とは言え部外者が顔を出すのはいけないと思う。特に僕達は念話が使えるから余計にね」
信用されているから言われてはないけど、その辺りの対策はしてあるんだと思う。
例えば魔力を遮断する教室とかね。
「だから、気を紛らわせるために遊びに行こ? アル達も誘ってこの前出来なかった雪遊びでもしようよ。魔法を使った雪合戦とか良いと思うけど」
「雪合戦って雪の玉を投げる奴だっけ?」
「うん。流石に魔法を使うと僕が勝つから、攻撃魔法は使わないとか、人数を制限するとかしてね」
ドラゴンを作ってていろいろとしたいことも思い付いたしね。
僕達と一緒にいるからシリウリード君が心配になるのなら、皆で遊んでれば何時の間にか試験が終わってるだろう。
「随分と強気だね。と言っても私はシュン君の敵にならないよ?」
「え? まあ良いけど、僕達二人に対して皆ってこと?」
「う~ん、それでいいと思うよ。そんなに多く集まるとは思えないし、どうせまた何か考えてるんでしょ?」
ばれちゃってたか。
ま、フィノが気を紛らわせてくれるのなら犯罪以外何でもするさ。
「ふふふ、僕の二つ名は奇術師だよ? いろんな面白いことをしてあげるに決まってるじゃん」
「嫌がってた二つ名なのにね」
そ、それを言わないでよ。
やっと慣れてきたんだから。
で、アル達に声を掛けて参加すると二つ返事を貰い、他の人に声を掛けている間僕達は別のグラウンドの整備をしていた。
雪が深いと深いで遊べず、硬くし過ぎると雪玉が作れない。
そこは広範囲に渡って僕が作る。
戦場に関してをフィノが壁を作って、後は少しの作戦時間中に強固な壁を作るってことにした。
そして、待つこと十分ほど。
「……フィノさん、僕は何時幻覚を作ったんでしょうか? どう見ても五十では足りない人数がいますよ」
「何で敬語? でも、シュン君が言うようにこんなに集まるとは思わなかった。俄然やる気が出るね」
僕としてはフィノが良いのならいいや。
戦いで姫を守るのは王子か騎士の役目だしね!
そう考えれば僕もやる気が出るってもんだよ。
「いやー、誘ったら皆やる気出しちゃったな。魔法なら負けるかもしれないが、雪合戦とやらなら一矢報いれるんじゃないかってな」
「フィノちゃんには悪いけど、シュン君の味方をするというのなら手加減できないわ! 今日のこの時間だけは敵よ!」
「恐れ多いですが、日頃の練習の成果を見せたいと思います。クラーラは運動自体が苦手なので、雪玉を作る係でもいいですか?」
何か既に作戦を考えられてる?
普通は雪玉を作りながらってやつなんだけど、別に異世界なんだから変則ルールでもいいでしょ。
「じゃあ、選手はこの赤い布を首に巻いておくことにしよう。僕とフィノは青ね」
「それは良いな。――皆、先輩方も今日こそシュンに目に物を見せてやりましょう! 断じて試験で負けた腹いせではありません!」
『おおおおお!』
何なんだあんた等は!
これは僕ももう一度勝たないといけにようだね。
フィノも女子生徒から強い視線を向けられている。
二人で協力して勝ってみせる!
正義は勝ち、愛は障害が強くなるほど強くなるっていうからね!
「燃えるってもんだよ」
「立ち塞がる障害が二人の絆を強くするんだね。絶対に負けられない!」
さっきのこともあり、絶対に勝ちたいようだ。
「アル、余計なこと言うんじゃないわよ!」
「し、仕方ねえだろ! 皆の士気向上のためには必要だったんだから!」
「まあまあ、二人とも。本気の二人の絆を確かめてあげましょう。二人の絆を確かめる相手に選ばれたと思えば光栄ってものよ」
新生徒会長!
それに大会で上位の先輩たちまで!
「ルールは先代実況司会者レスター先輩の後釜新三年のセシリーが作りました! 公平で公正で平等なルールを作りましたので皆さんご安心ください」
「ただし、シュン選手とフィノ選手が協力するとルールを上気する可能性がありますのでご注意ください。あとからおかしいと言われても奇術師相手に何を言っても無駄です。解説は前任シュナイ先輩に指名された新三年のクロークが行います」
有難いけど、暗に僕が屁理屈男みたいに聞こえるんですけど!
「まあまあシュン君、前に言ってたじゃん。罠は力で捻じ伏せればいいって」
『は?』
「あ、そうだね。ルールの穴、若しくは横を突き、全武力を持って相手すればいいってことだね」
『おいぃぃぃぃっ!』
そっちが数で対抗してくるのなら、僕達は力で真っ向から打ち破るだけだよ。
数で押せれば皆の勝ち、武力で押し留めれば僕達の勝ちだ。
「これは面白くなってきたよ!」
「うん!」
「こっちは冷汗が流れるけどな! くそ~、こうなったら意地でも勝つぞ!」
『おおおお!』
戦場も整え終り、グラウンド全体を使った魔法雪合戦が間もなく行われようとしている。
片方は僕とフィノ二人のがらんとした青の戦場。
もう片方は十人ほどが後方支援に入った、四十人が各地に役割を持って配置にいる計五十人の赤の戦場だ。
深々と雪が降る中、二色の布が風にはためく。
「こほん。それでは第一回魔法雪合戦大会のルールを説明します。
場所は此処第二野外訓練場のグラウンド内のみとし、外に出た者は即刻リタイアと処します。
攻撃方法は自由ですが、必ず必要以上に固めない当たって砕ける程度の雪玉を投げ、身体の一部にあたればリタイアになります。
雪玉に石などを入れるのも当然ながら禁止です。反省文を書かせ、もう一度同じ学年を過ごしていただくとのことです」
「魔法は攻撃・防御魔法の禁止。結界魔法等も同様とします。
使えるのは雪玉を作る、雪玉と多少の妨害は有り、身を護る等は禁止です。壁を作ると負けませんから。
それと飛行魔法も禁止とし、身体強化はありとします」
「それではシュン選手を捉えられないと不満が出そうですが、数は二十倍以上いるので仕方ありません。出来る限り自分の力挑み勝ってください」
「制限時間は五分。勝敗は全員をリタイアさせるか、五分経ったときに人数が多い方を勝者とします。合戦は三回行い、先に二回勝った方を今大会の初代優勝者と未来永劫賞します」
なんかすごいことになったんだけど……。
審判は暇をしていた先生が手伝ってくれる。
暇ではないみたいだけど、新入生の試験が終わるまで仕事は特にないらしい。
この世界には転勤とかもないし、雇われた実技の先生は知識とか教えるだけで教材とかは持ってないみたいだからね。
「最後に細かい判定はこちらで審議します。レッドカードはリタイア、イエローカードは三つでリタイア、分かり難いのでブルーカードはセーフとします」
「それでは大会を始めたいと思いますので、それぞれ配置に付き十分間作戦を練ってください」
僕とフィノはとりあえず魔法でいたる所に雪玉を作りながら作戦を考える。
魔法で防御が出来ないとなるとやりようが減って来る。
出来ないとは言わない。
「身体強化がありなら私でも雪玉は投げられるね。問題は飛行が禁止ってところだよね。全方向から投げられたら困っちゃうもん」
「確かにねぇ……でも、身体強化してれば数メートルは飛べるんじゃない? それに攻撃と防御魔法は使えないけど、自分に対しては使っていいんだと思う。結局危ないからってことだし」
「屁理屈だね。でも、それくらいは許可してくれないと絶対負けるもんね」
「飛ぶのも高くなり過ぎるからだろうし、風魔法で飛んですぐに降りるのはありだと思う。高速移動は身体強化と同じだろうし」
後は雪玉を持ち上げて弾幕とする。
雪玉に対しては良いのだからいいでしょ。
あとは走ってきたところを氷にして滑らせるとかね。
硬くするんじゃなくて滑らせるだけという矛盾が出来るからね、魔法は。
「奇術だね。それでこそシュン君の戦い方だけど」
僕らしい戦い方。
力で押し切るより、相手の弱点を狙うのが多いね。
ベヒーモスの時は水で閉じ込め雷で感電死させたし、デモンインセクトは氷漬けにして火で焼いて、ヒュドラは反対属性を、バリアルは弱点と言うより奇術で勝った。
僕が力で押し切ったのは相手との差が激しい時とかで、その時でも造形魔法とか使ってたし、面白そうな魔法を使った記憶がある。
「僕らしい、ね。フィノの期待に応えるような戦い方にしよっか」
「ふふふ、楽しみ」
フィノにも期待されたし頑張るとしよう!
「時間となりました。両者準備はよろしいですね?」
もう十分経ったのか。
さて、氷魔法で規定の壁を作り足して、雪玉が壊れないように固定の魔法をかける。
勿論投げたら壊れるようにしておくけどね。
「囲まれたらお互いの背中を守るってことで、基本僕が前衛で雪玉を壊すからフィノは後衛で隙のある生徒に攻撃ね」
「分かった。絶対勝とうね! シルも願ってると思うし」
「うん、勝とう!」
そして、丁度開始の火蓋が落とされる。
「それでは第一回魔法雪合戦大会の一回目を開始してください!」
「シュンを狙え! どっちも脅威だが、フィノが先に倒されて怒り狂ったシュンを相手するよりましだと思う!」
失礼なっ!
ま、確かにそうなる未来は見えてるから怒りはしないけど。
「ひゃ! ふふふ、なんだかわくわくする!」
どっかで聞いたようなセリフだ。
「さて、とりあえず壁に隠れて……『雪隠れ』」
「わあ、シュン君が白くなった」
「ふっふっふ、これで移動してくる。顔と青布を隠せばセーフでしょ」
「私にも今度教えて!」
オーケーだよ!
真っ白なフィノ、と言っても髪と瞳以外は白いんだけどね。
まあ、雪と比べれば白くないけどさ。
「シュン、出て来い! このまま時間が立ったら俺達の勝利だぞ!」
それもそうだ。
だが、アルは最後まで取っておく。
あれだけ言ったんだから、新生徒会長を差し置いてリーダーだと仮定する。
「行ってらっしゃい。援護は任せて」
ラジャー!
僕は白い雪の上を氷魔法を使って移動し(魔法で地面を移動してはダメだと言っていない。てか、ばれてない)、きょろきょろとしている男子生徒を第一標的とする。
最初の犠牲者はお前だぁ!
えい!
「おほっ!」
「そこの選手リタイア! 場外へ」
「え? え? あれ? どこから狙われたんだ?」
ふはははは!
面白い、面白いぞ!
兎に角同じところに居たらばれるから壁に逃げよう。
「シュン君のことだから姿を消してるんじゃない?」
「いや、シュンの奴は幻術魔法とかも禁止されてた。じゃないと俺達は同士討ちするだろ? だから、姿を消すってのはまずないと思う」
「ならこうね。姿は消したけど、私達が見え難いだけ。雪玉が当たったのを審判が見ていたってことはどういうことよ」
『流石生徒会長!』
新生徒会長は頭が切れるようだ。
これは先に当てたほうがいいかもしれない。
「それと魔力感知が使える者はそれで調べなさい。絶対に反応があるはずよ」
「なるほど!」
げっ、即刻ばれた。
こうなったら隠すか?
いや、魔力弾をいくつも作って壁の奥に配置してやろう。
悔やむ顔を想像したらにやけが収まらないよ!
シュン君ったら……そこが一緒にいて楽しくもあるんだけどね。
大人びてるのに子供らしいっていうか、考えているようで考えてないっていうか、兎に角一緒にいて退屈しないしポカポカするの。
これが恋ってやつで、好きな相手を許容して包み込むって感じなんだと思う。
馬鹿な子ほど愛おしいとかいうけど、シュン君の場合その行動が愛されてるって感じ。
今日だっていきなり雪合戦するとかよく分からないけど、私のことを思ってだもん。
嬉しいに決まってるよ!
外は寒いのに私の心はポカポカ!
最近は私自身も自分で明るくなってきたと思う。
これもシュン君のおかげで、やっぱり私の大切な人。
雪も解けちゃうくらい毎日甘い空間で過ごしてるんだ。
「は! 蕩けてる場合じゃなかった。私もシュン君に負けないように魔法を使って倒そう!」
なんてったって、私はA(S)ランク冒険者奇術師の異名を持つ、その実態は救国の大英雄シュン君の弟子なんだから!
私も奇術師の弟子として奇術を使ってみせるんだから見てなさい!
「といっても、シュン君みたいにパッと面白いことは思い浮かばないよね。幸い今は狙われてないけど、シュン君が見つからないとなると私を狙う筈」
シュン君のカモフラージュとかいう魔法は凄い。
多分幻術に近いんだろうけど、私は幻術がそこまでうまくない。
幻術は禁止だし、シュン君がばれなければ何をやっても良いで行動するとは思えないもん。
きっと他の属性魔法だね。
「なら……この場から動かずに雪玉を投げればいいのよ! 簡単じゃない」
それに私は後方支援。
シュン君の背後を守る役目だもん。
一回シュン君から聞いたことがあるんだけど、シュン君の世界には銃と呼ばれる武器があるらしいの。
それを再現したのがシュン君の『なんちゃらショット』とかっていう魔法。
指二本を立てて撃つ連射型遠距離魔法のこと。
あの時のシュン君はかっこいいんだ。
バババババッ、て感じできりっとした表情で敵を殲滅するんだもん。
でも、同じ魔法を使うのは芸が無いし、奇術じゃないよね。
「だから……こうやって雪玉を氷魔法と風魔法で操って、放つ!」
『うおっ! ぎゃああああ! やーらーれーたー!』
ふふふ、ぱたりと倒れちゃって、面白い人達。
名付けるなら『雪玉の機関砲』ってところかな。
石のつぶてとかだったら殺傷力もあるから私の戦闘能力が上がったかな?
シュン君は私とも比べられないほど強いから傍にいるには私も強くならないといけない。
多分シュン君は弱くても何も言わない。
でも、私は弱くて守られるより、一緒に傍で立ってその頼もしい背中を守りたいんだもん。
だから私も強くなるって決めたんだ!
「フィーノー! その魔法良いね! 僕も使わせてもらうよ!」
「ありがとう!」
褒められちゃった!
何時かシュン君も真似できないような魔法を作るのが私の目標なの。
まあ、無理かもしれないけど、諦めるつもりはないよ!
その間にシュン君は五人を倒した。
多分私のと違ってコントロールされてたから念力っていう魔法だと思う。
無属性に分類される魔力だけで行う魔力の魔法。
シュン君は細かい所は分かってないのに新しい魔法を作るからすごいんだ。
自覚してほしいけど、自覚してないからってのもあると思う。
だから報告書を書かせるだけで誰も何も言わない。
見ていて楽しいというのもあるけどね。
「あれ? シュン君の気配が増えた?」
魔力感知を広げたらシュン君の魔力が私達側の陣地にたくさんあった。
「そういえば、生徒会長がシュン君の魔法を見破ったんだっけ。幻術は禁止だから魔力弾をいたる所に置いたってところかな」
最近私も魔力弾に似た魔法を使えるようになったんだけど、とっても難しいの。
何が難しいっていうのはないけど、兎に角維持するのが難し過ぎるんだ。
これでもシュン君を除けば学園でトップだと思うのにね。
技量の差が覗える魔法だよ。
流石奇術師で、私の大切な人って感じ!
「生徒会長! シュン様の魔力を特定できません!」
「しらみつぶしにしようにもフィノちゃんの援護もあるわね」
「さっきの雪玉はなんだ? シュンが考えたんじゃないみたいだがフィノも厄介だ」
「ええ、考えが足りなかったみたいね。幻術は禁止しているから魔力弾という奴を放って成りすまさせているのだと思うわ。流石のシュン君も分身は出来ないでしょうし」
分身と言うのは闇魔法のことね。
幻術ではギリギリないってところかな。
でも、それを魔力弾だと見破った生徒会長は凄い!
分析に長けている証拠ね。
少し苦戦するかもしれない……けど、シュン君との絆が試されているこの戦いで負けるわけにはいかない!
「こうなれば少し危険だけど、フィノリア様を狙ってシュン君を誘き出す作戦にしましょう」
「そうだな! そうなれば俺はシュンを探す、シャルはフィノ、レンは状況の報告と支援だ」
「私は出来ないけど、レン君なら雪玉を作って飛ばせるんじゃないの? 若しくは雪玉に酷似した物なら」
「雪玉の定義がなっていないのですからそのくらいありでしょう。はっきり言ってシュン様の方がルールに抵触していそうですし、審判の先生もそこまで厳しくないでしょう」
黄色のカードを上げようとしてギリギリ留めていたっけ。
幻術じゃないし、良く見れば動いてるからわかるんだよね。
魔力も感知出来たのが考慮されてたんだろうけど。
残り時間は半分を切ったかな。
後はアル、シャル、レン、クラーラ達は違うから除外して、生徒会長と十七人の計二十一人か。
こっから勝つには少し本気を出さないといけないだろう。
「魔力で補ったようだけど良く調べれば違いが分かるわよ。これほどのことを教えてくれたシュン君には学校を代表して感謝しないと」
「雪に混じり、雪玉を飛ばし操り、雪玉の雨を降らし、地上から雪玉が飛び出し……あり得ねえぇぇぇぇよッ!」
「アルさん、怒っては相手の思うつぼです。シュン様が相手なのですからこれぐらい不思議ではありません」
イエローカードを一つ貰ったけどね。
雪玉を分裂させたらダメなんだって。
雪玉を作るのは有りなのにね。
まあ、卑怯すぎるとは思うけどさ。
目安は皆が出来る程度ってことだね。
「ふふふ、ならばこれでどうだ。『雪人形』!」
以前作った粘土人形の雪バージョン。
しかも土魔法と水魔法で色も付けた僕そっくりの人形だ。
「な、なんだ!? シュンがたくさん出てきたぞ!」
「どれが本物なの!?」
「良く見なさい! 反則を取られないように足元は雪よ!」
「ですが、近づかなければ偽物だとわかりません。数が多くなればなるほどシュン様が普通に出て来れます」
「さ、流石奇術師ね。よくもこんな奇策を……!」
言いたい放題だね……。
でも、この雪人形達はただ僕が顔を出してもばれないようにするだけじゃない。
「げっ! 動き出したぞ……」
「ま、まさか……」
「嘘、でしょ……」
「に、逃げろー!」
「総員退避ッ! 壁に逃げ込めー!」
脱兎の如く散り散りに逃げ出す敵兵。
僕は少しだけ余裕を持って雪人形達に繋がった魔力の回線に指令を出した。
雪玉を作り殲滅せよ! ってね。
そして、雪人形は僕の指令通り前方に向かって雪玉を投げまくり始めた!
ズガガガガガガガッ!
と言うのが正しそうなほど雪玉の雨が降っている。
端を見れば審判がイエローカードを出すべきか迷っている。
でも、四十人が一斉攻撃するのと変わらないんだから、これを禁止すると相手も不利になる。
魔法を禁止するのもどうかと思うしね。
出来ないわけじゃないし。
「シュン君がたくさんいる! 冷たいシュン君だ」
「その言い回しは……まあいいけど」
冷たい僕ってどんな感じ?
あしらうのはあまり得意じゃない気もするし、フィノに冷たくするとか無理。
偶に冷たくなる時はあるけど。
フィノが闇堕ちしかける時とかね。
「僕に任せてください! シュン様の魔法にどれだけ介入できるか分かりませんが、あの人形を崩して見せます!」
「待ちなさい。攻撃魔法は残念だけど禁止されているわ。どうやるというの?」
「生徒会長、こちらも奇術と言うほどではありませんが使います。攻撃でも防御でもない魔法、支援魔法を使いあの人形を崩そうと思います」
「支援魔法? ……そういうことね! 私も手伝いましょう!」
ほう、支援魔法を使うということはそういうことだろう。
分かると思うけど僕の人形は全部雪。
当然熱を加えられると溶けちゃうんだ。
でも攻撃魔法は禁止で、遠くにあるから直接触ってとかすのも無理。
なら、支援魔法の寒さを和らげる効果のある耐寒魔法。
あれは周囲の熱を上げる魔法だから少し魔法を作り変えれば暑くすることができる。
触って熱いと感じるぐらいは出来ないけど、雪を溶かすぐらいは簡単だね。
「どうする? シュン君なら氷魔法で維持できるでしょ?」
フィノがこっちに来て相談してきた。
「そうだけど、それはつまらないよね。こうやって教えてきたのが身についている所を見ると嬉しくなるしさ」
「それで、もっと挑戦させるってこと? シュン君らしいけど先生やってるね」
「褒められると照れるね。弟子とは違うけど、身になってくれてるってのは嬉しく思うんだ。フィノだってシリウリード君が成長している所を見てるのは楽しかったでしょ?」
「うん! シュン君が私に教えている時もあんな感じだったの?」
「そうだよ。と言っても問題の方もあったし、フィノは魔法が使えるようになってから一年も経たずにここまで成長したしさ。最初から才能とかあったんだと思うよ」
才能だけじゃないと思うけど。
フィノが嬉しそうで何よりだ。
でも、このままだと状況に変化が無く負けるな。
隠れてれば数の問題でこっちが負けるし。
それで勝てても嬉しくない気もするけど、勝ちは勝ちで負けは負けだ。
ここは絶対に勝ちたい。
「となると……時間もないし最後の案に移るかな」
「何するの?」
「勿論、フィノの支援を受けながら僕個人が戦場に降り立つのさ!」
「危ないと思うけど、シュン君なら大丈夫だよね。まさに罠を正面から力で破るってことだね」
そういうこと。
「こ、今度はなんだ? こっちは魔力が切れ始めてるってのによ」
「踏ん張りなさいよ。魔力が切れたらフィノちゃん達の思うつぼなのよ」
「見てください! シュン様が!」
「今度は何をする気かしら? 普通は自暴自棄、若しくは負けを認めるってところでしょうけど……」
『シュンのことだからなぁ……』
聞こえてるんだからね!
「だけど、これは絶好のチャンス! 何か考えてるんだろうが無防備だ! 隠れてれば勝てるがそんな勝ち方は本当に勝ったとは言わねえ!」
「そうよ! あの自信がありそうでいかにも余裕な顔! 長い鼻をへし折って笑みを泣きっ面に変えてやりましょう!」
「さあ、立ちなさい。最後の戦いが幕を開けるのよ! 全身全霊の雪玉を投げつけてやりましょう!」
『おおおおおおおおおおお!』
僕も負けるつもりはないんでね。
雪玉をフィノの支援でいつでも準備できるようにして、僕はいくつかの作業を並列思考で出来るよう細心の注意を払う。
並列思考とかこういった馬鹿のような遊びで使う能力じゃないけど、皆に勝つため、もといまだまだ負けるわけにはいかないと見せつけないといけないから使うよ。
「うおおおおおお、あったれええええぇぇぇえええええっ!?」
「ふははははははは! 僕にそんな遅い球は効かないぞ!」
「審判! あれは有りかよぉぉぉぉ!」
審判も迷っている。
腕を組んでしかめっ面だ。
何故かって?
それは簡単なようで難しい技術だけど、僕が生徒が投げてきた雪玉を避けるんじゃなくて雪玉で相殺させたからだよ。
あのやる気で燃えた顔が驚愕に染まる様は面白かった。
フィノの雪玉支援の下、僕はそれを浮かし、空間把握と時空魔法を応用した未来予知で雪玉の予測線とでも言うべき線を感じ取って、そこと同じ軌道線上に向かって狂いなく雪玉を飛ばす。
そうすることで避けることなく雪玉を相殺させたってこと。
審判が悩んでるのは僕がまず反則してないから。
雪玉を飛ばすのは容認してるからいいでしょ?
雪玉を雪玉で壊すのも容認されてるからいいでしょ?
で、雪玉に魔法を使うのも良いし、身を守るのはダメでも雪玉で護るのは容認されてるんだよ。
だから審判はイエローカードも上げられないってこと。
技術あってこそだけどね。
時空魔法は良いのかって?
ばれなきゃ良いってのもあるけど、これは僕の特訓でもあるし、僕の力なんだから使わないってのはね。
転移はしないからいいでしょ。
フィノにはばれてると思うけど。
「もう自棄だ! 皆、ありったけの力で全方向から雪玉を投げちまえ!」
「流石のシュン君でも全方向は対処できないはずよ!」
「ただし、フィノリア様にも気を付けるのよ! フィノリア様はシュン君ほどじゃないけどぶっとんでるもの」
『死にさらせぇぇぇー!』
ふ、ふふ、ふははははは!
大変だけど面白い!
フィノの雪玉供給と支援、僕の認識速度と精密射撃、皆の体力と根気の対決だ。
全方向と言っても背後からは来ないはずだ。
流石に雪の中を潜るのはフィールドに干渉してるから駄目だからね。
「隙あり!」
「ふげっ! に、二重弾だ、と……ガクリ」
同じ軌道上にもう一つ雪玉を放つ。
普通は反応できずにあたる。
まあ、動かれたら通用しないんだけど。
「ば、化け物だ!」
「どうやって制御してんだ? 人間業じゃねえよ……!」
「これが奇術師……。人が挑んではいけない領域だったのか」
「まだやれる! 俺達は死んでないんだ! まだやれぶべっ!」
『フラグが立った!』
ああ言われたら狙うしかないでしょ。
僕だって全部を迎撃しているわけじゃない。
全部が僕の体を捉えているわけでもないしね。
避けきれない雪玉だけ狙って、避けられる奴とかは未来予知で避けてるんだ。
知らないから奇術に見えるんだろうけど。
この世界で種も仕掛けも無いってのは難しいからね。
黙ってないと仕掛けになんないもん。
「ふふふ……少しきついけど、着々と数が減るよ。さあ、抗うんだ。僕に勝つんでしょ?」
僕はテンションが上がってきたからかいらぬ演技までしてしまった。
エフェクトはないけど、満面の笑みを浮かべて両腕を肩より高く伸ばし広げた。
ゆっくりと皆の方に大地を踏みしめながら進むというおまけ付きで。
「あ、悪魔……」
「俺には見える。シュン……いや、悪鬼シュンの背後に闇色の炎と紫色の雷が……!」
「わ、私にも見える! 背後にいるフィノリア様が笑っているのが! 私達は手を出してはいけない人に手を出したのよ!」
くぅっ!
自分が招いた結果だけど酷いよ!
悪魔とか悪鬼って何だよ。
僕はそんな怪物じゃないし。
だけど、そんな乗りで来るのなら乗って上げようじゃないか。
フィノから供給される雪玉と空間認識を止めてサッと作り上げた雪玉で僕を囲む。
まるで僕を守るかのように。
反則?
いや、壁じゃないから反則じゃないよ。
「な、何が始まるんだ?」
「雪玉の壁? あれは有りなのか?」
「いえ、壁じゃないわ! 総員退避ーッ!」
気付いたみたいけど遅いよ!
「食らえ! えっと……『雪玉爆撃』!」
『マジか……うぎゃあああああ!』
ね、壁じゃなかった。
僕を守るように整列された雪玉。
腕を振り下ろすとその雪玉が凄い勢いで扇状に飛んで行き、逃げ遅れた敵に思いっ切りぶち当たった。
「な、なんて凶悪な技だ……!」
「防ぎようがないとはこのことよ」
「今ので半分以上がやられたわ。悔しいけど認めるしかないわね」
「でも、あれは奇術と言うより力技ですよね」
い、言うじゃないか。
じゃあ最後にとっておきの――
「くそぉ~……このまま言い様にやられてたまるか!」
「な、何をする気だ!?」
「時間も残り少ない。だからシュンではなくフィノリア様だけでも仕留めさせてもらう! 不敬だが、これは戦争なのだ! 我らの威信がかかった、な」
「早まるんじゃない! 戦争が終わったとしても報復があるかもしれないぞ!」
茶番か?
だけど、フィノを狙うというのなら僕は容赦しない!
「それに残り数秒でもあのシュンのことだ。本気で攻められたら終わるに決まっている!」
「離せ! 俺達にはやらねばならない時がある! それが今なのだ! 行かせろぉぉぉ!」
「お、お前……そこまでして……。くっ……見捨てる俺達を許してくれ」
「何を言う。俺一人の命で勝てるのなら安いものだ。最後ぐらい笑ってくれや」
「ぐ……わかった! 俺達はお前の命を無駄にはしない! 絶対にシュンがそっちに行かないよう足止めをする。その間にお前が!」
「おう、任せておけ!」
完全な悪役の気分だよ。
本当にぐれて殲滅してやろうかな。
それとも皆の手も止まってるし、今のうちに仕留めておく?
等と思っていると、背後から助けを呼ぶ悲鳴が響き渡った。
「フィノリア様、貴方を狙うこと申し訳ありません。これも戦争なのです。お覚悟ぉぉぉぉぉッ!」
「ええ!? きゃああああ、シュンくーんっ!」
僕はその瞬間何かが切れた。
後から聞いたんだけど、一気に魔力が噴き出し雪を撒き散らしながらフィノの下に詰め寄ったらしい。
前に出ていたことで距離が遠く、いくら僕が音で認識してすぐ移動したとしても遅く、誰もが当たると思っていたようだ。
茶番をしている間に気配を隠した生徒が近づき狙うというのが作戦だったらしい。
最初からこの作戦が実行されていたらしく、数で勝つのは嫌とか、僕を仕留めるとか言いながら、結局はどんな勝ち方でも勝てばいいと思っていたみたい。
だけど、僕が手を突き出すと同時に雪玉のスピードが遅くなり、僕のスピードが逆に上がったという。
多分、反則である転移は使わなかったけど、フィノの悲鳴を聞いた僕は箍が外れて速度を下げる『スロウ』と上げる『クイック』を使ったんだと思う。
その後は雪の壁を破壊してフィノをお姫様抱っこで救出し、フィノを狙った生徒に雪玉の山を魔法で投げつけたとか。
いやー、僕は覚えてないんだけど、流石にそれを見たら悪魔だとか言われても仕方ないね。
「久しぶりにフィノの騎士を見た」
「忘れてたわ。シュン君はフィノちゃんのことになると見境が無くなることを」
「あれは魔法ですか? 遠目からではよく分かりませんでした」
「今思っただけでも悪寒が……。私達は敵に回してはならない人と戦ったのね」
「お、俺、生きてる……? ご、ごわがっだよぉぉぉぉ~! 初めて食われる気持ちが分かった!」
『……すまん。お前を名誉勇者と讃える』
そして、僕に悪魔や大魔王などと言う二つ名が付く。
ポムポム魔王様を差し置いてね。
勝負の行方は時間切れで一応僕達が負けた形になったけど、あれを見た後だとどっちが勝ったか首を傾げるという。
今度はしっかりとしたルールを作り、これしかしてはいけないという規則を付けることにしたようだ。
フィノからやり過ぎだと怒られ、とんだ雪合戦だった。
まあ、僕とフィノの絆は太いと思わせることが出来たからいいだろう。
よく考えればフィノを狙えば悪魔である僕がやってくる、と思えば結果的に良かったんじゃないだろうか。
そう思わないとやってられないところもあるけど……。
そして、後片付けをしている所にシリウリード君が現れ、試験が終わったのだとわかった。
試験の結果を不安そうにしていたけど、周りの人と比べると上手く出来たと思っているらしいからいいだろうね。
で、シリウリード君は雪合戦をしたいと言い出したために、魔法を禁止した普通の雪合戦をすることになった。
それを見ていた周りの人が最初っからこうすればよかったんじゃないか、と思ったのは僕のあずかり知らぬことだ。
魔法無しで勝てたからと言って嬉しいもんでもないだろうし。
そして、雪が解け始め、いよいよ入学式が近付いて来る。




