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束の間の休息

キャラが増えたことで覚えきれなくなりました。

誰を登場させたか、今の場面にいる者を忘れたり、呼び名や口調とか、ちょくちょく修正しています。

いかに全員の登場人物を喋らせるか難しいです。

アリアこと師匠の二つ名が気付けば三つぐらいに変わってました。

魔術師も、魔法使いも、魔女も同じですね、はい。

大事なのは雷光の方なので。

「これで人族、エルフ族、ドワーフ族、魔族の四つが手を組めたわけだ。いろいろとしがらみはあるだろうが、フィノとシュンはよくやってくれた」

「種族内で争いがあるのは仕方ない事なのでしょう。皆が皆同じ気持ちを抱くのは不可能に近いもの。よく頑張ってくれたわね」


 魔大陸から帰ってきた僕達は簡単な報告を済ませ、一日休んでからきっちりと報告する。

 本当ならその日にしっかりと報告するんだけど、僕達はまだ子供だからね。

 体力が増えても子供であることには変わらないんだ。


 詳しいことはレオンシオ団長達が報告するということだしいいと思う。


 労いの言葉と一歩前進したという安堵の気持ち。

 それと意外に魔族が優しく、争っていたというのが嘘だったようだと目を丸くしていた。


 義兄さんは他国が送って来る使節団や使者と対話しているそうだ。

 そっちは僕にはどうしようもないので、どうにかしてもらうしかない。


 魔族との話し合いでもわかったけど、僕は話し合いに向いてない。

 決まった所に僕が参戦するのが一番いいと思う。

 相手の神経を逆撫でするような鈍感ではないはずだからね。


「しっかりと出来て良かったですよ。やっぱり嫌だという魔族はいましたし、決闘して引かれましたし、天魔族は不気味でしたし」

「あっちも仲間割れが起きてますから、気を付けないといけないと思います」


 不満分子というんだっけ?

 どんな集団でも大きくなれば絶対に出てくるものだ。


 少し前まで王国や帝国でそうだったようにね。

 今でも何かしら企んでいる人とかいるようだし。


 そうそう、研究所にも僕がいない隙を突いて侵入者が潜り込んだそうだ。

 ただ、アルカナさんと考えた防衛システムが起動し、侵入者は全五段階あるうちの二段階までしか進めなかったそうだ。

 アルカナさん達研究者は隈が出来ていたけど、どこか嬉しそうで不甲斐ない侵入者に怒ってもいた。


 因みに一段階は警告と低級魔法迎撃、二段階は結界魔法と拘束魔法のオンパレード、三段階は魔石のゴーレムが起動して、四段階は魔法を反射するゴーレムとレーザーを放つ無数の突起があって、五段階は試作品だけど最初の位置に転移させるんだ。


 二段階まで来れたのだからそれなりの実力者なんだろうね。


 でも、地中を移動すると普通に入って来れるという欠点もあるんだけどね。


「分かっている。黙っていたがこちらでも行方を眩ます者が少なからずいる」

「そうなのですか? やっぱり邪神関係で?」

「それは分からん。追跡しようにも途中でいなくなるのだ」


 それは転移しているということだろうか。

 ディルトレイさんの例もあるし、邪神なら加護や力を与えて転移ぐらいできるようにしているかもしれない。

 これは考え過ぎじゃなくて、相手は神なんだから転移ぐらい、と考えるべきだろうね。


「もう少し分かってから教えようと思ったのだが、魔族の中でもそうなのならお前達も知っておいた方がいいだろうと思ってな」

「そうですね。ただ、流石に転移されると僕でも転移先は特定できません」

「そうなの? あの時みたいに空間の歪みを捉えたり出来ないってこと?」


 フィノはよく見てるね。


「でも、僕の感知外――大体四キロを越えられると魔力感知外に出るから察知するのは無理だね。流石に世界全体のことを察知できるわけじゃないから」

「そっか」


 でも、僕を何でもかんでも出来る人みたいに考え過ぎな所があるかも。

 勿論信頼しているからなんだろうけどね。




「それはそうと、二人は魔族の王都をデートしたんだって?」

「「へ?」」

「しかも間接的なキスまでしたとか。貴方達も年頃なのね」

「「えええっ!?」」


 一瞬頭がショートした!

 デ、デート!?

 予行練習だし!

 ポムポム魔王様がいたし!

 観光だったもん!


 それにキス……ぐぬ~っ、はしたけど、関節だったし!

 ノーカンだよノーカン!


「それにあーん、というのは美味しかったのでしょう? フィノ、どうだったの?」


 なぜそれを……!

 そうか、あの騎士が報告を!

 絶対に許さんぞぉぉ!


 こういうことは親に報告されるととても恥ずかしい。

 生殺し? 状態なんだよ。

 しかも義母さんはこういう話が好きで、少しSが入ってきてる。


 フィノがプルプル震えてる。

 僕も頭の中混乱してる。


「さあ、どうだったの? 私に教えてちょうだい。美味しかった? 幸せだった? 嬉しかった? ピンク色だった?」

「お、お母様!」

「な~に?」

「……美味しかった、です。とても幸せで、天にも昇りそうな心地でした! ……ぐすん」


 フィノが涙目になっちゃった!


 逆らえない母の偉大さ。

 流石の僕もどう選択するべきか迷うわけで。

 いつものことだったりするし。


「ごほん。さておき、二人が出会って一年と半年が経つわけだ。それなのに、まだキスすらしてなかったとはな」

「え……ですが、出来るものじゃないですよ? 勇気云々ですけど、ムードとか、やり取りとか、順序とかですね……」

「甘い! お前が作った餡子にアイスと生クリームと蜂蜜を乗せたデザートよりも甘い!」


 少し美味しいかもしれないけど、カロリーが高いだろう。


「お前達が純愛をしているのはとても良い事だ。王族となると恋愛結婚など無縁に近いと言えるからな」

「そのことは感謝してます。だからこそ余計にフィノとは健全で、一秒でも大切に良い思い出を作りたいんです」

「だが、時には男と女としては目を外すときも必要ではないか? フィノが言わないからではなく、シュン、お前が男としてどこかに連れて行ってやったり、二人でのんびりしたりしないといけないと思わないか?」


 く、正論だ。

 忙しいというのは言い訳にしかならない。

 実際研究に関しては僕は発案とちょろっと製作して持っていくだけ。

 あとは説明書を製作して、研究者がそれを元に改造してくれる。


 二人の時間をもっと作るべきなのだろう。


「そう思うだろう?」

「はい、強く思います!」

「まあ、親として不純行為は成人するまで控えてほしい。だが、手を繋いだり、普通に抱き合ったり、キスぐらいまでならいいと思うぞ」


 い、良いのかよ!

 娘の父親としてきっちりいうべきでは?


「あの劇ではないが、あれ以降恋愛やキスに関して考えることがあってな。お前達は出会いも出会いで関係も変わっておるからな。枠にとらわれず、自由な恋愛を経て婚約、そして結婚してほしいと思うのだ」

「……義父さん」


 何て良い家族なんだろうか。

 これが出来た父親というべき存在なのだろう。

 僕も良い父親になれるよう努力したいと思う。


「幸いローレの奴も結婚相手が見つかってな。今度二人でお茶会をする予定になっておる」

「え!? お兄様のお相手が見つかったのですか?」


 フィノが乱入して驚くほどの出来事。

 今までそんな話聞いてなかったから違った意味でおめでただ。

 一体どんな女性なんだろうか。


「そろそろ王妃も決めねばならんからな。丁度お前達の劇を見ている間に決めておくよう言っておったのだ」

「お相手は公国の姫君よ。出来れば王国から選びたかったのだけど、どうもローレが学園に通っていた頃の同級生らしいのよ」


 あー、そういうこと。

 邪推かもしれないけど学園で知り合って、少なからず接点が出来て、お互いに気持ちを伝えられずに別れた。

 これまた純愛? 悲恋、ではないか? に近い感じかな?


「二人とも生徒会に入っていたのよ。そこで知り合って、なんとなく一緒にいたらしいわ」

「その辺りは学園長から話を聞けた。ならば、親としてくっ付けさせるのが務めであろう。王妃は自国から、と決めているわけでもないのでな」

「貴方達はそのままでしょうけど、ローレは後数人娶ることになるはずよ」


 ハーレムってやつだね。

 僕はフィノだけがいればいいけど、財力とかがある人は複数人娶るのが権利というか、娶ることが進められる。

 だから、僕も冒険者としても、伯爵としても、英雄としたら娶った方がいいと言って来る人が多くいるんだ。


 ま、僕とフィノは親公認だし、はっきり言って機嫌を損ねない方がいいといった感じらしいよ。


 それに僕なんかが複数人の女性を相手に出来るとは思えない。

 フィノ一人でいっぱいいっぱいなんだもん。


 大体ハーレムが駄目だとは言わないけど、男一人に対して女複数というのは偏りがあるよね。

 愛情なんて、というのならいいかもしれないけど。

 生憎僕は女性と付き合うのは思いや愛情が第一だからね。


「私は信じてるから安心してるよ。シュン君は私しか見えないもんね」

「う、うん」


 こ、怖いよ~!


「ふははは、シュンもやはりそうなったか」

「あなた?」

「あー、いや、何でもない」


 情けない義父さんだ。

 ここは見習わないように努力しようかな。






 報告を終えた僕達は師匠の下へ向かった。

 師匠にはゴルドニアさんが話す予定だから特にないけど、弟子としての報告は必要だ。


「無事帰ってきました。結構楽しい場所でしたよ」

「ロロちゃんとエアリも楽しめたみたいです。渡していた袋から大量の魔物と食べ物が出てきましたから」

「そうか。ゴル爺から聞いていたが、二人が無事で何よりだ」


 師匠は訓練の手を休め、僕が差し出したお土産を受け取りながら笑みを浮かべる。

 お土産はお酒だ。


 因みにロロとエアリは知能が高くて、倒した魔物やほしいものがあったら入れられるよう収納バッグを持たせていた。

 ファチナ村に戻った時エリザベスさんに頼んでいたんだ。


 フィノの言う通り中身は高ランクの魔物がいっぱいで、匂いで判別して食べられそうな果物が多く入っていた。

 食い意地が張ってるのは良い事なんだろうか?


 まあ、鉱石とか薬草とかもあったから自分の分だけではないんだろうね。

 そう思いたいよ。


「ディネルースの奴が族長となっていたというのは驚いたが、その方がやりやすいと思えば良い事だったな」

「最初はピリピリしていて怖い人かと思ったんですが、以外に話しやすくて真面目な人でした」


 治安部隊の総隊長でもあるから、王都が過ごしやすかったのはディネルースさんのおかげでもあるわけだ。


「とんでもないぞ。あいつは戦闘となると高笑いして向かって来る戦闘狂だ。ダークエルフはエルフと違って好戦的な所があるからな。その中でも特にディネルースはその面が強く、落差が激しいはずだ」

「そうなんですか? そのようには見えなかったんですけど」


 理知的って感じだったし、城で見ていた感じでは真面目に指示を出してた。

 まあ、戦闘風景を見てないから言えるのかもしれないけどね。


「でも、あんなに綺麗な人が高笑いして向かって来たら怖いかも」

「確かに」

「あ、綺麗といっても見つめちゃダメだからね」


 わ、分かってるよ。

 そのくらい……。


「ま、これからは一時的にせよ味方となる。自分達に向かってこない限り怖いことはない……と思いたい」

「師匠!?」


 何だ、その自信の無い言葉は。


「や、流石に私も見境なく攻撃するとは思わんよ。ただ、戦闘風景を見て怖くないかと思えるかというとなぁ……」

「別ですね。それにダークエルフ族は内部分裂が起きたんだよ? 結局ディネルースさんほどじゃないにしろ、それに似た人達が向かってくる可能性があるってこと」


 そうか、そう言えばそうだった。

 まあ、向かってこないことを願おう。

 来ても誰が相手にするかはわからないしね。


「来るならフェアルフローデン――エルフの村が高いだろう」

「邪神の手下となっていても、その底にある思いは何時も一緒。他の所に来る可能性の方が低いってこと」

「じゃあ、世界樹を守るための方法も考えておいた方がいいってことだね。輸送方法は別として、フレデリアさんといつでも通話できるようにしないといけないですね」


 結局のところ転移の魔道具はコストが高すぎて作れないと思うから、通信と能力底上げの魔道具と回復薬とかを支給しておいた方がいいみたいだ。

 ここ最近薬草とかの栽培も始めたし、エルフ族も素材集めと栽培をしてくれている。


 研究も行われて効果も大幅に上がったしね。

 アルカナさんのおかげで僕が考えた魔法も低コストでほとんどの人が使えるようになっているし。


「シュンには迷惑をかけるな。面倒な族長というのを引き継いだ私がある程度はしないといけないのだろうが、細々とした魔道具は専門外でな」

「楽しいので構いませんよ。師匠が訓練を施してくれるだけで助かります」

「いろんな人からいろんなことを教わった方が身になります。シュン君とアリア様では全く違いますから」


 僕は魔法の制御が主で、次に楽しそうなことをしていく。

 師匠は基礎から入って重点的に鍛えていく感じだ。

 イメージ力を鍛えるのは同じだけどね。


 まあ、いろんな人からといってもそれでこんがらがったら本末転倒だけど。


「特に今回ついてきた騎士――クレイというらしい――とロビソンをよろしくお願いします」

「よく分からんがロビソンは次期狩猟地区の長だ。多少厳しくしても強くせねばならんだろう」


 よし!

 僕の手で出来ないのは少し残念だけど、ロビソン達にはこの方が効くはずだ。

 僕よりも師匠の方が怖いというのもあるだろうしね。

 なんてったって雷光の魔女とかだからね。


「全くもう。シュン君は意地悪さんなんだから」

「ちょっとした仕返しだよ。強くなれるんだからいいじゃん」

「ふふふ、シュン君の機嫌を損ねちゃダメだね。私がしたらどうする?」


 ……え?

 フィノが僕の機嫌を損なわしちゃうの?

 ど、どうだろう?

 怒るとか苛立つよりも、情けないとか悲しいが先に来るかも。


「う~ん、メッというかな」

「ははは、シュンは姫さんに怒れないのか。まあ、可愛らしくていいんじゃないのか?」

「メッて怒られるんだね。ちょっと見てみたいかも」


 何ぃ~?

 これはフィノが僕に対して怒られたいのか、それとも僕をおちょくって楽しんでいるのか判断できない。

 多分後者だと思うけど。


「シュンが姫さんに怒ることはまずないだろう。身内にはとことん甘い奴だし、特に家族には怒りもせんだろう」

「敵には容赦ないですけどね。魔大陸でもやり過ぎだと思うんですけど、私に厭らしい目を向けてきた狼の獣魔族の男性をコテンパンに叩きのめしちゃいました。その後兄貴と呼ばれて困ってましたけど」

「ははは、魔族だから仕方ないだろう。そうなる気もしていたからな。嫌われるよりましだ」


 嬉しいような、恥ずかしいような気持ちだ。

 ただ、僕はヘタレではないと思いたい。

 心の底から愛した人には怒れないんだよ。

 仕方ないことだ。


 勿論、フィノが僕を怒らせるようなことをしないとわかってるからだけどね。






 それから数日が経って、いよいよ冬休みが終わりを見せてきた。

 実際は王国と魔法大国の距離を考えれば冬休みに帰ることは出来ないんだけど、僕にはその距離をゼロにする転移があるからね。

 一日余裕を持った前々日ぐらいに帰れればいいんだ。


 魔大陸で時間が無いって言ってたのは、今年入学するシリウリード君がいるからだ。

 分かると思うけど、僕とフィノがあれだからやっぱりシリウリード君もあれな目で見られると思うんだ。


 そこについては申し訳ない気持ちでいっぱいで、いろんな意味で贔屓目で見ないでやってほしいと思う。

 でも、相手は子供だから心無い言葉を言う子が多くいるはずだ。


 兄弟が同じ学校に通ってたら比べられるって聞くのと同じ奴だ。

 同じなんだけどね。


 そこで、僕はまだ距離が遠いから難しいけど、フィノにお願いしてシリウリード君の実技方面の訓練をすることになったんだ。

 残りの日数分だから、一週間ぐらいだね。


 結構長いと感じるのは、冬休みが一か月近くあって、魔大陸には一週間強しかいなかったからだ。


 一週間でどのくらいできるか分からないけど、試験まで凡そ二か月弱もあれば大丈夫だと思う。

 試験内容は変わったとしても、筆記と実技と実践の三つの基本的なことは変わらないはずだ。

 実力を見る、という点のこと。


「フィノ姉様、試験は難しいのですか? 僕は合格するでしょうか?」

「大丈夫よ。この前見せてもらったけど、今のシルの実力があれば合格すると思う。どちらかというと筆記の方を気にした方が良いよ」

「ほ、本当ですか!? ……あ、あとで、勉強も見てもらっても……良いですか?」

「うん、見てあげる。本当にシルは可愛いね」


 だから、こうして僕が魔道具を作りながら見守っている中、中庭でフィノが初めての指導をシリウリード君に行っているんだ。

 指導はアル達にしたことがあるけど、一から指導をするとなると初めてってこと。


 シリウリード君に嫉妬しちゃうけど、僕としても可愛い義弟だし、なんとなくフィノのことが好きなんだなぁとわかるから嫌われないようにするのが優先だ。

 フィノが嫌いとかならあれだけど、好きで可愛がってるんだから僕が邪険にするわけにはいかないでしょ。


「多分魔法の試験は魔道具を使って威力とか規模とかを測ると思うの」

「フィノ姉様の時はどんなのだったんですか?」

「私の時は大きな水晶玉があって、それに自分が使える最高の魔法を放ちなさい、ってものだったよ。その水晶玉は総合力を見て、当たった時に罅が入って威力とか込められた魔力量を測ってくれるの。で、隣で待機している試験官が発動速度や規模をチェックしてくれたんだよ」


 あの時は事故ったけど、今思えば面白い光景だった。

 すぐに壁も修復したし、生徒達は見ていなかったから噂の域を出なかったのが真相だ。

 面白そうだけど黙っていようということになった。

 何故かクロスさん達は知ってたからノール学園長が教えたんだろう。


「フィノ姉様は砕いたんですよね。壊しても良かったんですか?」

「ふふふ、その水晶玉は魔法を吸収して、内部で魔力に変換できる仕組みらしいの。その魔力を使って自動で修復する機能があったから、シルが思っているようなことにはならなかったの」

「へぇ~、そんなすごい魔道具があるのですね」

「シュン君なんか本気でやれって言われてね。粉々を通り越して、粉末にしちゃったんだよ? あの時は皆呆気に取られて、私は笑いを堪えるのが大変だった。流石シュン君ってところだったよ」

「そう、だったんですか……」


 こっち見られても苦笑いしかない。


 でも、あれが壊れてなくて、数週間後に直ってたんだからすごかった。

 弁償しなくてよかったけど、一体どんな技術で作られてるんだろうか。

 ステータスを測るあの水晶にしろ、この世界の水晶は何か特別な気がする。


 今度水晶の研究でもしようかな?


「すぐに強くなる方法はないのは分かるよね?」

「はい、コツコツと積み重ねなければ何事も出来ません」

「よろしい。だから、私が教えられるのは基礎の基礎だけになるの。でも、これをしっかりやれば一カ月で成果が出ると思うよ」

「本当ですか!? フィノ姉様と冒険に行ったりとかも?」

「うん、学園にいる間は出来ると思うよ。でも、出来れば安全面を考えてシュン君と一緒で、今起きていることが片付いてからが良いかもね」

「シュン、兄様もですか……。分かりました、安全性は大切ですもんね」


 何かちょっと罪悪感を覚えるんだけど……。

 その辺りなら二人でもいいかもしれないけど、流石に目を離すというのは許可できないかな。

 過保護かもしれないけど、僕が我慢できないもん。

 手を出さないくらいは出来るから、保護者的な立場……かな?


「で、基礎の基礎についてだけど、まずは魔力をしっかりと感知できるところから始めよう。そして、細かく操作できるようになって、魔法を操作出来るようになるの。寝る前はリラックスして、身体の中の魔力を循環させることをするからね」

「騎士達がしている精神統一のことでしょうか?」

「そうだよ。私もシュン君に教わって、騎士達も教わったんだ。魔法の上達だけじゃなくて、一度に使える魔力の量の底上げや身体強化で身体を壊さないようにするとかの効果もあるの」

「分かりました。基礎はコツコツですね」


 早速始めるのか。

 確か、あの時はリラックスさせるためにいろんな魔法を使ってたな。

 なら、僕の修行としても遠隔操作する練習として、あの場だけ鎮静効果のある魔法を使っておこう。




「今日はここまでね。やり過ぎは身体を壊しちゃうし、焦っても良い事はないから本番しっかりできるように今は休もう」

「はい、フィノ姉様」

「学園に行く前に魔法の練習も始めるからね」


 陽が暮れ始めて、辺りがオレンジ色になってきた頃に二人は訓練を止めた。

 見ている方は地味な訓練なんだけど、やっている方はなかなか上手く行かないことにジレンマを感じているはずだ。

 でも、そのジレンマを我慢して自分が想像するような扱いが出来るようになると、魔法を実際に使った時驚く効果が出るんだ。


 ここが我慢の潮時だから頑張ってとしか言えない。

 だから、デザートとかで応援するんだ。

 甘いものは精神を癒してくれるから丁度いいというのもあるしね。


「終わったんならこっちに来てデザートを食べよう。夕食前だから数は多くないけど、新作のしっとりミルククッキーだよ」


 そういうと、二人は笑顔を浮かべた。

 でも、すぐにシリウリード君の顔はハッとなって、仏頂面でフィノに連れられてきた。


「紅茶は甘味を控えましょう」

「うん、そうして。ついでにジャムとかもいるかもね」

「分かりました」


 ツェルとフォロンとも久しぶりにゆっくりできるし、休日というのは大切だね。


「本当にしっとりで柔らか~い! ほのかにレモンの味がする」

「本当ですね! 疲れた後だから余計においしく感じます!」


 二人の笑顔を見れてうれしいよ。

 フィノとシリウリード君は栗鼠みたいなんだよね。

 食べているところを見てほっこりするんだ。


「チーズとかレーズンとかも混ぜるとまた変わった味になるんだけど、今回は酸味を利かせるレモンだけ。少し手間もかかるしね」

「残念……。でも、楽しみが増えるのは良いかもしれないね。明日はタルトが食べたいかも」

「僕は……アイスクリームが良い……。で、でも、勘違いしないでくださいよ! べ、別にあったら良いなぁと思うだけですからね!」

「こ~ら! シルは素直じゃないんだから」


 タルトとアイスね。

 それならタルトのアイスクリーム添えが良いだろうね。


 それにしてもシリウリード君は……ははは。


「あー、それ以上食べたら夕食が食べられなくなるから終わりだよ」


 といったら二人とも凄い反応速度で僕の方を向いた。

 二人とも、というより王族は皆食い意地が張ってる。

 作る方は楽しいし嬉しいからいいけど、栄養とか考えないといけないから大変なんだよね。


「えっ!? ……シル、最後の一個は年長者であるお姉ちゃんに譲りなさい」

「え? フィノ姉様の頼みでもこればっかりは……。それにフィノ姉様は最近裕福になられませんでしたか?」

「なっ!? いくらシルでもシュン君の前で言うのは許しません! 罰として最後の一個は私が食べます」

「は!? 認めたくせにずるいです! 太りますよ!」

「シュン君の前で言ったわね!」


 これを姉弟喧嘩というのだろう。

 本当にお菓子一つで争うんだね。

 僕は欲しいのなら上げるタイプだからよく分からないんだけど、この状況を招いたのは僕の発言だった。


 ここは仕方ないか。


「二人で分けて食べなよ。そのクッキーは半分に割りやすいから」

『あ、その案があった!』


 その後態と小さくしないでとか、こっちの方が少し大きいとか、本当に面白かった。

 お菓子一つでここまで出来るのは凄いと思うよ。


 それと、密かにフィノのダイエットメニューを考えておこう。

 ばれなければ犯罪ではないんですよ。


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