ダークエルフ族
誤字は少し減ったと思うんですが、言葉はなかなか難しいです。
その言葉自体正しいと思ってますからね。
日常使っていてもスルーされることが多いですし、元々私はしゃべるほうではないので余計に気づきにくいです。
本当に日本語は難しいですね。
相手の身分次第で言葉遣いも考えないといけませんしね。
翌日、ポムポム魔王様に許可を得てダークエルフとの話し合いを行うことになった。
既に準備はゴルドニアさんが終わらせていて、僕達は同席するだけで基本黙っておくように言われた。
あくまでもこの話し合いはエルフ族とダークエルフ族両者の物であって、僕達やポムポム魔王様が出る幕ではないってこと。
あ、魔族側からはポムポム魔王様が見届けるために出席して、サテラさんが第三者とお目付け役として出席する。
何かあれば実力行使で止めることになる。
ゴルドニアさん一人で来たというのを真っ直ぐ受け止めてほしいというのが僕やフィノの思いだ。
「ドキドキするよ。劇とか謁見したけど、これだけ緊張したのは初めてかも」
死にそうになった戦いでも緊張はしなかった。
というより護ることと生きることで精一杯だった。
「シュン君でも緊張するんだね」
「失敬だなぁ。でも、相手が王様だからといって平伏するって気持ちはないかも」
「ふふふ、シュン君はそれより上の神様に会ってるもんね」
まあ、それもあるんだと思うけど、元々僕がいた所には王様とかいなかったし、偉いと言われても上司感覚なんだよね。
しかも僕は学生でもあったから、会ったことのある一番偉い人となるとたかが知れてる。
神様に初めて会った時も親切な人って感覚だったし、かなりフレンドリーだった。
王族も威厳は感じててもそれしかないからね。
どっちかというとごつい冒険者とかの方が平伏しそうになる。
「シュン殿は緊張することの無いんじゃぞ? 儂が話すのじゃからな。話してくれるのは経緯や仲裁ぐらいじゃ」
これが年の功という奴だろうか。
物凄くゴルドニアさんが頼もしい。
や、失礼なんだけどね。
「私はワクワクします。私はまだ千年も生きていない若造ですからね。ダークエルフとエルフが話し合うというのは初めてなんですよ」
そこまでウキウキされても反応に困る。
というより楽しさを求めちゃいかんでしょ。
と、窘める役割であるサテラさんの方を向くと苦笑気味にクスリと笑われた。
「魔王陛下、それはあんまりですわ。歳は言えませんが、長く生きた私でさえ二つの種族の仲違いの始まりを知りません。そもそもダークエルフがなぜ生まれたのか詳しい所が分かっていませんの」
「え? ダークエルフは闇魔法が使えるから肌が黒くなったんじゃなかったんですか?」
フィノに確認を取ってみれば驚いた表情をしていた。
ゴルドニアさんも詳しいことは知らないみたいで、少しだけ話してくれた。
「ダークエルフの始まりは数万年も遡ると聞くのぅ。何が原因かは儂にもわからんのじゃ。じゃが、こうやって魔族と触れ合ってみて思うのは、肌が黒く性格が多少違うだけで排除したのは間違いじゃったということじゃな」
少し遠く、神に懺悔するような声に聞こえた。
「エルフ族の思いは分かりますわ。闇魔法が使えれば魔族だという考えがありました。それが払拭できたのは数千年前に現れた勇者の存在ですわ」
「その話は魔族の中では有名です。といっても当時の者は生きていませんが」
それはそうだろう。
長寿のエルフでも千年。
いくら魔族がそれだけ生きれても数倍は無理だろう。
ポムポム魔王様がこのまま生きたとしても、魔力量だけでは数倍にはならない。
魔力の多い僕やフィノでも二百年も生きられないのと同じだ。
「もしかしてそこにも邪神の集団の手が入ってたりして」
『……』
「――な~んてことないよね~。……あはは……」
余計なことを言ったか。
この沈黙が凄く痛い。
針の筵というのはこんな感じなんだろう。
「冗談にならないし、本当な気がするから言わないで」
「うん、ごめん」
まあ、今更手が入ってましたとか言われても納得するね。
それに入っててもやることは変わらない。
気を付けるのは操られたり、呪いがどうたらだったりということぐらいだ。
ま、実際に会ってみればわかることだね。
「本当にシュン殿は一言多いですね。これも報告しておきましょう」
「ぐくっ! 備えあれば憂いなしとも言うし、全部を警戒して損はないよ。相手は邪神でも神様だから」
聞いた話ではちょこっと天使みたいだけど。
それから少しして、ダークエルフの族長が到着したという知らせが来た。
「いよいよだね。シュン君じゃないけど、ドキドキしてきた」
ふふ、僕の病気が移ったんだ。
言ってて馬鹿みたいだから言葉には出さないけど――
「シュン君のが移ったんだね」
そう言われるとも分かってたしね。
でも、その笑顔と仕草が可愛いから許しちゃう!
一緒ってのも良いね!
お揃い、ペアルック、相性抜群、お似合い、カップルとかってこれほど良い言葉だったんだ。
前世では考えられない幸せの言葉だ。
「はいはい、初々しく乳繰り合わなくていいですから、シャキッとしなさい」
「「あ、はい」」
サテラさんに怒られちゃった。
あの一件で狼男は何故か僕の舎弟みたいに『アニキ!』と呼んでくるようになったし、反対していた魔族も今では騎士達と酒盛りしている。
今はしてないけどね。
本当に魔族は力や実力に素直なんだろう。
人族だったら強いから殺すってのが先に来る。
話してなかったけど僕も何度か暗殺者に狙われてたしね。
最近は恩恵があり過ぎて和気藹々としてるけど。
研究所に見学に来てお土産を持って帰る貴族が多いの。
感想とか聞けるから有難いけど。
「お二人はどこでもいつも通りですね。まあ、俺達からすると気楽でいいので構いませんが」
騎士達が何か頷いてるけど納得いかない!
「魔王軍治安部隊総隊長兼ダークエルフ族族長ディネルース・シンシルー様が到着されました」
と、もやもやとして睨んでると扉が開いて、肌が黒い――というより暗めの褐色の肌って感じのエルフが入ってきた。
第一印象は女性だ、だ。
エルフ族の族長も女性だったけど、エルフは確かに女性が多くてもしかすると女性の方が地位が高い?
あ、でも、女性の方が精神的に強くて長生きするとかデータが出てたっけ。
あ、エルフは基本的に緑色の瞳に明るい髪。
髪の色は属性で変わったりもするからあれだけど、火魔法に対してはそこまで得意ってわけじゃない。
だから赤い髪のエルフってのはいない。
でも目の前のダークエルフはオレンジに近い髪で赤い瞳。
ボンキュッボンでサテラさんみたいなんだけど、目は鋭くて、敵意じゃないけど拒絶する空気が凄い。
排他的って感じが凄くする。
今思えばアルヴィンの排他的に少し似ている。
今では料理に舌鼓を打ち、子供エルフ達と精霊に遊ばれているけど。
本人はいたって真面目に遊んでやっているみたいだけど、子供達の方が遊んであげてる気がする。
子供達によく何かないか訊かれてたりしたし。
「魔王陛下、遅れてしまい申し訳ありません」
「いえ、時間はまだですからいいですよ。それと私は置き物ですから、気にせず話をしてください」
「そ、それは……分かりました」
何と言う……流石ポムポム魔王様って感じだ。
有無を言わせないとかじゃなくて、お願いするね、という強制力がある。
というより魔族全体が多少ルーズみたいな感じで、魔王の言うことは大概従う。
ポムポム魔王様の性格もあれだし、皆慣れてるんだろうね。
二百年も従えば慣れるというものかもしれないけど。
魔族は種族の長とかはあっても、貴族制度とかは無くて実力順だからね。
その辺も拘束力に従うんだと思う。
力による拘束力や強制力は高いけど、お願い的な拘束力は判断が個人に任せられるんだろう。
ポムポムちゃんという呼称もそうだし。
「人族の方々も待たせたようだ。私はディネルース・シンシルーという。数年前に族長に選ばれた若造だが、貴殿達の二十倍は生きている。一応魔王軍治安部隊総隊長ということで、この辺りの治安を守っている。警邏といった方が分かりやすいかもしれない」
ディネルースさん。
ぶっきらぼうな口調だけど、僕達を相手に高圧的なようなことはない。
自然って感じだ。
まあ、貴族と一緒で頭を下げるとかは示しがつかないだろうしね。
一応背後にお供のダークエルフもいるし、そっちの方が睨んできてる。
特にゴルドニアさんを。
「僕はシュンと言います。こちらがフィノリア様です。僕達もポムポム魔王様と同じく壁の柄だとでも思ってください」
と言ったら少し笑われた。
「ふ、シュン殿にフィノリア殿だな。先日の件は聞いた。少々いざこざが起きてパーティーに出席できなかったことをここに詫びる」
背後のダークエルフが何か言いたそうだけど、言い含められているのだろう。
「ダークエルフ族としては他種族との協力はやぶさかではない。魔王陛下のおかげで争わなくても良くなったのでな。恨み辛みはないとは言えないが、今の人族に言っても仕方がない。総意となったのだ」
ああ、だからあれだけ聞きわけが良い、もとい協力がスムーズにいったのか。
普通狼男みたいに突っかかって来るなり、相手が大戦を知らないとはいえ難いことは分からないんだ。
何かしら鋭い眼とかになるはずだもん。
それが少なかったってのはそういうことなんだよ。
「何か、ありがとうございます?」
「シュン君(殿)……」
「ふ、貴殿は面白いな」
あ、あれぇ?
今のは嫌味じゃないからお礼を言ってよかったんだと思うんだけど。
それに良く言う、『謝るより感謝しろ』だったっけ?
「お互いに話が進まないでしょうから、進行――この場合仲介役として私が間に入りますわ。お互いに言いたいことが山の様にあると思います。今この場で言いたいことを言ってください」
サテラさんがそう言って椅子に座り直す。
後は任せるってことだね。
僕達も頷き合って、『もしも』が起きない限り聞き役、置き物に徹する。
で、待つこと十数分。
お互いに睨むというか、少し鋭い眼で見つめ合って一言も話さない。
僕としてはこういう雰囲気は苦手でそわそわしちゃうんだ。
フィノに偶に足を叩かれたりして謝ることを何度か繰り返してる。
置き物に徹せない僕って……。
「――儂の名はゴルドニア。採取地区の長をしておるゴルドニア・ボーウォンじゃ」
と思っていたら、ゴルドニアさんが唐突に口を開いて自己紹介をした。
今思えばしてなかった。
「ふん、知っている。私が最初に経験した戦争で見たことがあるからな。まあ、その時は後衛で援護していただけだが、お前には手を焼かれた。何人やられたことか」
棘が含まれてる。
でも、ゴルドニアさんは反応しない。
あの時と同じ人とは思えないほど冷静で、我慢強い。
人は変わるもんだねぇ。
僕もだいぶ変わったけどさ。
「儂らの方もそれは同じじゃ。じゃからそれに関しては謝りもせんし、怒りもせん」
「そうだろうな。戦争だから仕方ない。恨み辛みは他種族よりも強いが、いまさらと言うのもある」
二百年というのはエルフ族でも一生の五分の一だからね。
今更ってのもあってるのかもしれない。
「だが、それを流すことは無理だ。人族との友好は魔王陛下が決められ、シュン殿が実力を示したという。そうとなればダークエルフ族としては従うしかない。元々人族に対して何かあるということもないのでな」
そうではないんだろうけど、ダークエルフ族も今のままではダメってのが何となくわかってるんだろう。
ディネルースさんは粗暴そうに見えて理知的な人みたいだし、話せばわかる人のようだ。
「分かっておる。じゃから、儂がこの場に来たんじゃ。本当なら族長のフレデリアが来るべきだったのじゃろうが、生憎もう歳であり、精霊や世界樹等の関係から外に出ることが出来なかった」
精霊や世界樹という言葉に反応する背後の人。
確かに精霊はあの地でしかほとんど見ない。
あれから僕も精霊と何かできないか探したことがあるんだ。
まあ、遊ぶ以外何も出来なかったけど、清い場所じゃないと無理みたいだね。
「ふん! 早く譲らないからそうなる。次期族長はどうした?」
「次期族長は加護を受けしアリアリスに決まった」
『ア、アリアリス!? 電雷の悪魔……かッ!』
あ、久しぶりに敵側の二つ名を聞いた。
最初で最後に聞いたのはロンジスタさんとの会話だ。
普通に雷光の魔女の方が広がってたしね。
「そうじゃ。あ奴が外に出奔したままだったのでな、つい先日弟子と共に帰ってきたところに受け渡しを約束させたんじゃ」
「弟子? あのアリアリスが弟子を取ったのか?」
ディネルースさんは師匠を知ってるみたいだね。
まあ、大戦を経験したというし、師匠と同い年くらいだもんね。
丁度お互いに争ったりしたんじゃないだろうか。
もしかすると師匠は大戦で暴れてたかもしれないけど。
相当強かったみたいだし。
何せ雷の雨が降るし、目に捉えられないスピードで走るからね。
速度は未だに師匠の方が上だ。
「うむ。そこに居るシュンがアリアリスの弟子じゃ」
「そうか、それなら納得だ」
まあ、神様の恩恵も関わってるんだけどね。
「初めて聞きましたが納得です。私は面識がありませんが、凄かったと聞きます。シュンさんはびっくり箱ですね」
「そうですよ、魔王様。シュン君は奇術師という二つ名があります。使う魔法はどれも技術が高くて、幻想的なんです。初めて見た魔法なんて――」
「へぇ~、やっぱり技術は上ですね。氷の造形は出来ますが、水や炎の造形は難しいですね」
不定形であるのは造形は難しい。
生徒には土魔法が良いと言ったし、氷も土と一緒で造形しやすいからね。
「そのアリアリスは現在エルフ族の架け橋としての役目を担ってもらっておる。それにお前さんがと言うわけではないのじゃが、過去の後始末は過去の者が始末をつけるべきじゃ。新時代となる今、新たな者に責任を押し付けるのはどうかと思ったわけじゃ」
「ふん、分からんでもない。一人で来たのもその誠意のつもりなんだろう。熟練の兵士の様子を見ればお前がどれだけのものか分かる」
確かに背後の兵士は少し緊張しているようにも見える。
がちがちの緊張じゃなくて、神経を尖らせて一挙手一投足に気を配ってるって感じだ。
「そうであるなら、私が来るべきではなかったか……」
「ディネルース様!」
「黙れ」
そう言うけど、ディネルースさんに任されたってことはそういうことだと思っていいんじゃないのかな?
まあ、僕にはよく分からないことなんだけどね。
「普通ならそうかもね」
「普通じゃなかったら?」
「う~ん、まだディネルースさんがどういった人なのか分からないの。だから、もしかすると何か言い含められているのかもしれないってこと」
考え過ぎ……ってことはないんだろう。
戦いの裏をかくとかは僕は出来るけど、弁論とかで裏をかくとかできないからね。
僕の場合ありそうだと思うものはあり得ると思っておいた方が良いんだろう。
ない方が良いに決まってるけどね。
「ふむ……」
「族長。差し出口ですが、ここは目的を聞くのが宜しいかと」
「目的と言うより、内容だな」
「ええ。それが分からなければ、この話し合いは先に進みません」
確かにね。
ディネルースさんは少し顎に手を当てて考えると、ゴルドニアさんに視線を向けた。
「ということだ。単刀直入に聞く、エルフ族は何のためにこの場を開いた? そして、我々ダークエルフ族に何を言いに来た?」
仲直りの為と謝罪と協力みたいな感じだけど――
「易々はいかないね」
「それは?」
「だって、子供の喧嘩じゃないんだから謝って済む問題じゃないよ。もしそうなら既に決着がついてるよ」
ということだ。
……うん、僕はそれで済むと思ってた。
「もう少しシュン君も考えないとね。まあ、そこが良い所だけど」
「フィノがいなかったら大変だっただろうね。ありがとう」
「お二人ともお静かに」
レオンシオ団長に注意されちゃった。
「そうじゃな」
僕達への同意じゃないよ?
「儂達エルフ族は今回の魔族との友好会談の話を聞き、この場を設けようと思った」
「それは分かる。その内容は? ただ謝罪しに来ただけではあるまい」
それにゴルドニアさんは無言で頷く。
「エルフ族全てがと言うわけではないが、ダークエルフ族の帰還を視野に入れておる。勿論それは当たり前のことじゃ。謝罪にはならん」
「だろうな」
ダークエルフ族も元はエルフ族だから世界樹とかが恋しくなるんだろう。
それで何度もエルフ族に攻めてたんだろうし、敵対する魔族側に加勢してたんだろう。
「詳しいことはまだエルフ族全体でも出ておらん。じゃが、今はそんなことを言っておる場合ではないのじゃ。魔族と人族が手を取った、それが何よりもの証拠」
「確かに。長年争っていた二つの種族が少なくとも不可侵にはなるだろう。その隣で亀裂を入れかねない我々を快くは思わんだろうな」
よく分からなくなってきたけど、兎に角お互いに争うのが拙いってことは分かってるんだよね。
「謝罪はする。何に対してと言われても、儂には……儂等にはそれしか出来ん」
「謝罪で済むものかッ!」
頭を下げたゴルドニアさんの言葉が癇に障ったのか、兵士が剣に手を伸ばし一歩踏み出す。
危ない、と思ったけど、すぐにディネルースさんが止めた。
「止せ」
「し、しかし!」
「私は止せと言った。この場は私に任されている」
「くっ! ……やはりエルフ族は傲慢だ」
その兵士はそう聞こえるように呟いてそっぽを向いた。
会談中に行うような態度ではないけど、それだけ怒りがあるってことだ。
僕達には想像もできない深い溝がね。
「勿論謝罪だけではない。時間はかかるじゃろうが世界樹への帰還、精霊との触れ合い、シュン殿の協力で遠方会議も出来る。フレデリア様、騒ぎが収まればアリアリスとなるが、了承済みじゃ」
「当たり前だッ! お前達が俺達の祖先を追い出したからこうなっているんだ! それだけで謝罪したつもりかッ!」
「止さないかッ! お前の行動はダークエルフ族の品格も損なわれているのだぞッ!」
第三者の僕達がいるからね。
ディネルースさんの印象が強いからそこまでじゃないけど、確かにエルフ族と見比べちゃう。
そして、ゴルドニアさんはその様子に怒ることもなく、臆するなんてこともなく、じっと見つめていた。
横目からだから分かり難いけど、とても悲しそうで、申し訳なさがいっぱいに見える。
怒りもあるんだろうけど、そんなことをしている場合じゃないって感じが強いんだろう。
「儂の様なおいぼれの首ならいくらでも差し出す」
「なっ!? 貴様、何を言っている!」
「お主が何に対してそこまで怒りをぶつけるのか儂が思い付くのは憎しみじゃ。肉親、恋人、その類を儂が殺したのじゃろう」
「知ったような口を……!」
止めたいけど、フィノに手で制される。
「壁なんでしょ? ゴルドニアさんを信じてあげないと」
「シュンさん、私達が口出しをしてはいけない場面です」
二人から言われたら引き下がるしかない。
僕もダメにしたくないんだから。
「じゃが、子供達には何ら罪はない。特に大戦を知らん子供達にはな」
憤っていた兵士もその言葉には同感なのか怒りを少し収める。
「老い先短い儂、と言っても百年は生きるが、これからの良き未来と将来の宝である子供達にその責務を負わせることは出来ん」
「……そうだな。私が若くして族長に就いたのもそういった理由がある」
「それにこれからは発展する。少し王国を見せてもらったが、想像以上に知らない物が多すぎた」
浦島効果的な?
その辺りが長寿のデメリットかも。
長寿と言うより閉鎖的な、かな。
「仲良くしてほしいとは言わん。せめて事が終わるまでの一時的な協力、若しくはお互いに不可侵条約を結びたい」
「そして、その間に私とアリアリスが話し合い少しずつ仲を良くしていく、ということだな?」
「うむ。エルフもダークエルフも長寿じゃからな。その辺りのことは百年単位で出来る」
人族だったら百年も経てば歴史がこんがらがってたりする時があるからね。
王様も三回ぐらい変わるかもしれないし、人が変われば条約も変わったりする。
でも、二つの種族は長寿であるから代表がヘマをしない限り大丈夫で、長い年月をかけて修復が行えるってことか。
「エルフ族は王国――シュリアル王国と条約を結び、子供達のために社会見学をさせておる」
「ほう」
「幸い王国はエルフを攫う者は少なく、シュン殿の影響か技術革新が大きく人手不足で盗賊の類も減ったと聞く。危険なのはどの場所でも同じじゃが、隠れ住んで差が出来取り返しがつかなくなるわけにはいかん」
へぇ~、僕の影響というのは納得できないけど、そんなことになってたのか。
日本とまではいわないけど、治安が良くなってほしいものだ。
「そんなこと言って、どうせ世界樹に近寄らせないための方便だろ……」
これ、態とやってるのかな?
それともダークエルフ族にも地区長みたいなのがいて、反対派の地区長が兵士に仕込んだみたいな。
「それはあり得るかもね」
フィノもそうだというのだから信憑性が上がるね。
まあ、世界樹に近寄らせないのならそんな回りくどい事しなくていいと思うけど。
ここから距離があるんだから無視すればいいだけだもん。
空飛んできても浮かんでるんだから撃ち落とせばいい。
しないけどね。
「世界樹って何なんだろうね」
と、呟いたのが皆に聞こえていたようで、説明してくれた。
フィノに溜め息を吐かれて少し恥ずかしい。
「世界樹と言うのは大きく清く、精霊が集うだけの樹木ではないのじゃ。エルフ族の精神を安らげ、名前の通り世界に関わる大切な樹じゃ」
「別名生命の樹とも呼ばれ、世界樹はこの世界に住む全ての者のエネルギーとなっている。恐らく無くなれば世界が枯渇し、魔物が活性化し、災害が起きやすくなるだろう」
「調和しているようなものですか」
皆が頷いてそうだという。
はー……そんな大切な樹だったんだぁ。
聞きかじった程度だけど武器とかにしたら~、と思った過去の僕を殴り飛ばしたい。
「世界樹は一本しかないんですか?」
「ないんじゃないの?」
「でも、一本で何百倍もある世界を支えられるの?」
「あ、確かに」
というより世界樹も気なんだからどっかに生やすとかできるんじゃないのかな?
植林は無理だとしても、ちょっと生命を司るロトルさんにお願いしたら一本ぐらい……無理かな?
ことが終わったら空飛んで世界一周とかしてみようかな。
幻獣にも会いに行きたいし、こう言うのって世界の反対側に同じ樹が合ったりするよね。
「流石にそこまでは考え付かんかった。世界の樹じゃから世界に一本じゃと……」
「青天の霹靂だな。だが、考慮してみるのもいいかもしれん」
「族長。ですが、そのような話聞いたことがありません」
ま、そうだろうね。
「私もそう思う。それに何百年とかかる気がする」
「それでは意味が成しません」
「やはり世界樹への帰還と言うのは方便」
またあの兵士が何か言うけど、ディネルースさんは睨むだけで無視した。
こっちの兵士は味方と考えていいのかも。
そして、ディネルースさんは腕を組んで目を瞑り、何か考えるというか待つような雰囲気でいる。
同調を使えば考えていることもわかるけど、流石にそれはやってはいけないことだ。
僕自身あれを好き好んで使いたいとは思わない。
あ、でも、フィノにだったら……でも、僕の気持ちも……でも、それは……。
「何考えてるの? まさか、あれ使ってないよね?」
「う? そんなことないよ?」
「そう? あれは悪人以外には使っちゃダメだよ」
「分かってるよ。僕も人の心を覗いていい気持じゃないからね」
そんな趣味はないもん。
てか、フィノ鋭すぎるよ!
いや、今のは僕の顔以前に変なこと考えててくねくねしてたかも。
キモいから止めとこ。
それにしても動きが無い。
「……らしいです」
と思ったらいきなり完結したような、報告の言葉を口にした。
次の瞬間、ディネルースさんの背後の空間が急に歪み出し、ダークエルフ達が頭を下げだす。
へ? 何事?
あれは……時空……いや、空間魔法!?
「待つんじゃ」
「どういう――」
慌てて対処しようとした僕をゴルドニアさんが止める。
「ふ、貴様には気づかれていたようだな」
すると、その空間から老人の声が聞こえ、数人の人影が現れた。
僕のような瞬間移動やテレポートじゃなく、次元を飛び越えてきたといった感じだ。
光魔法で姿を隠していたというのはない。
それならいくら巧妙に隠しても気付けるはずだもん。
「そちらの小童はまだまだ魔法の神髄を知らぬようだな。技術はあるようだが、方向性が偏っておる。私が覗いていたことに気付いていまい?」
覗いてた?
……ああ、そういうことか。
「空間に穴を空けて見ていたと?」
「ふっ、そういうことだ。発想自体は良いが、もう少し実用性の面でも視野を広げるんだな」
はー、そう言われれば納得だよ。
技術というか面白い魔法に関してはいろいろとやってきたけど、戦闘面を有利にする魔法はあまり作ってなかった。
どこか魔力を多く使えばいいと思ってたんだろう。
これを教訓にしないといけないな。
「って、ダークエルフ族も年を取ると小さくなるんだね」
「うん、私も初めて知ったよ」
声からしてお爺ちゃんって感じなんだけど、とても紳士的な感じだった。
だけど、空間から現れたのはゴルドニアさんと同じくらいの背丈の老人ダークエルフだった。
ふと、師匠も年を取れば小さくなるのかと思うと、違和感しか覚えない。
誰かはわからないけど、ディネルースさんが敬う感じだから、前族長といった感じかな。
あと背後にいるのは地区長みたいなダークエルフだろうね。
年齢に差があるのはエルフ族も同じだった。
少し観察するとゴルドニアさんを含めた僕達に鋭い目を向けている人がいる。
多分その人達があの兵士の上役的なんだろう。
「魔王陛下、覗くような真似をし、申し訳ありません。が、これも二つの種族の仲を考えれば納得していただきたく思います」
「公式じゃないからいいと思いますよ。まあ、気分の良い物ではないですけど」
「以後気を付けます」
僕も気を付けておこう。
覗き穴に気付けなかったのは技術もあるけど、魔力反応がディネルースさんと重なってたからだろう。
あと、僕が少し油断してたのもある。
まさか、空間魔法を使える人がいるとは思わなかったもん。
「久しいな、ゴルドニア」
「うむ。実に二百年じゃな」
握手とかすることはない。
ただ、二人で見合って短く言葉を交わしただけ。
「初めての者もいる様で、始めに挨拶をさせて頂こう。私はダークエルフ族前族長ディルトレイ・シンシルー。そこにおるディネルースの祖父だ」
そう言われればどこか似ている。
「早速で悪いのじゃが、話を聞いていたのじゃろう? お主が出てきたということはそう思っていいのじゃろうか?」
「そう急かすな。私が出た所でお互いの憎しみは消えん」
ディネルースさんに似ている。
理知的って感じだ。
「さて、エルフ族は私達ダークエルフ族に魔族と他種族の交友に乗じて今までの関係をやり直そうと持ち掛けてきた」
ゴルドニアさんが頷く。
「条件としては世界樹への帰還、即ち領地の譲渡と考えていいのだな?」
「うむ、いきなりは無理じゃろうから少し森を開発する。現在そのための準備をしておる」
どういうこと?
教えて、フィノさ~ん!
「えっとね、世界樹に帰還できるだけだと日帰りになっちゃう。ディルトレイさんの様に空間魔法が使えるのなら別だけど、それなら意味ないよね?」
「なるほど。それで話し合いもするってことか」
「そういうこと」
流石フィノだね。
レオンシオ団長達が何か言いたそうだけど知らん!
人には適材適所ってものがあるんだ。
僕は当然最前線で戦ってる人か、誰かを守ってる人で命令する立場にはいないね。
貴族の責務?
知らない、と言いたいけど誰かに任せよう。
「次に会議だが、これは第三者も混ぜて頂く。今回のようなやり方で構わない」
「当然じゃろう。周りも気になるじゃろうしな」
魔道具の調整もしないといけないだろうし、どっちみち第三者はいると思う。
「そして謝罪だが、別にお前の首はいらん。ここで殺せばダークエルフの品格にもかかわる。まあ、それも考えていたのだろうが」
ゴルドニアさんは頷きもしない。
僕は初めて知ったけど、それならすとんと納得できる。
「では、エルフに何を求めるのじゃ? 追い出したのはこちらじゃ。帰還だけでは釣り合わんじゃろう」
「謝罪など不要だ」
『族長!』
まさかの発言、といった感じだ。
僕達も驚いているからね。
「何を驚く? 確かにエルフ族は憎い。だが、私達が憎いのは何故だ? 世界樹から追い出されたからか? それは違うだろ。世界樹が恋しいのは分かるが、私達はゴルドニア達に追い出されたわけではない。そもそも私達は、追い出されていない」
「お爺様の言う通り、私達の故郷は魔大陸。仲間を殺された、という憎しみや怒りを世界樹を追い出した過去の理由でエルフ族にぶつけているだけだ」
急展開だ。
二人と地区長半分くらいはこの話し合いに賛成といった感じなんだろう。
残りが反対ってところだね。
「ですが、相手はエルフ! 祖先を追い出した憎しみは我らが晴らすのが道理!」
「だから、祖先がどうのと言うべきではない。世界樹へ帰還できるというのにエルフ族達に立て付く気か? お前達はエルフ族を殺し奪い返さなければ気が済まないと言っているのだな?」
「言っていない! なぜそうなるのです!?」
「いやいや、エルフ族は話し合いを続け少しずつ関係を良好にしたい。どのような思いがあれ、世界樹の帰還と領土に関しては約束すると言っている。それなのに拒否するというのはそうであろう。それとも何か? 世界樹はいらぬ、と?」
「くっ……!」
何か凄い。
頭が良いというのはこういうことを言うんだろう。
僕には無理だ。
「だから言っておるのだ。過去の憎しみは忘れ、ダークエルフ族の未来、ゴルドニアの言葉を借りるなら、宝である子が豊かに暮らすにはどの選択を取るべきか。それだけを今は考えるべきだ」
完封だね。
「付け足すなら、今エルフ族と争えば魔族や人族とも敵対するだろう。それと私達の内部分裂もあり得る。シュン殿は魔王陛下に匹敵する実力者だぞ? 聞けば、エルフ族はその恩恵を受け始めたとか」
「ふむ。今のダークエルフ族は劣勢ということだな」
まるで打ち合わせをしたかのような呼吸の合いようだ。
い、いや、僕とフィノの方があってるし!
「そういうのじゃないからね」
……。
「そういうことだ。一応、私達は魔族の一員。魔王陛下が決められたことに逆らうことはない。これを機にエルフ族とまずは不可侵条約を結ぶこととする」
「その後は私が族長として、エルフ族の族長と話し合う。手始めは近い未来に来るという邪神の集団への対処だ」
「それで構わん。お主が出てこなかったことに驚いておったが、何はともあれ助かった」
ゴルドニアさんはいろいろと打算もあったんだね。
まあ、敵だったとしても仇敵とかでなければ、ライバル的な感じで話せたかもしれないからね。
「ふん、お前が珍しく大人しかったからこちらも誠意を見せたまでのこと。私達の品格に関わるのだからな」
「すまんな」
こ、これはまさしく――
「ツンデレ、という奴ですね。しかも爺のツンデレのどこに需要があるんだよ! ですよ」
「な、なぜそれを……! あ、勇者か」
こっちは何か変な感じになったけど、エルフ族とダークエルフ族の話し合いが上手くいって良かった。
と思ったけど、ダークエルフ族内部では少し分裂があるみたいだ。
関係ないとは言えないから、少しだけ目を見張っておこうかな。
師匠にもそれとなく伝えておこう。
あとはドヴェルクとの話し合いだ。
そっちはそっちで大変そうだけど、上手くできるかどうか。
とりあえず頑張ってみよう!




