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一触即発

最近自分で何かいているのか悩むときがあります。

これもスランプ的な物なのでしょうか?

キャラの性格とか会話とか行動とかブレブレな様な気がします。(元から)

自分との戦いなのか知りませんが、確実に自分の中の怠惰やらやるせなさやらと戦っています。

出来ないというもどかしさはなんにでもあるものですね。

 魔王城。


 文献によれば魔族の王『魔王』が住む居城であり、この世のものとは思えない物があるようなことが書かれていた。

 それは魔族であったり、拷問器具であったり、趣向の違う兵器であったり、将又城自体が魔物である場合もあった。


 それ、どこの魔界? と思わなくもなかった。


 僕が文献を読んでまず思ったのはそれだ。

 どう考えても人が住む場所じゃない。


 中には黒を基調にしたひんやりと背筋の凍る、魔を象徴とする悪の巣というのもあった。

 それは僕も想像しやすい感じだし、魔王のイメージとしてはあっている。

 例えば上空は黒い雲と雷が轟き、周りの植物は全て魔物、城の中も魔物や魔族が徘徊し、侵入者妨害の罠もあるってね。


 これが前に言った魔族に対する偏見と見たことが無い物への想像力(恐怖)なんだろう。


 はっきり言うと普通の人間が魔大陸へ来たのはこれが初めてで、エルフ族のゴルドニアさんでさえ来たことがなかったらしい。

 まあ、距離を考えれば普通のことだ。

 船なんて恰好の的になるしね。


 過去何度か転移魔法や風魔法で言ったことはあるらしく、過去の勇者は現に魔大陸に渡っている。



 で、結局何が言いたいかというと、思いこみとか偏見はいけないねってこと。


「ようこそお越しくださいました。私が現魔王のポムポム・チャンです。気軽にポムポムちゃんと呼んでください」

「これはご丁寧に。僕がシュンです」

「シュンさん、とお呼びしますね。シュンさんのおかげでいろいろと助かりました。そちらの女の子はシュンさんのコレですね?」


 ちょっ!?

 それ魔族の間で流行してんの!?

 あのバリアルにもそれやられたんだけど!


「魔王陛下、お客人の前ですわ」


 と、窘めるのは夢魔族のサテラさん。

 ポムポム魔王様の護衛騎士のような存在らしい。

 レオンシオ団長と同じってこと。


 見た目はやっぱり派手で妖艶さが漂う女性って感じ。

 きつくないピンクの髪に、黒を基調にした露出の高い服? ね。

 フィノに抓られるから目を向けないようにしてる。


 例の騎士は鼻の下を伸ばして殴られてたけど。

 元々そんな騎士なんだろう。



 今謁見というか、バリアルと共に魔王城へと来ていた。

 で、謁見は玉座の間ではなく、大きな広間というべきか会場の様な場所。

 そこにいろんな種族の魔族が集まっているわけで、妙な威圧感を感じる。


 で、何度も言うけど偏見はダメ。


 城は普通に白い壁と赤く明るい屋根。

 土地柄か壁に蔦とかついてるけど、それはそれで古めかしい感じがしていい。

 廊下も罅割れているとかなく、床や柱は大理石、天井はドワーフ、こっちで言うならドヴェルクの技術細工が凄く、窓は全部ガラスだ。


 ここも赤い絨毯が敷かれ目の前には料理が置かれたテーブルが山の様にある。

 勿論見たことが無い物ばかりで、丸焼き系が多い所を見ると技術はそこまでないようだけど味に関しては凄そうだ。

 香ばしい匂い肉やグツグツとしつつも冷たいデザート、ハンバーグの様な物に添えられたサラダ、白くこんがりと焼かれた菓子パンとかたくさんだ。


 魔族も一つ目巨人やセイレーン、狼男や吸血鬼、ガーゴイルとかハーピーとかもいる。

 異形が多いけど獣人族に似ている種族と思えばそこまでではない。


「はい、私はシュン君の婚約者のフィノリアです。フィノとお呼び下さい。でも、シュン君は魔王様でも上げられません」


 何言ってんだよ、フィノ。


 確かにポムポム魔王様は可愛いと思う。

 薄水色の髪はお団子で、ポムポムしてると失礼ながら思った。

 雰囲気も優しく穏やかで、妖精族だからかさっきみたいにちょっとお茶目な所もあって、服装は魔族はバラバラだけどゴスロリが似合っている。

 サテラさんが過激だから余計に似合っているように見える。


 感覚的に仮装パーティーのような感じなんだよね。

 ハロウィンとかさ。

 ボクだけ正しくそんな感じ。

 この気持ちを分かってくれないのは悲しいかもな。

 仮装パーティーでもノール学園長に提案するかな?

 きっとノリノリでやってくれるはずだ。

 クロスさんも呼んだりしてね。

 好きそうだし。


「あらあら、振られちゃいました」


 いやいや。


「魔王様なら――」

「ポムポムちゃんです」

「うぇ?」

「ポムポムちゃんと呼んでくださいと言いました。そちらの婚約者さんも」


 僕とフィノは二人揃って困惑する。

 きっと頬が引き攣っていることだろう。

 周りの魔族の人も苦笑を浮かべ、先ほどまでの剣呑さが取れた。

 まさか、これが目的で?


「いえ、本心です」


 心が読まれたし!

 いや、顔に出てるんだろう。

 何度も言われたから。


「はぁ~。お客人様、申し訳ありませんが呼んであげてくださいな。我々では恐ろしくてできませんの」


 サテラさん、そうやって笑みを作っても、それ僕達もだからね。

 まあ、魔族の皆が良いというのならいいけどさ。


「サテラ、恐ろしいとは何ですか? こんなにも愛らしいというのに」

「はい、魔王陛下は大変可愛らしいと思いますわ。皆も一緒でしょう?」


 サテラさんの言葉に魔族全員が頷く。


「ですが、我々は臣下ですわ。臣下が主にちゃん付けというのはどうかと」


 副音声で言いたくないというのが何となくわかる。

 そして、僕達に押し付けようというのも。

 悪気はないのは分かる。

 僕達の歳だったらちゃん付けでもおかしくないだろうし、魔族と敵対していた人族だからね。


「シュンさん、フィノさん、皆薄情だと思いません? 私なりに仲良くしようと思っているのに」


 僕達が皆とやらに目を向ければ逸らされた。

 二度見をしてもサッと逸らされる。


 何なんだろうね。

 君達僕らが憎いとかあったんじゃないの?


「はぁ、分かりました。ポムポムちゃん」


 そこ!

 驚かない!


「嬉しいですね。そのまま広がっていけばいいのですが」

「魔王陛下、お戯れはそのぐらいで。お客人も公の場では魔王様、又は陛下でよろしくお願いしまわ」

「分かっています」


 それぐらいは考えなくてもわかる。

 まあ、理由は恰好付かないというのもあるんだろうけど。

 でも、あからさまに安堵の息を吐くのはどうなのだろうか。


「この場は公ですけど、腹を割って話す社交の場でもありますわ。歴史に残る友好の瞬間にしたいと思います」


 以外に魔族は友好的だ。

 ちらりと見れば騎士達も怯えてるけど、そこまでではない。


 実際に僕達は魔族の所業を見たわけじゃないからね。

 自分の想像とその見た目に負けてるってところかな?


 それと以外に夢魔族の女性やピクシーとか、セイレーンや人魚の歌とかで和気藹々としているところもある。


「不思議そうですわね」


 顔に出ていたのか。


「シュン君……」

「え、あ、や……仕方ないじゃん」


 フィノに呆れられてしまった。

 ちょっとショックだ。


「ふふふ、仲が良い事で何よりですわ」

「シュン君は私の物。私もシュン君の物。仲が良い事のは当然です」


 尊敬する。

 まあ、フィノもちょっと緊張してるんだろう。

 いつも以上に僕にくっ付いてるしね。


 僕はそこまでじゃないかな。

 楽観視してるとかじゃなくて、悪意はそこまで感じないってところだね。


「この場の魔族は全員魔王陛下に忠誠を誓う者達。その考えに賛同した者達ですわ」

「というと、バリアルとかみたいに国の発展とかってことですよね?」

「ええ、貴方のことはバリアルから聞いていますわ。おかげで治安も良くなりましたし、生活も豊かになってきています」


 そう言って屈んでお辞儀をする。

 でも、谷間が見えそうになって僕の目はフィノに隠される。


 信用無いのかなぁ。

 でも、男だから仕方ない。


「シュンさんにはいろいろと聞きたいことがあります。あのバリアルと引き分けたことや外のことなどですよ」


 ざわざわとし始めた所を見ると、バリアルの件はあまり信じられていなかったのかな?


「まあ、あのバリアルが嘘を付くとは思えません。シュンさんを見たわけではありませんし」

「まあ、確かに」

「バリアルは魔族の中でも一目置かれ、魔王陛下の次に強いと言われる方ですわ。魔剣も折れていましたし、傷だらけだったのは噂が広がりましたのよ?」


 そんなこともあったなぁ。

 僕も満身創痍だったし、師匠がいなかったら死んでたはずだ。

 もう二度とあんな死闘は繰り広げたくないね。


 まあ、終わらせるために一度はしないといけないと思うけど。


「そうだぞ。我も長く生きたが、バリアル殿とやり合える人族は見たことが無い。それも我の百分の一も生きているか分からぬ子供だと尚更だ。――申し遅れたが、我は吸血鬼族の族長スペンサー・D・フェルベナだ。スペンサーと呼ぶが良い」


 燕尾服とかスーツが似合うおじさんって感じの男性だ。

 片手の赤いワインがどうしても血に見えるのは僕だけだろうか。


「スペンサーさんですか。僕はシュンといいます」

「うむ。近寄ればさらに伝わって来る。シュン殿の気迫と身に秘める力がな」


 ニヤリと笑うと少し恐怖がそそられる牙が覗く。

 でも、それは雰囲気からどことなく気品に変わって、吸血鬼が高貴であるとわかる。


 魔力は隠してるんだけどなぁ。

 魔族だから仕方ない所もあるか。

 千年も生きているってことになるし。


「恐らく我も勝てんだろうな」

「スペンサー卿も勝てないのですか?」

「うむ。魔王陛下ならわかると思うが、我の真の攻撃は闇と吸血能力にある。魔法が得意な者には敵わんだろう」


 範囲攻撃なら確実だもんね。

 結界も張れるし。


「シュン君の魔法は一番ですから。私はシュン君以上の魔法使いを見たことがありません」


 買いかぶり過ぎだと思うけどなぁ。

 ポムポム魔王様には勝てないと思うし。

 肌にビンビン来るんだよ。

 まあ、ねっとりとした魔力じゃないから安全だと思うけど。


「ほほう、そこまで凄いのか……。見せてもらいたいものだな」


 これはフラグか?


「だが、力には勝てぬはずだ。力ならバリアルにも負けんからな」


 今度は一つ目巨人がやってきた。

 恰好は一応正装だけど、民族衣装みたいな感じだ。

 豪快に齧り付いている骨付き肉が目立つ。


 その厳つさにフィノの手を強く握り、少しでも安心させる。

 やっぱり見た目からの威圧感で攻められてる気がするんだ。

 大きいしね。


「ボゴイか。だが、魔法使いに力で勝っても嬉しくなかろう。バリアルもあれから修行をしておる。今ではどっこいではないか?」

「そんなわけあるものか。俺もギルドに加入し、日々この拳で魔物を倒しているのだからな。今ではオリハルコン級よぉ」

「その衣装はギルドで得た報酬で買ったものですね?」

「ああ、そうだ。魔王陛下の言う通り、特注で作ってもらった」


 何と言うか、巨人に似合っている服だ。

 同じ服を僕が着てもダメだろうし、作った人は良く分かってる。


「お似合いですね」

「おお、分かってくれるのか」

「ええ、貴方に似合うとても良い服です。素材もそこらでは手に入らない力の誇示も出来そうです」

「良い女子だな! お前が一つ目族だったら嫁に欲しいぐらいだ」


 何!?

 フィノは誰にも渡さん!


「シュン君、私は一つ目族じゃないから」

「あ、うん」

「魔族は略奪愛も多いからな。シュン殿も気を付けねばな」


 何だとッ!

 魔族は敵だ!

 近づいて来る奴全員コテンパンに叩きのめしてくれる!


「フィノは誰にも渡さない!」

「頼もしいけど、やり過ぎはダメ。シュン君が本気出したらこの辺りがなくなっちゃうもの」

「シュンさんは尻に敷かれるタイプですか」

『プッ!』


 笑うなよ!


 くっ、なんだこのアウェー感は!

 魔族はもっと怖い感じじゃないのか?


「尻に敷かれてもいいんです。もしもの時に護るのが男というものですからね」


 断じて負け惜しみではない。

 そう、これはギャップなのだ。

 日頃なよっとしていても、もしもの時はしっかり動く。

 それこそが好きな女の子の心を手放さない秘訣、だと思う。


「分かっているではないか。では、俺と戦ってみるか?」


 む?


 一斉に喧騒が収まった気がする。

 これに勝って魔族との友好にするってやつ?

 でも、ボゴイさんは何か違う気がするんだけど。


「多分、あの人達だと思うよ」

「どれ? ……あー、こっちに向かってきている人ね」


 レオンシオ団長達も僕達の周りにさりげなく集まり、フォロンとツェルもいつでも迎撃できるよう努める。

 この辺りは先に決めておいたことで、バリアルから言われてもいた。


 近づいて来るのは狼男、ゴーレムの様な魔族、見た感じ悪魔の様な魔族、蜘蛛女、ドヴェルクとかだ。

 他にも剣呑さのある魔族が多く、魔王派の魔族も少しだけ目が鋭くなった。


 先ほどまでの華やかで和気藹々さが嘘のようだ。


「シュン君」

「大丈夫だよ。今度怖くない話をしてあげる」


 キョトンとされるけど、多分ハロウィンの様な仮装パーティーをしてれば大丈夫だろう。

 あれだ。

 前に言ったお客さんは南瓜とか野菜と同じってやつ。


 魔族なんて言い伝えでしか知らないんだから、実際に会って慣れてしまえばどうってことはない。

 現に竜魔族とは仲良くなってるし、ポムポム魔王様はあんな感じだ。

 一度触れ合ってみれば一つの種族だと見れるだろうね。


 僕は庇うように一歩踏み出す。


 ふと頭の中に一年と半年前にギルドで登録した時のことを思い出した。

 あの時も生意気的なとか、ターニャさんがどうとかね。

 今思い出すと懐かしく、感情的だったと思う。


「ボゴイさん、あんたが出るまでもないですよ。俺が代わりにやってやります」


 第一声は狼男だ。

 獣人に近いとしたら相手の魔力が読めなくてもおかしくない。

 獣人族は魔力が少ないからね。


「ほう。お前はシュンに勝てるというか」

「相手は人族ですぜ? 大戦時に多く死んだ奴等じゃないですか」


 ムッとなるけど、僕は軽く手を上げてレオンシオ団長達を止める。

 僕自身は笑みを絶やさずに浮かべ、出来る限り感情を読ませないようにする。

 これしかない。


「確か獣魔族の次期族長のギュンター殿だったな」

「知っておられたので? スペンサー卿に覚えられ光栄です」

「ふん、我は高貴なる吸血鬼族。社交に出る者の名は覚えるようにしておるだけだ」


 ボソッと悪名が轟いておるからな、と聞こえたのは空耳だろうか。

 や、見た目からそう見えるけどさ。

 もしかしたらヤンキーと捨てられた子猫みたいなものかもしれないじゃん。


「俺も、参加する。岩魔族(ゴーレム)、弱き者につかない」


 それは分かりやすくて良い。


「ふふふ、まだ子供じゃない。でも、子供もまた……良いのよぅ」


 ぞくぞくっとする。

 それはフィノも一緒のようで掴んでいる服の手に力が入ったのが分かった。


「お前の武器を見せろ! それはドワーフの作品だろう!」


 あ、貴方達はそっちなんだ。

 見た目はドワーフで色が黒い以外一緒。

 性格も自由人だね、これは。


 これは後で話し合いが必要だな。


「貴方達、ここは社交の場ですわ。いきなり喧嘩を売ってどういうつもりですの?」

「これはサテラ様、今日もお美しくあられようで。このギュンター、永遠の花嫁としてお誘いしたいぐらいですぞ」

「ふふふ、私を誘うのは千年は早いわ。そんなことよりも、大事な客人、それも魔王陛下のご友人に喧嘩を売るとはどういうつもりでしょうか?」


 一触即発。

 まさにその言葉通り魔族の間でも火花が散る。


「喧嘩を売るのは良いが、相手を良く見なければな。人族は侮ってはならんのだ」

「そうですわよ。人族は古い時代からいる存在。その意味を知らない子供にしてはおいたが過ぎますわ」

「は? 相手は一人では何も出来ない人族。俺ならあの細い喉笛を一瞬で噛み砕けますがね」


 そう言って僕を見て、後ろにいるフィノに目を向けた。

 フィノを見られないように背後へ庇い、威圧感のある笑みを出来る限り向ける。


「フン!」


 成功したようだ。


「あれ? ギュンターは大戦の時生まれてましたっけ? 私見たことが無い気がしますよ?」


 そこへポムポム魔王様の気の抜ける声が響き渡った。


「それにその人族に良いようにやられたのが獣魔族だったと記憶していますけど……違いましたっけ?」


 一体どっちの味方? と取れる発言に場がシーンと静まる。

 静寂が支配し、誰もが気まずそうな顔をする。


 僕達は良く知らないから人族が死んだというセリフにイラついただけで、ギュンターとかいう狼男が生まれていようがどうでもよかった。

 でも、知っている側からすると今の発言はスルーしていたりするものだったんだろう。


「いえ、魔王陛下の仰る通り、そこにいるギュンターが生まれたのは凡そ百年前。丁度魔王陛下の政策が軌道に乗り始めた頃ですから知らないのではないでしょうか?」

「うむ。我も戦場で見たのはこやつの父と祖父だった気がする」

「ああ、そう言えばそうだった気が……」


 追い打ちをかける様な言葉。

 しかもニヤついた笑みが浮かび、魔王派の魔族はいやらしい。

 まあ、僕も少し狼男のライフが減ったように見えて面白くなかったのかと言われたら嘘じゃない。


 あ、狼男に睨まれた。

 でも、それは僕のせいじゃなくて、ポムポム魔王様じゃん。

 完全に八つ当たりだと思う。


「まあ、それは置いておき、ギュンター殿はシュン殿に挑まれると?」

「え、ええ、化けの皮を剥がしてやりますよ。バリアル様が引き分けたと聞きますから」


 今ピリリとした殺気に近い物を感じた。

 多分、今のセリフは竜魔族が貶されたんだろう。

 その辺の頭は回るんだ。


「まあ良い。だが、我は戦わんぞ」

「は? それは人族の下につくということで?」

「なぜ我が人族の下につかねばならん。我は勝てる戦しかせんのだよ。我はシュン殿だけでなく、フィノ殿ともやりたくない。可愛らしい女性に手を上げるのもどうかと思うのでな。だが、そこの男性とはやってみたいものだ」


 指差されたのはレオンシオ団長。

 レオンシオ団長もそれに対してニヤリと口元を吊り上げ、お互いに何かを感じ取ったのだろう。

 バリアルとも仲良くなってたし、お互いの強さを肌で感じ取ったって感じかな。


「これはこれは、スペンサー卿の目は衰えたのですかな? このような子供と戦いたくないとは」


 やや芝居がかった動き。

 道化に見える。


「ふん、何とでも言うが良い。我の強さは変わらんのだからな」


 おお、紳士だ。

 紳士がいるよ。


「俺は先も言ったように戦いたいものだが、出来ればサシで戦ってみたいものだ」

「勿論魔法アリですよね?」

「勿論だとも! お互いに全力でなくてどうするというのだ!」


 見た目通りボゴイさんは豪快な人だ。


「やっぱりこうなるんだね。分かってると思うけど、怪我はしないでね」

「うん、その辺りは分かってるよ」


 フィノの頭を撫で、変な目で見ている狼男を睨み付ける。

 あの目はあれだ。

 絶対に僕のフィノを狙ってる目だ。

 名前を忘れちゃったけど第三皇子と同じ厭らしいねちゃっとした目をしている。


「人族の分際で粋がるのも大概にしろ! よく見るとそっちの嬢ちゃんは可愛いじゃねえか。へへへ~」


 やっぱりね。


 フィノが世界一可愛いのは分かる。

 でも、言って良い事と言って悪いことがあるんだよ。

 狼男は今の状況が分かってるのかな?

 魔族の中でも武力の最高位にいる竜魔族に喧嘩も売るしさ。

 バリアルはその中でもトップだよ?

 もう馬鹿なんじゃない? いや、馬鹿でしょ。


 獣人で思い出したけどさ、魔闘技大会に出てた偽物英雄さんはどうなったんだろうか。

 今だに自分が英雄とか思ってるのかな?


「なあ、バリアル。あのギュンターとかいう獣人みたいな奴はなんなんだ? 見たところお前ほど強くなさそうだし、喧嘩でも売ってんのか?」

「ふっ、魔族としては百年も生きていない若造だからな。あいつの親父や祖父は俺と対等にやり合えるほどの実力持ちだが、息子であるこいつは軟弱なんだ」

「ほう。魔族でもぼんくら貴族みたいな奴がいるんだな」

「どちらかというより平和な時代に生まれたからという奴だろう。あいつぐらいの実力があれば奥地に行かない限り魔物を倒せるんだ」


 あー、ね。

 戦争があった時は強くなったり子供を生んだりする国の政策の産めよなんたらで、今は守れればそこまで強さは求めてないってやつだと思う。


 魔族だから力がいらないとは思ってないと思うけど、今は戦争よりも考え方が少し変わってきたんだろう。


「だからといってあの態度はないだろ」


 ですよねー。


「先に言った通りこういった典型的な奴はやられない限り分からん奴だ。バーリスの奴もシュンにやられてしっかりということを聞くようになったしな」


 バーリスは素直だったと思うよ。

 ただ単に戦いたかったみたいだし、権力とか笠に着てたわけじゃない。


「仕方ありませんね。今は友好の社交場だというのに」


 やれやれと芝居かかったようにポムポム魔王様は言う。

 というより流れ的に仕組まれてたんじゃないだろうか。


 勿論魔王派側のね。


「ふふふ、黙っておいてください。シュン様の実力を確かめるというのもありますもの。私達も本心から納得しているわけではありませんから」

「やっぱりですか。まあ、バリアルから聞いてたので構いませんけど、ここに怪我をしても大丈夫な装置的なものでもあるんですか?」


 あれの名前知らないんだ。

 古代技術の生粋で、範囲外に出たら怪我が治って、致命傷を与えられたら医務室に運ばれる装置。

 多分、結界内に入る瞬間にその人物のデータを取っておいて、結界内で何かが起きた時に自動でバックアップするんだと思う。

 一瞬で塵となるような攻撃だと、多分結界が感知して移動させるとかのシステムもあると思う。


 まあ、僕にもわからないことが多いし、下手に弄って使えなくなりました、では話にならない。

 映像の魔道具はまだ電話とかカメラの知識があるからいいけど、流石にゲームのような仮想世界は無理。


「そういった類のものはありませんが、死ぬことだけはない装置がありますわ」

「死ぬことだけは?」

「それって欠損したりしたらダメってことですよね?」


 あ、そうか。


「ええ、欠損した部分があれば回復できますが、下半身が消し飛んだりすると……」

「ゾッとします。というより人族は下半身が消えたら死にます」

「はい、魔族もほとんどがそうだと思いますわね」


 いや、怖いから。

 しかも醸し出る妖艶さで、うふふっと笑みを作ってるし、牙とか悪魔チックな角と尻尾とかが余計にね。


 あ、フィノに小悪魔の……。

 止めとこ。


「何か思った?」

「んー? いや、何も」


 危ない!

 下手したら何かを目覚めさせていた所だった!

 今まででも片鱗が見えていたというのに……危なかったぁ。


「魔王である私に異を唱えるのなら魔族らしく力で示してください」

「そ、そこまでは……」

「私の意見を真っ向から否定し、人族――他種族との間に亀裂を入れようとするのなら……貴方達は私の敵です」


 何もしてないのにその一言は凄い。

 魔力でもない、威厳でもない、絶対であるという王者のオーラみたいな。

 兎に角、勝てないと思わせる様な雰囲気が出ている。


 多分、僕が編み出した最強の切り札『次元裂断(ディメンションスラッシュ)』も効かない気がする。

 対抗……いや、抵抗は出来るかもしれないけど、ここまで魔力に差があると僕の小手先のような技術の魔法は負けるだろうね。

 まず魔族と人族という時点で一気に使える魔法や肉体の差がある。

 神様ボディーも鍛えないとすごくならないしさ。


 時間ないけど少し体も鍛えておこっかなぁ。


「ぐ、うっ……」

「ですが、貴方達の言うこともわかります」

「はぁ、はぁ、でしょう。ましてや相手は人族のガキ。どうして俺達魔族がぐっ!」

「ギュンターだかグンターだか知らんが、喧嘩を売る相手を間違えるなよ? お前は一度俺達竜魔族に喧嘩を売っているんだからな。このことはお前の親父に伝える」


 今度はバリアルがキレて竜のような威圧たっぷりで脅す。


 これは演技じゃないね。

 本当に舐められたことに対する怒りだ。

 族長としても格下に舐められていて無視できる問題じゃなかったんだろう。

 他の竜魔族の戦士から剣呑さが取れてるしね。


「これが上に立つ者の責任だよ。といってもシュン君は今のままで大丈夫だけど」


 ツッコみません。

 いろんな意味でって言われるの分かってるから。


「まあまあ、そこまでにしてください。魔王陛下もバリアル様も馬鹿を相手にしないでくださいな」

「な、なに……?」

「相手の力量も読めないあなたを馬鹿と言って悪いのかしら?」


 お、おお、サテラさんも怖い。

 やっぱり魔族なんだろう。

 笑ったときとかはとても綺麗なのに、姿が悪魔チックだから余計に、ね。


「何か凄いね」

「え? あ、うん。でも、フィノは今のままが良いかなぁ」

「それ、どういう意味?」


 しまったぁぁぁぁっ!


「いや、フィノは天使、うん、天使みたいだねってこと」

「ふ~ん、後でお話かな」

「ごめんなさい」


 これは覚悟を決めないといけないのか?



「どうしてあなたの様な者がこの場に来たのか知らないけど、喧嘩を売る相手は考えた方がいいわね」

「ど、どういう意味ですかな? 俺が人族如きに負けるとでも?」


 あー、何かどっかで聞いたようなセリフだよ。

 まあ、勝負に絶対はないんだけどさ。

 僕は狼男に負けるとは思えない。

 牙とか爪は怖いけど、僕の結界までは壊せないと思うもの。


「ほほう。お前はシュン殿に勝てるというか。バリアルを下したとも聞く相手を」


 え、ぇー……なにそれ。

 引き分けじゃん。


「そんな噂嘘に決まっています!」

「では、お前が確かめろ。本人である俺の言葉にも耳を傾けないのなら、自分でやられて気付け。蒼き炎で片腕が消し飛んでも知らんがな」


 ニヤリと笑われて怖いです。

 本人はただ単に笑ってるんだろうけど、横目で見られると余計にね。


 とりあえず笑みを張りつけて頷いておく。


「それは良いですね。私もその青い炎と言うのを見たかったのですよ。シュンさん、すみませんがあの馬鹿と戦ってやってください」


 拒否はないですね。

 まあ、友好のために臨むところだ。


「仕方ないですね。人族代表としても舐められたままでいるわけにはいきません。格上の存在として相手をします」

「なっ!? 俺の方が弱いだと……! 貴様……即刻その喉笛を噛み切ってくれるわ!」


 挑発の文句は思い浮かばないので笑みを浮かべた状態で余裕だと見せる。

 フィノを狙った男に慈悲は無し。


 僕は怒ってるんだよ。

 ちょっとでも怒ってるんだ。


「では、すぐに不満を抱く者と決闘をしていただきましょう。勿論両者が死なないことが前提です。欠損は……残っていれば治します」


 聞いてたからあれだけど、自信なさげに言われると困る。

 多分ポムポム魔王様は回復はうまくないんだろう。


 何か欠損したらフレデリアさんに治療してもらおう。

 再生魔法はそういった時の魔法だろうし。


「ま、負ける気はないけどね」

「頑張ってね、シュン君」


 うん、フィノに応援されたからには負けない!


少し早いですが、読者の皆様方良いお年をお過ごしください。

そして、今年もよろしくお願いします。

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