準備期間2
今回はいろいろと偏見とかが入っているかもです。
黒い髪をお手製のシャンプーとリンスで艶やかにし、大きめのリボンを付けた白雪姫――僕の婚約者であるフィノは、青緑色を中心にした艶やかなドレスを身に纏っている。小さめの赤いリボンが幾つも付いているのが可愛い。
ドレスのデザインは動きやすさが肝心だから、ふわっとしたあのペチコートとかベルライン系ではなく、地球の現代風の奴だね。
名前は何て言うのかよくわからないけど。
一応武装はしてるけど、杖だけだね。
白雪姫が武闘派とか、じゃあ普通に暮らせるじゃんってなるしね。
最後に一緒に魔法を使うために杖を持っておく感じにするらしい。
まだ、最後は何をするのか決まってないんだ。
対して僕もこの世界ではあまり見ない、華やかな服だね。
シロという名を使っているのに僕は白色が似合わないみたいで、フィノとは違うくすんだ青――蒼緑色とでも言うのか、そんな感じの服を着ている。
金と黒の装飾がされ、ボタンではなく紐と鎖で留める感じで肩にヒラヒラのある上着、赤いスカーフ? を首に巻いて懐に入れ、革のベルトを鞘も付けて腰に巻く。
因みに剣はベヒーモスの角とヒュドラの核で作った国宝級の剣だ。
こっちを選んだのは片方が黒一色だから。
それに華やかだし、この剣のことを知っているのはフィノ位なものだしね。
あと、見に来る義父さん達かな?
「最後に……最後に、口付けをお許しください。ここに眠る白雪姫を見て生まれて初めて女性を好きになったのです。この闇より深い漆黒の髪も、雪の様に白い肌も、優しく眠るその姿も全て!」
恥ずかしいぃぃ!
何でこうなっているのか分かってるのに分からない!
これ病んでるじゃないか!
腐女子が考えるようなセリフに聞こえる……。
まあ、実際にフィノと会った時はそんな感想を抱いたと思うけどさ。
ここまで気障っぽくは思わなかった。絶対に!
「どうか、私目に別れのく、くく口付けをさせてください」
……また、やっちまったよ。
うん、何度もここで失敗するんだよね。
皆黄色い声を上げながら、僕にジト目を向ける。
お前達! 自分はしないからいいかもしれないけどな、これ滅茶苦茶緊張するんだぞ! しかも練習なのに恥ずかしいし!
相手がフィノだから余計に恥ずかしいんだよぉぉ!
「……ふ」
フィノも笑ってんじゃないよぉぉぉ……。
アルは後でしばく。
『仕方ありません』
『あなたの様なお方なら白雪姫も許してくれるでしょう』
『そうだな。お前ならいいだろう』
『ささ、私達の目の前で』
『よろしければ、保存いたしますが』
何だ、妖精役のセリフは!
最後の奴、絶対に私用のためだろうが!
まあ、写真はないから別にいいんだけどね。
このセリフは僕が魔法を使うためのものなんだ。
伏線の様なものって感じかな。
「妖精様、ありがとうございます」
棺の蓋、といっても枠だけだけど、それを開け、フィノの頭を愛おしそうに一撫でする。そして、黄色い声が上がる。
嫉妬や怒気、歓喜や興奮等いろいろな視線が身体に刺さる。
嫉妬は見苦しいというけど、こういう時は仕方ないんだろうね。
でも、僕にはフィノだからこそ権利がある。
興奮は止めてほしいけど……。
髪を掬いあげるとブレンドした花の蜜の匂いが広がり、自然と落ち着く。
これをしないと口付けできないんだよ。
あと、緊張を解す為にこれをしたら、なぜか採用されたから別にいいけどさ。これ、変態だよね。自分でやって言うのはおかしいけどさ。
フィノに嫌われなければいいけど……。
そして、いよいよフィノと口付けする。
フィノの化粧は薬品の様な物を使わずに作った化粧水と口紅だ。
元々綺麗だからナチュラルメイクでいいんだよ。
勿論肌にも優しい奴だ。
ついでに商品化も決定している。
頬に手を添え、観客側に覆い被さるようにフィノの顔に近づく。
「キャアー!」
悲鳴の様な黄色い声が聞こえけど、僕は気にしない。気にしてたらやってられないから。
これでは見えないだろうけど、本番はこれに魔法を使う予定だ。
実際は口付けをせずにお互いに目を閉じた状態で数秒固まる。
息がかかってお互いにくすぐったい思いをしているのが分かり、臭くないよね? と変な考えが浮かぶ。
まあ、香水(防臭)も使ってるから大丈夫だと思うけど。
「ん……ぁ、こ、ここは……?」
顔を離すと、フィノの睫毛がピクリと動き、ぱちりと目を開けると同時に手を突きながら体を起こした。
演技はさすがだ。
『お、起きた……』
『白雪姫が起きた!』
『王子様! 白雪姫が起きたわ! 白雪姫が!』
『キッス、キッス、チッス!』
おい!
そのセリフ回しどっかで似たのを聞いたことがあるぞ!
チッスは止めい。なんか生々しく聞こえるから。
「妖精さん? 私は……ここはどこでしょうか?」
フィノは辺りをキョロキョロと困惑しながら見て、妖精がいるのに気付く。
同時に僕の姿も視界に入れ、お互いに目を合わせる。
僕はその瞬間に次の幻術に移行する。
今は白雪姫が木々や花々が生い茂る森の中、太陽の陽射しが注ぐ開けた場所。
はっきり言えば白雪姫のためにあるような幻想的な場所だ。
次の幻術は太陽の陽射しを少し変えながら、木々や草花の間から動物を作っていく。
しかもこうスーッと現れるかのように、幻術だからこそできる技法で行う。
パッと現れたりするよりこっちの方が劇らしいそうだ。
ついでに水魔法で涙を表現し、困惑する白雪姫の手をそっと掬い取る。
「……白雪姫」
「は、はい」
微笑みを浮かべ、確認を取るように名前を呼ぶ。
白雪姫はどのような心情なのか知らないが、フィノは嬉しい気持ちな筈だ。
「貴方は今まで呪いを掛けられ眠っていたのです」
僕はフィノに経緯を語る。
毒ではないのは、この物語の妖精なら毒ぐらい回復魔法で消せるんじゃない? という問題が出てきたからだ。
呪いというのに苦々しい思いがあったけど、劇だからと割り切った。
一応義父さん達には既に事情を説明し、一言断っている。
多分一番許可を得ておかないといけないだろうからね。
皆は知らないかえら怒ることも出来ないし。
「口付けをしたのですか?」
「はい。私は眠っている貴方を見て一目惚れをしてしまったのです。もう、心が満たされ過ぎるほどに……」
「ですが、私とあなたはまだ会って――」
「そんなの関係ありません。私は貴方の全てが好きなのです! 眠っている姿だけでなく、その透き通った声も、愛らしい姿も、このように動物に妖精に喜ばれる清らかさも……! あ、愛しているのです!」
これ恥かしいとかいう前にちょっと愛に対する狂気が見える。
白雪姫が自分と違う男性と話してたらキレるタイプだ。
僕? 僕はそんなことないよ。
なら、アルとかシャルはどうなのってなるもの。
ここで、フィノが頬を染めるのは毎度のこと。
まあ、僕は白雪姫という呼称を使ってないのも原因かもしれないけど。
いつもの僕はこんなこと言わないし、ギャップ的な?
「それとも……私のことがお嫌いですか?」
「そ、そんな……!」
「私は、貴方のことを一生守ります。どうか……どうか、私の城へ来て、妻となって頂けないでしょうか?」
フィノは僕に添えられている手を感触を確かめるように撫でる。
別に演技ではないと思うけど。
妖精は僕達を囲むように手を上下させ、嬉し涙を流し目を擦ったりする。
『うっ、ううぅ。白雪姫ぇー!』
『よ、よかった、よかったよぉ!』
『白雪姫、この人は大丈夫よ。きっとあなたを守り切ってくれるわ。だ、だがら、じあわぜにあじなざい。うわあーん!』
『くっ、白雪姫が取られた。僕のあイタッ!』
『馬鹿言ってんじゃないよ!』
いやいや、この場面でボケはいらんでしょ。
でも、フィノに気のある男子生徒がどうしても入れてほしいと泣き付いてきたらしい。
せめてもの嫉妬面だとか。
まあ、聞き方によっては略奪愛に聞こえる。
過去を偽装するその発言は最低だけどな!
「分かりました。王子様、あなたの国へ連れて行ってください。私も、愛します」
僕の手に引っ張られフィノが立ち上がる。
お互いに目を合わせて、場面は真っ暗になる。
「はい、カット! 皆上出来だったわ!」
「ええ! シュン様はまだ慣れていないようですが、その初々しさも……」
「ぐぬぬぅ、シュンが羨ましい」
「お似合いだな。シュンは不細工ではないからな」
女子生徒は素直に賛辞してくれるからいいけど、男子生徒はもううざい。
「今日はここまでにしましょう。シュンさん、フィノリアさん、妖精役の皆さんもお疲れ様。シュンさんはもう少しリラックスしてくださいね」
「はい、分かってるんですけど、難しいです」
中々慣れるものじゃないよ、これは。
今はまだ知り合いだからいいけど、これは知らない人たちの目の前でやるんだからね。
しかも義父さん達の目の前で。
「そうだぞシュン。だが、お前にも苦手な部分があるというのは安心する」
「そういう先生も頑張ってください。父上ですからね」
「ぐ、く……。あ、ああ、やってやろうじゃないか」
ちらっとシュレリー先生の顔を見てやれば、ウォーレン先生は息が詰まったかのように苦々しい顔になる。
元冒険者という肩書を持つから話しやすいんだよね。
ガラリアの冒険者ギルドギルドマスターロンジスタさんにも何となく似てるし。
劇の稽古を続けて一週間ほど。
本番まで残すは一週間となった。
まだ台詞が恥かしくてなかなか素直に言えない僕だけど、それはそれでよくないか、という意見が多く、どうしたらいいのかと迷っている。
「確かに完璧な劇はいいと思うわ。でも、これは楽しむためなんでしょう? 祭りなんだから少し手作り感とかあった方がいいと思うわけ」
「それに何でもかんでも完璧にされるより愛着がある。シュンのためでもあるんだ」
「面白いというのもある」
等という言葉を頂いたけど、最後の生徒が言った言葉が本音だろうね。
皆一斉に頷いてたし。
まあ、僕としては強さで引かれている面もあるから、それを無くしたいと思ってる。
だから皆にどんな思惑があっても愛着……は少し違う気がするけど、それほど怖くない分かってくれるのならそれでいい。
「それで、シュン。全校生徒への催しはこの劇でいいだろうが、クラスの出し物はどうする気だ?」
そう言えばそっちもあったなぁ。
クラスの出し物となると、たこ焼きや焼きそばやチョコバナナとか出店、ファッションショーや歌ったりとか、教室でならお化け屋敷やカフェだよね。
まあ、僕からするとちょっと変わったカフェが良いかな。
「難しいと思いますが、食べるところとかどうですか? 衛生管理はしっかりしなければなりませんが」
そういうとウォーレン先生とシュレリー先生は悩む。
まあ、貴族がいるから接客とか料理作りが難しいんだよね。
でも、僕とフィノ……フィノは王族だから難しいとして、どうにかなるとは思うんだよね。
というより、僕が料理をすればフィノも料理をするはずだ。
共同作業だね。
結果、貴族達はこぞって料理をして失敗するパターンだね。
「相手は生徒しかいませんからね。将来のために対応の練習だと思えば接客位できるのではないかと思いますけど、難しいですよね」
「とりあえず、皆に聞いてみるか。――おーい、注目してくれ!」
こればっかりは皆がしたい物が一番だと思う。
でも、クラスの出し物というのは劇以上に分からないと思うんだよ。
だって、僕ですら何したらいいの? って思うもの。
「普通は何をやるの?」
「そうだねぇ、喫茶店、出店、お化け屋敷が定番かな。あとはゲームとか、クイズを開いて賞品を渡したり、女装男装したりだと思うよ」
「最後の男装というのをやってみたいかも」
え? あー、でも、女子が男装するのは何か良い。
でも、女装するのはちょっとね……。
あの方二人を思い出して気持ち悪くなるもん。
「あれは女装とかじゃないと思うけど……」
確かに……。
幸いこのクラスに大柄な生徒はいない。
ということは、それほど見苦しい物にはならないと言う事だね。
「でも、気分が良いかは別。僕は裏方で料理でも作っているのが楽しいかな。それを眺めてる立場だね」
「シュン君なら似合うと思うけど……。でも、料理を作るのならシュン君だよね」
ああああー、やーめーてーっ!
まだ劇の王子の格好をして過ごしてた方がましだよ!
いや、良く考えればそれはそれで面白いのではないだろうか。
「劇の衣装のままでいるというのは良いと思わない? 着ない人は元々目立ちたくない人とかだから、裏で何か手伝ってくれたりしてくれたらいいしさ。クラーラとか料理得意そうじゃない」
「それは面白いかも。でも、ドレスで料理はないと思う」
「それもそっか」
今思ったけど、ここで料理を軽く教えておけば来年苦労しなくて済むのでは?
今回はアル達が頑張ったみたいだし。
ここで僕達が手伝っておくべきだろう。
もしかすると作り方を知りたいといってくる人がいるかもしれないし。
この世界の女性も男の胃袋を掴むのは当たり前だと思っているようだし。
あ、平民だけだけど。
結果、教室内に喫茶店の様な物を作り、カフェテリアの様な物をすることになった。
理由は劇で疲れているから休憩したいとかだったけど、自分達が休めるわけではないんだけど……。
そう言ったらフィノ達は笑い声を上げてた。
料理担当は僕を責任者にフィノやクラーラ達料理が出来る生徒五人程度。
接客は楽しそうだとアルやシャルが参加し、つられて数人の貴族が加わった八人程度。
残りはもしもの時のヘルプと食材調達、宣伝役、会計などだね。
文化祭の日程は初日に生徒は集まって劇等の催しをし、残った二日を楽しむようになっている。
ノール学園長も何やら催すようで、楽しみにしている生徒がちらほらいる。
そして、放課後となった今、僕は料理の出来るグループと接客グループを集め、出すメニューについて考えていた。
普通は一週間前に考えるようなことではないけど、やろうと思えば二日で終わる。
だって『ラ・エール』を基準に行えばいいだけだしね。
『ラ・エール』は一日で作り替えたし、料理も猛特訓で物にさせたしね。
今回はそこまでしなくてもいいから、一週間もあればしっかりとしたものが作れるだろう。
「喫茶店にはコーヒーやハーブが大事なんだろうけど、流石に僕は知らない。だから、飲み物はフルーツジュースとか甘いミルクとかでいいと思うんだよね」
流石にフォロン達に手伝わせるのはどうかと思った。
これはあくまでも授業の一環だからね。
「時間のかかる飲み物を作っても意味ないですね。それにコーヒーやハーブティーは学園で飲めます。日頃飲めない物を出すというのが良いのではないですか?」
レンの言う通りだ。
「その点フルーツジュースとか新鮮で良いな」
「でも、全くないのは問題でしょうね。私達でも淹れられる紅茶などならいいのではないかしら」
次々に決まっていく。
飲み物はあっちに任せてもいいだろう。
「じゃあ、こっちは料理を考えようか」
「私はオムライスとか良いと思う」
「ああ、オムライスか。確か、初めて会った時に一緒に食べたんだっけ?」
っと、口が滑ってしまった。
少し興味津々のようだけど、こっちは大人しいグループで良かった。
アル達にも聞こえていないようだし。
「オムライスってどういった食べ物なのですか?」
「そう言えば、王国にしかまだなかったんだったっけ? ――こほん、オムライスというのは「野菜や肉を混ぜたご飯をトマトのソースで混ぜて、ふんわりとろとろの卵でとじた食べ物だよ。クラーラもきっと好きになるはず」……といった、嫌いな人はあまりいないと思う料理だね」
フィノさんや、今度オムライス作って上げよう。
だから、どんなに相手に知ってほしくても人の話を奪うのはどうかと……。
「それは美味しそうですね。ですが、私達に作れるでしょうか?」
「う~ん、僕とフィノは出来るけど、あれは意外にコツがいるからねぇ。料理の基本なんだけど、その基本が難しいから」
「シュン様が料理が出来るのは何となくわかってましたけど、フィノリア様も出来るんですね」
「それはそうですよ。こっちにいるのはシュン君の隣に居たいだけではないのですから」
あんに一緒に居たいと言っているけどね。
「まあ、オムライスだけを作るわけじゃないし、他には簡単な料理を入れればいい。例えばホットケーキとか、サンドイッチとか、アイスクリームとか、ピザとかね」
「アイスもいい思い出があるよ。あれは一度食べたら忘れられない絶品のデザート」
やはりフィノは少し食いしん坊ではないのだろうか?
何回も思っているけど、たいじゅゲフン……ばれない様にもっとヘルシーな料理にしておこう。
「ホットケーキは鉄板の上に膨らむ生地を乗っけて両面を焼くケーキのこと。ふんわりもちっとしてて蜂蜜とかと合うんだ。サンドイッチは分かると思うけど、いろんな種類を作っておこう。アイスは砂糖や練乳を混ぜたミルクを固めたり、ジュースを固めたりした冷たいデザートで、ピザは円形の生地の上にトマトソースとチーズ、ベーコンやソーセージを乗っけて焼いた物」
「他にも辛くて病みつきになるカレーライスとか、細い麺を茹でてトマトソースや肉と炒めたスパゲッティとか、とろっとした食感のあつあつグラタンとか」
どれもフィノが好きな奴だね。
皆涎を飲み込んじゃって。
まあ、食べたこともないからいろんな想像をするんだろうけど。
あ、カレーは匂いがきついから最後の日にでもしようかな。
でも、カレーパンとか良いのではないだろうか?
「でも、量が多いと作る方も大変になる。だから、簡単でパッと作れるものにしよう。あと、大きさも調整して小腹にすっと入る感じにした方が良いだろう」
「その方が良いと思う。でも、何の料理なのか分からない」
「そうだ。実食を求める。作る側からの当然の要求と言えよう」
「ただ食べてみたいとも言う」
本音でよろしい。
まあ、元々一度食べてもらうつもりだったから構わないけどね。
ただ、今挙げたので言うと、カレーぐらいしか合宿で作れなくない?
まあ、パスタがどうにか麺を持っていけば出来るってぐらいかな。
「ま、元から実食してもらうつもりだったから、明日の放課後にでも作ろう。その後少し帰るのが遅くなるけど料理の手順と練習を行う」
「食材はどうしますか?」
「んー、そっちはお金を受け取って僕がどうにかしよう。知り合いもいるからね」
転移で食の都リーヨンに飛べばいい。
うん、こっそりと行ってこっそりと帰って、収納袋から取り出せば問題ないね。
黙っていれば僕のお金を使っても問題ないだろうし。
開発の結果得たお金は使わないと意味がない。
まだ、領地開発も出来ないし。
「この街で買える食材を調達班に残り六日で頼もう」
「分かりました」
「基本難しいのは私とシュン君でするよ。クラーラ達はその手伝いや下ごしらえを頼みたいのだけど」
フィノはそういうけど、やっぱり王女にそうさせるわけにはいかないよね。
まず、料理をする王族とか珍しいし。
「シュン君との共同作業だから邪魔しないでね」
「キャー、きょ、共同作業ですか!」
「もう、フィノリア様は我儘なんですから。でも、シュン様に対する思いの強さが覗えます」
「私も羨ましい恋がしたいですわ」
やっぱり女の子はどの世界も恋愛話、恋バナって言うんだっけ? が好きなんだね。
僕はひっそりと恋愛を楽しめればいいけど。
まあ、人の恋愛に興味が無いとは言わないけどね。
例えば義姉さん且つ王妃となる義兄さんの配偶者とか、アルとシャル・レンとクラーラの間柄とか、フローリアさんとかね。
「シュンが羨ましい……」
「や、そんな目で見られてもさ。言ってはなんだけど、料理が出来る男の子っていうのもモテると思うよ」
「そ、それ本当!? もし嘘だったら……」
「い、いや、そこまで責任は持てないけど、フィノと一緒にした中に料理もあるよ。フィノに料理を教えたのは僕だし、食べて喜んでもらえると笑顔が見れるんだ」
あのアイスを食べた極上の笑顔は忘れてない。
「そうか、そうなのか! よしぃぃ、俺は料理の出来る男になる!」
「あ、でも、やり過ぎはいけないよ? 女の子は意外にそういった面でプライドが高いからね。自慢するんじゃなくて一緒に作ろうとか囁かないとね」
まあ、それが正しいとも思わないけど。
でも、俺料理出来るんだぜ、と出来ない女の子に言うよりはマシだろう。
しかも相手が料理できなかったら最低な男に成り下がるし、出来ても男の方が上手かったら乙女心とやらは複雑じゃない?
結局料理が出来ても出来なくてもケアが大事なんだ。
そう言えば女性に作るのならパスタが良いと聞いたことがある。
あの水を切る大きな動きとかがいいんじゃないかな。
あと盛り付けられたパスタってオシャレだよね。イタリアはオシャレな国で有名だった気がするし。
で、次の日。
何故か僕はクラス全員、先生二人も入れて僕を除けた二十六人に夕飯を作っていた。
本当に何故だろうか。
まあ、フィノやフォロン達も手伝ってくれるし、貴族の従者(メイド達)や料理班や作りたいという生徒達も手伝ってくれるからいいけど。
何故か僕は二時間ほど汗を垂らしながら料理を作っている。
本当の本当に何故だろう。
もう疲れが出て来て訳が分からなくなっている。
久しぶりに料理をするのが面倒だと思ったほどだ。
「これがパスタってやつか。確かにこれならモテそうだ。シュン、これは俺が担当してやるぞ!」
うん、なら食べずに手伝ってほしい。
「実際は包むんだけど、思ったより人気だからお皿に炒めたご飯を楕円形に添え、その上にフライパンでふっくら焼いた卵を乗っける。勿論とろっとした方が表だよ。その後、トマトのソースをかけて完成とする」
「そうだね。モグモグごくん、その方が手間もかからなくていいかも」
フィノさんや、もう手伝ってくれないのですか?
まあ、トマトソースで似顔絵を描いたから食べたくなるのは分かるけど。
手間だから絶対本番はこんなサービスはしないけどね。
「ピザは残り五日で焼くだけとなるように作って収納袋に入れておく。サンドイッチやグラタンも同じくね。アイスやホットケーキはその場で作ろう」
「そうですね。これだけ美味しいと絶対に繁盛します」
「そうね。簡単な作業だけ本番で出来るようにして、後は予め作っておきましょう」
「個数も決めていたほうが楽かもしれない。サンドイッチやアイスとかは材料さえあればいくらでも作れるけど、オムライスとかは永遠には作れない。手間がかかる以前に材料も多くいる」
「パスタも難しいな。茹でるのに時間がいる。パッと作れるが遅いだろうな」
その辺りは分かってくれているようだ。
収納袋様様だよ、本当に。
「売り方は料理と引き換えにお金を払う方式にしよう。絶対に注文を取り間違えるはずだからね。予め作っておけば保存はいくらでもできる」
「値段は食事が一律銅貨一枚の百ガルで、デザートは鉄貨五枚の五十ガル、ジュースは一杯鉄貨一枚の十ガル」
「味や手間からして少し低い気もするけど、儲ける為じゃないから赤字さえ出なければいいと思うわ」
「これだけ美味しいのなら、文化祭限定料理にしたらいいとも思うわ」
「だな。高すぎても学生だから買えないだろうし。そう考えたら財布に優しい値段だろう」
でも、それは他の所も出店とかしたらってことなんだけど。
しなかったら僕達の所だけになるから、特にお金を使うということはないと思う。
それに冒険者になってEランクの依頼を達成すれば銅貨一枚は必ず手に入る。
ヒルルク草とかの採取だね。時期もちょうどいいし。
食事は千円、デザートは五百円、ジュースは百円だ。
文化祭ってこんな感じだったし、祭りは日頃より安くなるからこんなものだろう。
サンドイッチも千円とかどんな高級料理? と思わなくもないけど、量と多少の野菜と添えれば問題ないね。
しかもフィノや義父さん達に作っている僕が作るということは王宮料理となり、フィノが作ると王族が作る料理ということになる。
かなり安いと思う。
「それじゃ、明日からは料理を作っていくから手伝ってね。それと今日はもうおしまい! もう疲れた!」
『えええー!』
何と言われようがおしまいだ。
このただ飯食らい共め!
翌日になって知ったんだけど、この料理の匂いが学園中に充満して食テロが起きていたみたいだ。
思っているよりも多めに作っておく必要があるかもしれない。




