新たな学園行事
皆さん、先日Kが我が家に出没しました。
年中出て来るGも毛穴が開くほどぞっとしますが、Kも同じぐらい嫌いです。
名前を言うのも嫌ですね。
洗濯物を夕時に振るとぽたっと床に落ち、窓を開けるとどこからとなく飛んできて、服の中に入り込んで臭いを放つ。そんな冬の敵です。
心臓に悪すぎます。
皆さんもKは嫌いですよね?
「お借りしていた本、確かにお返ししました」
僕は収納袋から取り出した、少し禍々しい本をノール学園長に手渡す。
「受け取ったよ。上手くいって何よりだ。これは役に立ったかい?」
「はい、その本が無ければ難航していたでしょう。ついでにこちらは製作した解呪の本です。一応納めておいてください」
今度は違った神聖なオーラを発する綺麗な本を取り出す。
流石に予想していなかったようで目を丸くするノール学園長。
「いいのかい? こんな高そうな本を貰って」
「高そうじゃなくて高いんですけど、僕が作った本なのでそこまでしません。それにこれからは厄介ごとが多くなりますからね。呪いはもうこりごりです」
ちょっと言ってみたかった台詞を言って、本を押し付ける。
と言うより、この本は僕が作ったけど僕の直接の手書きではない。
活版印刷を作ってもいいんだけど、あれは時間がかかるからね。それよりも『念写』と呼ばれる魔法を使って書いた方が早い。
念写はを写すような感じだと思うだろうけど、実際は水魔法を使ってインクを少しずつ操作して書く感じだね。ただ、その文字を念じて移すように書くから念写ってなだけ。
魔法をインクにして文字にするとか、かなり難しい気がするしね。
「ですから、作ろうと思えば半日ほどで作れます」
「そう? じゃ、受け取っておこう。代わりに私の方からこの国の王に渡りを付けてあげよう。ま、既に会いたいと何度も打診を受けているがね」
ノール学園長は本を受け取って僕の肩を叩きながら言う。
ガーラン魔法大国の王は魔法王と呼ばれて、一応此処は国だけど代々王は先代魔法王が指名することになっている。
元々この国は不可侵の地域を作ろうと魔法使い達が集まってできた場所で、王等というものが存在しない魔法使いだけの国だった。
で、長い年月の間に人が集まり、街から国のような規模になって、周りの国も放っておけなくなった。
でも、実質的な王なんていない。力で支配しようにも魔法が一番栄えてるから攻めるに攻めない。
そこで不可侵が結ばれて、魔法を教える学園が出来たってわけだ。
でも、王がいないとまた同じようになるということで、魔法のトップが代々王位を受け継ぐことになり、国の方針などを決める。
まあ、魔法王は一般人でも選ばれるかもしれないから、基本的に政治関係はしない。魔法に関する研究や決済などを行っているらしい。
アルカナさんと気が合いそうな人ということだね。
愚王が生まれないとは言えないけど、魔法王は武力活動を禁止されてるようで、緊急時を除き杖を持つことが無い。まあ、杖が無くても魔法は使えると思うけどさ。
「それはありがとうございます。出来れば秋か春にしてほしいですね。冬は時間が合えば魔大陸へ向かうつもりなので」
「そうか……分かっていると思うけど、気を付けて行くんだよ。私も何度か経験しているが、魔族は過激だからね」
「ええ、分かっています。では、これで失礼します」
やっぱりみんな魔族と会うと言うと渋い顔で心配する。
ま、理由は分かってるから気持ちはわかる。
中には魔族と友好になりたくない人もいるだろうし。
学園長室を出た僕は、久しぶりに皆に会うためにフィノの下へ直行する。
既にフィノは少ない宿題をしているというシャル達の下へ行っている。まだ夏休みが数日残ってるし、学園にはあまり人はいないね。もうじきみんな集まってくると思うけど。
それに転移で帰って来たからほとんどの人と会っていない。
会ったらいろいろな質問をされると思うし、ちょっと避けてるのもある。
「シュン君が帰って来た。――シュン君、こっちこっち!」
校舎から出てグラウンドまで向かうと、シャル達と会えて少し嬉しくなっているのかテンションの上がったフィノが飛びながら手を振って教えてくれた。
そこにはアルやクラーラにレンもいつものメンバーがいた。
いつもと言っても数か月しか経ってないけど。
「ひっさしぶりだな! 突然帰って突然やって来るもんだから驚いたぜ!」
「お久しぶりです。帰って来たということはご両親は大丈夫なんですか?」
アルは二か月間の成果を見せてやる、と僕を挑発し、レンは詳しい事情は知らないだろうけど心配そうに尋ねて来る。
やっぱりこういった友達を持つと嬉しく思うね。
「アル、僕も成長してるんだからね。新魔法も見せてあげるよ」
「おお! シュンの新魔法か! お前がいなくなってどこか面白くなかったからな。言われていた造形魔法も上達したし、次のステップに言ってもいいと思うんだが」
「レンも心配してくれてありがとう。少し体調が戻ってないけど、普通に暮らせるよ」
「それは良かったです。クラーラも心配していましたからね」
そこにフィノ達もやってきて交互にどういったことをしてきたのか話し合う。
流石にエルフ族の村まで行ってきたというのは驚かれ、魔大陸に行くことは話さなかったけど、これから大変なことになることだけ話しておいた。
勿論世界の危機がどうとまでは話さないよ。
そのぐらいの分別はあるしね。
「じゃあ、俺達ももっと強くならねえとな! シュンだけ危険な目に合わせたくねえし、リュシオンには俺達が連れて行ってやるよ。一応貴族だしな」
「そうね。男爵位だったとしても貴族は貴族だわ。それにシュン君やフィノちゃんと知り合いと知れたら連れて来いと言われるでしょうね」
それもそうだ。
貴族と言うのはそういった感じの様な気がする。
「僕達はさすがにないでしょう」
「そうですね。平民が魔法王と会えるわけがないですし」
そういうけど多分誘われるんじゃないかな。
僕が直接教えている時点で呼ぶだろうし、詳しく聞いてないけど既に魔法王は僕に会えないか打診しているようだもの。
「ま、誘われたら誘われたで会えばいいよ。僕には打診が来ているようだし」
「私も行くよ。弟子だからね」
「ええ!? ほ、本当ですか!?」
「どど、どどどどしよう!?」
やっぱりそういう反応をするよね、と二人を宥めて苦笑する。
そして、あっという間に数日が経ち、夏休みが明けた。
生徒達は皆僕達の姿を見て声を掛けて来て、やっぱり思っていた通り騒がしい時間が戻って来たみたい。
帝国の子供達はどう接したら良いのか戸惑っているようだったけど、僕達から話しかけるのも気を利かせ過ぎだと思ったから、落ち着くまで普通に過ごしていくことになった。
そして、事情を知るウォーレン先生達から祝いの言葉を貰って、テスト関係などの詳しいことを聞くことになった。
まあ、結果を言うと僕とフィノはテストが免除というわけではないけど、魔法に関しては教師側で何か言うことはないから授業に出てくれるだけでいいらしい。
あの決闘は皆見ていたから納得していて、一応それ以外のテストなどは受けるし、魔法に関してもテストに参加しないわけじゃないから反発はない。
はっきり言うと採点のしようが無いらしい。
何故か僕自身も納得してしまった。
だって、いろんな教師に魔法を教えたりしてるし、戦闘面でもランクAだからね。ま、テストは真面目に受けるつもりだからね。
それと合宿についてなんだけど、やっぱり懸念していた通り貴族の反発が起きたらしい。
でも、平民はしっかりと出来てるし、下級貴族は慣れているのか上手くやってたようだ。
それを見て見栄のために文句を言えず、僕達がいないことで逆に目立っていたアル達にいろいろと聞きに来ていたらしい。まあ、それでも難しい人は難しいけど。
今までの合宿と比べれば生徒達は楽しかったと言っているみたいで、年に一度ならこういった行事があってもいいという生徒ばかりのようだ。
僕はカレーを作ったり、花火をしたり、探検したりいろんなことをしたかったなぁ。
来年こそは絶対に参加する!
概ね成功したようで、少しずつ生徒の声を聞きながら変えていくつもりだと言っていた。
そこに僕達がいればもっと変わったみたいだけど。
まあ、貴族と王族らしくないからねぇ。
そして、夏休み明けの軽いテスト――休み前から上達したか確認するため――の様な物が終わり、僕の半分生徒半分教師の生活が戻って来た。
造形魔法はかなりの人が出来るようになっていて、フライの魔法も聞いてきた人以外の人も使えるようになっていた。
今度ノール学園長にフライによる障害物レースとか提案してみるのもいいかもしれないね。
そろそろ運動会とか体育祭の季節だし。
で、夏休み明け初めての行事が始まる。
話は吹っ飛んだけど、ほんと普通に授業してただけだからね。
話すことがあまりないというのが本音だ。
その行事と言うのが僕が提案した文化祭や学園祭だ。
ただ、普通の文化祭では面白みが欠けるから、クラスごとに何か催し、それを発表する大会や研究発表会など様々な物を組み合わせた祭りを開くことになった。
でも、初めての行事だからかなり困惑しているみたいだ。
一年生は全校生徒の催しとクラスの出し物、グループで何か研究することになった。
一応この行事は安全性も考えて学園に提案する詳細を伝えることになっていて、完成した者は一度担任に見せることになっている。まあ、担任も授業で見ているけど。
あと、招待する人が少しいるけど、他国や部外者を入れることはない。何が起きるか分からないから、何度か繰り返していく内に招待数を増やしていくつもりのようだね。
招待するのは魔法王とその上層部、どこから聞きつけたのかアルカナさんやアルヴィン、義父さんと義母さんも変装してくると言っていた。
まあ、魔法王と話さないといけないし、丁度良かったかもしれない。
勿論そのために僕は安全用の魔道具開発を続けている。義兄さんの許可を得てね。
で、今はその催しに何をするか決める話し合いを行っている。
「ここはいかに我がクラスが優秀か知らしめるために剣舞を行おう」
「いやいや、フィノリア王女様がおられるのだからダンスの方がいい」
「では、お相手は私目に」
「何言っているのよ。フィノリア王女様のお相手はシュン様よ。貴方じゃ天と地ほどの差があるわ」
「くっ、言い返せない自分がいる」
いやー、名前は覚えてないけど僕のことを分かってるね。
フィノを他の男の子と踊らせるわけないよ。まあ、パーティーとかは仕方ないと思うけどさ。
「このクラスも何だか明るくなったよね。前まで貴族とかでギスギスしてたのに」
「そりゃそうだろ。シュンみたいな規格外がいたらどうでもよくなるって」
「そうよね。まあ、仲が良くなったというより、シュン君を怒らせるとやばいって気付いたのが正しいのかも」
「あの決闘ね。あれはシュン君の師匠にこってり絞られたからもう大丈夫よ」
「「へぇ~、シュンは師匠に頭が上がらないのか」」
くぅ~、何だこの二人の攻撃は!
その良い事を聞いたという顔を殴ってやりたい。
「そ、そんなことよりもアル達は何かしたいことないの?」
「お、誤魔化しやがったな。――俺は別にないが、楽しいことをしたいかもな。文化祭っていうのがどんなのか今一分かんねえけど、祭りなんだろ? そんなのでダンスしたりとか普通しなくね?」
確かに。
貴族だったらそうなのかも……なわけないよね。
祭りは祭りで、貴族の祭りとか聞いたことないし。
それじゃいつもやってるパーティーと一緒じゃん。
「アルの言うとおりね。私は、劇かしらね。ただ、時間が無いから上手くできるか分からないわ。勇者物語とかでもいいと思うけど」
良くある話だ。だけど少し長すぎるだろう。
ま、最初は無難に劇とかでいいと思うけど。
皆はどうなんだろうか。
「劇はといったらよくわからなかった勇者の劇があったけど、私は白雪姫がいいかな。勿論私はお姫様で、シュン君が王子様だけど」
「まあ、僕としては主役も準主役は嫌だけど、最後があれだからフィノがお姫様約やるのなら王子は誰にも渡したくない」
だって、最後はあれだもんねぇ。
「白雪姫? そんな物語あったかしら?」
「王国の物語か?」
二人が知らないのは当然だ。
そういった物語はフィノ以外にほとんど話してないからね。
ま、静かになったら将来の子供のために本を作るのもいいかもしれない。
子供といったら絵本だもん。
「白雪姫は私とシュン君だけの物語なの」
「え? 何それ!? ちょっと詳しい話を教えて!」
あー、シャルはこういった話が好きなんだね。
それに少し勘違いしているような気もする。
僕とフィノのエピソード的な?
僕は元平民だって言ってるし、伯爵になった理由も教えてないし、親公認の仲の理由も知りたいだろうね。
「ふふふ、白雪姫っていうのはある国のお姫様が悪い義母である王妃に命を狙われる話しよ。詳しく後で話してあげるけど、簡単にいうと世界一美しいことにあり続けたい義母から世界一美しい白雪姫は命を狙われ、妖精に助けられるの。でも、義母に見つかって毒の入った果物を食べてしまう。死ぬまでに妖精に助けられたけど、目を覚ますことがなくなった」
「え!? 物語終わっちゃうじゃん!?」
「まだ続きがあるのよ。――その後、妖精は白雪姫を棺の中に収め、いつ間でも美しいままの状態で何時の日か目を覚ますのを待ったの。そこに迷子の男性が現れて、一目惚れをしてしまう。男性は何を投げ打ってでも白雪姫を守ると誓うけど妖精は首を縦には振らない。だって、妖精達は白雪姫はもう目を覚まさないと思っているから」
何かしんみりとした雰囲気になったと思ったら、フィノの話に聞き耳を立ててるよ。
「だから、男性は諦めるから、最後に初めて恋をしたのだから別れの口付けだけでもさせてくださいって願うの」
「で、で、どうなるの!?」
「ちょっと落ち着いてシャル。――妖精は男性なら白雪姫も構わないでしょうと言い、口付けを許すことになるの。そして、棺を開き男性は口付けをした。すると白雪姫は生き返って、妖精と男性は涙するほど喜んだ。その後男性から告白があって、白雪姫が了承する。しかもその男性は大国の王子さまだった」
黄色い歓声が上がったけど誰も気にしない。
かなり端折ってるけどこの世界ならこのぐらいが良いだろうね。
男子の鼻息が荒くなっているのは……気のせいじゃないな。
「その後、国を挙げて結婚することになって、世界中の国々に招待状を出した。その中には王妃もいて、王妃はこの世で一番美しい女性を口にする鏡に訊ねるの。鏡は次に結婚する妃が美しいって答えるの。王妃は腹を立ててその結婚式に向かい白雪姫が生きていたことを知った。逃げようとする王妃に事情を知った王子が捕えてしまう。でも、心優しい白雪姫は王妃を殺すことは願わず、二度と自分の前に姿を現さないことを願い、男性は白雪姫に手を出せば自分が許さないって言って追い返すの」
そこでおしまい、と口を閉ざし、間違ってないよね、と僕に首を傾げて来る。
間違ってないよ、と頭を撫でて覚えてくれていたことに感謝を伝え、まだ一年しかたっていないのに懐かしい思い出だ。
周りでは自分の席から立ちあがった生徒達――ウォーレン先生とシュレリー先生も――がいろいろな声を上げていた。
「キャー! 何その話し! とっても良いじゃない!」
「勇者様の物語もいいけど、そういうお姫様主体の話も良いですわね」
「そうよね。しかも勇者物語と違って口付けで目を覚ます……。ロマンチックだわ」
「その後は王子様が自分が護る、というのですよね? 一度は言われてみたい言葉ですよ!」
女子生徒はやはりこういった物語が好きなのだろう。
僕としては白雪姫よりシンデレラの方が劇として合っている気もするけど。
だって、実際口付けしないとしても恥かしいし、シンデレラの方が劇向きだよね。
あと、僕が好きな童話は人魚姫とか赤ずきんとかかな。浦島太郎とかも面白いと思うけどね。勿論最後はハッピーエンドの方だけど。
「口付けか……。さすがに、な」
「あ、ああ、そうだな。でも、合法的に出来るぞ」
「まさかこの世にそのような神の如き童話があったとは……私もまだまだということですか」
「俺としてはフィノリア様が――」
「バッカ! そんなことしたらシュンに殺されるぞ! 絶対あの悪魔のような笑みで蹂躙される」
男子もそれなりに好意的なようだけど、変なことを言ったお前達の顔は忘れないからな。
「へぇ~、二人だけの物語ですか。それもそれでロマンチックですね」
「二人で作ったのか? それとも二人の馴れ初めか?」
「ウォーレン先生? そう言うことは聞いてはいけません。デリカシーが無いですよ? 知らない方がロマンがあっていいではないですか」
「う、うむ、そうだな」
意外に二人が一緒にいるところをよく見かける。
担任と副担任だと言えばそれまでだけど、昼食も一緒に食べている時もあるし、会話もどことなく明るい物ばかりだ。
ふむ、いいんじゃないかな。
「馴れ初めかぁ。あっているような気もするかも」
「え?」
「だって、順番は違うけど、悪い敵から救ってくれたし、毒じゃないけど魔法が使えるようになったでしょ? キ、キスもしたし、ね?」
え、ええ、や、したけどもさあ。
そのー、あれは人工呼吸だから、しかも男だと思ってたし。
でも、そう考えるとなんかいいかもしれない。
「ふふふ、シュン君も満更ではないと」
「ま、まあ、そうかも。でも、あの話とは関係ないよ」
顔が赤くならないように気を付け、フィノから視線を外す。
アルが訝しむけど、何でもないと首を振って拒否する。
だって聞かれても話したくないもん。
「でも、俺は劇なんて……」
「そうだよなぁ。劇って劇だもんなぁ」
「それ、意味わかんないわよ。でも、確かに劇って歌ったりするんだよね」
まあ、そういった意見もあるから劇は少し難しいかもね。
この世界の劇は確かに歌って踊るような奴で、魔法も使って派手だけど劇としては地味だったんだよね。
僕自身は劇とかあれが初めてだったからああいうのなんだと受け入れたけど、よく考えれば僕の知ってる劇は遊園地のショーとか、音楽も入れた大きなものなんだよね。
「あー、お前等。結局、文化祭で何をするつもりだ? 俺が思うに学園初といってもいい試みだ。だから、型に嵌らず、自分達がこれだ、と思う物をやったらいいんじゃないか?」
「そうですよ。学園長先生は自分達が楽しむように、ということですからね。私としてはフィノリアさんが語った二人だけの物語、白雪姫の劇はいいのではないですか?」
先生二人の提案に場は静まり、ほとんどの生徒が賛成に回るけど、やっぱり嫌だと言う人がいる。
まあ、僕も皆の前で何かをするっていうのは結構恥ずかしい物だけど。
「でも、劇は全員が出て喋るってことはないと思うよ。役は白雪姫、意地悪王妃、魔法の鏡、暗殺者(狩人だけど)、妖精七人、王子様の十二。僕達のクラスは二十五人で半分もいない」
「それがどうしたってんだ? 仲間はずれはいけないだろ?」
早とちりしたアルが苦言を強いて来るけど、僕は別にしたくない人を仲間はずれにするつもりはない。
「半分は魔法を使って演出したり、別にシナリオを変えていいのだから最後にパーティーを入れたり、王妃が悪足掻きして戦うシーンを入れても良いよね。なら、皆の要望を応えることにもなる」
「なるほどー。王様とかウォーレン先生にしてもらったりな!」
「そうね! 王妃様はシュレリー先生かしら?」
「「なっ(えっ)!? お前達(あなた達)何を言って――」」
『それは面白い!』
ノリが良くて助かるよ。
それと皆も先生二人の関係が気になってたんだろう。
この調子でくっ付けばいいのに、と誰もが思う。
因みに王様と王妃様は王子の両親ね。
「役割を詳しく言うと、小道具は全員で作るとして、出来ないところは幻術魔法を使って補助する。数人の騎士とか旅人とか欲しいでしょ?」
みんなよくわからないみたいだから幻術を使って、僕が想像して作り上げた城下の街並みを再現する。
勿論机とかを消すと怪我をするからそのままにしてるけど、天井は青空になって、床は古めかしい石畳、この辺りでは見ない露店などもある。もちろん人間は今まで知り合った冒険者達や人がモチーフだけどね。
「うおー! すっげえー!」
「でも、こんな魔法使えるかしら」
「そこは僕も手伝うし、全てを幻術でする必要はないよ。悪ふざけで木のポーズをし続ける人もいればいいし」
うんうん、こんな役の人が必ずいるよね。
犬の真似をする人や、倒れているだけの役とかね。
「劇は確かに覚えることが山ほどあるし、準備も難しい。でも、こういった難しい景色の魔法は観客ぐるみで僕が施せばいい。鎧とかは重いかもしれないけど本物をいくつか持ってるし、使える物は何でも貸すよ」
「シナリオは既にあるから変更していくだけで良いし、セリフも長い文はないよ」
「確かに、シャルみたいに覚えられなくとも役は出来るかもしれないな」
「アル! 覚えてなさいよ。――でも、その通りと言わざるを得ないわね。ダンスとかは少しだけ授業で習うし、戦闘は日頃やってるわ」
その一言で皆のやる気が出始め、僕達のクラスは白雪姫の演劇をすることになった。
役もすぐに決まり、というより主役はフィノしかいないという意見で、そうなると学園で認知された婚約者である僕がなるしかない。
勿論それは嬉しいし誰にも譲る気はないからいいけど、数人の上級貴族の男子生徒は足掻いてたね。ま、その後フィノ自身が僕とじゃないとしないと言ったおかげで撃沈されたけど。
悪訳王妃はシャル――本人は嫌がったけど、アルとかアルとかアルとかが、ね――と他の女子生徒が交替で行い、暗殺者(狩人)はレンが行う。アルはというと、少しアレンジするから僕に付き従う騎士だって。
他にもいろんな役があって、魔法に関しても夏休み前の造形魔法で大分上達していたから比較的出来ていた。
本番は一カ月ちょっと先の十一月半ばにあって、これは本番が楽しみだ。
Kはカ〇ムシです。
あぁ、考えただけでぞっとします。




