さらば、フェアルフローデン
この前の変な質問に答えて下さりありがとうございます。
これからも何か思いつけば質問すると思いますが、よろしくお願いします。
族長のフレデリア・ナチュアさんが姿を現し、騒然となった場を整えた後、僕達は改めて協力の確認に入る。
「ゴルド、なぜ協力をしたくないのですか?」
「平和が良いのです。もう過去の様な大戦を目にしたくもありません。それ以上の争いになると聞くと、もう……」
ゴルドニアさんの身体が、特に握り締められた拳がプルプルと震える。
どれだけ辛い思いをしたんだろうか。
魔物の侵攻の後も少し暗い空気があったけど、魔族との争いはそれ以上だったのだろうと思う。
だって、魔物は確かに慈悲なく無残に食い殺したりするんだろうけど、知性はないからそれだけ。でも、知性のある者は見せしめに殺したり、嗤いながら見世物にするんだと容易に考え付く。
だから、ゴルドニアさんの気持ちを理解することは出来ないんだ。
「では、ゴルドは個人の平和のために拒否するというのですね?」
「そ、そのようなことは……」
「いえ、貴方が言っていることはそういうことです」
まさかの言葉にゴルドニアさんは否定しようとするが、他人に言われて気付き言い返せない。
フレデリアさんは被せるように更に否定し、少し怒るような注意する顔になる。
「あなたの気持ちは痛いほどわかります。ですが、判断を間違えるのは長としてやってはいけない行為です。確かに私が決定すればあなたの意志に関係なく争うことになります」
安心させるような顔つきになり、一呼吸おいて続ける。
「あなたが長になるとき私にこう言いました。『エルフ全体を平和にするために頑張り、努力します。そして、危害が及べばいの一番に対処してみせる』そう断言しました。覚えていますか?」
「……覚えています」
ゴルドニアさんの身体から力が抜け、昂っていた体内の魔力もなりを顰めていく。
内心戦わないといけないとも思っていたんだろう。
でも、恐怖に勝てなくて、あんな態度とか取っていたんだと思う。
僕とは違うけど恐怖が辛いのはよくわかる。
逃げたくなるもんね。でも、僕とは違って逃げてほしくない。
「今がその時です。苦しいのは私もシルも同じ。ですが、私達よりもうんと若い世代に同じような思いをさせていいと思いますか? させてはいけません。そうさせないために私達知っている者が対処するのです」
知っているからこそ苦しみを理解し、同じような人を出さないようにする、とフレデリアさんは切実にゴルドニアさんに訴える。
命令しないのはこの人の人柄なのだろう。
「なら、自ずと答えは出せますね?」
ゴルドニアさんは短く返事をすると、僕達の方を向いて、先ほどとは違う決意を固めた目で僕達を捉え、真摯に頭を下げた。
「今までの非礼は詫びます。儂も協力させていただきたい」
その言葉に僕達は笑みを浮かべて見合い、同時に立ち上がってこちらも軽く頭を下げる。
「こちらこそよろしくお願いします。無理なことはさせないとここに誓います」
「将来のために頑張りましょう。私達が手を取り合えば乗り越えられるはずです」
最後に握手をした後席に座り直し、これでエルフ族との協力体制に一段落つくことになる。
まだはっきりとフレデリアさんの協力するという言葉を貰ってないけど、さすがにここで拒否されることはないだろう。されたらゴルドニアさんじゃないけど、驚愕するよ、絶対。
「では、エルフ族は長七名の賛成を経て、此処にエルフ族が纏め役族長として、正式にシュリアル王国と協力を結ぶことを宣言します。――これからよろしくお願いしますね」
「はい。こちらこそお願いします」
僕達はフレデリアさんと友好の誓いである握手を行った。
握手ってこの世界で通用するんだって。
というより、握手イコール友人になるって感じらしいよ。
「あとは話を詰めていくだけですね。お聞きしますが、何をお手伝いすればいいでしょうか?」
話し合いが終わると昼時となり、丁度友好が結べたということで昼食を食べながら話し合うことになった。
並んでいるのはエルフ族の伝統料理――多分、肉等を一切使わない精進料理だと思う――と、王国の伝統料理といいたけど僕は良く作り方とか知らないから、僕が作った豆腐や味噌汁等合いそうなものを選んだ。
「そうですねぇ、僕としては戦える人の戦力の底上げを行いたいと思います」
「それはそうでしょう。アルカナから覗っていますが、相当な魔法の使い手だとか」
「お恥ずかしいですが、魔法には自信があるので。それにフィノも魔法が得意です」
料理に舌鼓を打ちながら、他愛無い会話を始める。
「では、十数名王国に預け、様子を覗いましょう。まあ、ロビソン達の様子を見れば大丈夫だと思いますが」
「ええ、きついところや常識が崩れる音が聞こえますが、概ね大丈夫でしょう」
嘗めてんじゃないかなロビソンは。
「あとは情報交換や技術交換ですね。勿論機密事項は構いません。こちらも教えられないものがありますからね。僕の研究所に数名エルフをお借りしたいです。そこの技術は一般に公表していくつもりですからね」
「分かりました。私からは商人や冒険者や職人の手配をお願いできますか? これから協力するとなると、森を少し切り開くことをしないといけないでしょうからね」
フレデリアさんの言葉が意外で、僕達は少し驚いてしまう。
「族長、それは少し早計ではないかと思いますじゃ」
「私もそう思うさね。その辺りは事が終わった後でゆっくりとしてもいいのでは?」
二人もそれには難色を示してしまう。
ま、当然だろうね。
「そうですか。ですが、人手が少なくなりますから、それなりの人物をお願いしたいです。毎回この森を通って外に出るのは酷でしょうし」
そうかぁ、森を歩いて出て行かなきゃならないんだね。
森に入って数日かかったから、かなり深い場所にあるとみていいだろう。
何かパッと飛び越えていければいいんだけど、流石に時空魔法の転移系の魔法を魔道具にしたら事故とか犯罪が横行しそうだから、大型の管理する装置になるよねぇ。時間が無いから絶対に無理だ。
なら、もっと原始的な物かな。
「う~ん……そうだ。空を飛ぶっていうのはどうかな?」
「空を飛ぶ? フライを使うってこと? あの魔法かなり難しいよ?」
ま、そうだけど、それよりも簡単な物がある。
誰でも使えるわけじゃないけど、一人が従えてしまえば後は大丈夫だろう。お金はかかると思うけど。
「いや、魔法だけど、さほど難しくないよ」
「どういうこと?」
皆聞きたそうにしてる。
勿体ぶるのは意外に楽しいな。
「ふふふ、その方法はね、召喚魔法だよ」
『召喚魔法?』
ハモった!
「まだ理論もしっかりしてないけど、大型の鳥の魔物かワイバーン、若しくはグリフォン等の幻獣ですね」
「ですが、乗れる人数に限度があります。それに従えるにしても屈服させなくては……」
「そこも問題ですが、卵から孵化させれば問題ありません。迷宮都市バラクにある召喚用のお店がありますからね。なら屈服させなくても構わないでしょ?」
「じゃあ、人数は? グリフォンって多くても三人だと思うけど」
そこが問題なんだよね。
だから大型の鳥の魔物かワイバーンが良いんだ。
「そこは首から籠を吊るすとかして、自分には軽量化の魔法をかけて重さを減らしてね。それなら負担も減るしスピードも出せる」
「あ、そっか。それならフライよりも簡単かも……」
「だが、食費が掛かるだろう? 飼育費も掛かるし、場所もお前と違い取らなければならない」
そう、師匠が言う問題が残ってるんだよ。
山に置いておいて、召喚・送還の召喚魔法を使えば楽だけど、問題の解決にはなってないよね。
「いっそのことフライが簡単にできる魔道具の開発をした方が楽かな?」
「それはお兄様達に聞いてから考えようよ。今決めることでもないよ」
「そうだね。この件は保留にして、少し道を切り開くくらいにしましょう。同じ人数をこちらに連れてきます」
「分かりました。お願いしますね。――フィノリア王女様は何かありますか?」
僕は言い終わったから次はフィノの番ってことかな。
「私はお互いのことを知るために留学、ではないですが、年頃になった子供を体験させるっていうのはどうでしょう? 外を知っておかなければ誘拐される可能性もありますから、ルールを教えておくという感じです」
「同時に外にも目を向けさせるのですね。その件は少し考えておく必要がありますね。なら、七つの地区の代表者を決め、それぞれ研修させる方向でいきましょう」
「それなら構わないですじゃ」
「そうだね。そちらも何人か連れてくるといいさね」
かなりスムーズに進んでる。
まだいろんなことを決めないといけないけど、これからはお互いに尊重して動くことが大切だ。
「二人は何かありますか?」
最後にゴルドニアさんとシルルエクルさんに訊ねる。
「儂は特にないのぅ。強いて言うなら、儂らと確執のある種族とが問題と思いますじゃ。その問題は儂らだけではないのぅ」
「そうさね。確かに戦争は恐ろしい。だが、確執のある種族と手を組み協力するのはもっと難しいさね」
「……お二人が言うのは、ダークエルフについてでしょうか?」
エルフと確執があるとすればダークエルフだろう。
フィノもその話は知っているため、皆がそうだろうと頷く。
「ダークエルフとは随分前から関係が無い。じゃから、それほど確執があるわけではないのじゃ。ロビソンはダークエルフについてどう思っておる?」
「お、俺ですか? そうですね……俺は話にしか聞いたことが無いので、先入観があるのでしょうが悪者だと言った感じでしょうか。ですが、実際にダークエルフを見たことがあるわけでもないですから、忌避感を覚えて対立するといった拒絶はないですね。それに俺が村を出る時は、人族はエルフを攫うから気を付けろ、と言われましたが、それとあまり変わらないですね」
まあ、ロビソンの言うことに賛成かな。
僕の場合は魔族が悪者だとしか聞いてなかっただけだからね。
今の人族のほとんどがそうなんだろうけどね。
だから、時間が解決してくれるっていうのは本当の事なんだろう。
「闇魔法の使い手である勇者様のおかげで、エルフ族はダークエルフに対しそこまで悪い感情は持っておらん。じゃが、戦争ではお互いに対立しておるわけじゃ」
「だから、人族と協力するのはいいさね。でも、今までが今までだったダークエルフと人族と同じように協力するのは無理さね。まあ、魔族だと言われたら尚更と言うしかないね」
多分二人は僕が魔族と渡りを付ける話に気付いているのだろう。
それでも否定しないでこうやって話してくれるということは、考えてくれると取ってもいいのだろうか。
後で、話し合っておこう。
「分かりました。ですが、今は争っている時間もありません。魔族は邪神と無関係な筈です」
「そうなのですか? ですが、先の争いは魔族がいたとか」
ああ、そこまではしっかりと伝わってなかったのか。
「今度確かめに行くつもりですが、どうやら魔族は二つの勢力に分かれているようです。一つは人間と争はない穏健の魔王派。もう一つは邪神に侵食でもされていると思われる過激派ですね」
「シュン君が聞いた話では天魔族という種族がそうなんだよね? 失礼な言い方だけど、人間とエルフを足して割った様な姿で、天使とは思えないほど醜悪で姑息だっけ?」
凄い言い様だけど確かにそんなことを言われた。
天使の血が入ってるんだけど、羽根も無ければ純粋な心の持ち主ではない。まあ、竜魔族がそうだから、その反対だとしたら悪魔の様な種族になるはず。若しくは堕天使とか。
でも、バリアルから聞いた話では全くの別物だね。
「ふむ。信じれんが、二百年近く戦争をしていないということはそうなのかもしれんのぅ。それと、その話し合いに行く時に儂を連れて行ってくれんか?」
「え? ゴルドニアさんを、ですか?」
まさかの発言に僕達は揃って驚きの顔になる。
確かにその方がダークエルフと話しやすくなる。
出来ればこっちからお願いしたいけど、やっぱり難しいところがあるし、絶対に護れるとは僕も断言できない。
魔王は僕よりも強いだろうしね。
「何もゴルド爺が行かなくてもいいじゃないか。次期長のロビソンは行くんだろう?」
「ええ、まあ、専属に近い護衛ですから。上司であるレオンシオ団長も護衛でいきますから行かなければなりません」
「なら、次代の担い手であるロビソンに任せてもいいじゃないかい」
やはりシルルエクルさんは心配なのだろう。
でも、フレデリアさんは少し思案する顔で考えていて、お互いの主張に対してどっちがいいか悩んでいるんだろう。
「確かにシル婆の言う通りじゃ。じゃがな、過去の確執は過去の者がキリを付けねばならん。次代の者は未来のことだけに専念するべきじゃ。先ほどまで喚いておった儂が言うのもおかしいのじゃが、儂じゃからこそエルフ族を代表してダークエルフに誠意を見せに行く。あちらの思いは理解しとるしのぅ」
多分世界樹についてだろう。
世界樹はあの中央にある大きな木で合っていると思う。そうじゃないと精霊が多く集まっている気配がするわけないしね。
「しかし――」
「分かりました。本当なら私が行くべきなのでしょうが、生憎この場を離れる明けにはいきません」
「族長まで!?」
狂乱しそうになるシルルエクルさんは、どうか考え直してほしいとゴルドニアさんに頼み込む。
二人は夫婦ではないけど、何百年も一緒にいるエルフだ。家族並の情があるのは当たり前かもしれない。
しかも過去の争いを生き抜いた同士なら尚更だ。
「お互いの主張が間違っているとは言いません。ですが、こちらが誠意を見せるとしたらゴルドが行くべきでしょう。あの戦争の生き残りですからね」
「な、なら、私が――」
「それはダメじゃ」
間髪入れずにゴルドニアさんがシルルエクルさんの言葉を拒否する。
シルルエクルさんはどうしてという顔をするけど、ゴルドニアさんは真剣な顔で自分が行くと言いはる。
「シル婆は後方支援をしていたじゃろうが。儂は前線で戦っておったからあちらと知り合いもおる。敵同士じゃが話は聞いてくれるじゃろう」
「ゴルド爺……」
「それにこういう所で格好つけんと、さっきのが帳消しにならんじゃろうからな」
最後におちゃらけてそういうゴルドニアさんだが、皆ゴルドニアさんがシルルエクルさんに危ないことをしないでほしいと思っているのが分かっている。
僕もフィノにはしてほしくないからよくわかる気持ちだ。
あと、男として奥でくすぶっているのはと思うんだろうね。
「話を戻しますが、魔族との交渉はあちらとのやり取りもあるので冬以降となるでしょう。ですから、それまでにどのようにするかお話しください。良ければ通信用の魔道具でも作り話せるようにもしますよ」
どうせ各国と種族を纏める為に会議を開かないといけないんだ。
だから、魔闘技大会の時に見た映像の魔道具を各地に作ろうと思っている。所謂テレビ電話だね。
僕には機械の知識が無いから難しいけど、研究者に相談すれば一年程で作れるだろう。だって元々の機材はあるんだし、大型にして使うだけだ。
まあ、そのための条約や規則も作らないといけないけどね。
「では、最後に全権代理をアリアリスに任せます。それは拒否を許しません」
断言する威厳のある声に師匠は嫌な顔をするけど、それは仕方のないことだと頷いて了承した。
話し合いが終わった後は談笑となり、僕は幻獣である白尾の狐について尋ねた。
どうやら幻獣と言うのは各地に隠れ住む、お伽噺に出てくる存在らしい。
実物があるからそのお伽噺は本当のことなんだろう、とのこと。
幻獣の中で代表的なのが東方の深き森に生息する神域の主フェンリル、ユニコーンやペガサスを従え神の愛馬であるスレイプニル、北東の世界の果てにいるとされる大蛇ヨルムンガンド、南方の古の洞窟にはゴーゴンが封印され、どこかの森にはラミアや蛇の頂点に立つエキドナが住むと言われる。
そして、清らかで正常な空気が漂うどこかの大陸に、僕が探している白尾の狐がいるらしい。
白尾の狐は九尾の狐と混同されるそうだけど、白尾の狐は巨大な尾を持つ一本尾の狐らしく、近くに狐の獣人が崇めているお伽噺がある。
巫女と言う単語も出て来るから、ちょっと楽しみだ。
黒髪のフィノに似合うだろうなぁ。
今度服を作ってきてもらうべきか。上手く作れば売れるしね。
だから、次の目的地は獣人族の下に決め、そこで狐の獣人が住む大陸か島を探そうと思う。
それから数日間エルフと友好になる為に族長達八人と話し合い、エルフの子供達に魔法の使い方や薬草に見分け方、大人には魔力感知を応用した見分け方を教える。
これは僕やフィノみたいに魔力量が多いと敏感になって見分けられるけど、普通の人族には技術面でも足りなくて難易度が高すぎた。
でも、魔法と森の申し子と思えるエルフなら出来ると思って教えたんだ。
結果は皆が使えるようになったわけではないけど上々だったよ。
そして、いよいよ僕達は夏休みの終わりが迎え、一旦王国へ帰ることになった。
「シュン君、フィノさん、よろしくお願いしますね」
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
「エルフ達は責任を持って預かります。近いうちに人も送りますから、王国の紋章をお確かめください」
最後の別れを僕とフィノとフレデリアさんで行う。
帰りは転移で王国近くまで還ることになっている。
だから、エルフもついでに連れて行くことになって、各地区の子供が二人ずつと、その保護者が一人ずつ、アルカナさんもついてくると言い張って、皆で二十人近くいる。
まあ、大所帯になったのはそれだけ受け入れてもらえたってことでいいだろう。
魔力は足りるだろうし、足りなければポーションがある。問題なしだ。
「それでは私達エルフ族と」
「「僕達(私達)人族の」
「「「未来のために協力を願います」」」
最後にそう締め括って僕達は皆の元に戻る。
と、そこへ一人の影が近づき、何事かと驚いている僕に鋭い視線と指を突き付けた。
「俺も付いて行く! お前達が本当のことを言っているのかこの目で確かめねば、人族なんか信用出来るものか」
「待て、アルヴィンっ! お前はどうして!」
後からシュロロムさん達警備隊のエルフも現れ、僕達に激しく頭を下げながらアルヴィンを引き下がらせようとする。
だけど、精霊の力を使って無理矢理引き剥がし、僕の目の前までドスドスと音が似合いそうな足音で近付いてくる。
念のためフィノを背後に庇い、対峙する。
「いいか? 俺も連れて行け。そうでなければ……」
「力付く、ということですか……」
僕とアルヴィンの間に魔力の渦が巻き上がり、激しい風が吹き荒れる。
「シュン君」
心配そうな声が聞こえ、すぐに制御する。
一触即発に見えるけど、僕もアルヴィンも攻撃を仕掛ける意志はない。多分。
周りの精霊が近づき、何やら僕の魔力を吸い込んでいる気もしなくもないけど、周りに被害が出ないようにアルヴィンの魔力ごと上へ纏め上げ放出させる。
魔力の質を変え、相手と同調することの出来る僕だから出来る荒業で、魔力譲渡の応用技、魔力強制操作だ。
ま、安直だけど、相手の魔力コントロール権を奪い去り、僕が自由に操作する高等技だ。さすがに精霊の魔力はビクともしないし、師匠やフレデリアさんには効かないだろう。フィノは微妙な所だね。
魔力操作や制御の技術が高いと負けちゃうはずだ。やっぱり自分が作った魔力は自分が操作した方が権限が強いからね。
「ど、どういうことだ!? 俺の魔力が……。貴様、何をした!」
アルヴィンは目の前で……自分の身に起きた現象が理解できず、周りの人と一緒にポカーンとしていた。で、僕が少し笑っていることに気が付いて、周りの反応もどこか溜め息をつきそうなのを見て犯人に気づいた。
後ろで奇声が聞こえるのはアルカナさんだから放っておこう。
同じ研究者のエルフの人には申し訳ない。
「さてね?」
「くっ!」
「まあ、そちらが来てもいいというのなら、僕としては拒むことはありません。ただし、こちらにはルールがありますから、護ってもらうという絶対条件があります」
何か言っているけど、さっきの現象で力の差を思い知り、精霊が何か喜んでいるから僕に強気に出れない。
僕が威圧したのはアルヴィンは絶対に言うことを聞かないと思っていたからで、先に仕掛けてきたのだから好都合だった。それを利用して僕には敵わないということを思い知らせる。これでどう転んでも大丈夫だと思ったわけだ。
まあ、アルヴィンの登場がまさかここでこういった感じだとは思わなかった、というのも無きにしも非ず。
すっかり彼の存在を忘れてた。
「そうですね、警備隊の者がいなくなるのは少し問題ですが、そこまで影響が出るものでもないでしょう」
「はい、今のでこの辺りの魔物は一斉に逃げたのではないかと思われます。友好になればエルフ狩りの人間も少なくなるので警備も楽かと」
目を白黒させていたフレデリアさんにシュロロムさんが答えた。
「だが、アルヴィンが外に行くかどうかは別だ」
「シュロロムさん! 人族がどのような――」
「それがいけないと言っているんだ! お前は誰に対してもその態度を取るつもりか? フィノリア様は一国の王族。その婚約者であるシュン様も同様となる。そのご両親は元国王陛下と王妃様だ」
「そ、それが何だと言うのですか……」
アルヴィンは意外におバカさんだったのだろうか。
流石に今のは僕でも何が言いたいのか理解できた。
エルフ族皆温かい目で見ていて、アルヴィンがとても可哀想に見える。
「はあああぁ~。良いか? 国王と言うのは一国の長だ。私達エルフ族で言うとフレデリア様に当たる」
「ま、まあ、そうですね」
「まだわからんのか! お前がやっているのはそのフレデリア様に盾突いているのと同じだ! 馬鹿もんが!」
「イテッ!」
アルヴィンは思いっ切りシュロロムさんに殴られ、地面の上に倒れる。
「もういい! ――不躾なお願いですが、この物知らずで世間知らずな子供に外の常識と言うのを教えてやってください。迷惑をかけるでしょうが、ここまで馬鹿だと外を見ないと変わらないと思うのです」
痛がるアルヴィンの首根っこを押さえ、シュロロムさんはまるで親のようにお願いしてくる。
二人は家族じゃないよ。
「え、ええ、構いません。フィノも良いよね?」
「うん、何も起こさなければ大丈夫だと思う」
うん、それ無理だと思う。
勝手に外に出て問題を起こし、勝手に触って怒られ、勝手に戦って怒られるのが目に見えてるもん。
「では、よろしくお願いします。何か問題を起こせば私が飛んで行きます。今は出ていませんが、アルヴィンの両親は警備隊総隊長ですから、何か問題を起こせば報告するから肝に免じておけよ? アルヴィン」
「は、はい! だから、父さん達に報告するのだけは……」
「とのことですから、どうぞ安心して連れて行ってください」
そう凄みのある黒い笑みから爽やかな笑みに変え、シュロロムさんは猫でも差し出すように項垂れたアルヴィンを差し出す。
それを受け取るわけにもいかず、とりあえず自分の足で立って移動してもらった。
シュロロムさんはバトソンさんタイプだったんだね。
まあ、なんとなく苦労性だとわかる気がする。
「では、これで失礼させていただきます」
「これからよろしくお願いします」
「皆元気で頑張ってくださいね。こちらこそよろしくお願いします」
僕達は手を振って最後の別れを済ませ、
「『我らの場所を移せ、転移!』」
光に包まれ、その場から消え去った。
アルヴィンと戦わせようと思ったのですが、長くなりますし、こっちの方が意外性のエルフ族としてしっくりくるかと思いこちらにしました。
絶対に到着早々迷惑をかけると思います。




