族長登場
意外にエルフ編が長くなりましたが、あと1、2話で終わらせ学園編に戻ります。
「いやじゃ! いやじゃいやじゃいやじゃいやじゃいやじゃいやじゃやじゃやじゃやじゃやじゃアアアア! いやなんじゃアアアアアア!」
「まあまあ、落ち着きなさい、ゴルド爺」
「いやじゃ! いやなもんはいやなんじゃ! シル婆は許せるのか!?」
目の前で六十代を越えていると思える老人エルフが、反抗期の子供のように喚いていた。
うん、本当に子供のように喚いているし、背丈も僕らより少し低いくらいだから、百四十ぐらい? 歳は六十そこそこだから六百から七百程度だね。
いやー、全員がってわけじゃないけど、エルフって年取ると少し縮むんだって。
まあ、人間も歳を取れば腰が曲がったりして縮むんだけど、流石に数十センチも縮みはしないね。
こっちの世界に来て種族の神秘を垣間見た気がする。
「どうして享受している平和を捨てねばならんのじゃ! 争いなんぞ儂の目が届かんところでしておれ!」
唾を撒き散らしながら駄々を捏ねているのが、森で採取することを専門にしている地区の長ゴルドニア・ボーウォンと言う老エルフだ。
過去にいろんなことがあって悲しい思いをしたみたいだけど、さっきから僕達の話を聞かずに敵視している人だね。
どんな思いがそこにあるのか知らないけど、ゴルドニア爺さんの目の届かないところって無理だと思う。
「まあまあ、落ち着きなさい。何を真っ向から否定しているさね。こうして来て下さったのだから、少し話を聞いてもいいのではないかね」
こっちのお婆さんはシルルエクル・フーム婆さんと言って、放牧地区の長をしているエルフだ。
僕はこっちのエルフの方が手強そうに感じてて、一見人が良さそうで、しっかり話せば聞いてくれそうだけど、その目は全く笑ってない、本当に話を聞くだけって感じがする。
多分それをフィノ達も読み取ってるから苦笑してるんだと思う。
エルフたちは苦笑いを浮かべてるもの。
「ゴルドニア老ッ! 言っていることが違うではありませんか! 長のうち五人が納得したら話を聞いてくれる約束でしょう! フィノリア様方は来なくていいのをこうしてわざわざ訪ねられているのですよ!」
我慢の限界が来たバトソンさんが、顔を鬼のように変えゴルドニア爺さんの胸元を両手で締め、二メートルほどの高さまで持ち上げた。
って、いやいやいやいや、バトソンさん怖いんだけど!
「ちょ、まっ、く、くる……し、ぃ」
「まだ喚くというのですか! これがエルフだと思われたらどうするつもりですか! 他のエルフのせいでシュン様方はきっと残念エルフと思っていますよ!?」
ちょ! そこなんで僕の名前なの!?
いや、フィノだったら怒ってたけどさ、当たり前のように僕の心を言わないでよ! 合ってるから顔に出さないように努めるけどさ……。
そ、それでもちょっとひどいんじゃない?
それよりもゴルドニア爺さんあんたの腕をタップしてるって!
このままじゃ死んじゃうよぉ!
「あなた、首が締まってるわ。それではまた長を決めないといけないわ」
って、その理由はないと思うけど……。
もう……いいや。突っ込むのも疲れるし……。
「ん? あ、すみません。ついカッとなって」
「ゲホッ、ゴホッ……ゴホッ。お主、ちっとも変わっとらんのぅ」
涙目で咳き込むゴルドニア爺さんは、目を真っ赤に充血させてバトソンを睨むように言った。
変わってないってことは、バトソンさんの普段は温厚で苦労性だけど、少しでもキレてスイッチが入ったら周りが見えなくなるタイプね。
まあ、酒を飲んで歌い出すとか泣き上戸とかと同じ分類だから、別に残念エルフではないね。
でも、僕は一言も残念エルフと言ってないし、それらしいことも言った覚えがないから、きっとバトソンさんは残念エルフって思ってるんだよ。
絶対に僕の目がそうだったわけじゃない! 絶対! 多分、恐らく……きっと、ね。
「ゴルドニア老。エルフを纏める一人の長として、約束したことは守ってください。その対応が知らない人にエルフ全体の性格だと思われるのを分かっていますか?」
「む? う、うむ。わ、儂も、少し大人げなかったかのぅ」
僕達を見てまだ子供のようだし、と小さく言っていた。
まあ、普通はこういった事案には大人が出張ってくるよね。
でも、今は人手不足だし、エルフとか種族柄強さがあるのなら、僕とかフィノみたいな人間が行くべきだと思うんだ。
暗に僕達が強いって言っているようだけど、地位も備わっていてと付け足したらそんなにいないよね。
「ゴルド爺も落ち着いたところで、王国の方々の話を聞こうかね」
全てを見透かすような目を向けて、シルルエクルさんがそう切り出して来た。
僕達の背筋にぶるっとするような痺れが走り、自然と緊張が生まれる。
これが長寿が持つ威厳的な物かな。
「既に僕達が訪れている理由については、こちらに居られるバトソンさん及び、四人の長の方から聞かれていると思われるので省きます。率直に覗いますが、御二人はどうして反対を? ゴルドニアさんは平和が破られるのが嫌だと仰いましたが」
そういうとゴルドニアさんは再び立ち上がって、目尻を吊り上げて喚き始めようとする。
だけど、バトソンさんが予知し、睨み付けると同時に両肩を上から押さえつけて無理やり座らせた。
誰もスルーしているところを見ると……いつものことだったりして。
「ぐぬぬぅ……。そうじゃ! 今の平和を崩されたくない! もう争いは嫌じゃ!」
すまし顔のバトソンさんを睨むけど、エルフにしては筋肉質なバトソンさんを、身長差もある為逃げることは出来ない。
仕方なく僕達の問いに答えるけど、言っては何だけど子供みたいだ。
「そう言いますが、平和を享受し続けることが可能だと思うのですか?」
「そうです。以前魔物が侵攻した時、エルフ族にも少なからず影響が出たと思います」
「いやじゃ! 争いなんぞお前達でやっとればいい! 関係の無い者達を巻き込むんじゃないわい!」
ムカッと来るけど、これは怒るべきなんだろうか?
「では、ゴルドニアさんはエルフが襲われないと思っているのですね?」
「そ、そうは言っとらんが……。兎に角、戦いたくない!」
そう言ってそっぽを向いてしまった。
仕方ないので次に、笑っているけど笑っていないシルルエクルさんの方を向く。
これは僕とフィノの共同作業で向かうしかないだろう。
相性はいいはずだ。連係プレーでこれを乗り切るぞ!
「では、シルルエクルさんは何故反対されるのですか?」
「理由をお聞かせください。私達もただ嫌です、では納得いきません」
なおもニコニコとするシルルエクルさんは、視線の先を移動させて、僕達の背後で壁に寄り掛かっている師匠を見た。
は? ここでも師匠は何かやらかしてたのか?
全くこの人は……。
「アリア、いつ帰って来たのかい? 私に一言も挨拶しに来ないとは、一体どういう了見だね?」
「いやいや、私は帰ってきたわけではない。それにいずれここに来ることは分かっていた。シル婆に挨拶するのはその時で構わないだろう?」
「嘆かわしい。お前さんの弟子は私達に礼儀としてあいさつに来てくれる。もう私達二人の意見等聞かなくとも族長に会えるというのに」
あ、それに気づいてたんですね。
まあ、普通は気付く……ああ、ゴルドニアさんは気付いてなかったんだね。
本当子供みたいな性格してるよ。
「弟子はしっかり育っているようだが、本当にアリアが育てなのかね? あのアリアが」
そして無視ですか。
何だかゴルドニアさんがあんな性格になったのが何となく理解できる気がする。
「シュンのことを言っているのなら、彼は弟子の中でも異色の存在。恐らく私の手が無くとも今のように育っていたはず。私が教えたのは基礎とこの世界についてだ」
弟子の中っていうけど、僕しか弟子いないよね。
まあ、僕の弟子であるフィノ達も弟子かもしれないけど。
師匠の師匠は大師匠とかだし、弟子の弟子は又弟子っていうしね。
「今はそんなことどうでもいいだろう? シル婆はどうして反対なんだ? あなたはそんな人ではなかったはずだが」
話が進まないと思ったのだろう。師匠は本題に入る。
「そうさね。私はゴルド爺みたいに平和が良いとは言わないよ。そんな夢物語早々に捨てている」
「な、なんとッ!?」
「私は過半数の長が協力するのならしても良いと思っているさね」
ん? どういうこと?
協力してくれるっていうことでいいのかな?
「なら、残るはゴルド爺だけでいいのだな」
「待ちなさい。私はまだ協力するとは言ってないよ」
「今、過半数を越えたら協力しても良いといったではないか。長の一人であるあなたがどういうつもりだ?」
師匠またここでも何かやらかしてんじゃないの?
「しても良いと言っただけで、するとは一言も言ってないさね」
何、その屁理屈。
「はぁ~。では、どうしろと言うんだ?」
「そうさねぇ……私やゴルド爺はもう年だ。まだ二百年は生きられるだろうが、もうじき長を決めた方がいいと思っている」
「ふぁッ!? シル婆、何を言っておるんじゃっ!?」
本当にこのゴルドニアさんは子供っぽい。
僕達もさっきの反応を無視してたけど、弄られキャラ的なポジション?
で、今の反応も無視でしょ。
「まさか、私は絶対に長にはならないぞ。私にはすべきことが多くある。今エルフの村に留められるわけにはいかない」
「そ、それは僕達も困ります。今師匠に抜けられたら辛いです」
「せめて、この争いが落ち着くまで待ってください」
「はい、その後なら喜んで師匠を差し出します」
「な、なんだと……売られたのか、私は……」
アルカナさんのことを黙っていた仕返しですよ。
別に落ち着いたら長になってもいいじゃないですか。
どうせ長になっても誰かに任せてどこか旅に出るつもりなんだろうし。
「ふん、どうやら弟子達に恵まれているようさね」
「どうせ私は……」
「違うさね。フィノリア王女様はわからないが、シュン様はアリアのことを分かっている。師匠のことだから抜け出すとか思ってるんじゃないかい?」
な、なぜばれた!?
もしや、僕と同じ同調が使えるのか!
「顔に出やすいから気を付けるんだね」
「え? そうなの?」
「まあ、分かり易いかなぁ。で、でも、私は感情豊かで嬉しいよ」
そ、そうだったのか……。
フィノの優しさがとても悲しいけど、ありがとう。
「それにこんな可愛くて素直な弟子が師匠を売るわけがないだろう? お前のことを分かっているから冗談も口にする。師匠がそんなのでどうするというんだい」
「あ、ああ、そうだな。――シュン、疑ってすまなかったな」
「い、いえ、僕の方こそ言い過ぎたと思います」
なんかおかしな感じになったけど、言い過ぎなのはいけないね。
後でもう一度師匠に謝っておこう。
「だが、私やゴルド爺の次は既に決まっておる」
「だろうな。大体外にいたエルフにいきなり特定の地区の長に付け、というのは酷どころではない。いじめと言っても過言ではないぞ」
まあ、魔法地区なら師匠でも務まるだろうけど、料理地区とか細工地区とか任せられたら、地区が壊滅的になっちゃうよ。
放牧地区とか採取地区位なら出来るかもね。あと、狩猟地区も大丈夫だと思う。調合地区もダメだね。
「そうさね。アリアに任せられるのは魔法地区と狩猟地区の二つ。どちらも森で生きられる方法と実力を持っていればいい。放牧は合わないだろうし、採取も出来るだろうが性に合わないだろうね」
また心を読まれた!?
今度仮面でも買うべきかな?
今までこんなことなかったから、絶対シルルエクルさんが鋭いだけなんだ。
「なら、どうして今その話をする?」
「まだわからんのかい?」
だんだんイライラしてきているのが分かる師匠に、シルルエクルさんは鈍い奴だとなじりながら、小さく息を吐いて言う。
「そんなの決まっておろう。アリア、お前の次期族長を務めてもらいたい」
「……はぁっ?」
思いもしなかった爆弾が降注ぎ、思わず師匠は素で間抜けな声を出す。
顔も完全にぼけてんじゃね? と言ったような顔だ。
でも、僕達は納得するような気持ちになる。
まあ、務まるかは別としてだけど。
「族長は私達以上に高齢なエルフさね。今すぐどうこうではないが、話しに聞く争いが起きた場合、努め切ることが出来るか心配している。村から出るのも難しいさね」
急な展開に師匠が慌てるけど、慌ててるのは師匠だけで、僕達はどうするべきなのか困惑する。
適任だとは思っても、族長になると余計に動けなくなるんじゃないかと。
でも、シルルエクルさんの言葉のニュアンスが違う気がする。
「ま、待て、待ってくれ! わ、私が族長だと!? 一体何の冗談だ! 今まで外に出ていた者に務まるわけないだろ!」
師匠は混乱しながらも、やりたくないと固辞する。
でも、シルルエクルさんは一歩も引かず、淡々と事実を述べるように理由を話す。
「アリアの実力は申し分なし。加護もあるからエルフ総意としても問題なし。歳も丁度いい頃合いさね。外にいたから縁もある」
「な、なるほどー」
「シュン! 納得するんじゃない! 師匠を援護しなくて弟子としてどうする!?」
うえー……だって、そっちの方が楽になる気がするんだもん。
「フィノもそう思うよね?」
「うん、まあ、そう思うかも」
「姫さんまで!?」
あ、ガッデム状態だ。
「でも、師匠が族長になってくれれば僕達としてはエルフの協力が得られるわけで」
「エルフとの連絡も取りやすいですね。反則かもしれないですけど、身内が種の長にいるというのはそれだけでやりやすいところがあります」
「ふ、二人が……。だ、だが、私でなくとも、ロビソンがいるではないか!」
師匠、どんだけしたくないんですか。
まあ、種の頂点に立つという重圧がどれくらいか僕にはわからないけど、人の上に立つより厳しい物があるんだろう。
僕だって研究所の上に立つのは違和感があったし、学園で魔法を教えた時も違和感がバリバリあった。
「お、俺ですか!? そ、そんな務まるわけが!」
ま、当たり前だよね。
「こやつは次期狩猟地区の長になる予定さね。そうだろう? バトソン」
「ええ、任せるつもりです。そのために王国に出しましたし」
「ま、まあ、それは仕方ないです。元から言われ続けてましたし」
なに!? ロビソンが長の一人になるだって!?
これはしっかり鍛えないといけないのではないだろうか。
「シュン様。今の状態で十分です」
「何のことかさっぱりだ」
くっ、ロビソン如きに読まれるとは、僕もまだまだということか……!
こうなったら幻術で表情を作るか?
「往生際が悪いさね! お前が族長になれば丸く収まる! なぜそれが分からんのかい!」
「だ、だから私でなくとも――」
「お前だからいいさね! 話から聞くに次は戦乱が起きる。なら、実力のある者が上に立たなくてどうするのかい? 外と繋がりがあり、王国の王族と知己となった。そのフィノリア様の婚約者はお前の弟子だろうが!」
師匠の反論を全て封殺するシルルエクルさん。
そして、隣で目を白黒させて声を挿もうとするゴルドニアさんは、さっきからバトソンさんに抑え付けられ、シルルエクルさんの振う腕や肘が当たっていたそうだ。
でも、誰も気づいていないかのように振る舞い、僕もとりあえずそれに乗っかっておく。
「どうしたらいいのかな?」
フィノが呟くけど、果たしてどっちの心配をしたんだろうか?
「いや、私でなくてもいいだろ!」
「何を言っておる! 今のエルフを引っ張るには実力・繋がり・身分共にあるお前がやるべきさね!」
「身分はないだろ? 加護があるからと言っても地位があるわけじゃない!」
「いいや! あるさね! 族長ほどではないかもしれないが、実力面で言うと族長より上さね! 特に加護の力には誰でも言うことを聞くはずさ!」
ヒートアップする口論に僕達はオロオロし始める。
止めるべきなんだろうけど、とばっちりを受けそうで誰も踏み込めない。
バトソンさんもさすがに二人には手を出せない様で、ゴルドニアさんがどれだけぞんざいな扱いを受けているのか分かった。
今度から優しくしてあげよう。ご老人はいたわってあげないとね。
「この分からず屋! やはり歳を取ると意固地になる。いや、シル婆は元々か!」
「お前こそ分かっておらんわ! お前こそ外に出て弟子を取ったから大人しくなったかと思えば、まだまだ手のかかる反抗期な子供さね!」
魔力が高まり始めたんですけど!?
それに騒ぎに応じたのか、精霊も僕達の周りに避難し始めたのはどうしてだろうか? いや、避難と言うより現れたって感じだけど。
でも、一体どこから現れたんだ?
全く気配を感じなかったぞ。
「二人とも落ち着きなさい。精霊が騒いでいるのに気付かないのですか?」
と考えていると、この場で聞いたことのない凛とした女性の声が空間に響き、シャンと音が鳴りそうな服と杖を持った女性エルフが姿を現した。
師匠とシルルエクルさんは勃発しそうだった魔法大戦を止め、声がした方を向き急に姿勢を正した。よく見ればバトソンさん達も同じで、あれだけ騒いでいたゴルドニアさんは紳士的に腰を曲げていた。
「あの人が族長、だよね」
「うーん、多分そうだと思うけど……」
何か決定的に違う。
そう、力とか精霊がとかじゃなくて、こう見た目が決定的に族長なのかと否定している。
容姿はエルフに相応し神秘的で絵画ではないかと思える美貌の持ち主で、実力もこの精霊の多さと感じる穏やかな魔力で分かる。凛とした声には上に立つ者の威圧染みたものが合って、優しい声だったけど従わずにはいられない。
でも、どう考えても前者の絵画と思える美貌はおかしい。
「だって……族長はお年寄りじゃなかったんですか?」
「シュン君、それはさすがに失礼な言い方だよ」
「え? あ、ごめん! すみませんでした」
思わず口から出てしまった発言は取り消せず、クスリと笑った顔に罪悪感を覚えながらすかさず頭を下げた。
そう、高齢なエルフと聞いていたのに、出てきたエルフはどう考えても二十代後半から三十代前半の容姿を持った、とても美しい皺ひとつない女性だった。
いやいや、どう考えてもおかしいよね。
オブラートに包むという言葉すら思いつかなかったもん。
「いえいえ、良いのですよ? 私はこう見えてもシルやゴルドより歳を取っている老齢なエルフです。今年で千三百を数えるでしょう」
そう優しい笑みを浮かべて慈愛のオーラを醸し出しながら言う女神の様なエルフに、僕とフィノだけでなく全員がほんわりとした気分になる。
「へぇ~、千三百歳ですか……千三百!? 失礼ですが、どう見てもそんなようには見えません! もしかして幻術?」
「シュン君?」
「はい! ごめんなさい! もう言いません!」
どうやら僕はフィノの尻を敷かれてしまうようです。
まあ、フィノになら……いいかも。
Mじゃないよ?
「ふふふ、面白い方ですね」
「本当にすみませんでした。かなり不躾な質問で」
「いえいえ、当然の疑問だと思います。同じエルフにも言われますからね」
周りを見れば師匠以外頷いていた。
まあ、師匠は一時此処にいなかったからよくわからないのだろう。
村ではそれなりに忙しかったみたいだし。
「私の姿は幻術を使っているわけでも、変装しているわけでもありません。魔法で肉体を活性化させ、衰えた身体を若く保っているだけです」
「でもそれは……」
「負担は大きいですが、私は精霊も操れますし、加護はありませんが生命魔法と呼ばれる回復魔法の上位魔法を使えます」
生命魔法?
命に関する魔法と言う意味だよね?
回復魔法の上位版なんてあったのか。でも、多分僕には使えない魔法な気がする。例えば、精霊魔法のようにエルフ特有だったり、長寿特有だったり、とね。
「死者蘇生は出来ませんが、欠損の回復や病気の治癒、無機物は無理ですが、人や動物以外の植物にも効果があります。体力の回復も出来る、本当に命にかかわる魔法です」
「生きてさえいれば回復できる可能性がある魔法ですか。制約の様な物もありそうですね」
「ええ、膨大な魔力を使いますし、命を回復させるとなるとそれ相応の力が必要です。若返りぐらいなら常時魔力が減るくらいですが、歳自体は変わりませんからね。魔法を解いた場合どうなるか分かった物ではありません」
ええええ!?
それって相当危ないことをしてるんじゃない!?
魔法を解いたらミイラになったりするかもしれないってことでしょ!?
「師匠! 族長になりましょう! いや、なるしかないです!」
「待て待て待て、そんなわけにだろう! 話に乗せられるんじゃない!」
「何言ってるんですか! 魔法が嘘だと言うんですか? それぐらい見たら嘘かどうかわかりますよ! さ、族長になりましょう」
「だから待てと言っているだろう! 常時発動して保っているんだぞ? それも何百年も。それに魔力が多いということはそれだけ寿命が長くなる。一般エルフの寿命が千だとすると、今の私は千三百は生きる。私より多い魔力量の族長がそれより低いわけないだろう?」
え、そうなの?
フィノも知って、なわけないよね。
「エルフが千歳まで生きるのは知ってたけど、流石にそれ以上生きるとは思わなかった。人族の私達なら百四十ぐらいが限界じゃないかな」
「いや、それも大分多いよね」
突っ込んでしまったけど、フィノと後百三十年もいられるのなら嬉しいかもしれない。
そもそも生命魔法で若返るっていうのが、本当の意味で若返るわけじゃないんだよね。それって死者蘇生と変わんないもん。活性化だね。骨とか関節の痛みは変わらないってことか。
あー、驚いて損はしてないけど、心臓に悪いよ。
「ふふふ、ばれちゃいましたか。それでも、私はあと百十数年しか生きられないでしょう。人族の方からするとそれでも多いと感じるのでしょうが、エルフだと一世代いくかどうか、と言ったところです」
「孫が出来るかどうかぐらいなんですね」
「まあ、そうなりますね」
はぁー、本当に摩訶不思議な種族だ。
いや、生命魔法が使えるからなんだけど、僕からしたら変わんないね。
フィノからすると生命魔法が欲しいんだろうけど、いや、この世の女性全員。
「話の途中に首を突っ込ませていただきますじゃ。何時から族長はこの家に居られたのですじゃ?」
あれ? てっきり企んでたのかと思ってたんだけど。
じゃないと驚愕して腰を抜かすとか表現があるはずじゃん。
「シル、ゴルドに教えていなかったのですか?」
「はい、話がややこしくなるかと思いまして。それにゴルド爺は昔から嘘が下手です」
「あ、そうでしたね」
なぜか、それで納得する僕達もいる。
「ゴルド。私は客人の様子をずっと見てきました。その結論を出すためにここにいるのです。何時から、という質問なら最初から、と答えます」
おお、全く気付かなかった。
いや、精霊が多くいたのは分かってたけど、人の魔力までは感知出来なかった。
やっぱり上には上がいるんだね。
日々精進あるのみ、だね。
「では、先ほどのは茶番、で片付けてもいいのだな?」
師匠はいつも通りの口調なんだね。
あと、やっぱり族長にはなりたくないんだね。
「いえいえ、本当のことですよ。前々から言っていますが、次期族長はあなたにしか他はいません。魔法を授けるにも十分の魔力量を持っていますし、人柄もよくわかっています。弟子を取っているとは思いませんでしたが、有望そうです」
やっぱり生命魔法は伝授系の魔法だったのか。
まあ、納得だね。
あの時、師匠は知ってたから驚かなかったんだろうね。
それと大丈夫。綺麗過ぎて好きとかそんな感情湧いてこないから。
女の勘鋭すぎるよ、全くもう。
「まあ、その話は後日しましょう。今は協力した後エルフ族はどうするべきか、です」
あ、族長は協力してくれるんだ。
ちょっと安心したかも。
「え? いや、え? 協力? 儂の意見は?」
うん、そうなるよね。
でも、族長の決定だから、従うしかないんじゃないかな。
エルフ族じゃない僕達にはどうすることも出来ないしね。
「ゴルドニア老。ここは大人しくしてください」
やっぱりバトソンさんは苦労性だね。
どうでも良い事なんですが、異世界に行っていくら言葉が通じても造語やことわざって通じるんですかね?
日本語と英語が違うように、異世界の言語は更に違います。
赤はレッドで異世界ではルージュだとして、それは元から異世界にもあるものだから主人公は普通に言葉を覚える、若しくはご都合主義で話せるでしょう。
ですが、ことわざや異世界に無い物を口にする時は日本語ですよね。多分なんですが。それに知らない物を口にする時も日本語だと思うのですよ。
まあ、だからといってそれを一々書くのもおかしな話しなんでどうでも良い事ですけどね。




