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エルフの村『フェアルフローデン』

最近戦闘が一つもないと気づいたので、フラグも作ったので近々戦闘を行います。まあ、瞬殺になるでしょうが……。

 シュロロムさんという警備隊隊長が率いるエルフの警備隊と遭遇した僕達は、休憩を挟みながら四時間ほど森の中を歩き、やっとエルフ族の村に辿り着いた。


「改めまして、王国の皆様方、ようこそいらっしゃいました。ここがエルフ族の村『フェアルフローデン』です」


 シュロロムさんは村の入り口で向き直り、微笑みながら挨拶をしてくれた。


 村の名前は多分フェアリーとガーデンをくっ付けた感じだろうね。

 フェアリーの妖精と言うのは、多分自然の存在としてエルフの見た目からで、ガーデンは正しく庭の様なこの大自然の村がそうなんだと思う。


 村のあちこちに植物が生えていて、綺麗で色鮮やかな花々が所彼処に生えている。魔力を感じてみると知っている物が多いから、ハーブや茶葉、薬草等が豊富にあるんだと思う。

 聳える様な大樹が数多くあって、その大樹に蔦や苔が生えている。その木陰に木製のユニークなベンチや雰囲気のあるお店などが開かれていて、エルフ達がほのぼのと過ごしている。

 特に奥の方に見える一番大きな大樹からは、精霊の魔力が多く感じられる。


 聞いた話では精霊の魔力を感知できるのは極少数らしく、フィノでも微かにしかわからないみたい。

 だから、精霊の姿が分からずとも察知できる僕の能力は一目おかれるらしい。

 ただ、精霊は敏感だからじっと見ると悪戯されることがしばしばあるそうで、気を付けた方がいいと言われた。


 現にあの青年エルフ――名前をアルヴィンと言うらしい――の精霊をじっと見てたら、どうやってか知らないけど髪の毛を引っ張られたり、頬を撫でられたりされたい放題だった。

 後精霊の名前は契約者にしか教えないことになってるみたいで、ゼルと呼んでるけど愛称の様な物らしい。


「フラッグ地区の長の下へご案内します。引き続き私について来てください。――お前達は警備に戻り、仕事の続きをしておけ」

「チッ! どうして人族なんかを……」

「アル! 客人に対して失礼だぞ! もう少し相手を見てものを言え! ――昔は素直だったのにどうして……」

「けっ! すいませんでしたよ!」


 アルヴィンはそう言って村の外に飛び出していき、精霊は僕の髪を名残惜しそうに撫でた後アルヴィンを追いかけて行った。

 もしかして懐かれちゃったのだろうか、と思わなくもない。


「本当にすみません。あいつは良い奴なんです。怒らないでやってください」


 シュロロムさんは代わりに頭を下げて謝ってくる。


 僕はああいうのに慣れたからどうでもいいと思うし、フィノもそのくらいで目くじらを立てない。

 ロビソン達から否定的なエルフもいるって聞いてたし、王国でもエルフを捕まえようとする人もいるって聞く。だから、それを防げない僕達も申し訳ないと思う。


 エルフを捕まえるのは他国の人間だったり、奴隷商や盗賊崩れだったりする。

 王国のほとんどがやむを得ず奴隷になることがあって、性奴隷とか愛玩用とか妻として売られることがある。でも、それはしっかりと取り締まられてるから、エルフの人自身が望んだことであり、エルフも罪を犯す人がいるから全てこっちが悪いとは言えない。

 ただ、不正も行えるから、王国では奴隷の管理報告をすることになっていて、特にエルフや獣人とかは奴隷の書類に罪や経緯を記載することになってる。

 まあ、それでも嘘の報告をする人がいるんだけどね。




 案内されたフラッグ地区はバトソン・フラッグというエルフが長の区画で、ロビソンの父親らしい。

 恥ずかしそうにしていたロビソンは父親に数十年ぶりに会うみたいで、とても嬉しそうにしている反面、数十年も会っていないことに後ろめたさがあるみたい。

 いくらエルフでも数十年も会っていないと気まずくなったり、故郷が愛おしくなったりするんだね。

 フラッグ地区は狩猟を主にしているらしくて、シュロロムさんもフラッグ地区の住人だって。アルヴィンはこの地区じゃなくて、道具を作っている地区のエルフらしい。


 別に狩猟が主なだけで他の作業や仕事をしないわけじゃないよ。それが主な生活手段で、お金が流通していないから物々交換で物を得ているんだ。

 そのために地区ごとに主な役割を決めて、数日おきに交換が行われる。

 まあ、個人に得手不得手があるから違う地区のエルフでも狩猟は出来るし、薬剤の調合も出来る。アルヴィンがいい例だね。


 全部で七つの地区があって、七人の長がいるのはわかるね。

 で、族長は地区を持っていなくて、先代族長とエルフの長達が選んだエルフがなることになっている。

 多分、エルフ全体の生き方を決めるから、性格等を考慮した上で決めるんだと思う。


「ここがフラッグ地区となります。このように狩猟が主ですから子供の頃から訓練を施されます」


 シュロロムさんが向いた方向では、僕より小さいエルフの子供が弓の練習をしていた。


「いいか。このぐらいの距離だったら狙いは的の中心で大丈夫だ。だが、しっかりと引かないと届かないからな」


 片目を瞑って狙いを定める子供エルフが放った矢は、バシッと高い音を鳴らし的から少しずれた木の幹に当たった。


「片目を瞑っているから外れるんだ。片目の方が狙いやすいかもしれないが、ずれが出るからやめておけ。狩猟でも少しのミスが怪我に繋がるんだからな」

『は~い!』


 矢はずぶりと硬い木の幹に刺さり、子供用の弓を使っているようだけど、その威力はしっかりあるみたいだ。

 僕は弓を使ったことが無いから多分当てられないと思う。

 遠隔操作できる魔法のアロー系とはまた別物だからね。


「上手い物だね。やっぱりエルフは弓が得意なのかな?」


 フィノが子供のエルフを見て可愛いと呟き、僕の方に振り返りながらそう言った。


「ええ、エルフは特に風魔法を得意とします。ですから、剣等よりも弓の方が風の動きを読めるため当てやすいのです。他にも杖や投擲等も得意ですね」

「木の声が聞こえるのもアドバンテージだね。獲物が近づいてくるのが分かるもの」

「ええ、気配を読んだり、魔力感知で確認できますが、木に教えてもらった方が自然に動けますね」


 それは羨ましい気がする。

 人族にはこれといった特徴が無いからね。

 何にでもなれる可能性を秘めているっていうけど、流石に他種族特性を得ることは出来ない。エルフの自然との親和性や、ドワーフの鍛冶能力や、獣人族の嗅覚や聴覚や、水棲族の水の中の移動とかね。

 他のことで応用して近づけるってとこだね。


「弓もここで作ってるの?」

「いえ、弓は細工作業や小道具作りを専門とする地区が作っています。他にも料理を作る地区、採取をする地区、放牧する地区、魔法を教える地区があります。基本がこの七つとなり、行商や清掃等はその地区で行いますね」

「大きなことを地区で分けたってところだね」

「はい」


 話し合いが終わった後はエルフの村を案内してもらうことになった。

 僕としてはエルフの料理と魔法に興味があるね。

 あと、調薬に関してもエルフは独特だって聞くから見てみたいかも。


 でも、フローリアさん達の監視の下でないとダメだって。




 暫く歩いていくとやや大きめの家が見えてきた。恐らく、あの家がバトソンさんがいるロビソンの家だろう。

 家と言ってもログハウスといった感じで、やっぱり師匠の家に似ている。


「師匠の家にそっくりですね。そういえば、師匠の家は誰が作ったのですか?」

「それはガンドに決まっているだろう? ガンドの方が村に早くいたからな。冒険者時代の伝手もあって森の素材を条件に作ってもらったんだ」

「そうだったんですか」


 自分で話していながらガンドさんじゃないかと思ってた。

 屋敷を頼んだ僕が言うのもあれだけど、ガンドさんって一体何者なんだろう?

 ドワーフがどんな暮らしをしてるのか知らないけど、いくら鍛冶が得意と言っても多芸すぎる気がする。

 というより建築と鍛冶は違うよね。


「エルフの家は基本この形だな。ただ、木は腐りやすいからな、外のように加工できればいいがそれも難しい。だが、エルフならではの方法で木を乾燥させることが出来る」

「火魔法と風魔法を使って乾燥させたり、水魔法で水分を除去できますが、難しいので違いますよね」


 やり過ぎると罅割れとか起きるから精密な作業が必要となる。

 僕も村にいた時何度か試したけど無理だったから諦めたほどだもん。

 まあ、いろいろな経験を経て、今は出来るようになったんだけどね。

 時が経つのは早いけど、子供の成長も早いよね……。


「あ、あれじゃないかな? 精霊。植物に関係する精霊なら木を加工することくらい簡単にできるんじゃない?」


 ああ、それがあったね。

 身近じゃなかったからすっかり忘れてた。

 魔力感知もそこまで強くしてないから、精霊の気配をあまり読み取れてなかったんだよね。

 フィノに負けたからってい、言い訳じゃないよ?


「うむ。姫さんの言う通りだ。植物の精霊という漠然とした曖昧な精霊はいないが、木や樹木の精霊、花の精霊、大地の精霊、風と火の精霊等は大概加工できる。一番はやはり木や樹木の精霊だな」

「木の意思を読み取って切り倒しても大丈夫か分かるからですね」

「そうだ。木の声が分かるからこそ、無駄に木を傷つけた時痛みが分かる。声を遮断できるが、するエルフはほとんどいない。私は戦っている時以外はあまりしないな」

「エルフは本当に自然を大切にするのですね。私達も気を付けた方が良いのかな?」


 フィノが真剣に悩み始めたのを師匠は微笑ましく見ている。


 まだ環境問題がどうとかこの世界ではないけど、このまま文明が進めばあり得る話だと思う。

 まあ、その時は僕は生きていないだろうけど。


「着きました。ここがバトソン長の御自宅となります」


 シュロロムさんはそう言って、ドアをノックして僕達の来訪を伝える。


「気を付けてくれた方がいいが、それで怪我をしては元も子もない。姫さんは弟子の大切な人だからな」

「アリアさん……。分かりました」


 フッと笑ってフィノに告げる師匠、とってもかっこいいです。


 案内をしてくれたシュロロムさんは中から出てきた壮年のエルフと数度話を交し、「後は頼みます」という言葉とともに僕達に頭を下げて警備の方に戻っていった。




 家の中は師匠の家と少し違うのは、エルフ個人の好みによるものだろうね。

 師匠の家は洋風のペンションといった感じで、周りの景色や雰囲気に合った内装だった。

 で、バトソンさんの家は落ち着きを感じる古風なアンティーク物が多い内装だ。


 どっちもエルフにあっている内装だね。


「ようこそいらっしゃいました。私がフラッグ地区の長、バトソン・フラッグと申します。こちらが妻のカトリーナです」

「カトリーナ・フラッグと申します。後ろにいるロビソンの母親です。ロビソンがいつもお世話になっています。……何か至らないところでもありますか?」

「か、母さん!?」


 ロビソンがお母さんの言葉に顔を赤くして慌てるけど、エルフの性格からいってなんとなく想像できた。

 後、部下を連れて両親に会いに行った時に聞かれる定型文だよね。


 それにしてもカトリーナさんすごく若い!

 師匠も相当若いけど、僕の数十倍は生きてるからね。

 で、カトリーナさん達は少なくとも師匠より上のはずで、それでも笑った顔に小皺が出来ないというのは脅威だと思う。

 ただ、これ以上注目していると女性の視線がきつくなるからやめておこう……。


「温泉で覗きを企てたりしてましたが、企てただけなので大丈夫でしたよ」

「え、ええー!? そ、それは黙っておく約束でしょーッ!?」


 え? そんな約束した覚えないけど……。

 本当に。


「僕は王国で伯爵の地位を任せられているシュン・フォン・ロードベルと申します。こちらは王国の第三王女フィノリア様です」

「紹介に与ったフィノリアです。本日はこちらの急な願いを聞いていただきありがとうございます」


 やっぱり挨拶慣れているとすんなり言葉が出るんだね。

 謝辞を口にするとか言われないとわかんないし。


「ふふふ、ロビソンが何やら不敬を働いたようで、後でお話をしたいのでお借りします」

「愚息がどうもすみませんでした。親としても、男としても情けないです」

「ぅ、うぅ……。さっきまで楽しかったのに、一気に絶望の底に落ちた気がしますよ……」


 ロビソンが崩れ落ちるのを皆で見て、誰からともなく笑い声を上げた。


「はぁ~、後で説教だ。――では、お話しを聞きたいと思いますので、こちらへ」




 案内された場所は多分リビングで、果物とかが置かれている。

 これでテレビとかがあれば懐かしい思いがするんだろうけど。


 僕達は向かい合うように木の椅子に座り、カトリーナさんが差し出してくれる紅茶を一口飲む。そして、義父さんやガンドさんに説明したことを話す。


 味は変わっているけどすっとする茶葉の旨味が十分に引き出されている、とても香ばしく後を引かない紅茶だ。

 多分エルフなりの淹れ方もあるんだろうね。

 フィノも美味しそうに飲んでるし、後でいろいろと聞いて購入しようかな。


「――はっきり言うと難しいでしょう」


 バトソンさんが難しい顔で一拍おいた後言った。


「難しい、ですか」

「あー、いや、協力すること自体はそう難しくありません。私も協力するのはやぶさかではありませんので」


 協力できないのかなと口にすると、バトソンさんは慌てて言い換えてきた。

 何か問題があるのかな?

 それとも頑固なエルフだから確執があるとか?


「では、何が難しいのですか?」

「まず、私は息子も言うので信じられますが、他の長が信じるかどうかわからないからです。以前魔物が攻めてきた時は精霊の力を駆使し、精霊自体も森に魔物を入れないようにしてくださいましたから、皆どれだけ危険か分かっていないのです」


 そうか、この森は結界もあるから元々脅威となる魔物が少なかったんだ。それで、少し魔物が多くなったりしても異変だと気づけなかった。

 で、森の位置も結構離れてるから、どんな戦闘が繰り広げられたか伝聞でしか知らないんだろう。


「そして、長の内三名がドワーフにも劣らない相当な偏屈で、千年近く生きていますから人族との確執もあります」

「私達が言うのはおかしいですが、千年前という過去の話なのにですか? それに王国では多くのエルフが笑い合い、助け合いながら日々を過ごしています。何をそこまで頑なになるのですか?」


 フィノは王族としてエルフの気持ちを置いておけないと思ったみたいだ。

 真剣な表情でエルフと仲良くしたいと言っているのが分かる。


 それはバトソンさんにも伝わっているようで、難しい顔に苦笑いが浮かび始める。


「私もそう思うのですが、やはり千年という私達でも長いと思える時を過ごしたエルフとは考え方が違います。それに千年も生きると戦争を何度も経験し、知り合いが多く犠牲になったのを眼にしています。私達が生んだ世代の子供達は戦争をそこまで知りません」

「魔族との激しい戦争が終了したのは二百年前ですが、実際戦争の激しさが止み始めたのはそれよりも五十年も前となります。当時ロビソンは産まれていません。今の世代のエルフは戦争を知らない者ばかりなのです」


 二人の話にロビソン達は頷き、僕も魔物の侵攻が無ければ激しさは分からなかったと思う。

 それでも人対人という戦争はしたことが無く、死闘と呼べる戦いもバリアルとしたけど、最終的には和解をした。

 戦争をというのを知っているようで知らないのが僕達だ。

 エルフでそうなら、それよりも寿命が短い僕達人族なら尚更で、帝国との戦争が百年前と、戦争らしい戦争を知っている人はほとんどいないのが現状だ。


「私の世代で戦争を経験したことがある程度だ。当時を知っている者は今が天国のように感じ、これからそれよりも激しい世界の命運をかけた戦争が始まると言われても信じられないだろう」


 師匠の言葉に沈黙が流れる。


「――でも、そんなことを言っている場合じゃない。ここまで手が伸びて来るか分からないけど、絶対に世界と種をかけた戦いになるはず。相手にどんな思いがあっても確実にこの辺りにも攻めて来るはずだよ」


 現実を直視してほしいとまでは言わないけど、目を逸らすのは止めてほしい。

 話を信じなくてもいいから、せめて協力をして身を守るだけはしてくれないと、本当に攻められてからでは遅いんだ。

 転移が使えても攻められたことを知らないと助けにも行けない。


「それは分かっています。ですが、私の言葉も老エルフには届かないのです。長七人の内三人が賛同してくれています。もう一人の賛同を得られれば族長に話を通せるのですが……」

「その人の賛同が得られれば協力できるかもしれないのですね?」


 再び沈黙が支配する前にフィノが気色ばんだ声出しバトソンさんに訊ねた。


「そうなのですが、またそのエルフも変わり者でして……」


 どんどん僕の中のエルフ像が壊れていく気がするよ……。

 一体どんな変わり者のエルフなんだろうか。


 バトソンさんは一度喉を潤し、顔を上げて僕達を見てから口を開く。


「そのエルフの名をアルカナ・パジュアムと言い、魔法地区の長をしています。風魔法を得意とする緑髪の小柄な女性エルフです。一応うちと密接関係にある地区なので交友があります」

「ですが、アルカナさんは戦闘狂もとい魔法狂ですから、魔法以外のことをどうでもいいと思っているところがあります。精霊も使えますから、魔法に対しての思いがより強いのです」

「だから、協力も否定もしないということですか」


 僕の言葉に二人は苦笑いしながら頷いた。


「恐らく、シュン様方がアルカナの気を惹けるような魔法を使えば協力を得られるはずです。アルカナは毎日のように魔法の実験等を繰り返している研究者でもありますから」

「それなら……」


 確かにフィノが思っている通り大丈夫かもしれない。

 とにかく一度会ってみるのが良いかもしれないね。

 まあ、ダメだったらその場で何か魔法を作り上げれば問題ないだろう。

 あと、今思えばノース学園長もエルフなんだから、失敗しても協力してもらえるかもしれないね。


 こっちを向いているフィノにわかったと頷き返して、僕はバトソンさんの方を向く。


「分かりました。そのアルカナさんというエルフに一度会いましょう。一応これでも僕は魔法に自信があります。必ず協力を得てみせます。他の長のエルフとも話をしてみたいと思うのですが、よろしいですか?」


 バトソンさん達は人族である僕が魔法に自信があると言っても信用できないみたいだ。

 だけど、それはやってみないとわからないことで、ロビソン達が言っていたように僕とエルフの魔法が次元が違うというのなら、アルカナさんというエルフがどれだけ凄くてもどうにかできるはずだ。

 魔法で負けたら僕にはあまり残らない気がするし、細々と王国で引き篭もって研究するかもしれない。


 それぐらい僕はこれでも魔法に自信を持ってるし、負けたら落ち込むと思う。

 その時はフィノに慰めてもらおっと。


「シュン君、期待してます」


 フィノに期待されちゃったら頑張るしかないじゃないか。

 絶対にアルカナさんを唸らせる魔法を使ってみせる!


「そうですね。シュン様ならば大丈夫じゃないですか? 私はあれから数十年会っていませんが、数十年ではシュン様の魔法には手も届かないはずです」

「シュン様の魔法は王国側で箝口令が敷かれるほどですものね」

「知識と原理を教えてもらっていますが、今一理解できないものばかりです。まあ、目の前で披露してくれるので正しいのだとは思うのですが」

「うんうん、シュン様なら片手間じゃないですか? この旅で使っていた虫除けの結界なんてあり得ないですよ。シュン様の頭の中を覗いてみたいくらいです」


 うんうんと腕を組んで頷いている背後の君達、僕を何だと思ってるんだろうね。

 後で話し合いが必要なのかもしれない。


「うむ。丁度いい、一年前の再会からどれだけ強くなったのか確かめよう。強くなったと言ってもとんでもない魔法を作っていないかの確認だな」


 師匠、あなたともお話し合いが必要なのかもしれません。

 一応師匠から言われてたから、魔法に関しては黙秘してるよ。

 まあ、やり過ぎた時もあったけど、真似できない魔法を使ってるから大丈夫……なはず。


 岩の巨人だったり、星を降らせたり、呪いを解いたり……もしかしてやっちゃってる系?

 そ、そんなことないよね。

 だって皆、僕が作った物とかには驚いてたけど、魔法に関しては何も言ってこなかったし。


「だ、大丈夫ですよ? そんなに驚くような魔法は作ってないつもりです。やり過ぎた時はあるかもしれませんが、許容範囲内のはずです」

「うむ。どもって、つもりで、はずなんだな? 再確認が必要だな。姫さん、後でシュンの話を聞かせてくれるか?」

「はい、シュン君のことなら何でも話します」

「フィ、フィノに裏切られた……!」


 笑い声を上げる皆に僕は恨めしい目を向けるけど、全く怖くないと更に笑い声が強くなる。

 バトソンさんとカトリーナさんはよくわからないと言ったような様子だったのに、つられて笑みを作るし、やってらんないよ。

 こうなったら開き直ってとんでもないことをやってやるべきか……。

 いや、それは僕じゃないからやめておくとして、皆があっと驚く魔法が良いよね。あと、どんな魔法が良いのか話し合っておくこともしておかないとな。




 この後僕達はバトソンさんの家に厄介となり、様々な会話を行った。

 その中に幻獣の話を聞いてみたけど、良くわからないということで保留となって、他の長ならば知っているかもしれないと結局七人の長の下に行くこととなった。


 そして、フィノから話を聞いた師匠にチクチクと棘のある言葉を吐かれ、普通に説教されるよりもかなり堪えた。

 もう二度とやり過ぎたくないと思ったけど、多分無理だと思う。

 だって、全てフィノを守る為だったし、家族を救うためだったし、面白かったからだしね。

 ……うん、最後を止めればいいんだと思うけど、未だに魔法が使えることに喜びがあって、どこまで出来るのか実験したくなるんだよぅ。それに我慢するのは身体によくないからね、少し自重するくらいにしようと思う。


 こうして僕はまた師匠に注意をされて、アルカナさんと会える日までエルフの村を見て回ることになった。


 あれ? 僕声に出してないはずなのになぜばれたんだ?

 もしかして誰かが念話を使った? それとも同調を? まさか、フィノが心を読んだとか!?

 まあ、実際どうであれ、自重するように言い渡されたのでするしかない。

 もしかすると、魔法の研究にも監視と書類の提出が必要になるかもしれない。

魔族との戦争の年数をどこかで書いていたと思いますが、帝国との最後の戦争が百年前、魔族は二百年ほど前となります。

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