ファチナ村へ
今更気付いたのですが、報告書は文字通り済んだことについての報告でした。
ですので、今後は見積書、又は計画書に修正します。
家族でのピクニックを終えた僕は、城へ帰るとすぐに領地開発の見積もり書とどういった計画を立てているかという計画書を書き上げ、八月に入る前に新作ケーキを作り皆で食事会を開いた。
そのときにいつでも食べられるようにということで、国営の菓子専門店をいくつか建てることになった。
国営にすることで王族でも気安く訪れ買うことができるようになるのだ。
まあ、僕は普通に買いに行けるからどっちでも構わないけどね。
で、八月になって僕は他種族のいるところへ協力を願いに行くことになった。
魔族のいる魔大陸はバリアルの案内が無い限り、橋が繋がっているわけではない為向かうことが出来ず、計画を立てて速やかに終わらせるという時間もないため冬まで持ち越しだ。
それまでにバリアルと連絡を取り合って何時から行くか決める計画書を提出する。
その間に義父さん達は国の王族に呼びかけることになり、まずは帝国と話し合いをすることになる。
八月になってもう少ししたらシュビーツ殿下が王国を訪問してくる。
その時に謎の組織の話があって、帝国と強化訓練や技術交換等様々なことを行うことになっている。
勿論国家機密に近い物は提供できないけど、提供した技術を発展させるのは国に任せることになっている。
それがのちに戦争に使われたら危ないと思うだろうけど、どの国もその技術を持てばそれほど切迫したものにはならないと思う。
それにどうにかできないかメディさん達に相談するつもりだ。
まさに神頼みだよ!
他種族の訪問先はまず師匠と同じエルフ族にしようと思ってる。
エルフ族とは接点もいろいろとあるし、森の中に住んでるから結構近いみたい。なんでも王国の東北に位置する大森林の中にいるらしい。
まあ、その辺りは師匠に連れて行ってもらう予定だ。
あと、エルフ族の族長に僕の持ってる白狐の幻獣について聞いてみないとね。
それを聞くっていうのがエルフ族と会う最初の目的でもあったしね。
ついでにガンドさんにはドワーフと渡りを付けてもらう。
「それでは師匠の下へ行ってきます。義父さん達もよろしくお願いします」
「ああ、任せなさい。森に住むエルフ族は閉鎖的な所があると聞く。人族も一緒だが歳も取ると保守的になる。無理は言わないから敵対にならないように気を付けるんだぞ」
「はい、分かっています。そのためにエルフ族のロビソンを連れて行きますし、師匠にも応援を仰ぐつもりです」
「うむ、ロビソン頼んだぞ」
「は、はい! 私の父が長の一人なので大丈夫かと思われます!」
ロビソンは僕に対しては結構なれなれしいのに義父さんには無理なんだね。
まあ、気持ちはわかるから言わないけど。
ガッチガチに固まってるのが面白い。
ロビソンの他にもエルフ族の騎士を数名と、やっぱりフローリアさんが隊長としてついて来てくれる。
予習も兼てレオンシオ団長に付いて来てもらう予定だったんだけど、この間に他国との話し合いもあるということで却下となったんだ。
あとフィノも付いて来てくれるからそのお世話をする女性騎士が数名いるね。
それに加えて長期出になるだろうから、久しぶりにフォロンとツェルを連れて行くんだ。
二人は僕達のベッドメイクとか、予定の報告とか従者を務めてくれてる。
帝国の時は間に合わなくて仕方なかったんだよね。
「フィノも大丈夫だと思うが、シュンの師匠はあの雷光の魔術師だ。粗相のないように頼むぞ」
「はい、シュン君の師匠は私の師匠です。噂も聞いていますから失敗はしません」
「森の中は虫が多いと聞きます。虫よけのクリームは持ってますか? あなたの白い肌に赤い腫れが出来たら目立ちます。――シュン君、フィノの肌を守るのはあなたの腕にかかってますからね」
「あ、はい。虫よけの結界を考えておきます」
これは早急に考えておく必要がある。
もし帰った時にフィノに虫刺されとかあったら義母さんに怒られる可能性が……。
「あと、時間が遅れそうになったら連絡しなさい。それと学園にも通達をすることを忘れないように」
「はい。まあ、学園までは転移できるので一旦報告に戻ってもいいですけどね」
「それもそうだな。まあ、今はシュンに大きく動いてもらっては少々困るから、緊急時以外は普通にしてくれ」
義父さんに注意を受けた僕達は、いよいよ出発することになった。
「では、行ってきます」
「お母様達も御無理をしないでください。行ってきます」
「行ってらっしゃい」
「フィノ、シュン、あなた達も無理をしないようにするのよ。行ってらっしゃい」
一時の別れの挨拶を済ませると僕達は義父さん達から離れ、広場の中央辺りまで移動する。
そして、十人ほどの人数を囲むように魔力を放出し、数秒しっかりと練り込んだ後に時空魔法『長距離集団転移』を発動させる。
今回は森の中を移動することになるため、馬車を使えないから転移するのだ。
荷物に関しては収納袋があるため不必要だし、僕の異空間に様々な物を入れてあるから結局何もいらない。
「『我らの場所を移せ! 転移』」
最後に義父さん達に手を振り、僕達は白い光に包まれ王城からその姿を消した。
転移した場所は僕がこの世界にやって来た師匠の家があるファチナ森林の近く、ファチナ村の入り口だ。
出発してから一年と数か月が経つけど、全く変わらず長閑な雰囲気が伝わってくる。
ちらほらと見える人影に目が行くけど、知らない人は一人もいない小さい村だ。
フィノ達はこの村に訪れたことが無いようで少し興味深げだけど、住んでいる人の凄さを除けば対して普通の村と変わらないはず。
まずは、村に入って師匠のことと挨拶を済ませよう。
因みに師匠には念話で今日行くことを伝えているから戻ってきているはずだ。
あの魔物侵攻の後から各地を回っていろいろと調べてくれていたみたいだから、もしかしたら何か手を掴んでるかもしれないね。
「まず、村に入って挨拶しようと思う。住んでる人が結構凄いけど、開放的な村だからいつも通りでいいと思うよ」
「ここがシュン君がいた村なの?」
「まあ、そうなるけど、僕は基本的に師匠と森の中にある家に住んでたよ。森はBランクの魔物がうじゃうじゃといる凶悪さだからね、気を付けないと危ない森だよ」
そういえば試験でウォーコングを氷漬けにしたっけ……。
今思えば空間に収納すればよかった気がするけど、まあもう過ぎたことだし放っておこう。
他にも村の子供と遊んだこともあったし、ガンドさんと共同作業もしたし、エリザベスさんと魔物の狩りと素材の用途研究もした。
この一年が随分と濃かったから十数年ぶりに帰ってくるようだ。
「Bランクと言ってもそうそういるものじゃないし、そういった魔物は森の奥地や各所に縄張りを持ってるんだ。ルートから逸れずに真っ直ぐ進めば低ランクの魔物に襲われるだけで済むよ」
「それでもかなり困難に見えますが」
「まあ、普通の森と違って樹海に近いからね。段差も激しいし、木々が生い茂ってるから光も通さない。今回は転移で行けるから安心していいよ」
村に入りながら他愛無い会話をしていると、入ってくる僕達に気付いた村人が顔を覗かせ始めた。
少し相談しているところを見ると僕だと気づいていないようだ。
少し寂しいけど、あまり村にはいなかったし、いろんなことをして印象は強かったかもしれないけど、今の格好を見ると村を出た時と全く違うから仕方ない面もあるね。
それに一年で少し身長も伸びたし、フィノ曰く少しかっこよくなったみたいだけど、フィノ目線――フィノ補正が入る――だからそうでもない気がする。
「あ! シュン兄ちゃんじゃん! いつ帰って来たのー!」
「本当だー! そっちの人達だあれ? お姫様みたーい!」
「すっげー! 後ろの人達騎士様だろ! 俺も将来騎士になりたいなぁ」
「私はシュン兄ちゃんみたいに魔法を使いたい! そして、森の中の魔物を倒すの!」
ワイワイと集まってきたのは村の子供達で、歳は六歳から八歳くらい。
元気いっぱいで村の中で鬼ごっこやかくれんぼ、勉強や簡単な魔法を教えたりしたこともあった。ガンドさんやエリザベスさんに遊び道具を作ってもらったこともあったし、村を少しだけ開拓して公園を作ったりした。
公園にはブランコや滑り台、砂場とかいろいろとある。
多分この世界ではここしかないんじゃないかと思うよ。
「久しぶりだね。元気にしてた?」
『うん! 元気元気ー!』
「あはは、元気いっぱいだね。君達の言う通り後ろの人は王国の騎士様だから気を付けてね」
「おおー! 本物の騎士様!」
「シュ、シュン様!?」
六年程で豊かになったファチナ村はまだそれほど劇的な変化はないけど、確実に死亡率が減って、作物は育つようになって子供達が元気に駆け回り、赤ちゃんの出生率も伸びたんだ。
僕がいる間に何人か――村人じゃなくてガンドさんが作る道具を卸す商人やガンドさん一人では手が回らなくなったから弟子も雇った――が村に移住してきたけど、それでもまだ村って感じだ。
この村は開拓村で周りから移り住む人を忌避しないで歓迎するんだ。
僕が始めてきた時も皆歓迎してくれたしね。
僕はロビソンに纏わり付いている子供達に苦笑し、助けを欲しているのを無視する。
普通の騎士なら鬱陶しいと払い除けるだろうけど、王国の騎士にはそういった人は少ないし、連れてきた騎士は全員元平民だ。
爵位を持っている人は騎士爵で、僕のような法衣貴族で、違うのは領地を持っていない貴族だね。前の僕もそんな感じだったはず。
だから、子供達が群がっても困惑するだけだし、生粋の貴族であるフローリアさんも僕とフィノで慣れてるし、家を飛び出して騎士になるくらいだからこのぐらいで一々目くじらを立てない。
そもそも目くじらを立てそうな人を義父さん達が僕達に付けるわけない。だって僕は実力を見せつけたとしても元平民だし、僕を恨んでる貴族は少なからずいるからね。
例えばフィノと婚約を望んでいた貴族とか、なぜか僕のことを狙っていた令嬢とか、あの件での貴族関係者とかね。
まあ、計り知れない実力と僕がいろいろな人と関わり合いを持つから手を出せないって義兄さんが言ってた。
でも……
「こっちも本物の王女様だから少し気を付けた方がいいよ?」
「シュン君?」
「あ、うん。別に怖い人じゃないから大丈夫だよ。優しくて、可愛くて、思いやりがあって、気さくだからね。ちょっと食いしん坊な面もあるけど、とっても素敵な女性だよ」
「ちょっと後で話し合おうね。――紹介に与ったフィノ、フィノリア・ローゼライ・ハンドラ・シュダリアです。ちょっと抜けたシュン君の婚約者でもあります。シュン君がお世話になったみたいですね」
ちょ、ちょっと!?
まあ、最初に言ったのは僕だから気にはしないけど、婚約者って言っちゃうの?
それに君達も何か否定してよ!
「シュン兄ちゃん、お姫様と結婚するんだー……。逆玉?」
「ちょッ! そ、そんな言葉何処で知ったの!? 確かにそうかもしれないけど、それはないよね? 僕だって一応貴族になったわけで」
「え? シュン兄ちゃん貴族になれたの?」
「え? それどういうこと? まあ、普通はあり得ないからそうなんだけどね。それよりも一年前魔物が侵攻してきた時は大丈夫だった? 僕は対処に追われててこっちまで手が回らなかったんだけど……」
久しぶりに帰ってきて思い出したように聞くのに罪悪感を感じるけど、忙しかったとか言い訳はしない。帰ろうと思えば帰れたのに忘れてた僕が悪いんだしね。
「うん! アリアさんが避難してた方がいいって言ってくれたから誰も死んでないよ」
「そうだぜ。まあ、少し逃げるのが遅くなったり、避難した場所も少し魔物に攻められて戦うことになったけどな!」
「僕達もシュン兄ちゃんに教わったようにスライムとか倒したんだよ!」
へぇー、怒るべきなのか迷うけど、教えた通りしっかり動けたのなら僕としては嬉しいし、誰も死ぬことなくまた会えたのは喜ぶべきだ。
僕は周りに集まって抱き着いてくる子供達の頭を撫でる。
「よく頑張ったね。でも、危ないことはしないようにね。僕も村を出て思い知らされることがたくさんある。何でも一人でしないようにね」
「「「は~い!」」」
子供達が本当にわかってくれたのか知らないけど、無茶だけはしないでほしい。
子供は宝っていうぐらいだし、魔物が闊歩するのだから危険なことはしないでほしい。戦うなとは言わないけど、確実に倒せるものだけを相手にしてほしいね。
「お姫様!? それにシュン兄ちゃんのお嫁さんなの?」
「ええ、そうよ。シュン君はね、私を暗闇から助けてくれた私の王子様なの。初めて会って一年ぐらい経つけど、何度もシュン君に惚れ直したし、愛しているのよ。シュン君以外考えられない」
「お姫様惚気ちゃった~! でも、シュン兄ちゃんがかっこいいのは何となくわかる。なんか村の男の子より雰囲気が大人びてるもん」
「そうよねー。でも、大人すぎて恋愛感情は湧き難いかなー」
「そうかしら? 私も少しは感じるけど、そこがまたいいと思うの。偶に年相応になる時もあるし、結構一緒にいて弟って感じの時もあるもの」
「「「えー、ほんとう?」」」
失礼だなぁ。
でも、フィノがあんなことを思ってたとは思わなかった。
もう少し成長したら僕も年相応になるんだろうけど、子供達からしたら精神年齢は二回り離れてたもんね。大人びてたと思っても仕方ない。
それに最近はこの身体に精神が引っ張られるわけじゃないけど、慣れてしまったから年相応にはしゃぐときがある。
まあ、その辺は気にしないからいいし、そっちの方が周りも違和感を覚えないだろうから付き合いやすいだろうしね。
「シュン殿、そろそろ」
「あ、うん。――忠告しておくけど、普通は騎士やお姫様に馴れ馴れしい態度は取ったらいけないんだよ。僕やフィノだから良かったし、騎士の人も変わってる人『え? シュン様?』ばかりだからね。中には近づいただけで切ってくる人もいるんだ。気を付けるんだよ」
『そうだったんだー。わかった、次からは遠くで見てる』
「うん。じゃあ、まずガンドさんの所に案内してくれる?」
フローリアさん達からの視線がビシビシと背中に感じるけど、チラリとも見ずにフィノと手を繋いで子供達に引っ張られていく。
さっき言ったばかりなのに普通に接するのは少し教育が必要だね。
その辺りは周りの大人が申し訳ない顔をしてるから大丈夫だろうけど。
まあ、こうなることは予め教えてあるから、フローリアさんも戸惑うだけで注意はしなかったしね。
「ガンドさーん! シュン兄ちゃんが帰って来たよー! 何か用があるんだって!」
一番乗りした男の子が鍛冶場の中へ入り、中にいるであろうガンドさんに声を掛けた。
鍛冶場からは金属を打ち付ける音が幾つも重なって聞こえ、近づくにつれて熱気まで肌で感じられるようになる。周りには騒音を気にして家を建てないようにされているが、最後に見た時よりも建物が一つだけ増えていた。
恐らく、弟子達の家でも建てたのだろう。
最初は取らないと言っていた弟子だけど、器具の生産や手伝いのために仕方なく取って、弟子というよりはお手伝いさんというのが正しいかも。
「おおー! 久しぶりじゃないか!」
「お久しぶりです、ガンドさん」
「ああ、シュン、久しぶりだ。元気にしてたか? 調理器具は大丈夫か? また何か新しい物でも考えたのか? まあ、中に入って旅の話を聞かせろ」
ドワーフ達にありがちな気を許した相手にはどこまでも気安く接する性格で、僕の腕を握り締めて鍛冶場の中へ引っ張っていく。
つられてフィノも入って行くので鍛冶場の中にいた人全員が動きを止め、入って来たフィノや騎士達に驚愕する。
「お、おお、親方! そ、そそそその人達は誰っすか!?」
「ん? おお、お前さん達は誰だ? んー、見た所後ろの奴等は王国の騎士だな。胸に紋章が付いてらあ。で、この嬢ちゃんは……ふむ、シュンのコレだな」
『な、何だってぇぇーッ! シュンの奴めぇ……。こんな可愛い子を見つけやがって。対して俺達は……』
僕の知らない人もいるけど、彼らは手に持っているハンマーや熱せられ光っている金属を見て溜め息を吐く。
フィノ達はこの村特有の雰囲気と気質に苦笑しているが、嫌がってはいないので一安心だ。
「よく分かりましたね。こちらは僕の婚約者フィノです」
「本物のお姫様なんだよー!」
「フィノリア・ローゼライ・ハンドラ・シュダリア様っていうんだって! 王族の人って名前長いんだねー!」
それ結構失礼なことだからね?
僕はそれを口にした女の子の頭を軽く叩いて、メッと眉を顰めた。女の子はてへっと舌を出して謝り、子供達と一緒に外の公園へ遊びに行ってしまった。
「フィノ、ごめんね。この村は基本的に強い人ばかりで、騎士も訪れたことが無いからね。師匠も定期的に村に訪れて強い魔物の素材を売りに来てるから、強い人は師匠基準になってるんだ。他にも有名鍛冶師のガンドさんや魔道具のエリザベスさん、旨味亭携列の第一人者ラージさんもいる。皆強くて気さくな人ばかりだから、強い人はみんなこんな感じだって思うんだよ」
「ふ~ん、それにはシュン君も入ってるね。私としては一つくらいこんな村があってもいいと思うけど、他の貴族や騎士は何て思うか分からない。だから、しっかりと教えておくのが良いと思うよ」
「ああ、わかった。俺の方から村長に教えておこう。で、シュンは何しに帰って来たんだ? 婚約の報告か?」
自分で言うのは最近慣れてきたけど、知り合いに婚約かってニヤニヤしながら言われたらすごく恥ずかしんだけど。
フィノは嬉しそうに笑ってるし、騎士の人達は何やら弟子達に囲まれていろんなものを見てるし、もうこのままでいいやと思ってしまう。
「そ、それもあるけど、今日はお願いが二つあって来たんだ」
「ふむ、とりあえず言ってみろ」
ガンドさんは僕とフィノに座るよう促し、話を聞いてからだと冷静に判断した。
フローリアさん以外の騎士を弟子達に任せ、四人で会話を行う。
「まず一つは僕が貴族になって領地を貰ったから、その領地に屋敷を建てることになったんだ。だからガンドさん達にその屋敷の建造をお願いしたい」
「まあ、家を建てるぐらいはいいが、お前が言うことだから何か違うんだろ?」
分かってる、と言いたげな目を向けてくる。
いや、確かにそうなんだけどね、見透かされていて何とも言えない気持ちが……。
「これから用事があって忙しいから一か月後くらいになると思う。屋敷の外見とかの模型といつも通り図案は書いてきたから、出来るかどうかだけ今度来る時までに考えておいてくれるかな?」
僕はそういって収納袋から許可を貰った屋敷の図案と、並行して作り上げた和風の屋敷の模型を取り出した。
模型はまだ着色がほとんどされてないからわかり難いけど、まあガンドさんなら色が無くてもみたらわかるだろう。
ガンドさんは数分模型と図案を見比べ、何度か感嘆の声と唸り声を上げる。
そして、十分ほどが経った頃模型を近くの台の上へ置き、俺にキラキラとした目を向けてきた。
どうやら職人の琴線に触れることが出来たようだ。
まあ、ドワーフ達は新技術等が入っていると請け負ってくれやすいからね。
「結構面白い構造だ。パッと見、素朴で落ち着きのある屋敷だと見れる。だが、実はいろいろと計算された奥行きのある深みの濃い物だ。請け負ってしっかりと建てられるかは別だが、近い物は出来るだろう。今度その土地に連れてってくれ」
「よろしくお願いするよ。僕の屋敷だけど、義父さん――フィノの家族先代国王陛下達も来るからそのつもりでね」
「おう、腕がなるな! 立派な屋敷を建ててやるから安心しろ!」
「ふふふ、ガンドさん。よろしくお願いします。お父様とお母様はとても楽しみにしていました。建てる場所も王都を見下ろせる山の上となっています」
「それはまた面白いところに建てるな。各地に散った弟子達にも声を掛けてやろう。ドワーフ達の技術の粋を集めて作ってやる」
いやー、流石にそこまでしてくれるとは思わなかった。
でも、ガンドさんの気持ちはしっかりと受け取っておく。
それに別にただってわけじゃないし、しっかりと安全と費用を払うからね。
それに近くも開拓するつもりだから一度全体を見てもらった方がいいね。
「で、二つ目は何だ?」
「そっちが主な目的になる。あまり声を大きく出来ないから誰にも言わないでほしいんだけど、あと二年程で世界が混沌に満ちるかもしれないんだ。一年前の魔物の騒動はどうやら邪神を崇める集団が僕を殺そうとし掛けてきたものらしい。それで、どうにか邪神の集団を退けて二年という月日を得たんだけど、次からは僕だけじゃなくて無差別に攻撃を仕掛けてくると思うんだ。
詳しいことはまた話すけど、神様が考えることは僕達には到底及ばない。だから邪神が僕だけを狙うとは思えないし、現に魔物騒動では王都全域を狙われて、魔闘技大会では無差別に魔物が召喚されて王国に手が入ってた。少し前は帝国にまで被害が及んでたんだ。
だから、次に攻めてくるときは少なくとも二か国同時以上だと思って、義父さん達に話したらそうだろうって言われてね。今いろいろな所に協力を仰ぐ最中なんだ」
僕の話にガンドさんの表情が硬くなっていく。
出発する前にガンドさんには僕のことを師匠と一緒に打ち明けているからわかってくれると思うけど、信じられるかは別だと思う。
でも、もう僕だけでどうにかなる物じゃないし、邪神が僕だけを狙っても、その手足である集団が僕だけを狙うとは思えない。
だって僕が誰かの恨みを買う前から狙ってるんだもん。
きっと、無関係な人間に被害を出すと思う。
「師匠はある程度知ってるんだ。今回帰ってきたのは協力してもらってエルフ族の協力を得るのが目的なんだ。だから、ガンドさんにはドワーフ族との渡りを付けてほしい。詳しい話はまた今度話すからどうか協力してくれないかな?」
「私からもお願いします。シュン君が言ったように、少なくともこの一年程で王国は二度襲撃を受けました。一度目の襲撃はガンドさんも知っている通り魔物が攻めています。伏せられていますが魔族の方にもその手が伸びているようです。シュン君が近いうちに魔族と交渉をするようですが、失敗すると魔族との戦争にもなりかねません」
「ま、魔族だと!? またあの戦争が始まるのか!?」
ガンドさんは僕の両腕を力いっぱい握り目を見開く。
多分ドワーフは長寿だから五百年は生きる。
だから、少なくとも三百年は生きているガンドさんは二百年前の魔族との戦争を経験してるんだ。
やっぱり想像以上の戦争が起きていたはずだ。
僕はガンドさんを諌めた後、魔族の実情にも軽く触れる。
「それを防ぐために僕が話に行くんです! 魔族は現在国を豊かにし、人間同様に平和を築こうとする穏健派の魔王と、邪神の集団と手を組んでいると思われる過激派に分けられています。魔大陸は謎が多いですが、知り合った魔族から聞くに現在魔王の名のもとに統治と治安と秩序が保たれ、開拓が進んでいるようです」
「そ、そうか。で、では、戦争は起きないんだな? あれは戦争ってもんじゃない。殺戮だ……」
「それは僕の交渉次第だけど、以前から魔王が会いたいと言っているみたいで、この機に秘密裏に交渉をしようという話になったんだ。だから、ガンドさんは誰にも言わないでほしい」
ガンドさんはどうにか平常に戻り、僕に一言謝りドワーフとの交渉について考えてくれる。
「……ったく、シュンはいつもいつも無茶ばかりしやがる。――姫さん、無茶苦茶で所々抜けてるやつだが、身内に対してはとことん甘い奴だ。実力は十分あるが、ブレーキ役となって支えてやってくれ。俺は実の息子のように思っている大切な奴なんだ。幸せになってもらいたい」
「はい、共に支えるつもりです。大切な息子さんを貰います」
「え? え? ガンドさん褒めてるようで実力以外褒めてないよね? 息子って言われるのは嬉しいけどさ、何か釈然としないんだけど……」
フローリアさん? 言葉に困るのは仕方ないって思うけど、同情とばかりに僕の肩に手を置くのもどうかと思うよ?
まあ、結構楽しいと思ってる自分もいるから別にいいんだけどさ。
それにもう一つ言うと、その言葉は大切な娘を差し出すものだよね。
それが余計に釈然としないんだけど……。
それでもフィノが楽しそうで嬉しいから僕も嬉しいけど。
「では、ドワーフ族に関してはよろしくお願いします」
「ああ、任せろ。これでもドワーフ族の中では一目置かれてるからよ。少なくとも俺の弟子達には協力させてやる」
「はい、お願いします。あと、屋敷の件もよろしく」
「がはは、仕方ねえな! 早速仕事にかかるからお前達も失敗するんじゃねえぞ? 魔族はやっぱり怖えし、残忍だっていうイメージがあるからな。シュン、お前が言うから俺は信じてやる。俺の……俺達の期待を裏切るなよ」
「はい。じゃあ、これで失礼するよ」
「ガンド様、どうかよろしくお願いします」
僕とフィノはそれぞれ軽く頭を下げた後強く手を握り、背後で弟子達に詰め寄られて困り果てている騎士と共に森の方へ向かった。
あの後大人達にも話しかけられて大変だったけど、どうにか師匠に用事があるということを分かってもらえて、すぐに森の中に入って転移したんだ。
早めに出発しておいてよかったよ。
「ここが……シュン君の家……」
フィノが師匠の家を見ながらそう呟いた。
師匠の家は木だけで作られた大きな家だ。
久しぶりに見るけど何も変わってない。
「さ、中に入ろう。念話で伝えていたからいるはずだよ」
懐かしさに涙が出そうになるのを我慢して、フィノの手を引き皆を家の中へと招き入れる。
一応ドアを数度叩き、挨拶をしながら中に入る。皆もそれに倣って物珍しそうにしながら固まって入る。
中に師匠がいるのは魔力感知で確認済みだ。
「師匠、只今帰りました」
「失礼します」
『失礼します』
僕達は魔力反応のあるリビングへ向かう。
部屋の中には椅子に座って湯気立つ紅茶を飲んでいる、とても美しい二百年以上を生きたとは思えないエルフ族の女性がいた。
彼女こそが僕の師匠である――アリアリス=メロヴィングという雷光の魔術師だね。
師匠は僕を視界に入れるとカップを置いて、僕に優しく微笑みかけてきた。
「久しぶりだな、シュン。隣のお姫様も、後ろの騎士もな」




